ホリエモンを有罪にしておきながら、この東電の粉飾決算を見逃すことは許されない
2011.06.27
毎日新聞に「福島第1原発:東電が政府側に渡した文書の全文」という記事が載っているが、それを読んで少し驚いた。まさに東電と保安院がどんな形で、情報の隠蔽(正確には「原発事故の意図的な過小評価」)をしてきたかが良くわかる確固たる証拠だ(こんな文章が表に出る様になっただけ、日本も捨てたものではない)。
とくに驚愕なのは、以下の部分。
(1)地下水の遮へい対策は、馬淵補佐官のご指導の下、『中長期対策チーム』にて検討を進めてきているが、「地下バウンダリ(発電所の周りに壁を構築し遮水するもの)」は現在、最も有力な対策と位置づけ。ただし、対策費用は現状不確定であるものの、今後の設計次第では1000億円レベルとなる可能性もある。
(2)今回の検討の過程で、政府側から国プロジェクト化の示唆(当初は国交省予算)があり、その前提で、設計着手と工事着工の前倒し案が浮上。ただし、現状では、担当府省がどこになるかも含め、国プロ予算の具体化に目途が立っているわけではなく、経産省(原子力政策課)でも最近になり検討を始められたとの認識。
(3)こうした中で、速やかにプレス発表をすべきとの馬淵補佐官のご意向を踏まえ、14日の実施に向け準備中であるが、工事の実施を前提とするプレス発表をした場合は、その費用の概算および当社負債の計上の必要性についてマスコミから詰問される可能性が高い。
(4)また、現在、22年度の有価証券報告書の監査期間中であり、会計監査人から、当該費用の見積もりが可能な場合は、その記載を求められる虞(おそれ)が高い。しかし、極めて厳しい財務状況にある現下で、仮に1000億円レベルの更なる債務計上を余儀なくされることになれば、市場から債務超過に一歩近づいた、あるいはその方向に進んでいる、との厳しい評価を受ける可能性が大きい。これは是非回避したい。
つまり、福島第一原発の放射性物質を安全に閉じ込めるためには「地下バウンダリ」と呼ばれるコンクリートの壁を地下に作る必要があるが、その見積もりコスト(1000億円)を正直に公開してしまうと、それを債務として計上しろと会計監査人に指摘される可能性が高い。それを避けるために「コストも工事の時期も未定」だと説明したい、と言っているのである。
ライブドアの件で知る事になった人も多いと思うが、上場企業の経営者が、会社の財務状況を悪いニュースも含めてすべて公開することは義務であり、それを怠ることは「粉飾決算」にあたり、有罪である。たとえコストが見積もりに過ぎないとしても、ひょっとしたら国から補助が受けられる可能性があるとしても、そういう情報も含めて、企業として背負っているリスクをすべてをちゃんと公開するのが上場企業の経営陣の義務。
1000億円とも見積もられる「地下バウンダリ」のコストと緊急性の公開を怠ることは、まさにこの「粉飾決算」に値する。特に「市場から債務超過に一歩近づいたと思われたくない」という動機に基づいた情報の隠蔽は、まさに「会社の財務状況を実際よりも良く見せよう」という行動であり、決して許してはならない重大な犯罪である。
ライブドアの堀江氏が粉飾決算で実刑判決を受けたことに関しては、「既存の大企業には甘く、ベンチャー企業には厳しいダブルスタンダード」との批判の声も聞くが、もしこれが粉飾決算扱いされないとしたらそれこそダブル・スタンダードである。市場には、原発事故発生後(株価が暴落する前に)すぐに自社株を売り抜けた東電の経営陣がいるとの噂も流れているが(こちらはインサイダー取引疑惑)、そのあたりもふくめた公平で厳正な調査・処罰を期待したい。