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特にサッカーファンにはお試しいただきたいDAFLOID for iPad

Dafloid UIEジャパンがImagica TV、スクワッドと共同開発しているDAFLOIDがiPad向けにリリースされたのでここに報告させていただく。

DAFLOIDは、ひと言で言えば「自分が好きなスポーツやチームのことばかりが書いてあるスポーツ速報、ニュース、記事、ソシアルフィードが、ひとまとめになって、タブレットを通じて毎日・毎時とどけられる」という体験をおとどけするメディア・アプリケーションである。

Flipboardのように単にRSSフィードやソシアルフィードを集めてくるだけのフィード・コレクターものとは大きく異なり、プロのスポーツ・ライターたちがDAFLOID向けに速報や記事を書き、編集もし、今までの新聞や雑誌と同等の(もしくはそれ以上の)手間をかけてちゃんとした「紙面作り」をしているのが特徴だ。

目指すは、10年後20年後の子供たちに「お父さんたちの時代にはDAFLOIDなしにどうやってスポーツを楽しんでいたのかまったく理解できない」と言われるぐらいに生活に密着した「スポーツファン必須の」メディアになることである。

戦後、スポーツ新聞が野球やプロレスや相撲の楽しみ方を何倍にもする役割を果たしたが、「これからはDAFLOIDがその役目を担う」意気込みでもの作りをしている。

私は少し前から、セミナーなどで「電子書籍は、スマートフォンやタブレットで起こる『メディア革命』の始めの一歩に過ぎず、その先には『新聞や雑誌などよりもはるかにすばらしい何か』が提供されることになる」と言って来たが、その漠然としたイメージの「何か」を形にしてみたのがこのDAFLOIDと考えていただければ良い。

「テレビ番組」が、単に「ラジオ番組に単に画像を付けただけのもの」ではないのと同じ様に、紙という媒体向けに作られた書籍や新聞や雑誌を単に電子化した「電子書籍」は、スマートフォンやタブレットにとってみれば「画像を付けただけのラジオ番組」と同じことである。

ネットに常時接続しているモバイル端末だからこそ可能な、リアルタイムなニュース速報、TwitterやFacebookなどのソシアルフィードを活用したメディアを作るべきだし、文字や画像だけでなく、映像やアニメーションを組み合わせたより進化した形の「コンテンツ」の提供をすべきである。

そんな思いのエンジニア、記者、編集、企画者たちの思いがこめられたDAFLOID、これからもどんどん進化させて行く予定なので、ぜひともお試しいただきたい。

ちなみに、(株)スクワッドは、サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の発行元。「この20年間に発行された新聞の中で最後に成功した新聞」と言われる「エル・ゴラッソ」を作った山田泰氏が、自ら「紙の新聞の時代」に終止符を打つべくこのDAFLOIDプロジェクトに乗り出した理由は、山田氏自身が書いた「最後の新聞」を読んでいただければ理解できると思う。タブレット・スマートフォンが引き起こすメディア革命という巨大な氷山に激突しようとしている出版業界のイノベーションのジレンマを打破する鍵がここにあるのかもしれない。


ここで傍観者になったら霞ヶ関の思うつぼである

先日ここで紹介した「プラットフォームは乗るものではなく、担ぐもの」という文章、コラムを連載しているWEB+DB PRESSの発行元の技術評論社のサイトで全文が公開されたので紹介する。

Software is Beautiful: プラットフォームは乗るものではなく、担ぐもの

ソフトウェアに限った話ではないが、「傍観者にならず当事者意識を持って行動すること」が、色々な意味でとても重要だと思っている私である。

今回の原発災害で多くの人が知るところになった原発政策の甘さ・監督責任の欠如、その問題の根底には「各業界と癒着をし、国民全体の利益よりも業界の利益を優先し、局所最適化だけを繰り返している官僚組織」があり、その上に立つ立場でありながら「大半のエネルギーを票稼ぎと派閥争いに費やし、実際の国家の運営を官僚に任せきりにする形骸化した政治家」たちがいる。

こんな状況を打開するには、国民一人一人が、当事者意識を持って「自分の意見をブログやTwitterではっきりと主張する」、「今の段階で、東電・原発擁護派がどの政治家かを良く覚えておき、次回の投票に反映する」などの積極的な行動をとる必要がある。「自分たちが何かを言っても、誰が政治家になっても何も変わらない」と最初からあきらめてしまったら、彼らの思うつぼである。


iPadアプリ開発日誌:ビデオの再生が可能になったCloudReaders 1.23

AppStore_512 多くの方々に使っていただいているCloudReaders。今回のアップデートの目玉はビデオ再生機能。MP4, MOV, M4VなどiOSがネーティブでサポートしているビデオであれば全画面での再生が可能で、文書と同じくP2Pの機能を使ってデバイス間でのファイル交換(この機能のみ有料)やWiFi経由でのアップロードも可能だ。お気に入りのビデオキャストをiPhone上のCloudReadersに入れて持ち歩き、出先でP2P機能を使って友達と交換する、などの使い方を想定している。

ちなみに、今回のアップデートだが、一度は11.8項違反としてアップルの審査に落とされたが、「Apple Review Board」に上告して再審査にパスするという経緯を経ている。11.8項は、

11.8: Apps that charge users to access built-in capabilities provided by iOS, such as the camera or the gyroscope, will be rejected

というものだが、前のバージョンから有料オプションとして提供している「P2Pファイル転送機能」が「iOSにもともと備わっている機能を有料オプションとして提供している」ことに相当するとイチャモンを付けられたのである。

しかたがないので、「このP2Pファイル転送機能は、単にiOSの機能を呼び出しているだけでなく、ある程度の確率でかならず失敗するBluetooth経由で大きなファイル安定して転送するために、エラーリカバリー付きの独自のプロトコルをBluetoothの上に作って実装したもの。単にiOSの機能を呼びだすだけで100メガバイト以上の巨大なファイルを失敗せずに転送する方法があったら教えて欲しい」と書いて上告。結局、数日後に「そちらの言い分が正しいので審査には通すことにした」との連絡が来て、今日のリリースとなったわけだ。

アップルの審査に関しては「透明性がない」などとの批判もあるが、野放し状態でスパイウェア入りのアプリがどうどうと流通してしまうAndroidマーケットと比べれば、消費者を守るという意味では必要不可欠なもの。多少の手間はかかるが、こうやって説明すればちゃんと理解してもらえるわけで、それほど悪くないと思ったしだいである。


東京電力を破産させられないような国ではベンチャー企業は育たない

ウォールストリート・ジャーナルは、「自由主義経済の国であれば、東電は破産させた上で被害者を救済するのが当然なのに、東電という会社を救済しようとしている日本はやはり社会主義」と痛烈に批判している(参照)。

私自身、昔から「日本は自由主義経済の衣をかぶった社会主義」だとは思って来たが、この何かというと「大企業や既得権者を守る」姿勢が、「大企業の正社員とそれ以外」という社会の二重構造を生み、経営陣の「逃げ切りメンタリティ」を助長し、本来ならば国の発展の原動力となるべき「ベンチャー企業」の活躍を阻止していることは注目に値する。

日本政府は、ときどき思い出した様に形だけの「ベンチャー支援」のようなものをするが、ベンチャー・ビジネスを活性化するのに最も大切なものは、国からの支援なんかではなく、「自由競争」である。日本では、既得権者が官僚と癒着して、さまざな規制や免許制度で市場への参入障壁を高くしてベンチャー企業の進出を阻んでいる。競争力を失った大企業をいつまでも延命するから、資金や人が潤沢にベンチャー企業に流れない。そしてそんな競争力を失った大企業ばかりが幅を利かせているから、日本のビジネス全体がグローバルな戦いに取り残されてガラパゴス化してしまう。

マスコミは何かというと現政権を批判するが、もっとも批判すべきは、この「大企業・既得権者を優遇する仕組み」を作って来た日本の官僚組織である。

今回の原発災害に関して、もっとも大切なことは、(1)被災者をキチンと救済すること、(2)電力の安定した供給を確保すること、(3)国民の負担(税金+電気料金)を最小にとどめること、である。電気料金の値上げなど、今の段階で口にしてもいけない。それよりも、これを機会に送電ビジネスと発電ビジネスを分離し、発電ビジネスに競争原理を導入することにより、危険な原発に変わる自然エネルギーの開発を民間の力で強く押し進めるべきだ。

手続きとしては、ウォールストリートが書いている様に「東京電力の破産手続き」がもっとも公平で、かつ、国民の負担が最小になる。

まずは100%減資により株主に責任を取らせ、次に経営陣をすべて解雇する。そして債権者(債券の所有者、貸付金を持つ銀行、年金受給者である社員と元社員)と政府との協議で債務の減額処理をした上で、東京電力を、送電ビジネス、配電ビジネス、そして廃炉・被災者救済のための法人の三つに分割する。後に送電ビジネスと発電ビジネスを別会社として上場させ、その上場益を廃炉・被災者救済の財源とする(もう少し具体的な提案は「東京電力、解体・再生プラン」を参照)。

結局のところ、「東電の破産」という「自由主義経済の国として当然の手続き」ができるかどうかが、「日本がベンチャー企業を起業するのに適した国かどうか」を知る良いリトマス試験紙になる。財界や官僚たちの反対を押し切って「まっとうなこと」ができるかどうか、日本の未来がかかった重要な局面だ。


iPadアプリ開発日誌:neu.Annotate 1.20

ITunesArtwork iPadアプリの一つとして無料で配布している neu.Annotate PDF、「書き心地」をさらに改良した描画エンジンを含む version 1.20 をリリースしたのでここで報告していただく。

neuシリーズのアプリは描画エンジン "Canvas" を共有している。それぞれのアプリを進化させるために必要な機能を追加しつつ、どのアプリにも共通して活用できる機能だとか改良を逐次追加して行く、という開発方針を取っている。

こんな作り方をしている一番の理由は、相棒のPeteと私の仕事の分担を明確にすることにある。私がエンジンを担当し、Peteがそれを活用したアプリの担当となり、互いの仕事にいろいろと注文やケチを付け合いながら開発する、という作り方をしているのだ。インターフェイスさえ明確に定義しておけば並行して開発ができるので、「会議がきらい、自分の好きな時間にマイペースで仕事をしたい、でも自分の仕事に細かなケチや注文を遠慮無しに付けて来る人が必要」な私のスタイルにマッチしているのだ。

今回のアップデートも、アプリ側にはいくつかのバグの修正と細かな機能アップ(PDF頁の回転、タグの消去、大きなPDFファイルの高速な読み込み)などをしている一方で、エンジン側には、スタイラス・ユーザーからのリクエストに応じた「スタイラスを使って書いた時の描画の追従性を良くする」という改良を施している。

Canvasは、iOSから送られて来るタッチイベントを元に曲線(ベジェ曲線)を生成する際に、曲線をできるだけ滑らかにするために「一つ先のタッチイベントを使って曲率を決める」というアルゴリズムを採用している。そのため、通常の実装のしかたをすると、どうしてもワンテンポ(タッチイベントの頻度にもよるが数〜数十ピクセル)描画が遅れることになる。

私のように指で書いている場合にはこの程度の遅延はあまり気にならないのだが(指に隠れてしまう)、ペン先の細いスタイラスを使うユーザーから、この遅延が気になるという意見が多く寄せられたのだ。

そこで色々なアルゴリズムを試したのだが、最終的には「次のスタイラスの動きを予想して曲線を描画することによりスタイラスの動きに追従するようにし、スタイラスを離したところで再計算する」というアルゴリズムを採用することにした。かなり追従性は良くなったはずなので、スタイラスをお持ちの方はぜひとも試していただきたい。

これまで、neu.Annotate は、すでに Productivity カテゴリーで活躍している neu.Notes との競合を避けるために Utilities カテゴリーに登録していたのだが、このバージョンからは neu.Notes と同じ Productivity に移動した。競合する商品がこのカテゴリーにあるというのも一つの理由だが、neu.Pen というブランドを確固たるものにするためには、neu.Notes との相乗効果を狙った方が良いかも知れない、という判断もある。今日の時点で、カテゴリー内の順位は11位(neu.Notes)と48位(neu.Annotate)←いずれも米国。この順位がどう変化するかが楽しみだ。

ちなみに、neu.Notesの有料版であるneu.Notes+の開発は順調に進んでいる、機能的にはすべて実装済みなので、今は細かなUIの微調整をしているところだ。大幅な機能追加をしたので、「パッと見の使いやすさやシンプルさ」と「拡張機能へのアクセスのしやすさ」とのバランスが難しいのだ。目指すのは「初心者にもすぐ直感的に使っていただけ、かつ、使い込んだユーザーの期待にも十分に答えられる」商品だ。今月中にはアップルの審査にかけられるところにまで持って行く予定なので乞うご期待。


iPadアプリ開発日誌:ミリオンダウンロードを達成

去年の4月にiPad向けのアプリを作りはじめた時に、「とりあえず無料アプリをいくつか出してまずはミリオン・ダウンロード達成してそれからビジネスのことは考えよう」と決めていたのだが、約1年でようやくそのゴールを達成。内訳は CloudReaders が約40万、neuシリーズが合計で約70万ダウンロードだ(新規ダウンロードのみ、アップデートは含まず)。

国別だと、米国27%、日本24%、中国15%、台湾6%、という割合。アプリ別だと、CloudReaders, neu.Notes, neu.Annotate PDF の順だ。

カテゴリー別のランキングだと、CloudReaders(Books)とneu.Notes(Productivity)がトップ20の常連、neu.Annotate(Utilities)が最近トップ20入りを果たしたところ(いずれも米国でのランキング)。neu.KidsDraw (Education)は瞬間風速で3位まで登ったが維持はできていない。neu.Draw(Entertainment)は未だに「知るとぞ知る、けどまだあまり広くは知られていないゾーン」にとどまっている。

こまめにアップデートしないとランキングは維持できないので、こうやって商品の数が増えてくるとアップデートの手間だけでも大変だ。

ちなみに、マーケティングはこのブログで紹介(日本向け)する以外のことは特にしていない。ユーザーを集めるのに最も効果的だったのは、CloudReadersからユーザーをneu.Notesに流し込む仕掛け(参照)。今後も、基本的にはその路線で行こうと思う。

しかし、いつまでも無料アプリばかりを作っていては、家族から「遊んでいる」と誤解されかねないので、そろそろ本気でビジネスモデルを考えなければならない。現在、neu.Notesを大幅に進化させたneu.Notes plusを開発中なので、これは最初から有料版として近いうちにリリースする予定。


政府の初動の悪さが生んだ大量の被曝者

P050406x0a300003_01k SPEEDIによるデータを公開しなかった理由は「パニックを恐れて」と聞いたが、SPEEDIによるデータをちゃんと利用せずに適切な避難指示を出さなかった国の責任は重い。

私の記録では、30キロ圏外でも浪江町や飯舘村の一部では、3月18日の時点で150μS/hという高い放射線が観測されていた(文部科学省発表の公式データ←【追記:URLを追加しました】)。当時、国は「ただちに健康に影響の出るレベルではない」と言っていたが、文科省が今回使った8時間屋外、16時間屋内(屋外の40%の放射線量)という数値を使って計算すれば、そのあたりに住む人たちは、妊婦や子供も含めて、3月18日だけで2.2mSの外部被曝を受けていたという計算になる。

今は30μS/h以下に下がっていることから考えると、その差(約120μS/h)は半減期の短い放射性ヨウ素からのものと考えて良いので、3号機から大量に放射性物質が放出された3月14日から今日までの放射線の強さはエクセルを使って簡単に計算できる(放射性セシウムからの分を一定とし、放射性ヨウ素の分だけを1日ごとに0.917倍して行けば良い。0.917=1/2^(1/8))。

19日の被曝量は18日の被曝量から逆算して、2.0mSv、逆に17日は2.3mSvという計算だ。これを使って3月14日から今日(5月5日)までの積算を計算すると51mSvとなり、外部被曝だけで、今回文部省が「緊急時に一般人が1年間に被曝して良い上限」の20mSvをはるかに超えてしまっている。放射性物質を含んだホコリを吸い込んだために起こる内部被曝を加えれば、もっと高い値になるはずだ。

ちなみに、この計算によると、実際に積算被曝量が20mSvを超えたのは、9日目の3月23日。SPEEDIのデータの公開うんぬんよりも、18日の時点で150μS/hという高い放射線が30キロ圏外で観測された時点で、少なくともその地域から妊婦と子供だけでも避難させるべきであったのは明確である。原発災害での初動の大切さはまさにここにある。

専門家を抱え、18日の時点でそういうデータを持ちながらも、浪江町や飯舘村の高汚染地域に避難命令を出さなかった政府は怠慢としか言いようがない。「パニックを起こさないために公開しなかった」というのは単なる言い訳に過ぎない。浪江町や飯舘村の人たちに外部被曝だけで既に50mSvを越す被曝をさせてしまった国(特に保安院を抱える経済産業省、子供たちを守るべき文部科学省、そして国民の健康を守るべき厚生労働省)の責任は重い。