オリンパス事件と日本企業のコーポレート・ガバナンスの欠如と
2011.11.10
オリンパス事件は、タックス・ヘブンであるケーマン諸島に席を置く会社が出て来た時点で何かあるとは思っていたが、やはり不正会計であった。
注目すべきは、「バブル期に株式投資で失敗したこと」が悪いのではなく、「その投資の失敗を株主に秘密にしたこと」である。誰にでも失敗はあるので仕方が無いとしても、上場企業であるオリンパスの経営陣が投資の失敗による損失を株主から隠したことは、明らかな「犯罪」である。
ホリエモンが投獄される事になった不正会計が「スピード違反」であるならば、オリンパスの損失隠しは「ひき逃げ」に相当する重罪である。当時の責任者は、当然、投獄されるべきである。
ちなみに、問題の本質は、経営陣がこれほどまでに悪質な不正会計をしながら、それを監視する仕組みが全くなかったということ。米国の会社であれば、株主を代表する取締役会が経営陣の上部組織として監視をするのだが、取締役会が基本的に社内の重役たちだけで構成された日本の会社では、コーポレート・ガバナンスが全く機能しないのだ。
今回の事件は、欧米でもかなり広く報道されており(参照、参照)、日本の上場企業に対する信頼を大きく傷つけることとなった。これはオリンパスだけの問題だけでなく、ほとんどの日本の上場企業にあてはまる問題であり、TPPだのグローバル化だのと言う前に、まずはそのあたりの足場からしっかりと固めないと世界に通用する企業は作れないし、国にもなれない。
参考までに、私のメルマガ「週刊 Life is beautiful」の9月6日号に書いた文章を貼付けておく(Appleの取締役の一人としてスティーブ・ジョブズの名前があるのは、彼がなくなる前にこの文章を書いたため)。
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エンジニアのための経営学:取締役会の位置づけ
...(前略)...では、どうやったら経営者たちが(自分たちの職・天下り先の確保・維持などのために)自分勝手なことをしたり問題を先送りせずに株主利益を考えた経営をするようになるのだろう。
米国式の資本主義社会の法則にのっとって株式会社を運営するかぎりにおいては、基本的には(1)取締役会を経営者ではなくて株主を代表する人たちで構成することと、(2)経営者たちに株主利益を増す行動をうながすインセンティブ(成功報酬)を与えること、の二つが組織・制度上とても重要である。
もちろん、経営者にふさわしい人を選ぶ、経営者だけでなく従業員全員が会社の成長のために一生懸命働くというカルチャーを作る、という「人」「カルチャー」面での会社作りもとても大切だが、それ以前の問題として必要不可欠なのが、給与体系も含めた「組織」面での会社作りである。
日本では多くの企業が、取締役会を社内の人間のみで構成し、実質的に(そして多くの場合、組織図上でも)社長の下に置かれた組織と見なす傾向がある。では、実際に日本の会社の組織図を見て見よう。
組織図上でも、社長の下に取締役会を配置してしまっているのが東京電力(下の図は東電のホームページから切り取ったもの)。
そもそも組織図に取締役会が書いていないので、分かりにくいが、経営陣がそのまま取締役会を構成している。大株主である銀行や生命保険会社を代表する外部取締役は一人もおらず、大株主たちは株主総会でも経営陣に委任状を渡してすべてまかせてしまっている。「コーポレートガバナンスが全く働いていない」典型的な例である。「経営陣が天下り先の子会社を作り、退任後は自らがそこに天下る」ようなことが常習的に行われているのはそれが原因だ。
オーナー会社の面影を多く残しているのがセイコーエプソン(これもやはりホームページから切り抜いて来たもの)。
組織図上は一応、取締役会を社長の上に上に配置しているが、筆頭株主である服部家を代表する服部会長以外のすべての取締役は組織上は社長の下にいる経営陣である。大株主の銀行や生命保険会社が選んだ社外取締役は一人もいない。
このケースでは、会長一人とは言え、筆頭株主である服部家が取締役会をほぼコントロールしている状況にあり、株主利益を優先した経営をする、という意味では(東電と比べれば)比較的健全な形になっていると言える。
しかし、本来の「株主全員を代表した取締役」という考え方を適用すれば、服部家から複数人数の取締役が来ていてもおかしくないし(議決権は取締役一人あたり一票なので)、銀行や生命保険会社が選んだ外部取締役が少なくとも一人や二人がいるのが健全な形だ。
日本でも最近は、経営陣ばかりで取締役会を構成することの不健全さが指摘され、外から取締役を連れて来る「社外取締役」という制度を導入する企業が少しづづ増えてはいるが、まだまだ少数である上に、形だけの社外取締役であるケースが多く、逆戻りしてしまうケースすらある。
私が2004年から(UIEvolutionの買収の結果)3年ほど籍を置いていたスクエア・エニックスも、私が入った時点ではエニックスの創業者で大株主の福島康博氏が取締役会長を努めていたし、社外取締役として元Microsoft日本法人社長の成毛真氏もいるという比較的バランスの取れた形になっていたのだが、現時点では、サラリーマン経営者のみで構成される取締役会という、いかにも日本的な会社形態になってしまっている。
それもこれも「企業の経営には口をはさまない」安定株主や株の持ち合い、および、積極的に経営に口を挟もうという株主の意思の欠如が原因であり、そのあたりの意識が根本的に変わらない限り「株主利益を重視した健全な経営」というのは難しいのかも知れない。
一方、資本主義を徹底的に追及した米国企業の例として、Steve Jobsが引退したことで話題になったApplを見て見よう。
Apple取締役会のメンバーは8人(参照)、そのうち社内の人間は Steve JobsとTim Cook のみである。それもSteve Jobsは大株主だし、今回の引退で実務を離れたことを考えれば、いわゆる「サラリーマン経営者」はTim Cook一人である(もちろん、ストックオプションという形で会社の株は所有しているが、決して大株主とは呼べない)。社外取締役としては、元副大統領のAlbert GoreやIntuit会長のWilliam Campbellなどが名を連ね、経営陣が株主利益を優先した健全な会社経営をするように第三者として監視・指導する役割を果たしている。
メルマガ「週刊 Life is beautiful」の9月6日号より引用
ご高説ごもっともと申し上げたいところなのですが、
オリンパスは、社外取締役3名、社外監査役2名を選任しており、
少なくとも表面的には、社内重役だけで固めた日本の会社、というやつではないのです。
むしろ大問題は、そういう一見「先進的」な企業でなぜこんなことが起きたのか、
ではないでしょうか。
そういう問題だとすると、アメリカ企業に学べ、というのは当然ながら解決策にはならない。
だいたいアメリカでも著名人を社外取締役に並べていたエンロンが、
今回のオリンパスとよく似た不正会計事件で破綻してるじゃないですか。
Posted by: 通りすがりの法律家 | 2011.11.10 at 23:13
東電の以下のHPを観れば取締役会が社長の上に存在していることになっています。
http://www.tepco.co.jp/ir/management/gover-j.html
これを観てもさとしさんが東電HP上の簡略組織図を見て日本の企業にコーポレート・ガバナンスが無いと批判するのは些か軽率な気がします。
Posted by: yumeno_tocyu | 2011.11.11 at 07:23
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
Posted by: 履歴書の添え状 | 2011.12.19 at 21:44