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今週の週刊 Life is Beautiful : 11月1日号

今週の週刊 Life is Beautiful の配信の準備ができたので、簡単に内容を紹介させていただく。

◇ ◇ ◇

時事トピック
iPhoneが加速する通信革命(5)

BREWビジネスモデルの一番の弊害は、Verizon/Qualcomm間で設定されたBREWアプリの価格決定と支払いの仕組みであった...

エンジニアのための経営学:Discount Cash Flow と Net Present Value(1)

米国でMBAを取得した人たちが企業の投資計画の話をする時に良く使うのが Net Present Value (NPV)という言葉。「ここに工場を1000億円で建てたとすれば、予想される収益から計算して Net Present Value は42億円になります」「1年後のユーザー数が10万人と仮定すると、Amazonのec2を使った場合はNet Present Valueはプラスになりますが、自社サーバーを構築した場合はマイナスなってしまいます。ユーザーを60万人以上集める自信がなければ自社サーバーは辞めた方が良いと思います」のような使い方をする...

ブログには書けない話・書かない話
私が Internet Explorer の開発に関った理由: その2

私がMicrosoft自身がブラウザーを作っているということを知ったのは、Windows95の開発も最終局面にさしかかっていた1995年の前半のことである。Windows95のリリースと同時に、「プラスパック」というパッケージソフトを小売り販売し、その中に Internet Explorer というブラウザーを含めることになったことを知らされたのだ...

読者からの質問コーナー

読者の一人から

SEやプログラマの人材募集を見ますと(特に新卒)、経験不問、文系学部卒業でも可というような条件が多く見られます。本当に経験不問、文系学部卒業でも問題なく業務がこなせるのでしょうか? 他の理系職種(ハードウェアエンジニアなど)で、このような条件は考えられません。企業としては、何に期待しているのでしょう?

という質問が送られて来ました。とても良い質問なので、少し丁寧に答えてみたいと思います...


ようやくスマートフォン・ビジネスを本体に取り込んだSony

業界内部ではしばらく前から噂されていたが、SonyによるSony Ericssonの100%子会社化が正式に決まった(参照)。

もとはと言えば、競争が激しくて利益率の低い端末ビジネスから撤退したかったEricssonと、携帯端末のパテントが必要だったSonyが、Sony Ericssonという合弁会社を作ったという歴史があるが、Sony という会社が Apple、Samsung などと戦うためには、携帯電話機のビジネスを100%コントロールすることが必要不可欠だ、という経営判断である。

パテントに関しては、記事にも "Sony will also get a broad intellectual property cross-licensing agreement and ownership of five essential patent families relating to wireless handset technology." とあるようにきれいに決着できたようで、一安心である。

問題は、「これからSonyはどう戦うべきか」だが、「少なくとも Android 端末を作る1メーカー」の地位からは大きく脱却する必要があることだけは明確だ。このブログにも何度も書いたように、横並びでAndroidケータイ、Androidタブレットを作っても絶対に儲からない。

たとえベースOSにはAndroidを使うにせよ、Sonyならではの価値を提供し、Sony自身がコントロールするエコスステムを作る必要がある。PS2やPSPのゲームがエミュレータ上でそのまま遊べるというのは短期的に見れば良い戦術だが、中長期的には、次世代PSPとSonyのスマートフォンが、実はハードもソフトもほとんど同じという、ちょうどiPod touchとiPhoneのような関係にまで持って行く必要があるだろう。


「秩序の維持」のために「出る杭」は徹底的に叩く日本

小沢一郎の件にしても、鉢呂大臣の辞任にしても、ストレステスト宣言後の激しい「菅おろし」にしろ、これで日本は民主主義国家と言えるのかと疑わしくなるようなことが頻発している。特に霞ヶ関とマスコミが一体となった「世論操作」には強い違和感を感じる。

その根底にあるのは「みんなで決めた事」「今までうまく回っていたもの」に反対したり、トップダウンで大きな変革を起こさせようとする力に対する、激しい拒絶反応。

やっかいなのは、この拒絶反応には「首謀者」がいないこと。裏から操る一人の黒幕がいるのであれば、その人さえ排除できればなんとかなるのだが、リーダーシップを持つ人物を徹底的に嫌うDNAがまるでキラーT細胞のように日本の政治家、官僚、マスコミ、経済界の中にはびこっているので、誰かがリーダーシップを発揮しようとしたとたんに徹底的に叩かれるのだ.

何か良い説明はないかと探していたところ、ニュースの深層でとても良いインタビューをしていたので紹介する(下のビデオ)。「誰が小沢一郎を殺すのか」の著者のカレル・ヴァン・ウォルフレン氏いわく、日本の官僚システムは「秩序の維持」を重視するあまり、今の秩序を一度破壊して新しい物を作り直そうという力に対して過剰な拒絶反応を起こしてしてしまうのだという。まさに「画策者なき陰謀」である。

そう考えてみると、なぜあのとき、ソニーが久夛良木氏をCEOにすることが出来なかったのかも説明できる。久夛良木氏がCEOになっていたからと言って成功した保証はないが、少なくとも今のような「普通の会社」にはなってしまっていなかったと思う。


Apple TVが「ホビー」でなくなる日

Appletv何らかのきっかけで、ブログの昔のエントリーへのアクセスが急増することがある。最近増えているのが、2009年の末に書いた「アップルの30年ロードマップ」というエントリーへのアクセス。スティーブ・ジョブズを失ったアップルが、これからどこへ行こうとしているのかに興味を持つ人が増えているのだろうか。

2009年末と言えば、iPadの発表前だが、私の見方は基本的にあの時と変わっていない。iPadはほぼ私の予想通りの形で出て来たし、Amazonとともに出版業界に激震をもたらしている。

あの時点で予想したもののうち、まだ実現していないのは、Apple TVによる放送業界とゲーム業界の革命。

放送革命の方はまだ数年はかかると思う。ComcastやDirectTVと対抗するには、ダウンロード型の視聴ではなく、ストリーミングもしくはマルチキャストでスポーツ番組をリアルタイムで見れるようにする必要があるが、ESPNやFoxを口説き落とすのは簡単ではない。

ちまたには、「Appleがテレビを発売するに違いない」という噂が飛び交っている。テレビのパネルにまで手を出すと40%近い粗利を維持するのは難しくなるので、疑わしい話ではあるが、iPhone/iPad の驚異的な粗利を実現したAppleの部品調達能力を持ってすれば、ひょっとしたら可能かも知れない。考えてみれば、40インチのテレビのために消費者の財布から1000ドル出させるブランド力を持つのはAppleだけではある。数はそれほど出なくても良いから、どうしてもAppleブランドのテレビが欲しい人向けにだけ高級品として売る、という戦略は十分ありうる。

それよりも、もっと現実的なのは、Apple TVをハード・ソフトともに大幅にアップデートして、iTunes ストアからアプリをダウンロードできるようにして、ゲーム端末ビジネスに黒船として参入する可能性。ここ数年は、Nintendo、Sony、Microsoft の3者のみでの争いが続いて来たゲーム端末マーケットだが、AppleがApple TVをゲーム端末に変身させて再デビューさせれば、このバランスが一気に崩れる。

最初に打撃を受けるのはたぶん Nintendo だろうが、SonyやMicrosoftも安心はできない。大半のゲームが10ドル以下で売られるだろうし、無料のゲームもたくさん提供される。iPhone/iPadで腕を磨いた開発者たちが雪崩の様に Apple TV アプリを作り始めるからだ。下手をすると、iPhoneに駆逐されつつあるガラケーメーカーのような目に会う可能性すらある。

タイミングとしては、早ければ今年のクリスマス商戦、そうでなくても2012年の中盤ぐらい、というのが商品サイクル・チップの進化のスピードから考えて一番可能性が高いと私は見ている。クリスマス商戦にあわせてゲームを作って欲しいのであれば、そろそろアプリの開発者に連絡があっても良い頃だ。


neu.Stereoで汚染マップのステレオグラムを作ってみた

iPad/iPhone 向けにリリースしたステレオグラム・ジェネレータのneu.Stereo。ステレオグラムは2次元マップ上のデータを表示するのにも使えることを示すデモとして、福島第一の写真に文科省発表の放射能汚染マップを重ねる形で作ってみた(下図)。ちなみに、ベースになる写真は、この写真のようにできるだけごちゃごちゃとしたものの方が三次元画像が見やすくなる。事故前の写真ではこんなにはっきりとは見えない。

見るだけならパソコン上でも可能なので、下の図をクリックして拡大して並行法で見ていただきたい。

Neu.Stereo

 


アートで表現した放射性物質

福島第一から環境中に放出された放射性物質をアートとして表現した作品がネットで公開されていたのでここで紹介する。Harry Kent というタスマニア大学(オーストラリア)でポートレイトを使った「表現」の研究をしている人の作品で、詳しくは彼のブログを見ていただきたい。

下のサムネールは、左からヨウ素131、セシウム137、ストロンチウム90。作業員の防護服と空気中にただよう放射性物質をモチーフにしたインパクトの強い作品だ。

Iodine-131 Cesium-137 Strontium-90


来週の週刊 Life is Beautiful(10月25日号)

メルマガをiPadで読んでいただいている読者の方から、メルマガがブログと比べて(レイアウト上)読みにくいという指摘があったので、来週号から試験的に HTML に少し細工をして可読性を上げることを試みることにしてみた。

メルマガなので、CSSを使うことはできないので(ひょっとしたら裏技があるのかも知れないが...)、ヘッダータグに style を直接追加して font, border, padding, margin などを指定している。

今回はそのレイアウトのまま、各トピックの先頭部分を貼付けてみる。

時事トピック
iPhoneが加速する通信革命(4)

SymbianともJ2MEとも異なる形で市場に現れたのが Qualcomm の BREW OSである。BREWに関しては、たまたまその当時、私自身がCEOのPaul Jacobsに近い位置にいたこともあり(Qualcommは、私が元マイクロソフトのメンバーと2000年に設立した投資会社Ignition Parnersの最初のファンドの投資家)、当事者の一人としてその誕生に立ち会うことができた。...

エンジニアのための経営学
Porter's Five Forces(3)

今度は、このPoter's Five Forces で携帯電話機メーカーのビジネスを解析してみよう。

1. The threat of the entry of new competitors (新規参入の脅威)

それなりの資本力が必要という意味ではさすがに誰でも簡単に参入できるマーケットとは言いがたいが、iモードケータイが全盛だった2000年代の前半と比べると、(1)規格部品を組み合わせるだけで作れる様になった、(2)製造を100%アウトソースすることが可能になった、(3)Androidというソフトウェアプラットフォームが無料で入手できる、という3点において参入障壁が大きく下がったのは事実である。...

ブログには書けない・書かない話
私が Internet Explorer の開発に関った理由: その1 

私はMicrosoftにいた90年代に、Windows95とInternet Explorer 3.0/4.0 というとても面白いプロジェクトにソフトウェア・アーキテクトとして直接関わることができた。これらのプロジェクトはMicrosoftにとって戦略的にとても重要だっただけでなく、パソコン・インターネット業界全体に大きなインパクトを与えることになったわけで、「世界中の人たちに自分が作ったソフトウェアを使って欲しい」と考えていた私にとっては夢のようなプロジェクトであった。...

読者からの質問コーナー

今週は、米国でMBAを取得中というかたから、M&A(吸収合併)の難し関してこんなコメントがありました。

ということで、M&Aにおいて単にMBA卒な投資銀行に大量のフィーを払うのではなく(笑)、その価値を最大化するにあたりどうすべきかと自分ならどういう役割を果たせるものかと日々ぼんやりとですがと考えています。今回のスクエニの話で言えば...


福島第一にはメルトダウンした核燃料よりももっと危険なものがある

菅政権の内閣官房参与で、福島第一原発事故対策や原子力政策のアドバイザーだった田坂広志・多摩大学大学院教授が原発事故の教訓や今後の課題について語った講演「パンドラの箱」が公開されているので下に貼付けておく。

原子力発電を利用するというのは、その国全体にとって何を意味するのかをとても的確に表しているので、原発に賛成の人も反対の人もぜひとも見ていただきたい。特に使用済み核燃料の問題が技術的な問題ではなく社会的な問題であること、そして福島第一でもっとも危険な存在は実はメルトダウンしてしまった1〜3号機の核燃料ではなく、4号機のプールにあって取り出す事もままならない大量の使用済み核燃料であること、などが専門家の立場から的確に語られている(ビデオの40:00〜45:00あたり)。万が一4号機のプールがこれから起こる地震で壊れたりしたら、関東にも人が住めなくなるのだ。

1時間強と少し長いので、忙しい人はスライドだけでも目を通すことをお勧めする。私がなぜ原発は現実的ではないか、という結論に達した理由のすべてがここで語られている。

【追記】週刊ダイアモンドに田坂氏のインタビューが載っているのでそちらも参照いただきたい。

 


TPPを「のび太とジャイアン」の関係で説明してみる

TPPに関しては、日本の輸出産業の発展のためには入るべきという賛成論と、日本の農業を守るために入るべからずという反対論の二極化で議論が進んでいる。このまま行くと、中身の議論のないままに時間切れでアメリカに押し切られる形でTPPに参加表明をする、といういつものパターンに陥りそうないやな予感がする。

TPPであれ何であれ、多国間協議に参加するのであればイニシアティブが取れるポジションを取らなければ意味がない。二国間のFTAであれば「ここは譲るけどこれは絶対に譲れない」などの交渉がまだ可能だが、TPPという多国間協議の場に単なる「one of them」として参加した場合、「多数決で決まったから」と無理難題を押しつけられても文句は言えない。

日本の外交の一番の問題は、「おひとよし」であること。あれだけの金を出しながらも国連で常任理事国になれないのは、「常任理事国の座をくれるまでは金は出さない」などの欧米的な交渉術を使わないから。「こうやって毎年上納金を納めていれば、いつかは将軍様も理解してくれるに違いない」と黙って金だけ出しているから足元を見られるのだ。

ということでTPPもしくはFTAのような仕組みで他の国との貿易を盛んにすることには賛成だが、イニシアティブも取れないような形でTPPに参加するのは最悪。参加するとしたらどんな立場で参加するのか、いざ参加したらちゃんと交渉できるのか、を見極めることが大切。

国際社会で日本が本気でイニシアティブを取りたいならば、鳩山首相が提案したEAC(東アジア共同体)を日中韓の三国で立ち上げた上で、米国にも参加を呼びかけるというのが正しい選択だったのだろうが、ジャイアン(米国)抜きで野球チーム(EAC)を作ることにのび太(日本)が躊躇しているうちに、ジャイアンがTPPという草野球チームにいつの間にかリーダー格として参加してしまい、日本にも参加を呼びかけて来たので断れなくなってしまっている、というのが今の現状、というのが私の理解である。

【参考文献】

1. U.S. lawmaker voices concern over Hatoyama's East Asian community

鳩山首相のEAC構想に関して「米国を排除したEACは米国経済にダメージを与える。(そんなものが出来る前に)米国はTPPに参加すべき」という共和党議員 Kevin Brady の談話が紹介されている。

2. President Obama, the TPP and U.S. leadership in Asia

なぜ米国がTPPの参加するべきかに関する解説。米国がアジアとの関係を強めなければ、中国がアジアのリーダーとして台頭してしまう、という危惧が述べられている。


Sony + Panasonic + Nokia + Ericsson + Motorola + HP + Dell < Apple?

来週号のメルマガに向けて、今度は携帯電話ビジネスを Poter's Five Forces モデルで解析する、ということをしているのだが、たかだか Mac, iPod, iPhone, iPad の4つのラインの商品しか持たない Apple が株価総額で米国一になるということがどのくらい異常な事なのか、を表したのが、下の表。

 

Sony 20.31
Panasonic 22.36
Nokia 22.71
Ericsson 31.02
Motorola Mobility 11.49
HP 49.63
Dell 29.01
Total 186.53

それぞれの企業名の横に書いてある数字が、その企業の株価総額(単位は $B = billion dollar)。米国で株式が購入できる家電・エレクトロニクス、携帯、パソコン業界のトップクラスの企業7社を並べてみたが、その株価総額の合計は $186B(注:Ericssonはインフラ側の会社だが、SonyとともにSony Ericssonの親会社なので Sony Ericsson の株価総額を考慮する意味で含めた). 

一方、4つの商品ラインしか持たない Apple の株価総額は $369B。上の7社の合計のほぼ倍だ。

もちろん、株価がすべてではないが、PE Ratio は15前後と、利益に裏付けされたまっとうな株価だという点に注目する必要がある。

それにしても、「Appleがターゲットにしているのは、年間4億台のスマート・フォンマーケットではなく、年間15億台の携帯電話マーケット全体だ」という Tim Cook の言葉はかなり強気だ。携帯電話全体で見れば、まだAppleのシェアは5%程度。まだまだ伸びしろはある。