東京電力を破産させられないような国ではベンチャー企業は育たない
2011.05.18
ウォールストリート・ジャーナルは、「自由主義経済の国であれば、東電は破産させた上で被害者を救済するのが当然なのに、東電という会社を救済しようとしている日本はやはり社会主義」と痛烈に批判している(参照)。
私自身、昔から「日本は自由主義経済の衣をかぶった社会主義」だとは思って来たが、この何かというと「大企業や既得権者を守る」姿勢が、「大企業の正社員とそれ以外」という社会の二重構造を生み、経営陣の「逃げ切りメンタリティ」を助長し、本来ならば国の発展の原動力となるべき「ベンチャー企業」の活躍を阻止していることは注目に値する。
日本政府は、ときどき思い出した様に形だけの「ベンチャー支援」のようなものをするが、ベンチャー・ビジネスを活性化するのに最も大切なものは、国からの支援なんかではなく、「自由競争」である。日本では、既得権者が官僚と癒着して、さまざな規制や免許制度で市場への参入障壁を高くしてベンチャー企業の進出を阻んでいる。競争力を失った大企業をいつまでも延命するから、資金や人が潤沢にベンチャー企業に流れない。そしてそんな競争力を失った大企業ばかりが幅を利かせているから、日本のビジネス全体がグローバルな戦いに取り残されてガラパゴス化してしまう。
マスコミは何かというと現政権を批判するが、もっとも批判すべきは、この「大企業・既得権者を優遇する仕組み」を作って来た日本の官僚組織である。
今回の原発災害に関して、もっとも大切なことは、(1)被災者をキチンと救済すること、(2)電力の安定した供給を確保すること、(3)国民の負担(税金+電気料金)を最小にとどめること、である。電気料金の値上げなど、今の段階で口にしてもいけない。それよりも、これを機会に送電ビジネスと発電ビジネスを分離し、発電ビジネスに競争原理を導入することにより、危険な原発に変わる自然エネルギーの開発を民間の力で強く押し進めるべきだ。
手続きとしては、ウォールストリートが書いている様に「東京電力の破産手続き」がもっとも公平で、かつ、国民の負担が最小になる。
まずは100%減資により株主に責任を取らせ、次に経営陣をすべて解雇する。そして債権者(債券の所有者、貸付金を持つ銀行、年金受給者である社員と元社員)と政府との協議で債務の減額処理をした上で、東京電力を、送電ビジネス、配電ビジネス、そして廃炉・被災者救済のための法人の三つに分割する。後に送電ビジネスと発電ビジネスを別会社として上場させ、その上場益を廃炉・被災者救済の財源とする(もう少し具体的な提案は「東京電力、解体・再生プラン」を参照)。
結局のところ、「東電の破産」という「自由主義経済の国として当然の手続き」ができるかどうかが、「日本がベンチャー企業を起業するのに適した国かどうか」を知る良いリトマス試験紙になる。財界や官僚たちの反対を押し切って「まっとうなこと」ができるかどうか、日本の未来がかかった重要な局面だ。
一つだけ気になる事を。
株主に責任を取らせることは当然としても、被害者の救済(損害賠償ともいうのかな?)と債券等の借金の優先順位は法律上は微妙みたいです。
http://sitekamimura.blogspot.com/2011/05/ikedanob-blog.html
なので、損害賠償より優先して返済されるということを前提で債券保有者や銀行が融資してたとしたら、
"もっとも大切なことは、(1)被災者をキチンと救済すること、"
という東電の債権者より優先させるのは、ある意味法治国家、自由主義に反するような気がしたりもします。(もちろん被害者を救済しなくていいとは思ってませんがあくまで法律上の話として。。)
Posted by: kamimura | 2011.05.18 at 08:16
先日、池田信夫氏と河野太郎氏の対談の中で国が第一優先権があるので賠償金を徴収すれば担保付債権よりも優先的に賠償費用を徴収できるとの見解ですね。
http://news.livedoor.com/article/detail/5537912/
Posted by: 大網 | 2011.05.18 at 08:36
「東京電力、解体・再生プラン」のほうに
>2. 東京原発
...
>そして、この法人とは別に、すべての原子力施設の安全性を監視する専門委員会を総理府の下に作り、そこに抜き打ち検査、強制捜査、業務停止などの権限を持たせて、安全強化をはかる。
とありますが、これでは癒着の温床になると予想されます。「すべての原発には事故保険をかけることを義務付け、保険会社は適切な保険料の決定のために原発の専門家集団を雇って徹底的に調査する」あたりが資本主義的手法なのではないでしょうか。
Posted by: takayama | 2011.05.18 at 14:01
あれ?クライスラーとかGeneral Motorsはなんだったのか。
Posted by: ogayuki7 | 2011.05.19 at 02:56
ただねー、金融機関をTARPで救ったアメリカが言っても説得力が無いのも事実。
結果的にアメリカ市民の利益になったとはいえ。
Posted by: Johann | 2011.05.19 at 08:50
いやGMなんかはでかすぎるから軟着陸させたけどリーマンの時の金融機関に対してもそうだけど向こうは政府支援が入れば役員報酬全面カットや人員整理などリストラが普通で。
大きすぎて影響がありすぎる企業には一応国の支援が入るけど徹底してリストラの大鉈振るうので。
勿論アメリカでも大企業との癒着は有るでしょうがいろんな点で日本よりずっとマシでしょうね。
アップルやマイクロソフトなんかも日本ならNTT当たりに潰されてるでしょう。
記事については全面同意です。
国がベンチャーなんか育てられるわけがない。バラマキもいいところ。
きちんと自由競争が保たれていれば実力あるベンチャーだけが育ってくるし、そういう競争に勝てるベンチャーでないと世界で戦えない。
でも日本は自由競争のルールがそもそも破綻している。
何でか。この点は私は私見だが単一民族だからだと思う。
多民族国家のアメリカの場合、論理を元に話し合いしていかないとまとまらない。
だから論理的・合理的な政策・施策をしていく。
日本では情に訴える政策・施策が優先される。
同民族なんだからっていう点を強調し情に訴えるのが一番有効な戦略になってしまう。
だから論理・合理性を保った市場のルールというのが維持しづらい。
まあでもだからと言って帰化もしない反日感情もちの移民を大量受け入れとなると日本は破綻でしょうが。
Posted by: setuko | 2011.05.19 at 19:23
>移民を大量受け入れとなると日本は破綻でしょうが。
TPPの移民条項のことですね。でも受け入れなくても破綻が加速するだけです。一国資本主義がピークを過ぎると労働力の
再生産(結婚、出産、教育)に投じる余力がなくなり少子高齢化が始まります。移民で労働力を補充するアメリカですら、
医療保険の崩壊と財政破綻に向かっています。
資本にとっては、老いた自国で労働力の再生産を促すための高いコスト(安定雇用、育休、年金その他老後の保障)を
負担するのではなく、他国が育てた労働力を安い間だけ利用するのが競争に勝ち抜く唯一の道。こういう資本主義と
近代国家の矛盾は以前から予測されてきた事です。資本が「近代」を滅ぼしつつある時代に近代国家が惰性で残ってる
だけなで、「民族」だの「帰化」だのといった「近代的」な発想はまさにその資本によって「脱構築」され淘汰されて
いくでしょう(すでにソニー、日産、ユニクロの幹部はどこの人?)。
近代国家はやがて単なる社会インフラ業者になっていくでしょうし、国際資本は既にそう見なしており、「顧客」の
立場でその時々の最適な「業者」を利用しています。そしてそれは資本だけでなく個人にも求められる事だと思います。
中島さんが仰る「グローバルエンジニア」もそういう事でしょうし、ホリエモンもそんな発想ですね。
(ちなみにこの「近代国家の死」や「祖国を持たない自由労働者」は皮肉なことにマルクスの予測でした。
ソ連や中国は何を勘違いしたのか真逆の路線に行きましたが。まあ「資本論」は超難解ですからね...)
Posted by: Yamamoto | 2011.05.19 at 21:07
最初の方のコメントでも触れられていますが、100%減資(会社更生法適用)をすると、「担保で守られた社債権(電力債)より、担保のない損害賠償請求権(原発事故の)が先にカットされる」という問題があるようです。
また、会社更生法を適用すると政府が関与できない、という問題もあります。つまり、中島さんが書かれた、「そして債権者(債券の所有者、貸付金を持つ銀行、年金受給者である社員と元社員)と政府との協議で債務の減額処理をした上で」というプロセスの実行が難しいようなのです。新たにこのプロセスを実現する法律を作る、という手も考えられますが、憲法で保障された財産権の侵害の可能性があり、問題があると思われます。特に、日本の世論を気にかけない外国の投資家(電力債の保有者)が、違憲であるとして裁判を起こす可能性が高いと思います。
以下のブログは、官僚と思われる方が書いたもので、東電を存続させる政府案スキームを擁護しています。
http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20110425
Posted by: yoyokohama | 2011.06.06 at 09:28