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Novel vs. Microsoft 裁判と模範回答と

Story-antitrust-lawsuit-miclope-109287日本では報道されていないかも知れないが、今 Salt Lake City では、Microsoft と Novel の裁判の真っ最中である。(Novelが後に買収した)WordPerfect を困らせるために、Microsoftが Windows 95 のある機能を意図的に隠す事にした、というのがNovelの言い分で、それにより受けたダメージの補償として10億ドル(800億円弱)を請求している(参照)。

すでに Bill Gates、Bob Maglia と当時のMicrosoftの経営陣が証言台に立たされたのだが、それでも決着がつかないようで、ついに私も当事者の一人として証言台に立たされることになった(その「意図的に隠す事」にした機能を設計・実装したのが私)。断ることも出来たのだが(米国では100マイル以上離れた裁判所からの呼び出しには応じる義務はない)、証言台に立つという経験はまだ一度もしたことがないし、ブログやメルマガのネタにもなるかも知れないので、行く事にした。

Microsoftの弁護士からは13ページに及ぶ「想定質問集」が送られて来たが、面白いのはそこに「模範回答」まで添えられている事。もちろん、但し書きとして「これはあくまで回答例なので、正直にあなたの記憶していることを話していただいて結構」と書いてある。15年以上も前のことなので、私の記憶も曖昧だが、そこにMicrosoftに有利な「模範解答」を提供されれば、それに影響されるだろうという狙いだ。


今週の週刊 Life is Beautiful : 11月29日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」だが、ここのところ良い質問が連続して読者から寄せられて来たので、今週は特別に「質問コーナー・スペシャル号」として、それらの質問に重点的に答えさせていただくことにした。答えた質問は以下のもの。

【質問1】さて、ブログの「極端な安定指向は、結果として日本の国力を奪う」において就職ランキングのお話がありました。日本では、これにともない全国的に大学の情報系学科の入学倍率が低下傾向にあります。この話しをするときに、つねに話題になるのが、これは日本特有の状況ではなく、米国でもそうだということです。これは本当なのでしょうか。米国のランキングは如実に会社の利益率を表しているものだと思うのですが、そうであるならば米国でも情報系学科の入学希望者が少ないというのがなっとくできません。どんなもんなのでしょうか。

【質問2】中島さんのブログで, UIEvolution, Inc. の人材募集が告知されていました。情報学科卒の学生が新卒もしくは転職でキャリアを積んで貴社で活躍するためには,どのような教育を受け,どのようなキャリアを経て,どのようなスキルを身につけていることが必要でしょうか。

【質問3】(次の質問は、少し長いので要約すると、ISO9001を取得した会社で、ソフトウェアの開発の際にISO9001で決められている様に作業をすると作業効率がとてつもなく落ちてしまう、という経験をされている読者からの)他の会社や、中島さんが勤務してきた会社ではどうだったのでしょうか?教えていただけないでしょうか?特に、米国での扱い方が気になります。

【質問4】米国、中国系、韓国系のエンジニアの方々は、むちゃくちゃなスケジュールでの開発を委託された場合、どのようにして対応しているのででしょうか?...(中略)...みんな、どういう工夫をしているのだろうか?特に日本人よりもハードワークの米国企業の社員の工夫を知りたいと思ってメールした次第です。

【質問5】まず質問内容を短く纏めます。比較的大きい企業が「良いおもてなし」をユーザーに提供しようとする場合、昔と違って現在は複数の製品・サービスをまたいだ戦略が必要だと思います。ですが企業は相変わらず、製品やサービスを基準とした縦割りで組織を持つ傾向があると思います。このような組織構造を変えるべきだと思いますか?また、一介のエンジニアとしてそのような組織に属しているとき、自分の目の前の製品開発に注力する以外に、どのように行動すれば総合的な「良いおもてなし」を提供するように(部署をまたいででも)周りを動かしていけると思いますか?

【質問6】丁度、中島さんのBlogで「携帯型ゲーム市場の大幅シフトと据え置き型ゲーム市場の未来と 」を読んだ後に、SCE/河野氏の下記インタビュー記事を読みました( http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20111117-00000001-trendy-sci)。 中島さんのBlogとは全く逆の考え方ですね。まだまだSONYの将来は明るくならないように見えました。ご意見伺えれば嬉しいです。

【質問7】お恥ずかしながら私の場合、最終学歴は高卒でエンジニア歴は6年程(現在27歳)なのですが、これから大学での勉強を始めて海外就職を目指すのは無謀なことなのか、夢を持ってがんばるべきか悩んでいます。


AppleとSharpの提携

Hdtv-111025Apple Insider に Apple と Sharp の提携について二つの記事が掲載された。

一つ目は、Appleが次世代 iPhone/iPad のディスプレイに Sharp の IGZO 技術を使うという話(参照)。Appleが iPad の解像度を二倍にするためのディスプレイ技術を探していることは前から伝えられていたが、高解像度で、かつ、同時に消費電力が抑えられる IGZO を採用するというのはかなり信憑性のある話。

二つ目は、Apple が2月からHDテレビの本格生産に入り、その生産を委託する先が Sharp だという話(参照)。Appleのテレビ市場への参入に関しては、私も少し前に書いたばかりだが(参照)、コモディティ化の進むテレビ市場であえぐ家電メーカーにとってみれば、気になってしかたがないところだろう。


Amazon Fire がタブレット市場の15%を確保するとの予想

Amazon が2012年にはAmazon Fire 1200万代を売り、タブレット市場の15%を確保するだろう」との予測が出されている。

この数字は私の予想とほぼ同じ。2012年に関して言えば、AppleのiPadが相変わらず強くてタブレット市場の70%近くを占め、さらに残りのマーケットの半分以上を Amazon Fire が取る、というのが私の読みだ。

消費者から見れば、iPadが一番魅力的だが、値段が半分以下でコンテンツも充実しているAmazon Fireにも捨てがたい魅力がある。

AppleはiPadで30%強の粗利を稼ぎ出す一方、AmazonはFireを一台売るたびに20〜30ドルの赤字になると予想されているが、一気にシェアを確保して、後からコンテンツで儲けるビジネスモデルのAmazonとしては正しい戦略だ。

間に立たされて苦しい思いをするのが他のタブレット・メーカー。iPadと同じような値段では誰も買ってくれないし、かと言って、Amazonのようなコンテンツ・ビジネスを持っているわけでもないので、赤字で売るわけにはいかない。結局のところ20%程度の粗利で売るが、数が出ないので開発費の回収も出来ないという結果になることがほぼ確実だ。


アップル・ストアにサンタが行列?!

Buying-interest-kids-6-12ニールセンの調べによると、米国の子供たち(6〜12才)がクリスマス・プレゼントに欲しいコンシューマー・エレクトロニクスのNo.1がiPadだそうだ(参照)。

前にもここに書いたが、米国では教育現場でのiPadの活用が今年に入って急激に増えている。このままの勢いだと、学生がiPadだけを片手に学校に通うという世界が実現するのも近い。

ちなみに、無料で配布している neu.Annotate には、たくさんのフィードバックをいただいているが、その半数近くが教育現場の人たちからのもの。

教師自身だけでなく、教育の一環として生徒に使わせているので、それだけ真剣だ。独自で「neu.Annotateの使い方」という生徒向けのマニュアルを作る学校まで現れ、開発者の私としては喜ばしいばかりだ。


テクノロジー・ベンチャーにはなぜソフトウェア・エンジニアが不可欠なのか?

WEB-DB PRESSに連載中のコラム、「第10回 アイデアを目に見える形にしてこそのエンジニア」が公開されたので、エンジニアの方たちにはぜひとも読んでいただきたい。

この文章で、私が一番強く訴えたかったメッセージは下の一節。

注目すべき点は,この「プロトタイプという叩き台を作って企画を煮詰めていく」というアプローチは,エンジニアにしかできないということだ。ソフトウェアのことがまったくわからない人から企画を丸投げされて閉口した経験は多くの人が持っていると思うが,そんな無駄なことを避けるためにも,企画の段階からリーダーシップを発揮するためにも,エンジニアはプロトタイプを作るべきだと私は考えている。

シリコンバレーでベンチャー投資家をしている Guy Kawasaki が、「私がアーリー・ステージのテクノロジー・ベンチャーに投資をする時は、ざっと見積もって、優秀なエンジニア一人あたり50万ドルの価値が会社にあるとして計算する。コードの書けない連中は逆にマイナスの価値だ」と言っている理由はまさにここにある。コードの書けない連中が集まって「ソフトウェアは外注を使って作ります」と主張しても誰もそんな会社には投資などしない。

どんなに賢い連中が集まっても、最初から何を作れば良いか分かっているケースなどは存在しない。だからこそ、特に最初のうちは「作っては壊し、作っては壊し、ユーザーに本当の価値を提供できるまであきらめない」姿勢が大切で、それにはソフトウェア・エンジニアがステーク・ホルダーであることが不可欠なのだ。そんな大切な時期に創業者が仕様書だけ書いて、実装は外注に丸投げしていてはコストがかかりすぎるし、決して良いものはできない。

「優秀なソフトウェア・エンジニアである」ということは、それほどまでに貴重な存在だ、ということを強く意識した上で、自分を鍛え続け、良い物を作る・ユーザーに価値を提供する・会社の価値を高めることを一生懸命にしていれば、必ず道は開ける。


neu.Annotate+ リリース

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iPhone/iPad向けの無料のPDFアノテーションアプリ neu.Annotate を配布し始めてから約1年になるが、ようやくneu.Annotate+($2.99/250円)のリリースにこぎつけたので、報告する。

無料版に追加した機能は以下の通り。

  • PDFファイルをタイトル、作成日、変更日で並べ替え 
  • PDFファイルをリスト表示とサムネイル表示の両方で表示
  • DropBoxへの Import/Export サポート
  • 虫眼鏡(一部だけを拡大して書き込むため)
  • イメージ・エディター(貼付けた写真の切り抜きなど)
  • エレメントの位置合わせ
  • エレメントのグループ化・分解
  • PDFファイルの複製、ページの複製
  • PDFファイルの作成
  • 豊富なスタンプ

このアプリに関しては、まだまだ進化の余地があると考えているので、ご期待いただきたい。また、ユーザーの方々からの要望にも可能な限り答えたいと考えているので、フィードバックの方もよろしくお願いする。アノテーション機能に限定せず、その回りのワークフローの部分も含めて必要なもの・便利なものを揃えて行きたいと考えているので、気楽にリクエストをいただけるとありがたい。

【追記】ちなみに、neu.Annotate/neu.Annotate+ 向けに、大幅な高速化・軽量化をほどこした描画エンジン「neu.Canvas」を適用した neu.Notes/neu.Notes+ のアップデート版も本日リリースとなったので、こちらもよろしくお願いする。1ページあたりのエレメントの数が多くなった時に描画のレスポンスが悪くなる問題を解決したので、かなり複雑なノートでもストレスなく使えるようになったと思う。

 


今週の週刊 Life is Beautiful : 11月22日号

メルマガ「週刊 Life is Beautiful」の今週号の配信準備ができたので、下に簡単に内容を紹介する。

ちなみに、バックナンバーの購入ページが分かりにくいというご指摘をいただいたので、運営会社のまぐまぐと協力して改善したいと思う。それまでの間のつなぎとして、ブログに紹介記事をひとまとめにしたページを作っておいたので、そちらを参照いただきたい。

◇ ◇ ◇

時事トピック
iPhoneが加速する通信革命(8)

AppleがiPhoneを発表したMac Worldは、ちょうどコンシューマ・エレクトロニクス業界の最大のカンファレンスであるCESと同じ時期(2007年1月9日)に開催された。私自信は仕事仲間と一緒に CES に出席するためにラスベガスに行っていたのだが、 Mac World に参加するために途中からサンフランシスコに飛んだ...実は Apple が携帯電話を発表するらしいという裏情報をあるところから入手していたのだ...

エンジニアのための経営学
Discount Cash Flow と Net Present Value(4)

MBA取得者が Net Present Value(NPV) と同様に良く使うのが Internal Rate of Return (IRR)。あるキャッシュフローがあった時に、そのNPVをゼロにする discount rate のことを言う...

ブログには書けない話・書かない話
私が Internet Explorer の開発に関った理由: その3

...そんな Windowsチームに属している私が、これまでの Windows のアーキテクチャを否定し、世の中のWindowsマシンすべてで HTTP サーバーを走らせることにより、パソコンすべてをインターネット・ノード化する、という過激な提案をしてきたので、Brad も驚いたのだろう...

読者からの質問コーナー

今週は、情報系の学科の大学1年という読者の方からの以下のような質問に答えてみます。

大学生活を半年ほど経験してみての感想なのですが、大学に通っていても将来役に立つスキルがあまりつかないのではないかと思いました。春学期にやった数学の講義で『線形代数』などを学びましたが、これを将来使うのか。使うときが来たとしても、その時には忘れていて再度勉強することになるのではないか。また、私が通っている大学の先輩を見ても大抵の人はプログラミングもほとんど出来ないような方ばかりに見えます。皆ほとんどコードも書けないまま卒業して、就職してから学ぶ人もおおいと聞いています。私は将来、アプリ・ソフトウェア開発や起業をするつもりです。なので、大学に行くよりも実際にアプリ開発などをやり、勉強したいところはiTunesUで講義を聞く。といった道の方が良いのかなと思ってしまいます。もちろん、大学に行くことによって友達や人脈が増えるといった良い面もあります。

以上が、私が半年間大学に通っての感想なのですが中島さんが大学に行かれての感想を聞きたいです。(良点・悪点、やっておけばよかったことなど)また、中島さんが今、私と同い年であれば大学に通いますでしょうか?iTunes Uや MITのオープンコースウェアがある今、高い学費を払って大学に通うより、その資金を使ってシリコンバレーに行って学んだ方が有益ではないかとも思うので、そのような提案があれば聞きたいです。

とても良い質問だと思います。私自身が現時点で学生だったら、同じようなことを考えたのではないかと思います。しかし、今は少し世の中のことも分かって来たので、多少の助言は出来ると思います...

 


一度経験すると手放せなくなるiPadでの赤入れ

Screenshot 2011.11.18 21.48.11neu.Annotateの最新バージョン版(1.37)がアプリストアにならんだので、報告する。今回の目玉は、高速化と省メモリ。かなりサクサクと読めるようになったし、1ページあたりのストローク数が増えた時の書き心地も大幅に向上させたので、ぜひともお試しいただきたい。

iPhone/iPad 用に沢山のアプリをリリースして来た私だが、その中で私自身がもっとも頻繁に実務で使うのが neu.Annotate。

つい先日も WEB+DB PRESS に連載中のコラムの最終校正を neu.Annotate を使ってしたのだが(左図)、赤ペンでフリーハンドで描くだけでなく、バーチャルキーボードで打ち込んだ赤文字も任意の場所に配置できるので、編集の人に「(手書きの文字より)読みやすい」と評判が良い。

一度 iPad 上での赤入れを経験すると、その便利さ故に、もうパソコンや紙には戻れない。パソコンでは直感的な赤入れが出来ないし、プリントしたものにペンで赤入れすると、それをスキャンしてPDF化するという手間が生じる。iPad を使えば、直感的に赤入れをしたのち、そのままPDF化してメールで送ることができる。

iPadのような今までになかった形のデバイスが出て来ると、当初は、ユーザーだけでなく、アプリの開発者にもそのデバイスの可能性は漠然としか把握できていないので、手探り状態で色々と試してみるしかない。そうやって試行錯誤して行く中で、「今までのデバイスでやるより圧倒的に便利」なことがこんな風にひとつづつ「発見」されて行くわけだが、そんな「人々のライフスタイルが大きく変わる」過程に当事者の一人として直接関われる、というのがこの業界にいる一番の楽しみである。