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来週の週刊 Life is Beautiful(10月4日号)

来週で足掛け3ヶ月目に入るメルマガ「週刊 Life is Beautiful」。ちゃんと読み続けていただくためには、読者にとって役に立つ中身の濃い文章を書き続けるしかない。忙しければしばらく放置しておけば良いブログとはここが大きく違う。

来週号のトピックは以下の3つ。

時事トピック:iPhoneが加速する通信革命

先日の「auの決断と通信事業の未来と」というエントリーに、「iPhoneを売るということは、『より良い土管を提供しよう』という決断だ」と書いたが、これについて少し詳しい解説。モバイル元年とも言える2000年にUIEvolutionのCEOとして業界に飛び込んだ私として言いたい事は沢山あるので、2〜3回に分けて書く予定だ。

エンジニアのための経営学:バリュー・プロポジション

米国のMBA取得者が良く使う「バリュー・プロポジション」という言葉の意味を説明した上で、なぜそれが企業経営にとって大切なのかを解説する。「企業を一つ選んで、その企業のバリュー・プロポジションについて解説する」という読者からの小論文の募集もしている。

ブログには書けない話・書かない話:スクエニによるUIEvolution Inc.の買収(6)

今回は、スクエニからの独立直後に訪れた危機に関して解説する。「企業の存続のために社員をレイオフする」という二度と繰り返したくない経験をしたわけだが、そんなレイオフを経営側の人間としてどんな気持ちで実行したかについて書いてみた。


教育の現場で使われはじめた iPad

リリースしたiPadアプリへのフィードバックやレビューを読むと、実際のユーザーがどんな場面でiPadを使っているかが良く分かる。neu.Annotateの場合だと、見積書だとか申込書だとかに必要な項目を書き込んでからサインして送り返す、という用途に使っている人が米国には多いようだ。日本と違ってすべてがサインで済んでしまう米国社会ならではの現象だ。下のビデオもその典型的な例。

もうひとつ良く見るのが教育現場での使用例。"Pros and Cons of Digital Workbooks(デジタル・ワークブックの利点と欠点)"は、生徒全員にiPadを持たせ、練習問題をPDFの形で渡して neu.Annotate で答えを書いてメールで提出させるという教育方法を実践している先生の書いたブログエントリー。無料だからこそこんな使い方がしてもらえるわけで、開発者の私としては喜ばしいばかりだ。

こんな様子を見ていると、すべての教科書やワークブックが電子化され、小学生や中学生が重いかばんの代わりにタブレット一つで学校に通うという時代は意外に早く来てしまうのでは、と思う。


ようやく脱原発への道を歩み始めた日本

国のエネルギー政策を決める要となる「総合資源エネルギー調査会」の人事がようやく決まり、10月3日から本格的な検討に入るそうだ。海江田大臣時代に内定していた原発推進派が大半を占めるメンバー15人に、脱原発派の人たちを加えた25人という人選だそうだ(参照)。

この調査会総会の人事に手を付けようとした鉢呂大臣が辞任に追い込まれ、このままでは再び民意を無視した官僚主導の世の中が続いてしまうのではと懸念していたが(参照)、後任の枝野大臣ががんばってくれたようだ。まだ安心はできないが、これでようやく日本も脱原発への道を歩み始めたと言える。

ちなみに、この会議で大切なことは「日本の電力供給をささえるには原発は必要不可欠か?」「原発を止めると日本のGNPはどのくらい落ちるのか?」「自然エネルギーだけで安定した電力を提供することは可能なのか?」などの近視眼的な各論に陥ることなく、まずは15年後・30年後の日本のあるべき姿をしっかりと描いた上で、そこに向けて今何をすべきか、どんな問題を解決して行くべきか、どこに投資をしていくべきかを提言すること。

私が提言の「たたき台」を作るとしたらこんな感じになる。

  • 202X年までにはすべての原発を止める。新設は、建設中のものも含めて一切認めない。
  • 核のリサイクル・高速増殖炉はきっぱりとあきらめる。
  • 老朽化した原子炉、新たな大規模な津波・地震対策が必要な原子炉の再稼働は認めない
  • 原発の安全性に関しては保安院とは別に第三者機関を儲けてそこで審査する
  • 原発の再稼働には、X0キロ圏内すべての市町村の合意が必要という法律を作る
  • 201Xまでに送配電の分離を実現し、総括原価方式を撤廃する
  • 東電は破綻処理し、債権放棄をした銀行と国が新しい株主となって被災者の補償と再建をする
  • 原発に注いで来た国の予算を蓄電・送電・省エネ・代替発電・CO2削減技術への投資に振り向ける
  • 太陽光・風力発電だけでなく、地熱・潮力・小規模水力・バイオマス・核融合などにバランス良く投資する
  • 国としてのCO2の削減責任は、「CO2削減技術の輸出」という形で果たす

こんな風に、まずはっきりとした方向性を定めた上で、「原発の停止による総発電量の損失分をどうやって補うのか?」「どうやってさらなる省エネを実現するのか?」「CO2の排出量はどうやって減らすのか?」「民間投資を正しい方向に促すにはどんな制度・法律が必要か?」「送配電を分離しつつ安定した電力を提供するには何をすべきか?」「いろいろとある自然エネルギーのうち、日本の国土に適したものはどれか?」「すでに大量に抱えてしまっている使用済み核燃料とプルトニウムはどうするのか?」という各論に入るべき。

特に来年の夏に関しては「原発なしで足りるのか?」という議論はそろそろ卒業して、「原発なしで来年の夏を乗り切るには何を今すべきか、どんな準備をしておくべきか」に頭を絞るべき。ぎりぎりになってから「やはり足りないから、多少の危険は覚悟で原発の再稼働を認めるべき」という詭弁はもう聞きたくない。

 


auの決断と通信事業の未来と

Au

auが9月26日に秋モデルを発表した。日経のリークによりauからのiPhone5の発売への期待が高まるなかでの発表となってしまい、各メディアは、発表されたモデルそのものよりも「iPhone5についてはノーコメント」だったこと大きく報じるという異例の事態に。auの広報担当の人たちは頭を抱えていることだろう。

注目すべきは、田中社長の「これからは、『未来は、選べる。』をauのコンセプトに据える。キャリアが垂直モデルで製品を提供するのはいかがなものか、お客様がイメージしたものを提供するべきだと考えた結果、このコンセプトを掲げることにした」という発言(注:上の写真はイメージ)。

昔から端末機ビジネスと通信ビジネスが切り離されているヨーロッパならいざしらず、iモードに代表されるような、端末機+通信サービス+コンテンツ流通サービスすべてを垂直統合型で提供して来た日本のキャリアが、自ら垂直モデルを否定するというのは異例の事態。

iPhoneを担いでシェアを着実に増やしているソフトバンクに対抗するには、妙な小細工はせずに、本業の通信の部分に総力を結集して「だれよりも良い土管」を作るしかない、という決断のように思える(iPhoneを売る事がなぜ「土管になること」に通じるかについては、来週号の週刊 Life is Beautifulで解説する)。消費者から見れば、端末だけでなく通信事業者も自由に選べるようになることはとても好ましいこと。同じiPhone5(およびAppleが提供する iTunes ストア)が使えるのであれば、通信品質と値段のみで勝負が決まる。

iPhoneの登場で始まった「スマートフォン革命」が、ようやくキャリアのビジネスモデルそのものにまで変革を迫る第二フェーズに入ったこの局面。Appleが果たして廉価版のSIMロックフリーiPhoneを出して来るのか、カオス状態のAndroidマーケットはどこへ行くのか、ようやく土俵に上がって来たMicrosoftがどんな戦いを見せてくれるのか。目が離せなくなって来た。


いきなり Apple との契約違反をしてしまった au

Au

ついに、auからiPhone5が発売されることになったという記事が日経新聞に掲載された(参照)。

KDDI(au)が米アップルのスマートフォン(高機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」を2012年初めにも発売する。扱うのは10月に全世界で発売される最新型の「iPhone5(仮称)」。日本でアイフォーンはソフトバンクモバイルが事実上独占販売してきたが、これが崩れる。日本の携帯電話会社の勢力図が再び大きく塗り替わる可能性がある。

iPhoneアプリの開発者としては喜ばしいばかりだが、この発表、いくつか不思議な点がある。

一つ目は、10月にiPhone5が発売されるということは、多くのアップルファンにとっては99.9%確実な周知の事実ではありながらも、公式には現時点では「噂」でしかないという事実。Appleほど新製品の発表に関する情報をコントロールする会社はなく、こんな風に携帯電話会社に見切り発表させることは絶対に許さない。いままでも新製品の情報を外に漏らした社員をクビにしたり、余計なことをしゃべったベンダーを契約打ち切りにして来たりした。こんな発表をもしauが意図的にしたとなると、契約違反で罰金を払わされたり、契約を打ち切られても(もしくは、それをネタにMinimum Commitmentを倍増されても)しかたがないぐらいの大問題だ。

もう一つは、au自身は何も正式に発表していないという事実。auのホームページを見ると、9月26日に新製品発表会があるとだけ書いてある(参照)が、iPhoneのことはひと言も書いていない。

以上の情報から想像するに、裏の事情はこんな感じだろう。

  • auとAppleの間で契約が交わされ、その正式発表が9月26日と決まる
  • この発表イベントを成功させるために、auの担当者が日経新聞の記者に情報をリークする
  • 日経新聞の記者が、これを記事にしてしまう
  • Appleの担当者が怒りの電話をauにかけ、auの担当者がひたすら謝る
  • auの担当者が日経新聞の記者に怒りの電話をかけるが、記者は「オフレコだったんですか!」としらばっくれる

企業が新製品に関する情報を正式発表の数日前にメディアに意図的にリークするということは良くある話。ただし、その場合は、どこまでがオフレコでどの程度の記事までなら書いて良いか(もしくは全く書いてはいけないか)を明確にして、このような事故を避けるのが通常のやりかた。au の担当者と記者の間でどんな会話がされたのか分からないが、いずれにせよAppleから見れば情報管理の責任は au にある。

neu.NotesCloudReadersを一人でも多くのiPhoneユーザーに使っていただきたい私としては、ぜひとも au に沢山 iPhone を売っていただきたいので、こんな失敗にめげずに頑張っていただきたい。

【メルマガ週刊 Life is Beautiful では、「エンジニアのための経営学講座」、「ブログに書かない話・書けない話」の二つのコーナーを中心に、転職・渡米・起業などを視野に入れつつ活躍するエンジニアのキャリアパス構築を応援しています。キャリアパスに関する質問や相談も随時受け付けています】


システム・アーキテクト不在の日本には原発は無理

私が WEB+DB PRESS に書いたコラム「原発事故から学ぶ『システム設計』の重要性」がウェブで公開されたので、ぜひともお読みいただきたい。

今回の事故が「想定外の津波によって引き起こされた天災」ではなく、「めったに起こらない事象を想定外として考慮の対象から排除して来たために引き起こされた人災」であることは明白である。

注目すべき点は、役所のそれぞれの部署の人は自分に与えられた仕事をキチンと果たして来たにも関らず、こんな事故が起こってしまったし、事故後の対応が後手後手になってしまったこと。

経産省は日本に電力を安定して供給することを最も重視して活動して来たし、原子力安全保安院は経産省の下で「原子力は安全だ」という安心感を国民に与えるためにに最善の努力をして来た。その結果、日本の電力は先進国のなかでもずばぬけて安定して供給されているし、盤石の「安全神話」も作られた。

気象庁も全国に設置した風力計と世界最高のシミュレーション技術により放射性物質の拡散をかなりの精度で予測できるようになっていたし、文部科学省も全国各地に設置したモニタリングポストにより放射性物質による汚染が実際にどこにどの程度広がっているかリアルタイムで把握する能力は持っていた。

これだけの組織と人を抱えながら、日本政府が原発事故を未然に防ぐことができなかったのも、事故後に的確な避難指示を出せずに大量の被曝者を出してしまったのも、そういった数多くの縦割り組織がどう連携して国民の安全を守るか、という部分のシステム設計がされていなかったことが原因である。

この場合の「システム・アーキテクト」の役割は、縦割り組織の上に立つ政治家が果たしているわけだが、普段は票集めに忙しく、野党時代は非現実的なことを言って与党の足を引っ張ることにエネルギーを使い、やっと政権をとっても法案の作成は官僚まかせ、ちょっとした発言からマスコミに足をすくわれて辞任し、首相が一年おきに交代している状況では、システム全体のことなど考えている暇もない。

今回の事故で明らかになったのは、こんな風にシステム・アーキテクト不在の日本には、一歩間違えば国土の一部を失う原発なんて無理だ、ということ。リーダーシップ不在の官僚主導の政策運営は、平時にはそれなりにうまく働くが、今回のような有事に迅速に対応することは出来ないし、方向転換が不得意である。

経産省の下に置かれたままの原子力安全保安院が電力会社の顔色をうかがいながら作ったストレステストを再稼働の条件にしようとしているところ、日本のエネルギー政策を検討する「総合資源エネルギー調査会」のメンバーの人選を経産省がやり、その大半が原発推進派の人で構成されているところ、二重チェックをするはずの原子力安全委員会が「原子力安全保安院が安全確認をしたから」と泊原発の再稼働を容認してしまったところ、などを見ていると、リーダーシップのない日本の政治家にこのシステムを運営することはどうみても無理である。

今回の原発事故は、単なる技術の未熟さや不十分な災害対策によって引き起こされたのではなく、経産省と電力業界の癒着や縦割り行政という構造的な問題により引き起こされたということを良く反省し、今後のエネルギー政策を考えて行くべきである。


虎の尾を踏んだ鉢呂大臣

太郎:先生、鉢呂大臣の辞任に関して、実は経産省の陰謀だったという噂を聞いたんですが本当ですか?

先生:おやおや、太郎君の得意な陰謀説だね。

太郎:からかわないでくださいよ。先生だって経産省が怪しいと思っているんでしょう?

先生:そんなことはないよ。状況証拠だけで経産省を犯人扱いするのはいくらなんでも間違いだよ。

太郎:でも、先生も鉢呂大臣は「国のエネルギー政策を決める重要な委員会の人事に口を出そうとしている」って言ってたじゃないですか。

先生:それは事実だよ。国のエネルギー政策を決める「総合資源エネルギー調査会」のメンバーが脱原発派3人・原発推進派12人という経産省から出て来た人選を鉢呂大臣が問題視して、反対派の人を9人追加しようとしていたんだ。

太郎:経産省はそれが気に入らなくて、鉢呂大臣を刺したんですね!

先生:「刺した」と決めつけるのは間違いだけど、気に入らなかったことは確かだよ。経産省としては、「総合資源エネルギー調査会」の人事と事務局の両方をコントロールすることにより、自分たちに都合が良い政策を提案しようとしていたんだからね。その人事に政治家が口を出すなんていうのは、これまで御法度だったんだよ。

太郎:でも最終的な政策は政治家が決めるんじゃないんですか?

先生:確かにそうだけど、手続き上は経産省の諮問機関である「総合資源エネルギー調査会」が専門家の意見をまとめて政府に提出し、それに基づいて政策を決めることになっているんだ。もし「総合資源エネルギー調査会」が「電力の安定供給のためには原発推進という道しかありません」という結論を出してしまったら、それを政治家がひっくり返すのはとても難しいんだ。

太郎:それで鉢呂大臣は、「総合資源エネルギー調査会」の人事に手を付けようとしたんですね。

先生:そうだよ。鉢呂大臣としては、両方の意見を公平に聞くために、推進派12人・反対派12人というメンバーで議論を戦わせた上で、「総合資源エネルギー調査会」からは、「原発容認であれば日本のエネルギー政策はこうあるべき」「脱原発であれば日本のエネルギー政策はこうあるべき」という二つの案を出してもらおうと考えていたんだ。

太郎:結論ありきの諮問機関ではなく、原発依存政策・脱原発政策の二つの方向性をそれぞれの利点・欠点・リスクを洗い出して、最終判断は政治家にしてもらうのが正しい諮問機関のありかただ、という考えですね。

先生:そのとおりだよ。鉢呂大臣としてはそういうすべての情報をキチンと見た上で、多くの国民に理解してもらえるエネルギー政策を決めて行きたかったんだね。その上で、「脱原発の道を選ぶと、国民生活にこんな影響が出ると予想されますが、それでも福島第一のような事故を二度と繰り替えさないためには脱原発するしかないと思います」という形で具体的な脱原発への道筋を国民に説明しようと考えていたんだと思う。

太郎:鉢呂大臣ってりっぱな人ですね。

先生:私もそう思うよ。マスコミに叩かれたぐらいで辞任をしては欲しくなかったよ。多少の失言をしてもかまわないから、こんな風に国民の意思を反映した政治をする人に国を運営してもらいたいと私はつくづく思うよ。

太郎:ひどい話ですね。こうやって、経産省は自分たちのいいなりにならない政治家を引きづりおろして来たんですね。

先生:いやいや、一番許せないのはマスコミだよ。菅首相の時もそうだったが、政策の善し悪しの議論を一切せずに、政治家のあげ足取りばかりをしている。横並びで菅おろしのキャンペーンを繰り広げながら、いざ辞任すると「1年ごとに総理大臣が変わっていては他の国から相手にされなくなる」と批判している。政治不信をあおって支持率を下げ、首相や大臣を辞任に追い込んでいる張本人は、マスコミだよ。

太郎:本当にひどい話ですね。なんとかできないんですか?

先生:今の時点で僕らにできることは、鉢呂大臣に変わって大臣になった枝野大臣が何をしてくれるかを良く見ること。枝野さんが本当に国民のことを考えているのであれば、まもなく「総合資源エネルギー調査会」の人事の大幅な変更が発表されるはず。そうすれば全力で応援すべきだし、もし何もしなければ「総合資源エネルギー調査会の人事はこのままでいいんですか?」と問いつめるべき。

太郎:枝野さんには、ぜひとも頑張って欲しいですね。経産省に負けるな!マスコミに揚げ足を取られても辞めたりするな!エダノ、ガンバレ!


東電の「黒塗りメソッド」でメルマガの宣伝をしてみるテスト

東電が事故原因の究明に必要な操作手順書を「黒塗り」して提出したことに関しては、先のエントリーで書いた。まったくもってけしからん話だが、この黒塗り資料には思わぬ効果があることに気がついた。黒く塗りつぶした部分がものすごく読みたくなるのである。

これは新手のマーケティング手法として使えるかもしれない。ということでさっそく、私のメルマガの宣伝に応用し、来週配信予定のメルマガの一部を「黒塗り資料化」した画像を作って下に貼付けてみた。名付けて「黒塗りメソッド」。さて、効果は上がるだろうか?

Mag2_1

Mag2_2

 

 

 


東電、黒塗り資料を提出しておきながら「事実の解明を待たずに批判するな」

TBSが「震災報道スペシャル 原発攻防180日間の真実」という番組を放映したが、それに対して東電が反論をホームページに掲載した(参照)。特に興味深いのはIC(緊急冷却装置)の操作に関する部分。

「ICの操作も含め、停電しても適切に対応すればメルトダウンも水素爆発も防げた」と断じていますが、これらの原因やメカニズム、ICの操作等の詳細などについては、現在、国の事故調査・検証委員会などで調査が進められております。そうした中で、事実の解明を待たずに、推定や憶測などによって、「人災」と結論づけた報道がこのたびなされたことは甚だ遺憾であり、誤解につながる可能性が大きいと言わざるをえません。

確かに、事故当時のICの操作については、それが手順書どおりに行われたのか、そしてそもそもその手順書が適切なものだったのかが事故調査・検証委員会によって進められている。しかし、東電が国に提出した手順書は、知的財産と核拡散防止を理由にタイトルと目次以外のほとんどすべてが黒塗りされており、これではどう考えても検証は不可能。こんな資料を提出しておきながら、「事実の解明を待たずに批判するな」と言う権利は東電にはない。

Kuronuri

やはり東電は破綻させて一時国有化し、現行の経営陣を入れ替えた上で、すべての情報を強制的に開示させる必要がある。もちろん、経営陣の退職金や年金に関しては、事故原因が十分に解明され、被災者の救済が終わるまで保留にすべきだ。

そもそも、地震学者から指摘されていた津波の危険性に対する対処を「経済的な理由」で放置して来たことは、東電の経営陣だけでなく監視役の原子力安全保安院の刑事責任も追求すべき重大な過失。そのあたりの責任の所在を明らかにするためにも、検察は東電本社を強制捜査し、この手の資料を証拠物件として押収するべきだ。

 


原発一機を一年間動かすとどのくらいの残土・劣化ウラン・放射性廃棄物が生じるかを計算してみた

iPad/iPhone向けに開発した計算アプリ neu.Calc。色々な使い方が可能だが、普通の電卓アプリにない機能の一つが、HTML Tableを生成する機能。計算をした後、アクション・メニューから "Mail" を選択すると、テーブルを生成してメーラーに渡す。

下のサンプルは、福島第一の2号機で一年間に燃やす核燃料(濃縮ウラン 78.4トン/年)を採掘・燃焼する過程で生じる、残土、劣化ウラン、高濃度放射性廃棄物などの量を計算したもの。neu.Calcに備わった "Solver" という機能を使って、総採掘量 66.3万トンを逆算してもとめている(差引というフォーミュラはこの"Solver"のために追加した)。

ちなみに、「地球にやさしい」はずの原子力発電が、実はちっともやさしくなんかないことがこの表を見ていただければ分かると思う。たった一基の原発を動かすために、66万トンもの土を掘り返さなければならない上に(含有率の高い良いウラン鉱脈は掘り尽くしてしまったために、今掘っている場所は含有率が低いためこんな量になってしまう)、製造過程で250トンもの劣化ウランを副産物として生み出すし(ちなみに、これは理想的な数字なので、実際にはより多い)、やっかいな高レベル放射性廃棄物が2.3トン、核爆弾の原料になるプルトニウムが0.78トン、劣化ウランと同じようにやっかいな使用済みウランが75トンも生じる。MOX燃料という形でプルトニウムを燃やすことも可能だが、単にプルトニウムを別の放射性元素に変えるだけの話で、絶対値での高レベル放射性廃棄物や使用済みウランの量を減らせる分けではない。

総採掘量(t) 662561.22 662,561.22
ウラン含有率(%) 0.05 0.05
天然ウラン(t) 総採掘量 × ウラン含有率 % 331.28
残土(t) 総採掘量 − 天然ウラン 662,229.94
U-235天然含有率(%) 0.71 0.71
U-235必要濃度(%) 3 3.00
濃縮率(倍) U-235必要濃度 ÷ U-235含有率 4.23
濃縮ウラン(t) 天然ウラン ÷ 濃縮率 78.40
劣化ウラン(t) 天然ウラン − 濃縮ウラン 252.88
年間消費量(t) 78.4 78.40
差引(t) 年間消費量 − 濃縮ウラン -0.00
使用済み核燃料(t) 濃縮ウラン 78.40
プルトニウム(t) 使用済み核燃料 × 1 % 0.78
高レベル放射性廃棄物(t) 使用済み核燃料 × 3 % 2.35
使用済みウラン(t) 使用済み核燃料 × 96 % 75.27