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今週の週刊 Life is Beautiful : 7月10日号

ソフトウェア・エンジニアから見た原発事故

私はこれまでこのブログで、今回の原発事故が「想定外の津波によって起こされた天災」ではなく、「本来想定すべき天災に対する対処を先送りして来たことによる人災」であったこと、そして、形だけの津波対策や地震対策をしたところで、「規制機関が電力業界と癒着して利権構造を作っている」という根本的・構造的な問題を抱えている限りは、同じような事故が必ずまた起こることを指摘してきた。

こんな私の指摘に対しては、「原子力の専門家でもない、シアトルに住むソフトウェア・エンジニアの戯言(たわごと)に過ぎない」と言う指摘もしばしばいただいたが、エンジニアに不可欠な「システマティックにものを見る能力」のある人であれば、原子力の専門家でなくとも、これぐらいのことは言える。

別の言い方をすれば、事故に関して公開されている限られた情報だけで、その根本の原因がどこにあったのか、そして、このまま原発を再稼働することがどのくらい危険なのかが指摘できないようでは、良いソフトウェア・エンジニアにはなれないということである。

良いソフトウェアを作るためには、良いアーキテクチャが必須だ。アーキテクチャが根本的に間違っていては、どんなにコーディングに労力を使っても良いソフトウェアはできない。これは原発も同じだ。

福島原発での事故は、単なる局所的なバグ(=不十分な津波への対処)により生じたものではなく、根本的なアーキテクチャの欠陥(=原子力安全保安院と電力会社との癒着・優越関係の逆転、電力会社の地域独占・総括原価方式)に起因するのだ。これだけ根本的な問題を抱えているにも関わらず、パッチだけあてて(電源車を配備する、防波堤を高くする、など)再稼働しようとすることは、明らかな間違いだ。こんなことを続けていては、かならずまた暴走する(=過酷事故を起こす)。

参考までに、事故調の報告書の一部を引用させていただく(参照)。

当委員会の調査によれば、東電は、新たな知見に基づく規制が導入されると、既設炉の稼働率に深刻な影響が生ずるほか、安全性に関する過去の主張を維持できず、訴訟などで不利になるといった恐れを抱いており、それを回避したいという動機から、安全対策の規制化に強く反対し、電気事業連合会(以下「電事連」という)を介して規制当局に働きかけていた。

このような事業者側の姿勢に対し、本来国民の安全を 守る立場から毅然とした対応をすべき規制当局も、専門性において事業者に劣後していたこと、過去に自ら安全 と認めた原子力発電所に対する訴訟リスクを回避することを重視したこと、また、保安院が原子力推進官庁である経産省の組織の一部であったこと等から、安全について積極的に制度化していくことに否定的であった。

事業者が、規制当局を骨抜きにすることに成功する中で、「原発はもともと安全が確保されている」という大前提が共有され、既設炉の安全性、過去の規制の正当性を 否定するような意見や知見、それを反映した規制、指針 の施行が回避、緩和、先送りされるように落としどころを 探り合っていた。

これを構造的に見れば、以下のように整理できる。本来原子力安全規制の対象となるべきであった東電は、市場原理が働かない中で、情報の優位性を武器に電事連等 を通じて歴代の規制当局に規制の先送りあるいは基準の軟化等に向け強く圧力をかけてきた。この圧力の源泉は、 電力事業の監督官庁でもある原子力政策推進の経産省と の密接な関係であり、経産省の一部である保安院との関係はその大きな枠組みの中で位置付けられていた。規制 当局は、事業者への情報の偏在、自身の組織優先の姿勢等から、事業者の主張する「既設炉の稼働の維持」「訴訟対応で求められる無謬性」を後押しすることになった。 このように歴代の規制当局と東電との関係においては、 規制する立場とされる立場の「逆転関係」が起き、規制当局は電力事業者の「虜(とりこ)」となっていた。その 結果、原子力安全についての監視・監督機能が崩壊していたと見ることができる。

当委員会は、本事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係について、「規制する立場とされる立場 が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視・監督機能の崩壊が起きた点に求められる。」と認識する。 何度も事前に対策を立てるチャンスがあったことに鑑みれば、 今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」で ある。

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