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紫陽花革命(あじさい革命)とは

複数の知り合いから紫陽花革命に関して質問されたので、Wikipedia 風に書いてみた。引用は自由にしていただいて結構である。

紫陽花(あじさい)革命とは

2012年に、原子力規制庁の設立、ストレステストの2次評価、を待たずに原発再稼働を進めようとする野田政権・経産省に反対して日本で起こった民主化運動(*1)。一人の青年のTwitterを通した呼びかけで、数多くの人々が毎週金曜日に総理官邸前に集結して原発再稼働の反対を訴えている(現在進行形)。その背景には、ひとたび事故を起こせば簡単には収拾出来なくなる原子力発電への不安だけでなく、原子力ムラに代表される霞ヶ関と産業界との癒着体質と、そこに作られた利権構造に対する国民の不信感がある。

当初、テレビ・新聞などの大手マスコミが自主的な報道規制によりデモの存在を無視し続け、インターネット・メディアのみでこのデモの様子が報じられる、という異常な事態が続いた。しかし、4万5千人(主催者側発表)に膨れ上がった6月22日のデモを報道ステーション(テレビ朝日)が報道し、10万人を超えた(主催者側発表)とも言われる6月29日のデモはNHKも報道し、60年〜70年の安保以来の大規模な民主化運動として日本の歴史に残る一コマとなりつつある。

これまでのデモと異なり、労働組合などにより「動員」された人たちではなく、Twitter などを通じて、参加者一人一人が自分の意思で参加していること、それも、今までデモに参加したことのない人、子連れの主婦などが数多く参加している点が特徴的である。

左翼・右翼などのイデオロギー活動ではなく、純粋に「国民の意思を無視して原発の再稼働をするな」「福島の子供たちを放射能被曝から守れ」「天下り体質も直さずに消費税の引き上げをするな」などの政策に関する具体的な意見の表明である点も特徴的である。

「紫陽花(あじさい)革命」という名前は「小さな花が集まった紫陽花」のイメージが、「国民一人一人には国を動かす力はなくても、問題意識を持った大勢の人が集まって意見を政府にぶつけることが出来れば、国の方向性を変えることもできる」というデモの主旨と重なるからである。

*1 「民主化運動」という言葉は、本来ならば既に議会制民主主義の形を取っている日本には当てはまらない言葉だが、ここでは「形の上では議会制民主主義であるにも関わらず民意が反映されない」という現状の打破を目指した運動までも含めた広義で「民主化運動」という言葉を使っている。

◇ ◇ ◇

ちなみに、官邸前のデモにこれほど多くの人たちが参加していることの意味に関しては、下の記述が最も端的に表している。

今まで国民はテレビに向かって政治家に文句を言っていただけだった。選挙の時だけとりあえずマシな党に投票するぐらいがせいぜいだった。というか多くの人は政治の話題を避けるようにして生き仲間内で政治の話題をすることすらなく自分の仕事や家庭やプライベートに手一杯だった。汚職があったり増税されたりする場面でテレビに向かって憤りたまにネットでその怒りを吐き出したところでただそれだけだった。

しかし福島原発事故による放射能汚染というあり得ない自体が起きしかも今もなお全国で地震が頻発している中、一部の国民は目覚めてしまった。「いい加減、国民をバカにすんなよ」と。しかしそれを表明できる場がない。選挙ぐらいしかない。選挙でしか国民が政治家に意見表明できないなんておかしい。そう思った人がこの総理官邸デモに集まっていた。(デモは意味ないのか?~官邸デモレポート


今週の週刊 Life is Beautiful : 6月26日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

今週のざっくばらん

教育アプリ

先週からは商品化に向けた細かな微調整に入りました。このアプリの場合、かなり機能が豊富なので、最初にアプリを走らせた時に、何ができるのかを教える部分がとても重要だと考えています。特に、教材を自分で作ったり共有したり出来るということを理解してもらわなければならないので、そこに時間をかけました。...悩ましいのが、Facebook のグループで共有したファイルのダウンロードが相変わらず Graph API を使ってできないこと...

私の目に止まった記事

Apple TV Will be Revolutionary But It Won't Kill The Cable Companies - Forbes

アップルは今回のWWDCでも色々と新しいものを発表しましたが、全く触れなかったのが Apple TV (もしくは、ディスプレイ付きの iTV)でした。これに関しては、色々な解釈と憶測が飛び交っていますが、やはりアップルの次の一手は、放送革命であって欲しいと私も願っています...

Sorry, But Microsoft Screwing Windows Phone Fans Is the Right Thing To Do

Microsoft が、Windows Phone 8 の発表をしました。私の知り合いが二人ほどWindows Phoneチームの中核にいるので、二つのOSを並行して開発していることは前から聞いていました。Windows CE をベースにした OS では iPhone とは戦えないことは彼らも十分に知っていたようですが、にも関わらず...

Nokia Late to the Silicon Valley Party

Nokia が復活のためにシリコンバレーでの存在感をなんとか高めようとしている、という話です。Nokia の凋落の話になると、iPhone vs. Series-60 というスマートフォンの戦いに破れたから、と解釈する人も多いようですが、実際はそんな単純な話ではありません...

Analysis: With Siri and new alliances, Apple takes on Google search

とても良い記事なので、全文を丁寧に読むことをお勧めします。Appleが Siri を発表した時にも書きましたが、モバイル・サーチの市場がパソコンによるサーチ市場よりも大きくなることは確実で、Appleとしては、その市場をみすみすGoogleに手渡すようなことはしない、ということです...

Apps Rule! Wooga No Longer Distributing HTML5 Games on Facebook.

HTML5 でゲームを作ってビジネスをしようと考えている人は、ぜひとも読むべき記事です。しかし、HTML5 でゲームビジネスをする際の問題を、技術的な側面だけで見ることは危険です...

Windows95誕生ものがたり(21):勝負の時

ミーティングが始まった。最初に口を開いたのは Bill Gates ではなく、Paul Maritz だった。「Windows 95 はMicrosoftにとってとても重要なプロジェクトだが、忘れてはいけないのは Notes の存在だ。Notes は多くの企業で、企業内コミュニケーションのプラットフォームのデファクト・スタンダードになりつつあり、Microsoftとしては、これをなんとしてでも阻止しなければならない。その意味では、今回の話は、単にChicagoとCairoというオペレーティング・システムにとどまる話ではなく、...

エンジニアのための経営学
マクロ経済(3)国債を発行し続けると国はどうなるのか?

ちなみに、マクロ経済の授業を受けることが決まった時から、今まで常々疑問に感じて来た一つの質問を教授に投げかけることにしていたました。「赤字国債を発行し続ける」ということは一体何を意味し、その先には何が待ち受けているのか、という質問です...

読者からのご質問・ご意見コーナー

先週、ブログに書いた「パナソニック経営陣への5つの提言」に対しては、メルマガの読者の方々からもたくさんのコメントをいただけたので、一部紹介させていただきたいと思います。

まずは、いわゆるSIベンダーと呼ばれる会社で働いている方からのコメントです。

 企業向けシステムと一般消費者向けソフトウェアの違いはあると思いますが...

パナソニックではありませんが、別のメーカーにお勤めの方からのコメントです。

パナソニックも弊社もハードウェアメーカーなので、どの分野を重要視 しているか?というとソフトウェアよりもハードウェア開発だと思います。 ハードウェアの開発に優秀な人材を投入し、ソフトウェアは派遣社員に 任せる形式が当たり前になっています...

また、実際にパナソニックで働いている読者の方からは、以下のようなコメントをいただきました。

パナソニック自体がとても大きな会社なので、部署により相当の差があります。私自身、ここまでステレオタイプな事例は初めて見た気がします...「人月の神話」に関しては、実際に現場で働く人はわかっています...ただし、その上の管理職の人(往々にしてソフトウェア開発の経験がない)がわかっていなくて...


Surface は「iPad キラー」ではなく「ノートパソコンキラー」だ

ここ数年はアップルのことばかり褒めて来た私だが、今回のMicrosoft Surfaceはとても高く評価している。理由はただ一つ。ついに「しがらみ」を捨てることが出来たからだ。

マイクロソフトの連中に合うたびに、「マイクロソフトはスマートフォンを作るべき」と言いつづけて来た私だが、結局ノキアとの全面提携という道を選んだマイクロソフト。携帯電話に関しては通信会社とのチャンネルも必要だから、という彼らの言い訳にも一理ある。

タブレットに関しても私の意見は同じだったが、OEMメーカーとの関係を考えれば、どうせ無理だろうとあまり期待してはいなかったというのが正直なところだ。

Surface がすごいのは、これが最も大きなダメージを与えるのは、アップルではなく、Dell や HP などの OEM メーカーだということ。私の周りにもすでに、「次のWindowsパソコンはこれに決まりだ」といち早く宣言した人が何人もいる。

iPhone や iPad がマイクロソフトにとって脅威なのは、単にスマートフォン市場やタブレット市場をアップルに奪われるから、ではない。時代はすでに「ポストPC時代」へと急速にシフトしており、パソコン市場そのものが、スマートフォン市場とタブレット市場に取って代わられようとしているからだ。マイクロソフトの飯のタネである、パソコン市場そのものが脅かされているのだ。

今回の Surface の発表は、分かりやすく言えば「マイクロソフトのポストPC時代へのコミットメント」であり、「iPad にパソコン市場を奪われるぐらいならば、自分から奪う」というイノベーションのジレンマへのチャレンジである。

今回のアナウンスメントで明らかになったことをまとめると以下のようになる。

  • マイクロソフトはアップルとの戦いをOEMメーカーと一緒にではなく、単独で戦うことを決めた(結果として、日本メーカーのパソコン・ビジネスからの撤退は加速されるだろう)
  • ポストPC時代のマイクロソフトのビジネスモデルは、ソフトウェア・ライセンス・ビジネスではなく、垂直統合ビジネスになる。ソフトウェア+ハードウェアだけでなく、サービスもからめたビジネスだ
  • マイクロソフトは、Surface が従来型のパソコン市場の終焉を早めるだろうことは十分認識しているが、そのリスクを負わなければ次の時代の覇者にはなれないことも良く知っている

問題は、マイクロソフトがどのくらいまで製造コストを下げることができるかだ。Tim Cook の元、世界最高のサプライ・チェーンを作ってきたアップルに対抗するのは簡単ではない。Office アプリがサクサクと動くSurfaceを500ドルぐらいで市場に出すことができれば、(iPadではなく)ノートパソコンの市場を一気に奪うことができる。Windowsユーザーにとって、とても魅力的な「ポストPC時代へのマイグレーション・パス」を提供することができる。

 


今週の週刊 Life is Beautiful : 6月19日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

今週のざっくばらん

MacBook

私の開発マシンは3年前に買った MacBook ですが、 4GB しかメモリーがないために、最新版の xCode (iPhone/iPad アプリの開発環境)を走らせるのがかなりキツくなっており、そろそろ買い替えの時期がきています...そこから考えると、自然に MacBook Pro with Retina Display になりました...家に到着するのは7月の13〜17日ごろになるとのことです...

教育アプリ

先週も開発は順調に進み、完成度としては80%ぐらいになったと思います。開発を始めたのは4月の頭だったので、ちょうど2ヶ月半です。当初のイメージでは、3ヶ月でメドをつけたいと思っていたので、おおよそ予定通りとも言えます...

私の目に止まった記事

Trouble with the robot?

これまでは、RIMのBlackberryの衰退と、スマートフォンへの全体的なシフトという中でパイが大きくなる中での iPhone と Android が揃ってシェアを延ばして来ましたが、そろそろ両社のぶつかり合いが目に見える形になってくるタイミングです...

Apple Mac Pro Update Panned

WWDC を見ても分かる通り、アップルは今や6割ぐらいのエネルギーを iPhone/iPad に注ぎ、残りの4割を MacBook Pro/Air に注いでいます。デスクトップラインである iMac や Mac Pro に関しては、「一応ラインナップとして用意している」存在になってしまっています...

Nokia culls 10,000 jobs in radical bid for profits

ノキアが生き残りのために本格的なリストラに着手しはじめた、という記事です。ヨーロッパ各地にある工場を閉鎖するということなので、やはりシスコやアップルのように、研究開発だけは本社で行い、製造はアジアに委託する、という形のビジネススタイルに変革せざるをえない、ということですね...

How Scared of Apple Should Google Be?

iモードが日本で成功したのを見た欧米の通信事業社は、(1)データ通信が重要な役割を果たす、(2)コンテンツ課金がキャリア(通信事業社)の重要な戦略兵器になる、と予想しました。データ通信に関しては、ほぼ予想通りの展開をとげていますが、課金に関しては、iTunes ストアというとてつもなく強力なライバルが現れたために、当初の予想とは大きく違う展開になっています...

iPhoneを諦めた(?)ドコモの“迷走”

一つ上の記事の意味を理解した上で、この話を読むと、ドコモがなぜなかなか iPhone の採用に踏み切らないかが分かると思います。iモードというキャリア独自のサービスを使ってデータ通信の時代のリーダッシップを取って来たドコモとしては、 iPhone の採用により、通信事業がコモディティ化されて、単なるデータ通信のための「土管」になってしまうことを恐れているのです...

Microsoft Manufacturing Tablet to Rival Apple iPad, Says Insider (Exclusive)

マイクロソフトがタブレットを作るというインサイダー情報です。信憑性は確認できませんが、私はスマートフォンにしろタブレットにしろ、アップルと本気で戦うのであれば、ハードウェア・ビジネスに進出するしかないと考えています。理由は三つあります。一つ目は、...

元Apple松井博「世界一イノベーションを生む企業で学んだ、凡人が生きる術」

日本語ですが、とても良い記事なので、ぜひとも読んで下さい。90年代のマイクロソフトもそうでしたが、伸び盛りの会社のエンジニアは、単に優秀なだけでなく、本当に良く働きます。それも、一生懸命に働くことが楽しくて仕方がないのです...

Windows95誕生ものがたり(20):Bill Gates へのプレゼン

そんなことを考えている間に、Bill Gates へのプレゼンの日はあっという間にやって来た。Building 8の控え室に行くように指示された私は、そこに揃った顔ぶれを見て驚いた...マイクロソフトの No.4 と No. 5 のポジションにいる二人だ。この二人を見ただけで、このミーティングの重要さが分かる...ボードルームに入ると、中にはすでに Paul Maritz が座っていた。マイクロソフトの No.3 のポジションの上級副社長だ。つまり、このミーティングには、マイクロソフトのトップ5のうち、Steve Balmer を除いた全員が出席するということだ...

エンジニアのための経営学
マクロ経済(2)為替介入

これまで、中央銀行の役目として、(1)銀行システムの安定化、(2)金融政策の財務政策からの切り離し、(3)市場に流通しているお金の量のコントロール、の三つを上げました。為替を市場原理に任せている米国の場合、中央銀行である連邦準備制度の場合は、基本的にはこの三つが役割の全てです。固定相場制を採用している国の場合、中央銀行には4つ目の役割があって、それが為替の操作です...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週は、この質問。

私は理系の大学で情報工学を学ぶ学生です。私もプログラミングが「三度の飯よりも好き」なタイプです。修士課程に進む予定なので、就職活動はまだ先ですが、今のうちに考えておきたいと思います。そこで質問ですが、中島さんが、今の私のような立場であれば、どこを就職先として一番に考えますか?

就職活動をあまり早く始めることには賛成しませんが、就職先のことを前もって考えておくことには大賛成です。ソフトウェア・エンジニアとしてのキャリアを目指すのであれば、まずは...


パナソニック経営陣への5つの提言

日本の家電メーカーのソフトウェアの作り方や、人材の活用方法の問題点関しては、このブログでもメルマガでも何度も指摘したが、その問題を浮き彫りにするブログエントリーを見つけたので紹介する。

パナソニックを退社しました

...私の部署では、絵に描いたような昔ながらのソフトウェア開発が行われていました。 単価計算は人月とステップ数。仕様書を書く上流工程が重要で、コーディングは単純作業という価値観のもとでの開発です。当然正社員はなかなかコーディングに携わることができませんでした。 また、単純作業とみなされがちなコーディングを効率化しようとするモチベーションが少なかったのか、いくつか作業環境で疑問に思うところもありました。例えば、メモリ 1GB ぐらいの遅いマシンでビルドしている、ディスプレイが17インチ、きちんとしたソース管理がない、などです。PCスペックやディスプレイなどは入社の時期によってはそこそこいいものになるんですが、「壊れるまで使う」のが基本のためなかなか新しくなっていませんでした。 それから、入社してからプログラミングを始めたという方も結構いらっしゃったので、どうしてもサイエンスの面からのアプローチが弱かったと思います。オブジェクト指向を知らない(クラスって何? というような感じ)でコーディングしている方もいらっしゃったし、アーキテクチャ、計算量やアルゴリズムを純粋に議論することが少なかったように感じました。 「仕様書を書いて、たくさんの人間を使ってプログラムを作る」ことが大きな仕事をする、それが付加価値なんだと言っていた方も居たので、私の目指す方向とは決定的に違うなと思いました。

これでは世界では戦えない。アップルどころか、サムソンにも永遠に勝てない。

今の時代、家電を売って利益を上げようとするのであれば、ソフトウェアで勝負をするしかない。そのためには、シリコンバレーのトップクラスのエンジニアなみに、ソフトウェアがバリバリと書けるソフトウェア・エンジニアを採用すること、社内に育成することが必須である。

そこで、パナソニックの経営陣に向けた、私からの提言を5つ。

  • せっかく賢い理系の学生を採用しながら、その連中にソフトウェアを書かせずに仕様書だけ書かせ、最も大切なプログラミングを派遣社員や子会社に任せるのは大間違いである。ソフトウェアは正社員が自ら書くべきものだ。せっかく採用した理系の学生にソフトウェアを書かせないのは人材の無駄遣いだ。
  • エンジニアの採用の際に、学歴だけを見て採用するという手抜きはもう辞めた方が良い。学歴なんかよりも、学生時代にiPhone/Androidアプリやウェブサイトの一つや二つをリリースした経験のあるエンジニアを雇うべきだ。学生の面接の際には、プログラムを面接官の目の前で書かせることがとても有効だ。アルゴリズムの質問も良いだろう。すぐに使えるエンジニアかどうかが判明する。
  • プログラミングは、人月とステップ数で数えられるような単純作業ではない。プログラミングは、もっともっとデリケートでクリエーティブなプロセスだ。優秀なソフトウェア・エンジニアは、家電メーカーにとっては宝である。彼らの時間は、会社のもつリソースの中で最も貴重なものだ。最高の開発環境を与え、彼らの時間をミーティングや仕様書の作成で浪費してはいけない。ツールの不備などもっての他である。
  • 「プログラムがそこそこ書ける」ソフトウェア・エンジニアの人口は増えたが、「価値を生み出す良いソフトウェアが作れる」エンジニアはごく一部で、絶対数は常に不足している。そんな人材の確保と育成が、会社の将来を決める。うかうかしていると、そんなエンジニアをアップルやグーグルやDeNAがみんな持って行ってしまう。
  • そして、これがもっとも難しいと思うが、日本のメーカーには、ハードウェアの設計もしない、プログラムを自ら書くこともできない、その割に給料だけはやたらと高い中間管理職が多すぎる。思い切ったリストラが必要だ。余分な脂肪は切り捨て、筋肉質の会社に生まれ変わらなければならない。

 


ビジョンのない政治家は、結局は官僚の操り人形になる

先日のエントリー「野田総理の言う『電気がもたらした豊かで人間らしい暮らし』のイメージを作ってみた」には、賛否両論、数多くのフィードバックをいただいた。誤解をした人も多かったようだが、私は何も電気や都会の暮らしを100%否定しようとしているわけではない。あまりにも極端な首都圏への一極集中(そして、人々がそうせざるを得ない状況を作り出している政策)が異常だと指摘しているのである。

一番の問題は、戦後の高度成長期に作られた霞ヶ関、経団連、原子力ムラ、ITゼネコン、総合家電メーカー、終身雇用制度などが、色々な意味で時代遅れになりつつあり、それが「失われた20年」や「過疎化する農村・漁村」や「止めるに止められない原子力発電」という状況を作り出していることにある。

近年の中国とインドの躍進を見れば、これまでの成長一辺倒の戦略から、「持続可能な(sustainable)社会基盤作り」へと国家戦略を大幅にシフトしていかなければならないことは明確だ。化石燃料に頼らないエネルギー自給率の向上は必須だし、食料や水の自給率もとても大切だ。何が国家にとって最も大切か、という国家ビジョンのところにまで立ち返って、今後の日本のことを考え直す必要がある。

私自身、事故前は原子力がエネルギーの自給率の向上への一番の近道だと信じ込まされて来た多くの日本人の一人だ。しかし、ちゃんと目を開けて原子力を見れば、ウランもやはり限りのある化石燃料だし、危険な放射性廃棄物を大量に生み出すことが見えて来る。核のリサイクルは見果てぬ夢である。原子力を「持続可能なエネルギー」とは呼べないことは明白だ。

「今回の原発事故で死んだ人はいない」などと未だに事故の影響を過小評価しようとする御用学者がいるが、今回の原発事故により、日本の国土の一部が使い物にならないぐらい汚れてしまったことを忘れてはいけない。エネルギーと同じく国家にとってなくてはならない食料と水を提供する、農地、漁場、水源が失われたのである。

節電は痛みを伴うし、自然エネルギーへの転換は時間もお金もかかる。しかし、万が一の事故のために、琵琶湖の水が飲めなくなったり、瀬戸内海の魚が食べられなくなったら、本当に日本は終わりである。野田総理に「責任」など取れないのだ。

どうしても原発の再稼働をしたいというのであれば、少なくとも安全神話を作って来た旧原子力ムラの人たちを処罰し、新しい規制庁で福島の事故の教訓を生かした新しい安全基準を作った上で再稼働、というのが筋である。これほどまでの事故を起こした連中に厳格な処罰を与えずに、「原発の安全には国が責任を持つ」とは言えない。

野田総理が官僚の操り人形にしか見えないのは、彼に「日本をどんな国にしよう」というビジョンが欠如しているからである。舵取り役の政治家がはっきりとした方向性を打ち出さなければ、「現状のシステムの維持」に最適化された官僚機構が同じ方向に国家を押し進めるだけである。


週刊 Life is Beautiful 2012年6月12日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

今週のざっくばらん

日本のエリートと終身雇用

エネルギー政策に関する日本の官僚の迷走ぶりや、低迷を続けるソニーやパナソニックを見てつくづく思うのは、霞ヶ関と経団連に所属する「一流企業群」から構成される旧体制を守り続けることが、皮肉なことに日本の国際競争力を奪うことになっている、ということです。終身雇用を前提として作られた日本社会においては、大学卒業時に上級国家公務員もしくは一流企業の社員になることは...

教育アプリ

先週は、この教育アプリの「Facebook 化」を大幅に進めた週でした。当初の予定では、ソシアル・ネットワーク機能は後回しにして、まずは基本機能を備えたアプリを市場に出してユーザーの反応を見ながらソシアル・ネットワーク機能を追加して行く予定だったのですが、少し方針が変更になりました...

私の目に止まった記事

What Steve Jobs Left Untouched

これは久しぶりに考えさせられた良い記事でした。コンピューターのアーキテクチャがどうあるべきか、という根本的な議論に興味のある人にはぜひとも読んでいただきたい記事です。私自身、今のアプリケーションのあり方は正しくないと考えています...

Kindle Fire shipments tank but CTRs still strong

Kindle Fire の売り上げが、四半期ベースで80%も落ち込んだ、というニュースです。前にブログでも書いたことがありますが、Kindle Fire は読書をするには重すぎるけど、アプリを走らせるなら iPad に大きく負けている、という中途半端なデバイスです。Kindle を買うのであれば、e-Ink ディスプレイの白黒版 Kindle が良いと思います...

Behold, Facebook’s New App Center Leaks Into iOS

Facebook の App Center に関する動きが気になりますが、ユーザーや開発者にとってどんなメリットがあるのかがまだ見えて来ない、というのが正直な感想です...

Sprint's Virgin Mobile to launch prepaid iPhone June

先週紹介した Leap Wireless に続いて Virgin Mobile もプリペイド携帯として iPhone を発売するという話です。Leap Wireless と違って Virgin Mobile は8GBのiPhone 4は549ドルという比較的まともな価格設定です(Leap は 399 ドル)。日本へ並行輸入するのであれば、やはり Leap から買うのが良いと思います...

How Would You Like A Graduate Degree For $100?

少し長い記事ですが、教育に興味のある人は読んでおくと良いと思います。ネットやビデオを活用した教育が可能になった今、高等教育がどうあるべきか、というのはとても興味深いテーマです。効率を考えれば、ネットを活用した方がはるかに良いことは明確です...

Hydrovolts Tap Canal Currents for 12 kW of Power Apiece

小規模水力に革命を起こそうとしているベンチャー企業の話です。化石燃料にも原子力にも頼らない再生可能エネルギーは人類全体の課題ですが、特に私の住むワシントン州のベンチャー企業なので、応援したくなります...

Windows95誕生ものがたり(19):Cairo からのクレーム

仕方がないので、 Cairo からのドキュメントを読みはじめた。300ページもわたって、いかに Windows95 のアーキテクチャがいい加減なものであるか、Cairo が作っているアーキテクチャがすぐれているかを延々と書いてある。ざっと目を通すだけでも時間がかかるのに、丁寧に読んで指摘された問題点に関して短期間で答えを用意するのはほぼ不可能に思えた...

エンジニアのための経営学
マクロ経済(1)連邦準備制度

University Washington でMBAを取得した際に、もっとも楽しんだ授業の一つが Global Economic Environment of the Firm というタイトルのついたマクロ経済の授業でした。講師は連邦準備制度(Federal Reserve System=FED)でグリーンスパン議長の下でアナリストをしていたというバリバリの実務経験を持つ Karma Hdjimichalakis 教授。市販の教科書など使わず、自らが作った資料を元にディスカッション形式で進める授業は、とても有意義でした。偶然にも、授業を受けている期間にリーマンショックが来たこともあり...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週は、この質問。

最近、アップルが特許侵害でサムソンのスマートフォンの米国での販売を中止にしようなどの特許戦争が盛んですが、中島さんはどう思われますか?中島さんも、マイクロソフト時代には数多くの特許を申請したと聞きましたが、そのあたりを当事者として教えていただきたいと思います。

とても良い質問です。私も特許に関しては複雑な思いがあります。まず第一に、ソフトウェアやユーザーインターフェイスに特許権を与えている今の法律は改正すべきだと思っています。特許法がなぜあるか、という原点に返って考えてみれば、答えは明らかです...


野田総理の言う「電気がもたらした豊かで人間らしい暮らし」のイメージを作ってみた

野田総理の原発再稼働へ向けた会見には違和感を覚えた人も多いと思うが、私がもっとも違和感を感じたのは「私たちは、大都市における、豊かで、人間らしい暮らしを電力供給地に頼って支えて来ました」という一節。

野田総理が(実際にはその後ろにいる経産省が)言うところの「大都市における豊かで人間らしい暮らし」とは何を指すのだろうか?すぐに頭に浮かぶのは、オール電化のマンション、クーラー、電気ポット、食洗機、24時間営業のコンビニエンスストア、50インチの液晶テレビ、パチンコ屋、ゲームセンター、ネオン街などだ。

イメージにしてみるとこうなる。

Neu.Draw (8)

一方、原発事故が福島県の人々から奪ったのは、一生かけて育んで来た畑であり、安心して食べられる地元の食材であり、校庭で泥まみれになって遊ぶ子供たちの笑顔である。

Neu.Draw (9)

どちらを「人間らしい豊かな暮らし」と呼ぶべきか、どんな国を私たちの子孫に残したいのか。今一度考え直すべき時が来ていると思う。


子供へのCTスキャンの場合、50ミリシーベルトで白血病のリスクが3倍に

こちら(シアトル)に来てから毎年身体検査を受けているが、日本の身体検査と違い、胸部や胃のX線写真は撮らないのが原則だ。なぜかと医者にたずねると、「メリットよりもデメリットの方が多いから」という返事が返って来た。たとえわずかな被曝であろうと発癌リスクはあるので、明らかに必要という場合以外は被曝させないのがこちらでは常識なようだ。

CTスキャンは胸部X線の何倍もの被曝を受けることが一部の医者の間で問題視されているが、先週も、子供にCTスキャンを使うことに関しての論文が発表されて注目を浴びている。

Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of leukaemia and brain tumours: a retrospective cohort study

Use of CT scans in children to deliver cumulative doses of about 50 mGy might almost triple the risk of leukaemia and doses of about 60 mGy might triple the risk of brain cancer. Because these cancers are relatively rare, the cumulative absolute risks are small: in the 10 years after the first scan for patients younger than 10 years, one excess case of leukaemia and one excess case of brain tumour per 10 000 head CT scans is estimated to occur. 

ガンマ線の場合 mGy = mSv (ミリシーベルト) と考えて良いので、分かりやすく書くと、

(放射線に敏感な)子供にCTスキャンの使用すると、合計で 50 ミリシーベルト の被曝をした場合で白血病のリスクが三倍に、60 ミリシーベルト の被曝で脳腫瘍のリスクが三倍になる。ただし、そもそも子供の癌はまれなので、実際にCTスキャンによる被曝が原因で10年以内に白血病や脳腫瘍を発病する患者の絶対数は一万人あたりそれぞれ一人程度である。

となる。

CT スキャンによる被曝と、放射線被曝による被曝では、必ずしもそのまま比べることが出来ないことは分かるが、こういう数字を見るとやはり年間被曝量が20ミリシーベルト近くあるような所に子供を住まわせるというのは間違っているように思える。

しかし、厄介なのはこの一万人あたり一人という数字。国としては「交通事故にあう確立よりも低く、統計的に見ればそれほど危険とは言えない」という判断なのかも知れないが、それは役所の論理でしかないように私には思える。


今週の週刊 Life is Beautiful : 6月5日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

 

今週のざっくばらん

教育アプリ

先週は、Facebook とのインテグレーションに関して大きな進捗がありました。一番大きな障害だった、Facebookグループにアップロードされたファイルが Graph API 経由ではダウンロードできない、という致命的な問題点に、回避策が見つかったことが大きなブレークスルーになりました...

アプリの終わりの始まり

この記事を読んで思い出したのは、私が2003年に取得した「Field extensible controllee sourced universal remote control method and apparatus」というパテントです。まさにこの記事に書かれているように、「ある場所に行くと、その場所で必要なアプリケーションが自動的にアクセス可能になる」というシナリオを実現するため...

私の目に止まった記事

 5 reasons I think you’re nuts if you own a naked iPhone

私自身が "naked iPhone" 派なので、興味深く読ませていただきましたが、こんな風に「カバーをすべきかどうか」が話題になることそのものが iPhone がどのくらい「特別なデバイス」として認識されているかを表しています...

Tim Cook on Steve Jobs, Apple TV and Facebook: The D10 Highlights

Apple CEO Tim Cook in the Hot Seat at D

先週は、All Thinkgs D による D10 カンファレンスが開かれました。数多くあるカンファレンスの中で、唯一 Steve Jobs が(主催者ではなくゲストとして)参加するカンファレンスとして知られていましたが、Steve Jobs が死去してから初のカンファレンスということもあり注目が集まりました...ちなみに、特許戦争に関する話の中で「Standard Essential Patent」という言葉が出て来ましたが、業界で働くには覚えておくと良い言葉なので、簡単に解説しておきます...

Leap Wireless to launch prepaid iPhone

Leap Wireless が iPhone をプリペイド携帯として発売する、というニュースです。これは、日本の並行輸入業者にとっては、濡れ手に粟の利益を上げる大チャンスかもしれません。iPhone がプリペイド携帯として売られること自体は十分に予想できましたが、予想外だったのは...

OMG: Facebook CANNOT Stop Crashing!

Facebook の株の下落が止まりません。バブルは大きく膨らめば膨らむほど弾けた時の影響が大きくなるので、ちょうど良かったと私は見ています。楽天によるPinterestへの投資が今回のバブルのピークだった、という話になるぐらいがちょうど良いのでしょう...

Windows95誕生ものがたり(19):Cairo からのクレーム

OLEの重さを回避するLight-weight OLE も完成し、namespace extension の仕組みを活用した Marval (MSN Online)、Capone(Exchange Client)、Athena(Outlook Express)の開発も順調に進み、emailクライアントを MSN クライアントの両方を統合した Windows Explorer は「アプリケーションとは何か」という部分を根底から覆すイノベーションになると私は確信していた...

エンジニアのための経営学
ベンチャー投資(3)

さて、優先株による増資の意味を理解していただけたと思うので、今回の本題である「なぜ楽天によるPinterestへの投資が足元を見られた高値づかみなのか」を説明しましょう。この優先株の発行に際して、一番難しいのが、投資前の会社の価値(pre-money evaluation)をいくらと見なすか、という部分です...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週は、こんな質問が来ていました。

中島さんから見て、ベンチャー企業を成功させるのに必須なものは何だと思いますか。特に創業時に必ず持っていなければいけないと思うものを理由とともに5つ上げてください。

とても面白い質問ですね。私の経験に照らし合わせて答えてみたいと思います。一番大切なのは、創業メンバーの「絶対に成功させる」という強い意志だと思います...