最新の研究で「低線量被曝にしきい値がない」ことが明確に
2012.04.30
福島県放射線健康リスク管理アドバイザー・山下俊一長崎県大学教授は、就任以来「100ミリシーベルトは『しきい値』以下なので安全。毎時10マイクロシーベルト以下なら外で遊んでも大丈夫」と言い続けて来た。
実際のところは、「100ミリシーベルト以下の低線量被曝をした場合の癌による死亡リスクの増加が統計データにつきものの誤差にまぎれてしまい、測定できていなかった」というのが科学的に見て、もっとも客観的な表現であったにも関わらず、「100ミリシーベルトは大丈夫」と主張し続けた山下教授の無責任さは科学者にあるまじき姿だ。原子力ムラの住人、御用学者と批判されても仕方が無い言動だ。
しかし、1年前の話をいつまでもしていても意味がない。注目すべきは、この分野における最新の研究結果だ。
先週、放射線影響研究所から、広島・長崎の被曝者たちを50年以上わたって追跡調査した結果、低線量被曝には「しきい値」などなく(つまり年間100ミリシーベルト以下でも健康に被害がある)、それも累積効果がある(放射性物質に汚染された地域に長く住むと、その滞在期間に比例してリスクが増える)ということが統計的に証明された、という発表があった。
zero dose was the best estimate of the threshold (しきい値はゼロであると類推できる)
Importantly, for solid cancers the additive radiation risk (i.e., excess cancer cases per person-years per Gy) continues to increase throughout life with a linear dose–response relationship (特に重要なのは、固形癌に関して言えば、被曝によるリスクはその人の生涯を通した被曝量に比例して上昇する、という点である)
一つの論文ですべてが結論付けられるわけではないが、少なくとも最新の研究結果がここまで明確に低線量被曝・累積被曝のリスクを語っているにも関わらず、外部被曝だけで年間20ミリシーベルトという地域に子供を何年間にもわたって住まわせるということが、どのくらい非人道的なことかが理解いただけると思う。
自費で避難する経済的な余裕がある人たちだけが県外に子供たちを避難させ、それ以外の人たちは汚染された地域に住み続ける以外に選択肢はない。政府が安全だと言えば、心のどこかで不安を感じながらも、その言葉を信じて福島に住み続ける以外に選択肢はない。子供が鼻血を出すたびに「ひょっとしたら被曝が原因かも」とおびえながら生きる。それが今の福島の現状だ。
低線量被曝がやっかいなのは、
- 臭いも味もないので被曝をしていても本人には全く感知できない、
- 被曝により癌化した細胞が実際に健康に害を及ぼすのは数年後である、
- たとえ数年後に癌や白血病が発見されたとしても、それが被曝によるものと証明することは困難である
こと。そのため、万が一低線量被曝が原因で癌や白血病になったとしても、政府もしくは東電からまっとうな補償を受けるためのプロセスは長く苦しい戦いになる。判決が出たころには、放射性物質をまき散らす原因を作った東電の経営陣や保安院、そして、子供たちを放射性物質から守ることができなかった文科省や厚生省の役人もすべて現役を引退している。
英語の論文だが、全文が公開されているので、興味のあるかたはどうぞ。
Observed Person-Years and Number of Deaths in the LSS Cohort Members
with Known DS02
Doses, as of January 1, 2004, by Age at Exposure
被爆時年齢 年齢別人数 総観察年数※1 総死亡※2 生存率※3
0-9 17,833 910,347 2,200 88%
10-19 17,563 848,826 4,887 72%
20-29 10,891 494,021 5,178 52%
30-39 12,270 462,694 10,410 15%
40-49 13,504 365,240 13,397 1%
50+ 14,550 213,079 14,548 0%
Total 86,611 3,294,210 50,620 42%
※ 2004年時の統計
※1 Observed person-years
※2 固形癌の死亡者数は 10,929人
このデータは原爆投下時、長崎・広島に居なかった人間は含まない。
ちなみに生涯でがんで死亡する確率は、男性26%(4人に1人)、女性16%(6人に1人)。
http://ganjoho.jp/public/statistics/pub/statistics01.html
Posted by: 名無しの(´・ω・`)さん | 2012.04.30 at 14:31
ちょっと見づらかったねorz
被爆時年齢 年齢別人数 総観察年数※1 総死亡※2 生存率※3
0-9 17,833 910,347 2,200 88%
10-19 17,563 848,826 4,887 72%
20-29 10,891 494,021 5,178 52%
30-39 12,270 462,694 10,410 15%
40-49 13,504 365,240 13,397 1%
50+ 14,550 213,079 14,548 0%
Total 86,611 3,294,210 50,620 42%
Posted by: 名無しの(´・ω・`)さん | 2012.04.30 at 14:35
統計データの誤差についてのところですけど、
「誤差にまぎれてしまい、測定できていなかった」というのは違うと思います。
それだと何も分からなかった、かのように聞こえますけど、
実際は死亡リスクの増加が誤差の範囲内であるという情報が得られたわけですよね。
山下教授はこの情報から大丈夫と判断したわけです。
冷静に考えるなら、その誤差の大きさがどれくらいで
その大きさが持つ意味を考えたうえで本当に「科学者にあるまじき姿」
なのかどうかを判断すべきなのですが、
御用学者憎しでそのあたり無視していませんか?
Posted by: cyc | 2012.04.30 at 17:56
>自費で非難する経済的な余裕がある人たちだけが県外に子供たちを非難させ、
非難→避難
Posted by: の | 2012.05.01 at 07:52
日本語の概要記事もあるのに、なんで紹介しないんですか
http://www.rerf.or.jp/news/pdf/lss14.pdf
ついでに、「広島・長崎の原爆被爆者の致死的・非致死的脳卒中と放射線被曝の関連についての前向き追跡研究(1980–2003)」も載せますか
http://www.rerf.or.jp/news/pdf/BMJopen.pdf
福島にあと何年住めば、女性に出血性脳卒中のリスクが有意に現れたという1.3Gyも被爆しますか?
Posted by: B | 2012.05.01 at 11:57
原論文と日本語の要約を読みました。
この研究は日本の放射線影響研究所が行っているもので、研究対象は広島と長崎
で高濃度の放射線を浴びた方々です。ですから問題にしている被曝線量も非常に
大きな単位となっており、福島原発で話題になっているミリ・シーベルトとは
2~3桁違うようです。従って、論文が述べている「ゼロ線量が最良の閾値推定値
であった」の「ゼロ線量」には第一原発周辺の線量も含まれるのではないでしょ
うか。
丸善が原発事故を機にPDFで無償公開している書籍に低いレベルの放射線につい
ての記述があります。是非、ご覧になって下さい。
http://pub.maruzen.co.jp/index/kokai/
現在の非鉄商社に転職するまでIP電話の会社におりましたので、貴ブログのITに
関する記述は今でも大変興味深く読ませていただいております。原発についても
斬新かつ科学的な記述を期待しております。
Posted by: Satoshi Kitajima | 2012.05.02 at 07:11