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中島聡、小説家としてデビュー!?

有料メルマガ「週刊 Life is Beautiful」を始めてちょうど半年になる。読者も増え、執筆のリズムにも慣れて来たので、一つ小さな冒険をしてみる。以前からやってみたかった「短編小説」の執筆だ。

私自身、SFやミステリーは良く読むので、機会があったら、自分でも一度書いてみたいと思って来たのだ。しかし、実際に書籍として出版するとなると大事なので、なかなか手が出せなかったのだが、メルマガの特別号として配布する、という手段が取れることに気がつき、さっそく試してみることにしたのだ。 

ということで、4月3日号を利用して、小説第一号を発表させていただくことにした。以下がその小説の冒頭部分。

短編小説:ヨシノ 

ケイティ、

そろそろ大学にも寮生活にも慣れたことと思います。耳にたこが出来たと思うけど、健康な体が維持できなければ、勉強にも身が入らないのだから、規則正しい食事と早寝早起きだけはちゃんと続けてね。

それから大学でもテニスを続けることに関しては母さんも大賛成だけど、高校の時みたいにあまり夢中にならないように気をつけてね。大学のテニスチームには、プロなることを目指して入って来た人たちもいるんだから、その人たちと本気で張り合う必要はないのよ。そうは言っても、あなたのことですから、少なくとも対抗戦の代表選手にぐらいには選ばれないと気が済まないでしょうけど。

別れ際に伝えたように、母さんはシアトルの家は引き払って、サンタバーバラに引っ越します。でも、あの時に説明した「一人で暮らすにはあの家は大きすぎるから」というのは本当の理由じゃないの。あなたには色々と伝えなければならないことがあるんだけど、大学で新しい生活を始めようとしているあなたを心配させたり、混乱させたくなかったし、口頭でうまく伝えられる自信がなかったので、あの時には伝えずに、今、こんな形で手紙を書くことにしたの。

ここから先は、母さんのこれからのことや、あなたの出生のことも含めて、あなたが知っておくべきこと、これから暮らして行く上でとても重要なことを書くので、覚悟してこの手紙を読んでくださいね。もし、この手紙を学食とかカフェで読んでいるんだとしたら、続きは一人きりになれるところに移動してから読んでください。ケイティはとても強い子だから、泣き出してしまうようなことはないと思うけど、この手紙を読んでいるケイティの姿は友達には見せない方が良いと思います。

どこから話したら一番理解しやすいか、私も悩んだのだけど、あなたのひいお婆さんの話から始めることにします。私もこの話を初めて聞かされた時は、同じくひいお婆さん(私にとってはお婆さんだけど)の話からだったのを良く覚えているわ。

ひいお婆さんの名前は、「ヨシノ」という名前だったの。これは日本のある花にちなんだ名前だそうなんだけど、それについては後で説明するわね。ヨシノがどこで生まれたかについては、はっきりと記録には残っていないんだけど、経緯から考えて、ヨシノが9才の時まで暮らしていた南米のチリのカルデラという町の郊外にある生物工学研究所だと推測されているの。

当時はずいぶんと大きなニュースになったんだけど、当時、チリ国軍の若手将校たちがクーデターに失敗した後にたてこもったのが、その生物工学研究所だったの。人質になった研究者たちの多くが米国人だったこともあり、米軍までが動き出す大騒ぎになったそうよ。結局は、人質12人を道づれにした犯人たちの焼身自殺という不幸な結末を迎えたんだけど、その時に唯一生き残って救出されたのがヨシノだったの...


ソニー、家電事業からの完全撤退を表明

2012年4月1日、エレクトロニクスおよびエンターテインメント大手のソニーは、テレビ・DVDレコーダ・デジタルカメラ・携帯電話機などの民生用電子機器事業をすべて売却し、業務用電子機器およびソリューション事業に集中することを発表した。事業の売却先は未発表だが、パナソニック、鴻海精密工業、サムソン、ノキアなどと交渉中とされている。また同時に、医療用カメラ事業の取得を目的に、株式会社オリンパスの株式の公開買い付けを発表した。また、これまで複数の子会社に分散していた映像・音楽・ゲーム事業を一つにまとめ、「ソニー・エンターテイメント」として2012年中に米国ナスダック市場で上場させることを発表した。上場時に20%、2015年末までに80%の株式の売却をする予定。

エイプリルフールネタなので、本気にしてほしくはないが、このくらい思い切ったことをしないとソニーは再生できないだろう。去年、ソニーが Hawk-Eye の買収を発表した時には(参照)、「次に買収するのは sportvision か」などと期待していた私だが、ソニーが進むべき方向の一つとして、この手の「リアルタイム映像処理サービス」は悪くないと選択肢だと思う。スポーツ中継だけでなく、医者やパイロット向けのアシスト・サービスとしてしっかり作って行けば、10〜15年後には「無くてはならないもの」になっている可能性は十分にある。


今週の週刊 Life is Beautiful : 3月27日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、簡単に内容を紹介する。

◇ ◇ ◇

今週のざっくばらん

new iPad

ブログにも書きましたが、すでにリリース済みのアプリを新しい iPad 上で走らせるといくつか細かな不具合が生じることがユーザーの方々から報告され、先週はそれの対応に追われました。新しい iPad は画面の解像度は4倍になりましたが、CPU や GPU の性能がそれに比例して上がったわけではないので、既存の iPad や iPhone 向けに施したチューニングが必ずしも新しい iPad には適していない、というのが一番の原因です...

アップルの配当

アップルの配当の意味に関しては、「エンジニアのための経済学」のコーナーに書きましたが、理由はなんであれ、これまで配当に反対していたスティーブ・ジョブズがこの世からいなくなってしまったことが、この決定に至らせたのかと思うと、なんとも複雑な気持ちになります...

私の目に止まった記事

Prospective Employees Are Now Being Asked for Facebook Login Details

Facebook アカウントのパスワードまで要求するというのは極端な例だと思いますが、企業が面接する際に、その人の Facebook アカウントのタイムラインを読みたいと思うのは当然だと思います。私も UIEジャパンで人を採用した際には...

Another Crystal Clear Sign That OS X Is Going to Die Really Soon

iOS の方がアップルのビジネスにとってはるかに重要になっていることは事実です。結果として OS X の「iOS化」が進むことは十分考えられますが、iOS が OS X をリプレースしたり、iPad のために MacBook がいらなくなったり、ということは少なくとも近い将来には起こらないと思います。しかし...

Apple and Intel Signal New Era for Chip Makers

2011年に iOS デバイス向けに1億7600万個のチップ(ここでは CPU のこと)を出荷したAppleは、Intel に次ぐ二番目に大きなモバイル・チップの会社になったという記事。モバイル・チップの定義が少し曖昧なので、その定義しだいでは Qualcomm が1位になったりする世界ですが...

How The New iPad Creates 'Signaling Storm' For Carriers

新しい iPad が無線通信網に大きな負荷を与えることになるだろうと予測する記事。日本でも、スマートフォンが発信する大量のシグナルのために交換機に障害が出るという事件がありましたが、「使い放題プラン」の値段を大幅に引き上げる、シグナルの量を制限する、などの工夫をしないとこんな事故はまた起こると思います...

Zynga Buys Competition, Highlights Weakness

Zynga による OMGPOP の買収に関して、いかに iOS 用のソシアルゲーム市場の参入障壁が低く、Zynga のような会社がその地位を維持するのは簡単ではない、という話。私自身も iOS 用のアプリを作っているので分かりますが、参入障壁が低く、かつ、何が成功するのかを予想するのがとても難しい今の状況は...

Mystery of lost Fukushima radiation emails a major cover-up

せっかく受け取った SPEEDI のデータを福島県の職員が消してしまった事件に関する海外メディアの反応。原発事故以来、日本政府は秘密主義な上に誰も責任を取らない、という批判は良く見ます...

Mark Zuckerberg’s Letter to Investors: ‘The Hacker Way’

Mark Zuckerberg が上場に際して株主に対して書いた手紙です。「会社とは何のためにあるか」を考えさせてくれるとても良い文章なので、ぜひとも原文で読んでください...

Windows95誕生ものがたり(15):32-bit API

Cairo との軋轢はさておき、Windows Explorer の開発は順調に進んでいた。Namespace extension の仕組みも順調に動き、File Manager、Control Panel、Program Manager を統合する、という当初の目的は十分に達成できていた。94年に入ったある日、Chicago チームの開発マネージャである David Cole が私とChris Guzak を呼び出した。David のオフィスに行くと、32-bit 版の API の開発に問題があると言う...

エンジニアのための経営学
Apple が発表した「キャッシュの使い道」

アップルがiPod、iPhone、iPadからの利益で貯め来んだ $97.6 billion (日本円で約8兆円)キャッシュをそろそろ株主に還元すべきというプレッシャーは日に日に高まっていたが、ようやく今月の19日に、配当も含めた「キャッシュの使い道」を発表した...このアナウンスメントに関しては賛否両論が飛び交っているが、それも含めて少し解説してみる......この利益余剰金は、経営者のものではなく株主のものなので、経営陣が勝手に使うことはできない。利益余剰金の使い道が決められるのが「経営会議」ではなく、株主を代表する取締役の集まりである「取締役会議」なのはそれが理由である。取締役の大半が経営陣で構成される日本の企業の場合は、その二つにあまり違いはないが、コーポレートガバナンスが働いている健全な会社においては、その二つの会議には大きな違いがある...

ブログには書けない話・書かない話
私が Internet Explorer の開発に関った理由: その19

Internet Explorer 4.0 の開発も佳境に入った96年には、Windows Shell チームと Internet Explorer チームは完全に一体となり、「まずは Internet Explorer 4.0 をリリースし、次に Windows 98 をリリースする」という開発体制のもとに、あたかも一つの製品を作るかのように開発を進めた。そのため、本来ならばシステム側のモジュールである Comctl32.dll を Internet Explorer のために変更し、Internet Explorer 4.0 と同時に配布する、などの後から考えるとかなり乱暴なことをし始めた...

読者からの質問コーナー

まずはこの質問から。

福島の原発であきらかになった議事録事件ですが、マイクロソフトなどでは、こうした議事録の作成はどのように実施されていたのでしょうか?

一見、小馬鹿にした質問に見えますが、大規模なプロジェクトでは、言った、言わないといったトラブルを避ける必要があると思います。人間関係をいたずらに悪化させないためにも必須と考えています。

マイクロソフト時代に限らず、重要なミーティングの際には議事録を書く様にしていますが、あまり事細かに「誰が何を言った」ということは書かず、「どんな意思決定がなされたか」だけを簡潔に書くのが米国では一般的です...

次の質問です。

1995年にHPの計測ソフトでVEEというものを触ったことがあります。このソフトは、Visual StudioのようにコーディングするのではなくXcodeのStory Boardのようなイメージで操作モジュールをおき、フローの順番に結線していきます。結線後、スタートボタンを押せば実行できます。後にインタープリタ機能だけでなくコンパイラも付属して高速化されました。コードを書く作業がなくなるとは思いませんが、今後、こうした可視化が増えていくのでしょうか?

あらゆるアプリケーションの開発にこの手の手法が使えるとは思いませんが、ある程度ユーザーとのやりとりの流れが定まったアプリケーションの開発に関しては、さまざま開発効率を上げる手法が今後も開発されて行くと思います。ただし...


Facebookに学ぶソフトウェアを重視するカルチャー

日本のメーカーがソフトウェアを長年軽視してきたことは、ここで何度も指摘しているが、では「ソフトウェアを重視するカルチャー」とは、どんなものだろう。

Mark Zuckerberg が IPO に際して株主に書いた手紙にそれを象徴する文章があるので、ぜひとも読んでいただきたい。

To make sure all our engineers share this approach, we require all new engineers — even managers whose primary job will not be to write code — to go through a program called Bootcamp where they learn our codebase, our tools and our approach. There are a lot of folks in the industry who manage engineers and don’t want to code themselves, but the type of hands-on people we’re looking for are willing and able to go through Bootcamp.

ソフトウェアを重視するとは、こういうことである。自らコードを書かないエンジニアをソフトウェア・エンジニアとは呼べない。そして、そんなエンジニアをちゃんとマネージするには、やはり自らコードを書くことを喜んでする人材が必要なのだ。

 


Retina display 向けの画像生成に関する一考察

Retina display は iPhone4 から存在しているのだが、neu iPad になって表示される画像の鮮明さがとても重要になり、色々と細かなところで見直しが必要になっている。neu.Notes に関しても、neu iPad 上で走らせると サムネイルの鮮明さが重要になる。

例えば、neu.Notes でユーザーが描いたベクターデータを保持した Canvas ラスタライズして UIImage を返す API。Retina display 登場前には、UIImage には一種類しかなかったので大きさを指定しさえすれば良かったが、これからはそれをデバイス上に表示するのか、JPEG などに変換してメールで送信したりするのか、によってデバイス向けのスケーリングをするかどうかを指定する必要がある。

具体的には、imageFromRect:size:clipPath: というメソッドにdevice:というフラグを追加して、アプリケーション側から指定できるようにしている。

-(UIImage*) imageFromRect:(CGRect)rcSrc device:(BOOL)device size:(CGSize)size clipPath:(UIBezierPath*)clipPath {
    if (device) {
        UIGraphicsBeginImageContextWithOptions(size, NO, 0.0);
    } else {
        UIGraphicsBeginImageContext(size);
    }
    CGContextRef context = UIGraphicsGetCurrentContext();
    ... 

neu.Notes の場合だとサムネイルを表示する場合には device=YES で呼び、メールに添付する場合には device=NO で呼ぶ。


新 iPad と旧アプリの相性問題

今回の new iPad に関しては、すぐには購入せずに、少し市場が落ち着いてからにしようと考えていたのだが、neu.Notes/neu.Notes+ のユーザーから、「new iPad 上でのレスポンスが iPad2 より悪くなった」との連絡を受けたので、さっそく調査のために日曜日に購入。

さっそくデバッグをしようと思ったら、インストール済みの xCode 4.2 では iOS 5.1 デバイスのデバッグができないことを発見し、急遽 xCode 4.3 にアップデートすることにした。すると、今度は xCode 4.3 を走らせるのには OS X を Lion にアップデートする必要があると言われてがっくり。どのみち、次に新しい MacBook が発売されたら、今の MacBook を買い替える予定だったので、Lion へのアップデートは保留していたのだ。

渋々 Lion を App Store から購入し(Mac 用のソフトを App Store から購入するのは初)、インストールをしようとしたら、ハードディスクの空き容量が不足でアップデートに失敗。

そこで今までさぼって来たハードディスクの掃除をしてから Lion にアップデート。そして、xCode 4.3 をインストール。ここまで半日かかってしまった。

ようやくデバッグを始めると、レスポンスが悪くなった原因は、やはり予想した通り cached bitmap の大きさが4倍になったことにあった。neu.Notes(+) はすべてのデータをベクター情報で持っているが、ベクターのままだと再描画に時間がかかるので、オフスクリーン・ビットマップに一度描いた上で、それに局所的な変更を加えた上で画面に描画している。

iPad になって画面の解像度が4倍になったため、オフスクリーン・ビットマップの大きさも4倍になり、それの転送に今までよりも時間がかかるようになってしまったのだ。

そこで、オフスクリーン・ビットマップを変更する際に、変更した部分だけを "dirty rect" として覚えておき、実際の再描画の際にはその部分だけを転送することで解決した。

ということで、少しテストをした後にはアップデート版を Apple に提出する予定なので、少々お待ちいただきたい。


IAEA、原発事故300キロ圏内の農畜産物の出荷停止を提言

御用学者たちの間では未だに内部被曝の危険を出来るだけ低く見せようという試みがされているが(参照)、御用学者の集まりでもある IAEA(International Atomic Energy Agency) ですら、2005年の時点で「(チェルノブイリ級の)重大事故の後は300キロ圏内の農蓄産物は出荷停止にすべきだし、放射性物質を含んだ食物の摂取に関しては厳格な制限が必要」との提言を出していたことは注目に値する(参照)。

2005年当時、これを国際標準とすることに猛反対したのが、日本の原子力安全・保安院と原子力安全委員会だ。そんな国際標準ができてしまえば、万が一の事故の際に莫大な被害を国全体にもたらすことが明らかになってしまい、原発の安全神話が崩れてしまうからだ。

典型的な「安全神話作り」の歴史だが、いざチェルノブイリ級の重大事故が起きてしまった今となってしまっても、未だに安全神話の維持のために内部被曝のリスクを過小評価し、その結果、数十万人の人たちに不必要な被曝をさせつづけている、というのが今の現状である。

内部被曝を外部被曝と同じシーベルトに変換することには意味がない。外部被曝を起こすガンマ線と、内部被曝を起こすアルファ線・ベータ線とではDNAに対する影響のしかたが大きく異なるからだ。

外部被曝と異なり、体内に取り込まれた放射性物質は、たとえごく少量でもその近傍の細胞を確実に傷つける。傷ついたすべての細胞が癌化するわけではないが、傷つく細胞の数が多ければ多いほど、その損傷がもとで癌・白血病・心筋梗塞などの疾病を引き起こす可能性が高くなる。内部被曝による疾病を避けるためには、摂取する放射性物質を可能な限り少なくすることが必要だ。

ちなみに、1ベクレル(Bq)とは1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を出す放射性物質の量。100Bq/Kgの放射性物質を含む米1キログラムは、1秒間に100回放射線を出す。そんな米を80グラムを含む一膳のご飯を食べると、それがお腹の中にある間に1秒間に8回放射線を出す。1日だけお腹の中にとどまったとしても69万回だ。

ICPP(国際放射線防護委員会)の研究によると、1日あたり10ベクレルの放射性セシウムを含む食事を2年間続けると(つまり100Bq/Kgの米を毎日1膳ちょっと食べ続けると)、体の中に1400ベクエルのセシウムが常に残留した状態になるという(参照)。

そんなご飯を食べるか、と言われてもちょっと食べる気になれないのは当然だ。それを「風評被害」と呼んで過小評価することは、「少女売春」を「援助交際」というオブラートに包んだ言葉に包んで過小評価するのと同じ行動だ。


今週の週刊 Life is Beautiful : 3月20日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、以下に簡単に概要を紹介する。

◇ ◇ ◇

エンジニアのための経営学
Facebook はなぜ Google にとって脅威なのか?

先日、ブログに「Google+ の敗北こそが『部屋の中の象』」というエントリーを書いたが、今回はそこで触れた Google の本業である「広告ビジネス」の抱える根本的な問題点について少し掘り下げて解説してみる。これを読んでいただければ、なぜ私がブログで「Google+ の失敗が決定的で致命的」と書いたのかを理解していただけると思う...

今週のざっくばらん

ブログに「誰も言いたがらない『Sony が Apple になれなかった本当の理由』」というエントリーを書きました。実際の内容はソニーに限らず、「正社員は解雇しない」という日本の雇用慣習がグローバルな時代の戦いに相応しくないという内容ですが、ちょっと題名を工夫し過ぎたようで、さまざまな論議を呼びました。

ブログを長年書いていて気がついたんですが、正論をごくストレートに書いても必ずしも多くの人たちに読んではもらえないという事実があります。そんな時には、あえて視点を少しずらし、...

私の目に止まった記事

Facebook on course to dethrone Mixi in Japan after doubling its userbase in 6 months

日本に上陸した Facebook がものすごい勢いで Mixi を追い上げている、という記事。私の場合、最初に触れたソシアル・ネットワーク・サービスが Mixi...

Apple iTV Will Ship in Q4, Says Analyst

アップルが、アップルブランドのテレビを今年中に出す、という予想です。私も以前に同じようなことをブログに書きましたが、そろそろではないかと思います...

Apple grabs Japanese top spot from local rivals

日本でも当然、ニュースになったと思いますが、私から見れば「ずいぶんと時間がかかった」という感想です。ワンセグだとかお財布ケータイなどを内蔵したガラケーに対抗するのは確かに難しかったとは思いますが、スマートフォンだけを見れば、やはり iPhone が圧倒的に完成度が高いというのが現状です...

Windows95誕生ものがたり(14):namespace extension

Windows95 の namespace extension という仕組みは、もともとはファイル・システム上のファイルやディレクトリ、コントロール・パネル上のアイテム、ネットワーク上のノードなどのさまざまなシステム・リソースを、Windows Explorer だけを使ってアクセス可能にするために導入した仕組みである...

ブログには書けない話・書かない話
私が Internet Explorer の開発に関った理由: その18

当時(1996年)の私は、Trident チームを吸収した Windows Shell / IE チームのアーキテクトとして Windows 97 と Internet Explorer 4.0 の両方の開発に関わっていたが、大半のエネルギーは Internet Explorer 4.0 の開発と Internet Explorer と Windows Explorer の統合に費やしていた。Marc Andressen の「Internet 白書」を読んで以来「これからはブラウザー上でさまざまなアプリケーションが動くようになる」という思いはますます強くなっていたが、相変わらずそんな考え方は Microsoft 社内ではマイノリティーであった。Bill Gates が「ブラウザー上で走るアプリケーションがデスクトップ・アプリケーションを置き換えることなど決してない」と宣言したのも、このころである...

読者からの質問コーナー

こんな質問が来ていました。

ソフトウェア開発者が、うつ病等の精神性疾患になった場合、企業の経営者、あるいは患者は、どうやって復職のシナリオを描いていくべきでしょうか?大企業とベンチャーの経営の経験から、教えていただけないでしょうか?米国では、日本とは取り組みが違うように思います。

具体的に「うつ病」でというケースには出会ったことがありませんが、米国の場合、日本と比べると年功序列という観念が存在しない分、「長期の休職」がとりやすい(別の言い方をすれば、復職がしやすい)のでそんな場合は、私が上司であれば休職をすすめます。ただし、決して有給休暇を消化した後は無給になるので...



Google+ の敗北こそが「部屋の中の象」

GplusJames Whittaker が書いた「Why I left Google」が話題になっているが、これを読んで思い出したのは私が90年代の終わりに Microsoft を辞めることを決断した時期のこと。

時代が「デスクトップの時代」から「ネットの時代」に移ろうとしている時に強く感じたことは、Microsoft という巨大な船がインターネットという氷山にゆっくりと衝突して行くイメージ。James もこれと同じようなものを見たのだろう。

2012年の現在、Googleの飯のタネである、ページの内容にマッチした広告を表示する「クローラー型広告ビジネス」が、ソシアル・ネットワーク内部のコンテキスト情報を使ってより読者のニーズにマッチした広告を表示する「ソシアル広告ビジネス」に取って代わられようとしていることは火を見るよりも明らか(この件に関しては、今週号のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」に特設コーナーをもうけて解説しているので、興味のある方はどうぞ)。

だからこそ Google は、Buzz、Wave、Google+ と必死に Facebook や Twitter に代わるものを作ろうとしているのになかなかうまく行かない。特に肝いりではじめた Google+ の敗北は決定的かつ致命的で、James が "Elephant in the room" と表現する「(Google 内の)誰もがすなおには認めたがらない大問題」とはまさにこれだ。

 


原子力安全委員会、ようやく本来の仕事に目覚めてくれたのか!?

原子力安全・保安院は表向きは「国民の安全を守る」ために存在することになっているが、実際には「国民に原発は安全だと理解してもらう」ことにあることは、ここで何度も指摘して来たし、多くの国民が知るところである。

それに加え、原子力安全委員会は単なる名誉職で、保安院が「安全です」とお墨付きを与えた原発に対しては何も言えない・言わない組織であった。

このままでは、4月の組織替え前に再稼働が既成事実化してしまう可能性も十分にある、と危惧していたのは私だけではないはずだ。

ところが、ここに来て、少し様子が変わって来た。

  1. 原子力安全・保安院が「ストレステストの結果、再稼働は妥当」と判断を下した関西電力大飯原発3、4号機に関して、班目委員長「安全評価としては不十分で2次評価までやっていただきたい」と発言し、再稼働を事実上ストップした。
  2. それに加え、今回はホームページで「防災指針改訂に関する保安院との打合せ経緯」を公開し、原子力安全・保安院が防災指針の改訂に反対していたこと(そして、それが結果として周辺住民を被曝させる結果となった)を指摘した(参考)。

まだたった二つの事象に過ぎないが、ようやく「本来の仕事」に目覚めてくれたようで少しホッとしている。

班目委員長に対する世間の評価は厳しいが、私は実はとても正直な人ではないかと思っている。原発のことを「あんな不気味なもの、安心なんか出来ませんよ」と言ったり、「結局はお金でしょ」と地元の説得には交付金が必須であることを語ったりと、なかなか他では聞けないストレートな発言をしてくれる。

今までは原子力安全・保安員の提出してきた書類にハンコを押すのが自分の仕事と割り切っていたようだが、なんらかのきっかけでその呪縛が外れたのではないかと密かに期待している私である。

とにかく、今の段階で、もっともストレステストが必要なのは原発ではなく、安全神話を作り出し、津波への対策を「想定外」として意識的に排除し、事故の際には十分な情報を流さずに住民を被曝させてしまった、原子力安全・保安員そのもの。まずはそこから直さなければ原発再稼働などありえない。