なぜ福島第一では緊急冷却装置を手動で停止する必要があったのか
2011.07.25
先月の中頃に東電が、地震の15分後に1号機の緊急冷却装置を手動で停止していたことを発表した。「実はオペレーターの操作ミスがあったのでは」との誤解をした人も多かったようだが、東電は「原子炉の圧力が急激に変化したために、炉の破損を避けるために緊急冷却装置を手動で停止した」と説明。原子力安全保安院も「マニュアル通りに停止しただけで、オペレーターのミスではない」と説明し、一件落着した感がある。
「マニュアル通りに操作したから問題なし」とはいかにもお役所的な答えだが、こんな答えで満足していては「理科系うんちく」を語ることはできない。そこで色々と調べたところ、以下の事実が明らかになった。
- 原子炉は運転中は300度近くで安定して動作しているが、炉の中の核燃料は緊急停止(スクラム)後もしばらくは熱を発生しつづける。万が一、その途中で水が蒸発してしまうと炉心溶融(メルトダウン)を起こしてしまうので、冷却装置を使ってすみやかに100度以下に冷却する必要がある。
- 1号機で使われているGEのMarkI型原子炉には、蒸気圧のみで動く(つまり外部電源なしに動く)緊急冷却装置がついていて、万が一の全電源喪失の際にも、原子炉を冷やして炉心溶融を避ける仕組みがついている。
- 3月11日の地震でも、原子炉の緊急停止時、この装置がちゃんと作動した。
- その結果、炉の温度が一気に100度下降した。
- しかし、炉の温度を一気に下げると、炉に大きな負荷がかかり、熱いコップを冷たい水に入れた時のように、炉が破損してしまう危険がある。
- そんな炉の破損を避けるために、原子炉のマニュアル(手順書)には、「原子炉の緊急停止時に炉の温度が短期間に大幅に下がった場合(1時間に55度以上)、緊急冷却装置を手動で停止して、炉の破損を避けなければならない」と書いてある。
- 福島第一のオペレーターが地震の15分後に緊急冷却装置を手動で停止したのはこれが理由。
- しかし、そのまま停止させておいたのでは、再び炉の温度が上昇して炉心溶融を起こしてしまう。そこで、オペレーターは、温度計と圧力計をにらみながら「炉を壊さない様にゆっくりと、でも炉心溶融を起こさないようにすみやかに」冷却すべく、緊急冷却装置のオン・オフを繰り返していたのである。
- この手の「綱渡り的」なオペレーションは、福島第一原発以外の原発でも、地震によるスクラムがあるたびにしばしば行われていた(参考)。
- 原子炉は鉄で出来ているが、炉の運転で発生する中性子により鉄が年々劣化し、急激な圧力の変化に耐えられなくなる温度(脆性遷移温度)がしだいに高くなる。そのため、古い原子炉ほど「炉を壊さない様に冷やす」ことが難しくなる(参照)。
- 井野博満・東大名誉教授らが「玄海原発はもっとも危険な原発」と警告を鳴らすのはこれが理由(参照)。
「原発の運転って、こんなに難しかったのか」というのが正直な感想だが、そんなギリギリのオペレーションをしている福島第一を襲った津波による全電源喪失。やはり、福島第一での事故は「起こるべくして起こった」のである。
点検中の原子炉の再稼働の条件となるストレステストには、ぜひともこの「地震によるスクラム後に緊急冷却する際に、炉の破損を避けながらも炉を安全なレベルにまで緊急冷却するオペレーション」のエラーマージンがどのくらいあるかをしっかりとシミュレーションしていただきたい。
玄海原発の脆性遷移温度上昇については、原子炉に使われた鋼材の質のばらつきが原因ではないかという続報がありました。
脆性遷移温度の上昇に加えて、鋼材の質のばらつき自体も冷却時のリスク要因になるんでしょうかね。
玄海1号機:圧力容器鋼材の質にばらつき 製造ミスの疑いhttp://mainichi.jp/select/biz/news/20110724k0000m040084000c.html
Posted by: ssuguru | 2011.07.25 at 19:21
そう考えると、中国ってなんで原発運営できるんだろう?
Posted by: tontoron | 2011.07.25 at 23:07
そう考えると、中国ってなんで原発運営できるんだろう?
Posted by: tontoron | 2011.07.25 at 23:07
そう考えると、中国ってなんで原発運営できるんだろう?
Posted by: tontoron | 2011.07.25 at 23:07
そう考えると、中国ってなんで原発運営できるんだろう?
Posted by: tontoron | 2011.07.25 at 23:07
そう考えると、中国ってなんで原発運営できるんだろう?
Posted by: tontoron | 2011.07.25 at 23:07
ごめんなさい。反応無くて何回か押してしまいました...orz
Posted by: tontoron | 2011.07.25 at 23:08
↓参考までに下記記事を読むことをお勧めします。
朝日新聞が菅を煽る→菅が煽られて脱原発→朝日新聞と中島聡氏も煽られた。
という構図です。
本エントリのような中島さん独自の意見は非常に貴重だと読んで思いますが、こういう構図にハマったことは反省して同じ失敗はしないください。応援しております。
http://agora-web.jp/archives/1362582.html
菅首相が張り切っている原因は朝日新聞が応援しているためらしい。特に星浩・編集委員が強い影響を与えているという。彼は紙面でも堂々と「首相の座を去る前に、脱原発へ強いメッセージを出してはどうか。七転び八起きの『八起目』で、思い切り『虎の尾』を踏み込んでみるのも一つの決断だと思う」と書いて、脱原発を政権の延命に利用するよう助言した。首相の脱原発会見は、それに従ったものらしい。
Posted by: hia | 2011.07.26 at 04:48
hiaさん。
紹介いただいた文章、読みましたが、のっけから
「~らしい」「~という」「~らしい」の伝聞、推測のオンパレードの池田信夫クオリティで、時間をムダにしました。
そもそも、経済学者が政治ゴシップ記事を書く意味がわかりません。池田さんがおっしゃる、間違いが含まれているが緊急度の高い記事ってやつですか。
原発賛成でも容認でもかまわないので、もう少し考えさせるものを紹介いただけませんでしょうか?
Posted by: j_tano | 2011.07.27 at 14:48
hia様
あなたはその記事を全文お読みになったのですね?
>「七転び八起きの『八起目』で、思い切り『虎の尾』を踏み込んでみるのも一つの決断だと思う」
私はその記事を読んでないので全容がつかめませんが、ここに引用された部分だけを素直に解釈すれば、菅内閣が風前の灯であるという、現時点で圧倒的大多数の人々の認識を前提に、
「どうせ倒されるのだから、最後の最後に自分の信念に従って何でも思い切ってやってみろ」
と言っているとしかとれませんが・・・。
これが何故「脱原発を政権の延命に利用するよう助言した」ことになるのでしょうか?
そして
>首相の脱原発会見は、それに従ったものらしい。
その根拠は?
Posted by: 通りすがり2 | 2011.07.28 at 10:31
追記
上のコメントで私が「記事」と言っているのは池田先生の説のことではなく、朝日の元記事のことです。
一応、念のため。
Posted by: 通りすがり2 | 2011.07.28 at 11:07