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最新の研究で「低線量被曝にしきい値がない」ことが明確に

福島県放射線健康リスク管理アドバイザー・山下俊一長崎県大学教授は、就任以来「100ミリシーベルトは『しきい値』以下なので安全。毎時10マイクロシーベルト以下なら外で遊んでも大丈夫」と言い続けて来た。

実際のところは、「100ミリシーベルト以下の低線量被曝をした場合の癌による死亡リスクの増加が統計データにつきものの誤差にまぎれてしまい、測定できていなかった」というのが科学的に見て、もっとも客観的な表現であったにも関わらず、「100ミリシーベルトは大丈夫」と主張し続けた山下教授の無責任さは科学者にあるまじき姿だ。原子力ムラの住人、御用学者と批判されても仕方が無い言動だ。

しかし、1年前の話をいつまでもしていても意味がない。注目すべきは、この分野における最新の研究結果だ。

先週、放射線影響研究所から、広島・長崎の被曝者たちを50年以上わたって追跡調査した結果、低線量被曝には「しきい値」などなく(つまり年間100ミリシーベルト以下でも健康に被害がある)、それも累積効果がある(放射性物質に汚染された地域に長く住むと、その滞在期間に比例してリスクが増える)ということが統計的に証明された、という発表があった。

zero dose was the best estimate of the threshold (しきい値はゼロであると類推できる)

Importantly, for solid cancers the additive radiation risk (i.e., excess cancer cases per person-years per Gy) continues to increase throughout life with a linear dose–response relationship (特に重要なのは、固形癌に関して言えば、被曝によるリスクはその人の生涯を通した被曝量に比例して上昇する、という点である)

一つの論文ですべてが結論付けられるわけではないが、少なくとも最新の研究結果がここまで明確に低線量被曝・累積被曝のリスクを語っているにも関わらず、外部被曝だけで年間20ミリシーベルトという地域に子供を何年間にもわたって住まわせるということが、どのくらい非人道的なことかが理解いただけると思う。

自費で避難する経済的な余裕がある人たちだけが県外に子供たちを避難させ、それ以外の人たちは汚染された地域に住み続ける以外に選択肢はない。政府が安全だと言えば、心のどこかで不安を感じながらも、その言葉を信じて福島に住み続ける以外に選択肢はない。子供が鼻血を出すたびに「ひょっとしたら被曝が原因かも」とおびえながら生きる。それが今の福島の現状だ。

低線量被曝がやっかいなのは、

  1. 臭いも味もないので被曝をしていても本人には全く感知できない、
  2. 被曝により癌化した細胞が実際に健康に害を及ぼすのは数年後である、
  3. たとえ数年後に癌や白血病が発見されたとしても、それが被曝によるものと証明することは困難である

こと。そのため、万が一低線量被曝が原因で癌や白血病になったとしても、政府もしくは東電からまっとうな補償を受けるためのプロセスは長く苦しい戦いになる。判決が出たころには、放射性物質をまき散らす原因を作った東電の経営陣や保安院、そして、子供たちを放射性物質から守ることができなかった文科省や厚生省の役人もすべて現役を引退している。

英語の論文だが、全文が公開されているので、興味のあるかたはどうぞ。

Studies of the Mortality of Atomic Bomb Survivors, Report 14, 1950–2003:An Overview of Cancer and Noncancer Diseases

 


今週の週刊 Life is Beautiful : 5月1日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、下に簡単に内容を紹介する。

今週のざっくばらん

教育アプリ

先週は、この教育アプリに「教材ファイル」を読み込ませる部分を実装しました...実装のところでもっとも悩ましかった部分は、やはりデータベースのマイグレーションの部分です。色々と悩みましたが、先週書いた Key-Value Store を活用したマイグレーションを、アプリのアップデート時にも使うことにしました。おおまかな流れとしては...

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http://news.yahoo.com/teachers-students-facebook-friends-185234027--finance.html

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The Fukushima Nuclear Disaster Is Far From Over

ブログでも紹介した Ron Wyden 上院議員の福島第一発電所の4号機プールに関する警告を取り上げた記事です。使用済み核燃料の最終処理の「先延ばし」は世界中で行われており...

メーカーと大学。 長すぎる蜜月が引き起こした必然的帰結

事業仕分けの時に話題になった日本のスーパーコンピューターですが、やはりこんな状況になっていたんですね...

Google has another stab at direct Nexus sales

Google が再び Google ブランドの携帯電話を出すという話ですが、私にはこんな中途半端なアプローチがうまく行くとは思えません。 いっそのこと...

Chinese growth drives another strong iPhone quarter

やはりiPhoneの中国での伸びが顕著です。少し前にも書きましたが、パソコンに関してはクローン天国の中国でも iPhone だけは本物でなければならないところがアップルの強みです... 

AT&T sees margins rise despite iPhone subsidies

iPhone のAT&Tによる独占契約が切れ、Verizon と Sprint がiPhoneを売り出した時には、AT&T の業績悪化を心配する声もありましたが...

Magazines Introduce a Netflix for Tablet Editions

私の大好きな雑誌の「読み放題サービス」の紹介記事です。権利のことさえ上手にクリアできれば、日本では「漫画読み放題アプリ」が良いビジネスになると思います...

Kindle Fire、ついに米国Androidタブレットの過半数に

当然の結果だと思います。このメルマガでも書いて来たように、パソコン市場とは大きく異なり、「汎用タブレット市場」なるものは存在しないと考えた方が良いと思います...

Windows95誕生ものがたり(18):name space extension

16-bit 版のプリンター・ドライバーと 32-bit 版 Shell との結合も順調に進み、ようやく #ifdef スイッチを外して、シェルチーム全員を 32-bit の開発環境に移行する準備が整った...32-bit 版のシェルが Windows 95 の daily build (社内の関係者向けに毎日リリースしているパッケージ)に含まれる様になると、私は Windows Explorer を作りはじめた時からの「秘めたる野望」であった name space extension の社内での啓蒙活動をはじめた...

エンジニアのための経営学
"Social by design" な会社作り・もの作り(2)

私の知り合いで、情報処理学科の修士論文のテーマに、「情報処理と世界政治」という一見なんの繋がりもない二つのテーマを結びつけて興味深い理論を展開した人がいます...89年のベルリンの壁の崩壊を見事に予測したするどい論文でした...2010年から2011年にかけて起こった「アラブの春」には Facebook 上でのコミュニケーションが大きな役割を果たしたことは良く知られていますが、彼の理論を借りれば、大きな役割を果たしたどころか「Facebook などを通して自分たちが独裁政権下に置かれていることを...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今回は、先週のiPadに「NO」日本 教育のデジタル化に慎重姿勢という記事の紹介に対してのフィードバックとして以下のようなものをいただいたので紹介します。

この記事の最大の問題点は「教育のデジタル化」の本質を捉えていないことです。そして,日本の大多数の教育者は,その本質を捉えていないということでもあります。 教育のデジタル化をするには,いきなりデジタル化をしてもダメで,その教育内容や学習者について分析し...

 


日本の「単位面積あたりの原発の過酷事故の確率」は世界の4000倍

  • 日本の国土は世界の0.25%
  • 世界の原発の12.5%が日本にある

つまり、単位面積あたりの原発数は世界の50倍。

  • 日本の国土は世界の0.25%
  • 震度6以上の地震の2割は日本で起こる

つまり、単位面積あたりの巨大地震は世界の80倍。

つまり、単位面積あたりで考えれば、日本の原発が巨大地震に見舞われる可能性は、世界の平均と比べれば50かける80で、4000倍。

巨大地震に見舞われた時に(津波などの間接的な原因も含めた)過酷事故を起こす可能性がどの原発でも同じと仮定すれば、日本の「単位面積あたりの巨大地震を起因とした原発の過酷事故の確率」は、世界の4000倍。

たとえ日本の原発が海外の原発よりも何倍も何十倍も安全だとしても、やはり「単位面積あたり」で考えれば日本がダントツ。

一昔前に「狭いニッポン、そんなに急いでどこへ行く」という交通標語があったが、地震国の日本にこんなに急いでたくさんの原発を作り、いったい日本はどこへ行こうとしていたのだろう?原発が作り出す豊富な電力のおかげで、本当に日本人の暮らしは豊かになったと言えるのだろうか?

 


今週の週刊 Life is Beautiful : 4月24日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、簡単に内容を紹介する。

今週のざっくばらん

教育アプリ

先週も大半の時間を新しい教育アプリの開発に費やしました。だいぶ良い感じになって来たのですが、まだやるべきことはたくさんあります。思いっきり役に立つものにする予定なので期待してください。ちなみに、このアプリは内部にデータベースを持っていて(iOS の CoreData という仕組みを使っています)...

私の目に止まった記事

Here's The Damning Evidence Oracle Dug Up On Google For Its $1 Billion Android Lawsuit

この件に関しては、前にブログにも書きましたが、Android にAndy Rubin の作った「Javaもどき」を採用したことがそもそもの間違いなわけで...

Here’s the Google Phone Apple Wants You to Have

アップルの特許に抵触しないようにスマートフォンを作ると、とんでもなく使い勝手も悪いものになってしまうという話...

Ron Wyden 上院議員から日本大使への書簡

内容に関してはブログでも触れましたが、いかにもアメリカ人らしい表現だと思ったのは、"I look forward to hearing from you on what efforts can be made to accelerate this schedule..." という表現です...

Sources: current Windows Phone devices will not get 'Apollo' upgrade

「現在売られている Windows Phone は次の OS (Apollo)へのアップデートはできない」という情報。噂に過ぎない情報ですが...

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Nokia の業績が一気に悪化しましたが、この日が来ることが避けられないことは、業界の人ならば皆知っていたと思います。Motorola や Sony Ericsson と同じく...

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Qualcomm の CEO の Paul Jacobs とは、2000年に Ignition Partners (投資会社)のメンバーだった時に何度も会いましたが、とても頭の切れる、技術面・戦略面の両方で会社を引っ張って行ける人物でした...

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米国の通信キャリア Verizon が2012年の第一四半期に 290万台の LTE デバイスを売ったという記事です。そもそも LTE (Long Term Evolution)という技術はNTT DoCoMoが3Gから4Gへの橋渡しとして提案した技術...

Sayonara Sony: How Industrial, MBA-Style Leadership Killed a Once Great Company

Sony の興亡に関してのとても良いまとめなので、英語の勉強の意味も含めて丁寧に読むことをおすすめします...

Windows95誕生ものがたり(18):16-bit プリンタードライバーとの戦い

そんな苦労をしながらも、シェルの 32-bit 化は順調に進んでいたのだが、いくつかの大きな落とし穴があることに気がついた。Kernel、GDI、User という三つの主要サブシステムに関しては、32-bit 側から 16-bit 側への橋渡し役(マイクロソフト内部では「thunk」と呼んでいた)を Kernel32、GDI32、User32 というサブシステムが担当してくれているのだが、システムの他の部分(例えばプリンタードライバー、フォントドライバー)への橋渡しに関しては担当している部署すらなかったのである

エンジニアのための経営学
"Social by design" な会社作り・もの作り(1)

今年の3月に「エンジニアtype」というところのインタビューを受けたのだが、そのインタビューのテーマが、「ポストJobs時代の新ルール」というとても興味深いものだったので...覚えている人も多いと思うが、一時期日本でもブームになったセカンド・ライフ。「セカンド・ライフこそがネット時代のマーケティング」と莫大な開発費をかけて数多くのバーチャル・ショップが作られたが、結局それで得をしたのは、広告代理店の電通だけだったという事例だ。昨今のソシアル・マーケティング・ブームにも、全く同じにおいを感じる...

読者からの質問コーナー

今日はこの質問に答えます。

少し古いですが、11/29のメルマガ(質問特集)に「30歳半ばで大学を卒業しても、給料は最終学歴とその業界での経験・実績で決まるので、20歳そこそこのエンジニアたちとまったく同じ土俵で戦わなければならない、という厳しさもあります。(中略)能力のある人・結果を出せる人は、とても大切にされるため、待遇もとても良いですし、他の会社から誘われたりということもあります。」と書いておられます。
質問ですが、年功序列でなく実績で評価するとなると、評価・査定が相当難しくなると考えますが、米国ではどのようにして評価を行なっているのでしょうか。日本国内では90年代終わりに成果主義をいち早く導入し、失敗した某大手メーカーのように評価制度がきちんと機能しないことが当たり前のようになっています。米国と日本で何か違いがあるのか、あるとしたら何かを教えてください。

人の評価・査定は簡単ではありませんが、とても大切です。会社を経営して行く上で、最も大切なことと言っても過言ではないと思います。どんなにすばらしい企業戦略があっても、それを実行する人たちが伴わなければ、絵に描いた餅にすぎませんから。私が経験した評価・査定方法の中で、もっとも公平で、かつ、効果的だと感じたのは、Windows 95 チームのやり方でした...


日本国の財政状況を家庭にたとえてみると

「米国の財政状況を一般家庭に例えてみると」というビデオが知り合いから回って来たので(下に貼付けてある)、参考までに同じ手法で、日本国の財政状況を一般家庭に例えてみた(参考文献)。

  • 収入(年間): 460万円
  • 出費(年間): 903万円(219万円が借金の返済、684万円が生活費)
  • 借金(累積):9000万円

赤字国債にしろ、使用済み核燃料にしろ、先の世代にツケを回し過ぎである。


福島第一4号機プールのリスクに関する海外メディアの報道

下にビデオを貼付けてあるが、簡単に要約すると、

  • 4号機のプールは補強されているとは言え、地震で崩壊する可能性は十分にある
  • 水がなくなった使用済み核燃料は自らの熱で発火し、チェルノブイリの10倍のセシウムを環境中にばらまく
  • すると、発電所の作業員は全員退去せざるをえなくなる
  • その結果、他のプールの使用済み核燃料も冷やすことが出来なくなり、結果的にチェルノブイリの85倍のセシウムが放出される
  • こうなると放射能汚染は日本だけにとどまらず、グローバルなスケールでの人類の経験したことのない被害をもたらす

米国政府が、「東電などに任せず、一日でも早く燃料をプールから取り出してほしい」と日本政府に要求しているのは、まさにこれが理由である(参照)。


声を上げはじめた地方自治体の首長たち

京都府の山田啓二知事、滋賀県の嘉田由紀子知事による「国民的理解のための原発政策への提言」、京都府ホームページでも読むことができるので、ぜひとも一読をおすすめする。

国民的理解のための原発政策への提言

  1. 中立性の確立~政治的な見解ではなく信頼のおける中立的な機関による専門的な判断を~
  2. 透明性の確保~国民の納得できる情報公開を~    
  3. 福島原発事故を踏まえた安全性の実現~
  4. 緊急性の証明~事故調査が終わらない段階において稼働するだけの緊急性の証明を~
  5. 中長期的な見通しの提示~脱原発依存の実現の工程表を示し、それまでの核燃料サイクルの見通しを~
  6. 事故の場合の対応の確立~オフサイトセンターの整備やマックス2、スピーディなどのシステムの整備とそれに伴う避難体制の確立を~
  7. 福島原発事故被害者の徹底救済と福井県に対する配慮について~東京電力はもちろんのこと、国においても福島原発事故被害者に責任を持って対応するとともに、福井県の今までの努力に対し配慮を~

原発事故を生み出した主犯の一人でもある経産省に言いくるめられて、こんな「当たり前のこと」すら出来ないのが日本の政府の現状。

この情けない状況を打破するには、中央の力を奪って地方分権を強めるしかないと思うのだが、一体全体どんなプロセスを踏めばそれが実現できるのかがなかなか見えてこない。

いっそのこと、すべての都道府県がいったん日本国からの独立を宣言した上で、まったく新しい連邦政府を一から作り直すぐらいの過激な変革が必要なのではないかと妄想してしまう今日この頃である。


ジャイアンからの手紙と霞ヶ関文学と

あまり日本のメディアは注目していないようだが、こちら(米国)では、米国の Ron Wyden 上院議員が日本大使に向けに書いた書簡が注目を集めている。

具体的には、「4号機の使用済み核燃料プールにある大量の『まだ熱い』燃料がとても危険で、地震などで万が一のことがあれば、去年の3月にまき散らされた以上の核物質を環境にまき散らす可能性がある。10年かけて燃料を取り出すという東電の行程表はリスクがあまりにも高く、地震のリスクを過小評価しすぎている。」と指摘した上で「すべてのことに最優先でプールの中の燃料を取り出すべきだ。事故処理を加速するために日本政府は何ができるのか、米国政府に何を手伝って欲しいのか、すぐに返事をしてくれ」と書いている。

つまり、「お前たち、何をもたもたしているんだ。東電なんかに任せておかずに一日でも早く使用済み核燃料をプールから取り出すべきだろう。福島第一は、日本だけでなく世界中に放射性物質をばらまいているんだぞ。こっちから軍隊でもなんでも派遣して手伝ってやるから、見栄も外聞も投げ捨てて、素直に泣きついて来い」という意味だ。

いかにも「世界のジャイアン」らしい書簡である。普段は「いじめっ子」だが、イザという時には頼りになる。平和に日本に暮らしていると想像しにくいかも知れないが、こんな時に他の国のために本当の「命がけの仕事」をしてくれる兵隊を持っているのが米国のすごさだ。

メンツのかたまりの霞ヶ関は、今頃大慌てで「英語版霞ヶ関文学」で「丁重なお断り文」を書いているところだろうが、ここは本来ならば(官僚ではなくて)政治家が直接「腹を割った話し合い」を米国と持つべきタイミング。でも消費税で頭がいっぱいの野田総理には無理だろうなあ...