HPの英断。日本のメーカーは?
2011.08.18
HPがいくつかの重要なアナウンスメントをした(参照)。
- 利益率の低いPCビジネスのスピンアウトを検討していること
- タブレット・スマートフォン市場からの撤退
- Autonoy Corpの買収
数年前にPCビジネスを売却したIBMを彷彿させる話だが、売り上げは会社全体の3分の1を上げながらも、利益率がわずか 5.4% しかないPCビジネスを思い切って切り話す(会社全体の利益率は11.7%)というのは株主利益を最重視するのであれば当然とも言える。
PCビジネスそのものが、スマートフォンやタブレットビジネスに脅かされている今、HP自身がその新しい市場でリーダーシップを取れない限りは利益は上げられない。それを目指したのがPalmの買収であり、TouchPadのリリースだったわけだが、TouchPadが全く市場に受け入れられないことが明らかになった今(参照)、グダグダと無駄な抵抗をせずに、タブレット・スマートフォン市場からの撤退、そしてPCビジネスの切り離しという戦略に出たわけである。
IBMやHPと比べると、日本のメーカーは収益の上がらない携帯電話ビジネスやパソコンビジネスをいつまでも抱えているが、その理由は二つある。一つは「正社員を簡単にはクビに出来ない」という雇用の柔軟性のなさであり、もう一つはコーポレート・ガバナンスの欠如である。株主利益よりも「従業員を養うための売り上げ」を重視するのであれば、利益率が低くても売り上げが十分に上がっている部門を切る必要はないからだ。
こんな風に、コーポレート・ガバナンスの欠如がどのくらい日本の企業をダメにしているかということは、メルマガの「エンジニアのための経営学講座(参照)」の主要トピックの一つとして何回かに分けて詳しく解説・考察して行く予定なので、興味のある方はそちらへどうぞ。また、なぜ日本には「正社員と派遣」という二重構造が出来てしまったのかなども色々な角度から議論してみたいと思う。基本的に「ゼミ形式」の対話型で進めて行く予定なので、質問や意見は大歓迎である。
コーポレート・ガバナンスについて気になること。
日本の株式会社は議決権について、白紙委任状(提出しなかったり、出来なかったり、あるいは経営にそこまで関心がない場合)は取締役会等が提出した議題について、自動的に賛成になる。
一方政治の選挙では投票しなければ無効票になる。
米国の場合、株主総会の議決権についてはどうなってるのかが少し気になる。(日本の選挙と同じで無効票となり、中立になる?)
ここからは想像でしかないですが、大きな企業であればあるほど白紙委任状の割合も多くなる、すなわち決議する議案に対する賛成票が多くなる。つまり議案は通りやすく、反対する株主にはきわめて不利。(反対を通すためには白紙票の人を説得しなければならない、賛成は白紙票についてはほっといても賛成)そして、議案を提出するのは主に経営者、すなわち日本の株式会社は利益を求める営利企業というより、管理者(経営者)資本主義みたいになってしまう傾向が強いような気がしたりします。
なので管理者資本主義を打破して本来の資本主義魂を復活させるために、まずは議決権について白紙票については賛成でも反対でもなく中立にして、有効票だけで議案を決議するように法改正はできないのかな~と思ったりします。
Posted by: kamimura | 2011.08.18 at 23:15
>「正社員を簡単にはクビに出来ない」という雇用の柔軟性のなさ
やはり、この人も、同じあやまちをおかしているようだ。
こういう人がいるから、わが国も低賃金構造から脱しきれない。
派遣社員中心の不安定雇用!を推奨しているように見えるのは、私だけだろうか?
脱原発とか、いいこと言ってたが、やはり、自己虫族のようだ。
ここの『経営学講座』は、古びた経団連のお先棒みたいなものだろう。
Posted by: jinchan | 2011.08.19 at 08:11
英断であったかどうかはもう少し時間的な経過をみないと判らない気がします。
HPの場合はPC部門は基本的には旧コンパックだったと思いますので、一度
併合したものを切り離すのは、ある意味容易な判断ができる気がします。
Posted by: yumeno_tocyu | 2011.08.19 at 19:26
おそらく利益率5%でも将来性は無く、安売りになるだけと見たのでしょうね。正しい見方でしょう。
本来なら日本メーカーもそういう風にどんどん撤退して新しい方向に行くべきはず。
でないと安く作る新興国には勝てないのは自明。HPだって作るのは中国等だし、開発を維持する意味が無いでしょうね
。いまさらPCのハードに革新があるとは思えないし、あるならソフトウエアの方向かなぁ。
日本メーカーが雇用を切れなくて新しい方向に行けないのはもう自明の事で
議論するまでもない事だと思うんだけどなぁ。
それにしてもwebOSは惜しい。Sonyあたり買わないかなぁ。
Posted by: ステゴザウルス | 2011.08.20 at 03:23
「やめさせられる正社員」なんて不要で、今の制度のまま派遣使ったほうが楽ですが…
Posted by: unya | 2011.08.20 at 06:56
「やめさせられる正社員」なんて不要で、今の制度のまま派遣使ったほうが楽ですが…
Posted by: unya | 2011.08.20 at 06:56
正社員を簡単にクビにできるようになったら?派遣が減るかもしれないが今だって社員のクビを切ることができないわけでもないのでは?正社員にせよ派遣にせよ労働者を守るという労務上の問題をしっかりやらないといけないのではないか、日本の会社
コーポレート・ガバナンス。会社は誰の物か?よくいわれることだけど、いまだに日本の会社はみんなの物で、株主の物ではないんですねえ。世襲の会社もまだまだ多いし。日本から世界に出て行って商売ができる会社を作るようにしないと。会社にかかわる法律を改正しないといけないのでは?
Posted by: 笑い猫 | 2011.08.20 at 16:23
日米におけるコーポレート・ガバナンスの意味合いの違いを無視して
日本にコーポレート・ガバナンスが欠如していると論じるのは、少し
暴論のような気がします。
Posted by: yumeno_tocyu | 2011.08.20 at 22:54
日本の場合、正社員の身分が過度に保証されていて、会社や日本の社会のみならずせ正規・非正規とわず労働者個々の生活にもむしろ害をなしていることの方が多いのではないかと(理屈ではなく)直感的に「感じて」います。労働市場の流動性のなさが、回り回って働く一人一人の心を蝕んでいるような気がしてなりません。たとえば昨今よく報道される鬱病・自殺の件数増加などの遠因になっているのではないでしょうか。
小泉政権の時にこの問題にまともに切り込まずに「派遣法の改正(改正という言葉はあまり使いたくないのですが)」という形で対処しようとして余計おかしくなってしまっているのが現状だと思います。
本題とはずれてしまったコメントをしてしまい申し訳ありませんが、是非はともかくとして、今回HPが行ったようなダイナミックな経営判断が、日本の企業も行えるようになれば、新たな市場の開拓と雇用の創出に結びつくのにと、今回のHPの判断を見て、結果の是非は別としてそのように思いました。
Posted by: tarosan9 | 2011.08.21 at 02:58
私もHPのこの判断は懸命だと思います。
正社員をクビにしないということは、一見素晴らしく思えるものの、事によっては会社が突然死するまで囲い込んでおけという話にもなりかねず、
それで身分を保証される方の社員にしても、衰退分野にしがみついて余計に歳をとれば人生の再スタートも難しくならないとも限りませんので。
Posted by: PowerYOGA | 2011.08.21 at 19:51
正社員を切れない事をある意味問題視する意見に対し、労働者無視の意見だとして反対意見については反対!
日本の場合、非自発的な失業状態にあっても、確かその状態がある期間(3年?)を過ぎた人は、自発的な無職に振り替えらて、失業率は低く見積もられるように操作されている。
その当たりの数字のマジックを除外した長期失業率で見れば、日本より米国の方が低いという統計データも存在する(出典は忘れたが家に帰ればその本がある)。
労働の流動性が高ければ、衰退期の企業が正社員を切って身の丈に合った事業構造にして、新興企業がその人を雇えば良いはずであり、正社員を切るという事は絶対悪ではない。
Posted by: くわ | 2011.08.22 at 03:42
HPのPC事業切り離しで株価2割減
http://finance.yahoo.com/q/bc?s=HPQ+Basic+Chart&t=5d
HPの判断が英断なのであれば、どうして2割も株価が減るのでしょうか。
HPは未来を失ったと、マーケットは判断したのではないでしょうか。
Posted by: N | 2011.08.22 at 06:39
HPのPC事業切り離しで株価2割減
http://finance.yahoo.com/q/bc?s=HPQ+Basic+Chart&t=5d
HPの判断が英断なのであれば、どうして2割も株価が減るのでしょうか。
HPは未来を失ったと、マーケットは判断したのではないでしょうか。
Posted by: N | 2011.08.22 at 06:39
利益率5%というのは、営業利益ベースなんでしょうか?最終利益ベースで5%なら
そこそこのものだと思いますけど。日本の企業は、売り上げの5%利益を出しているところは
ほとんどありません。トヨタでさえも5%近辺だと思います。
Posted by: イートレード | 2011.08.23 at 23:54
コーポレート・ガバナンスってのは、株主優先で考えよ!ってことなんですか?
極端なことを言えば、途上国で低賃金、過酷な労働をさせて、買い叩けばコーポレート・ガバナンスとしてはOK?
でも、CSRという観点もあるわけで。
株主の利益だけでなく、社会的責任という観点はどうなんでしょうか?
発展途上国で株主の利益にはならなくても、親を雇い子供は会社負担で学校に行かせてあげるとか、そういう例もありますが、こんなのはコーポレート・ガバナンスとしてはダメだってことなんでしょうか?
利益という観点と、社会的責任という観点。両者を考えながら、どうすべきか、考えていくべきだと思います。
Posted by: yuri | 2011.08.26 at 07:48
日本の電機が、どうなるか?
それは、大岡昇平のレイテ戦記を読めば、わかる。
Posted by: k75rider | 2011.09.02 at 18:18