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今週の週刊 Life is Beautiful:7月31日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

今週のざっくばらん

教育アプリ neu.Tutor

7月の20日の発表会に間に合わせようとアップルの審査に出していた neu.Tutor ですが、実際に審査入りしたのは23日でした。審査に提出したのが10日だったので、審査のスタートまで13日かかった計算になります。今までの審査入りまでの平均は6日ぐらいだったので、何か特殊な事情が...

MacBook Pro with Retina Display

日本に行く前に入手していながら、(Microsoft Office のライセンスがうまく以降できないなどの事情で)日本には持って行かなかった新しい MacBookですが、ようやく本格的に使いはじめました。画面がきれいなのはもちろんですが、とにかく早いのが開発効率を格段に高めてくれます。私がソフトウェアを開発する場合、常に「少しコードを書いては...

私の目に止まった記事

ヤフーの新CEOが大役と出産を両立できるワケ

普通、日本人が書いたこの手の記事は、「とんだ勘違い」が多いのですが、この記事は実際に海外で暮らしている海部さんだけあって、とても適切なコメントです。女性が CEO になるというだけで、日本では滅多にないことですが、CEO に就任して間もなく子供を生む、なんてことがどうして米国では許されるのか、という話です...

How Yahoo’s new CEO has already shifted the tide

Yahoo の新 CEO マリッサ・メイヤーに関しては、他にも沢山の記事が書かれていますが、その中の一つに「私も Yahoo で働きたくなった」と書いている女性がいるので紹介します...

Buying a Ton of Guns on the Internet Is Cheap, Legal, and Shockingly Easy

私も今回のコロラド乱射事件で知りましたが、米国ではオンラインでの武器の購入が野放しにされてしまったようです。米国では、身近なところにガンショップとかがありますが、少なくともそんなところではちゃんと身分証明書も提示させるし、ある程度の規制が働いていると期待していた人が大半だと思います...

It took leaving Seattle for Ichiro to finally be used in roles he's better suited for

イチローがシアトル・マリナーズからニューヨーク・ヤンキーズに移籍したことは、日本でも大きく報じられたようですが、もちろん地元のシアトルでは大ニュースです。イチローが抜けただけでシアトルの景気が落ち込むのではと心配する声さえ聞こえます...

Developer center and phone to boost mobile Facebook

最初にFacebook が携帯電話を開発しているらしい、という噂を耳にしたときは、即座に「Facebook はそんなことはしない」と反応した私ですが、考えているうちに少し見方が変わって来ました。Facebook の目指すところが「人と人との繋がりをより強める」ことであることを考えれば、音声通話やメッセージングの...

UIEvolution 企業ものがたり(1):Semiahmoo での研修

私が UIEvolution を起業したのは2000年の8月のことですが、そもそも「Microsoft は大きな壁に直面している」と感じはじめたのは1998年の初めごろです。Windows 95をローンチしてパソコンの世界のOSのデファクト・スタンダードにすることに成功し、Internet Explorer 3.0、4.0 の連続パンチで Netscape からブラウザーのシェアを一気に奪った時期です...

...2012年の現在であれば、Microsoft の企業価値、もしくはパソコン業界全体の価値が、Google や Apple によって奪われてしまったことは誰にでも言えますが、1998年というまだまだ Microsoft が成長している段階で、すでに Microsoft の経営陣は、インターネットの台頭に大きな危機感を抱いていたのです...

日本はどうして原発を止められないのか
第一章 日本型エリート(2)

実は当時、私はアルバイト先のアスキー出版からも就職するように誘われていました。アスキー出版でのアルバイトは高校生の時からですが、当時はプログラムを書ける人の絶対数が少なかったこともあり、アルバイトと言いながらもかなり良い収入を得ていました。特に大学生になってから作ったCANDYというパソコン用のCADソフトが大ヒットだったこともあり、ロイヤリティ収入だけでも十二分に生活出来るだけの収入がありました...

読者からのご質問・ご意見コーナー

最初の質問です。

プログラミングを勉強するようになって、たくさんの言語に挑戦してきました。その過程で、自分に合うものと合わないものがあると感じました。私の場合は HTTP / Javascript などの言語は書きやすいのですが、 Java / Objective-C などは理解はできますがしっくりこないと感じます。これは状況によるのかもしれませんが、中島様は、自分の好きな言語なら最高のコードがかけるタイプのプログラマーと、知識の幅が広く多くの言語でそつ無くコードが書けるプログラマー、どちらがこれから必要になってくると考えるでしょうか?。

少し誤解があるようですが、プログラミングに必要なのは「知識」ではなく...

次の質問は、

「競技プログラミングにおいて成績が良いことは、中島さんの考える『いいエンジニア』としての資質をどれだけ満たしているか」

というものです。結論から先に言えば「それだけで採用を決めるか」とは言いませんが、少なくとも「面接してみよう」とは思います。実際に仕事のパートナーとして...


反面教師としての三木谷発言

kobo touch の初期不良問題に対する三木谷氏の発言にはあまりにも学ぶことが多かったのでひと言。ソースは、日経ビジネス Digital の「細かいことで騒いでいるのは少数派ですよ」という記事。

特に問題なのは冒頭の、

――色々トラブルが起きましたが現状は。

三木谷:いや、いいですよ。初期設定の問題で細かいトラブルはあったけど、2日以内に解消できたし、コールセンターも24時間対応にしたし。アクティベーション(利用できる状況にセットアップすること)した人が購入者全体の95%を超えていますからね。そして、何よりコンテンツが売れまくっている。出版社の人に聞いてみたほうがいいですよ。僕は出版社の驚きように驚いている状況です(笑)。  販売台数は10万台弱程度で、年内目標は100万台。だいたいそこまでいけそうです。やはりユーザーインタフェースがいいんですよね。直感的にできるし、変なボタンもないし、分かりやすいし。評判が非常にいいんです。

という部分。三木谷氏が、ユーザーではなく、出版社の方を向いて商売をしていることが明確に見えて、"Public Relation" としては最悪だ。必要以上に低姿勢になる必要はないが、小売りビジネスをしている限りは「ユーザーのことを第一に考えている」という姿勢を見せるべきだ。

私が楽天の PR 担当だったとしたら、三木谷氏にはこんな感じに答えてもらうだろう。

三木谷:初期設定の件で一部のユーザーにご迷惑をおかけしまったことは大変申し訳なく感じています。コールセンターも24時間対応にしたので、初期設定で困っている方にはぜひともすぐにご連絡をいただきたいと思います。
現時点で、購入後2日以内にアクティベーション(利用できる状況にセットアップすること)できた人が購入者全体の95%を超えています。新製品としては決して悪くない数字ですが、購入していただいた方全員にできるだけ速やかにアクティベーションしていただき、豊富なコンテンツを楽しんでいただくことが、我が社の責任です。そのためにも、これからもあらゆることをさせていただくつもりです。
ちなみに、アクティベーションしていただけた方の間では、コンテンツの販売がとても順調なので、出版社の方々にも喜んでいただいています。販売台数は10万台弱程度で、年内目標は100万台は達成できると見ています。いかに、直感的にコンテンツが購入できるようにユーザーインターフェイスを設計するか、その部分に苦労をしたのですが、効果が出ているようです。

同じ情報を伝えていても、言い方一つで、印象はこんなに変わる。企業のトップのちょっとした不用意な発言が、ボディーブローのように企業イメージを少しづつ悪くする。

 

 


高速増殖炉「もんじゅ」に関するジャイアンとのび太の会話

米エネルギー副長官のポネマン氏が日本を訪問したそうである(参照)。このタイミングで来ることにはとても重要な意味がある。二国間の会話を、ジャイアンとのび太の間の会話に例えると、こんな感じになる。

ジャイアン:のび太、お前まさか、もんじゅを諦めようなんて考えていないよな。
のび太:そ、そんなことないよ。 
ジャイアン:それならよし。もんじゅは、二国間の共同プロジェクトなんだから、勝手に辞めてもらってはこまるんだ。
のび太:分かってるよ。でも、福島の事故以来、みんな核アレルギーになっちゃって、もんじゅのことも、とても怖がっているんだ。
ジャイアン:そりゃそうだよ。今から高速増殖炉を米国内で作ろうとしたら猛反対を受けるさ。だからこそ、もんじゅが大切なんだよ。
のび太: でも、それって...
ジャイアン:ずるいっていうのか。お前、誰が北朝鮮や中国からの脅威から守ってやっていると思っているんだ。
のび太:分かってるけど...
ジャイアン:じゃあ、ごたごた言わずに、もんじゅを続けるんだ。国民の核アレルギーだって、10年もすれば収まるさ。
のび太:ちなみに、シェールガスの件もよろしく頼むよ。
ジャイアン:そのことは日本のエネルギー政策が決まってから話そう。まずは日本が、日米関係をどのくらい大切にしているかをちゃんと態度で示してくれなければ困る。
のび太:分かってるよ。何とか世論を誘導して、原発15%で手を打つ様に最善の努力をしているところなんだ。
ジャイアン:よろしく頼むぜ。日本が同盟国として、核の技術を持ち続けることは米国にとってもとても大切なんだ。ちなみに、この件に関しては、谷垣君にも会って、ちゃんと言い含めおいた。自民党も賛成してくれる手はずになっているから大丈夫だ。
のび太:ありがとう。本当に助かったよ。

 


ソフトウェアはロックンロールか?

最近、仕事にFacebookを活用することが多くなっている。開発中の教育アプリ neu.Tutor のプロジェクト・マネージメントは Facebook Group を使っているし、最近では Facebook が「名刺フォルダー」の代用だ。

先日も、コピーライターで「テレビは生き残れるか」の著者でもある境治氏のプレゼンを見る機会があり、それがあまりに面白かったのでFacebook でフレンドリクエストを送っておいた。これまで、その場では「名刺交換」はしておきながら、その後の繋がりが簡単に切れてしまった人がたくさんいる。Facebook を使うと、そんな人たちとの「ゆるい繋がり」を維持することが可能になる。

ちなみに、その境氏のブログに「ミュージシャンはもう、神様じゃないのかもしれない」という興味深いエントリーがあるので、ぜひとも読んでいただきたい。音楽だけでなく、ソフトウェアでも同じことが起こっている。

私がパソコン用のCAD、Candyを作った80年代の初めには、開発環境も整っていなかったし、ソフトウェアを書ける人間の数が極端に少なかった。だからこそ、大学生の私が学業の合間に作ったCandyを一本4万円で売ることができたのだ。

しかし、今や、中学生でも iPhone アプリを世界に向けて発表できる時代。Candy よりもはるかに機能の多い neu.Notesneu.Draw を無料で配布しなければならない理由がここにある。

私も、たまには、上のブログでも紹介されている佐久間正英氏のようにグチをこぼしたくなることもあるが、こんな時代だからこその楽しみも沢山あるわけで、だからこそこれからもソフトウェアを作り続ける「ロックオヤジ」でありたいと思った次第である。

ちなみに、このエントリーを書いていたら突然アンルイスの六本木心中が聞きたくなったので、下に貼付けておく。当時、ロック好きの友達にコンサートに連れて行かれたのだが、それまでアイドル歌手だとばかり思い込んでいた彼女の歌唱力に圧倒されたことを良く覚えている。


今週の週刊 Life is Beautiful : 7月24日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

今週のざっくばらん

教育アプリ neu.Tutor

開発中の教育アプリ(名称は neu.Tutor に決まりました)金曜日に限定的な発表会をアクティブ・ラーニング社のオフィスで行いました。今回はあえて、マスコミの人や私の関係者を呼ばずに、共同開発社の羽根さんが Facebook 経由で告知する形で、アクティブ・ラーニングの理解者を中心にボランティアの方たちを集めていただきました。発表会では。羽根さんと私で、どんな思いで neu.Tutor を作っているのかを話した後、簡単なデモンストレーションを行いました。その「なぜ neu.Tutor を作っているのか」を文章にすると以下の通りになります...

私の目に止まった記事

Dancing Slowly with Elephants. The Death of WAC

アップルのアプリストアの成功により「土管」となることを恐れたキャリア(通信事業社)が作った WAC (Wholesale Application Community)が結局は何の成果も生み出さずに消えて行く、という記事です。WACが発足したのは、2010年の2月(参照)。日本からはNTTドコモとソフトバンク、米国からは AT&TとVerizonとSprint、という錚々(そうそう)たるメンバーです...

Bing’s Animated Homepage Is What the Face of the Internet Should Look Like

Microsoft の検索サービス Bing を褒めた記事です。私も何度か Bing を試してみましたが、基本的にサーチはブラウザー(Chrome と Safariを併用しています)から直接行うために、結局は Google でサーチすることになっています...

Washington State To Let Voters Register Through Facebook

私が暮らすワシントン州で、選挙の投票者をFacebook経由で登録できるようにした、という話です。記事にも書いてありますが、この次に来るのはFacebook経由での投票です。この記事を読んで、そんな時代も遠くないと思いました...

Google promises 'changes' at Motorola, but mum on details

Google が買収した Motorola ですが、Google が Motorola を買収した一番の理由はパテントであることは業界の常識です。問題は、Motorola の携帯電話ビジネスがどうなって行くかです...

おもてなしテレビ

ブログにも書いた通り(参照)、水曜日にケーブル・コンベンション2011で講演をしました。ケーブル・テレビ業界の人たち向けの講演だったので、まずはなぜ若い人たちがテレビを見なくなっているかを Youtube の面白さ中心に説明した上で、放送業界が生き残るためには何をしなければならないか、という話をしました。以下はそのダイジェスト版です

...

これだけだとまだ理解してもらえないと思ったので、「若い人たちはテレビを見ないで何をしているのか」を説明するために、Youtube を題材に「なぜネットの方がテレビより面白いのか」を説明しました。最初に見せたビデオは、Pepsi が作った Uncle Drew です。

Slide10

...

最後に紹介したのが、この「Lily's Disneyland Surprise」というビデオです。

Slide18

娘の誕生日にディズニーランドへの旅行をプレゼントした母親が撮影したビデオです。これからすぐにディズニーランドに行くのだということを知ったリリーの反応がなんとも可愛くて、見る人の心を和ませてくれます。偶然の産物に過ぎませんが、決して台本のあるドラマでは得ることのできない感動を与えてくれます

...

Slide33

上のスライドは、私が考える理想的なテレビ・放送サービスですが、最も重要な点は「合法的な共有」です...

日本はどうして原発を止められないのか
第一章 日本型エリート(1)

福島第一原発での事故をもたらした経緯、および、事故後の官僚および東京電力の人たちの対応を見るとどうしても思い出すのが、私が学校を卒業して最初に就職したNTTでの経験です。私は当時(卒業したのは1985年)、早稲田大学大学院の電子通信学科で情報工学を勉強していました...

...特にNTTの研究所である通信研究所は、修士号と博士号の取得者が大半を占める、日本の頭脳の粋を集めた研究機関で、電子通信学科の学生のあこがれの的でもありました。社会のインフラを支える国策企業であるという意味では、電力業界の東京電力、放送業界のNHK、のような存在だとも言えます...

読者からのご質問・ご意見コーナー

最初の質問です。

利益を上げていて多少経営に余裕があることもあり、お金は使ってもいいから技術者を投下しようというまさしく「ブルックスの法則」が現実に起こっている状況です。 どうも営業の「頭数」や受託開発の「人月」という感覚から離れられずにいるようです。 現場レベルでは理解している優秀層のエンジニアも多くいるのですがいまいち浸透していません。人数制限という「ルール」を設けようという案もあるのですが、ケースバイケースでもありまた、メンバー全員が理解していないと平気でまた人数が増えてしまいそうです。

会社それぞれのスタイルがあるとは思いますが、どんな複雑なプロジェクトであれ、プロトタイプを作って大まかなアーキテクチャを決める段階では...

同じ方からの質問です。

会社創立の文化もあり、意思決定者に非技術者が多くいます。そのことによりエンジニアにとって大切な「ゾーン」を阻害するメンバーも多くいます(中途半端な感覚でミーティング設定、頻繁に話しかけるなど)。ミーティング時間の制限や物理的隔離など制度により解決できるものなのでしょうか。

私がそんな環境に置かれたら、たぶん...

技術者出身のマネジメント層を増やしたいのですが、優秀な技術者はずっとコードを書いていたい職人タイプが多くいます。なかなかプロダクトマネージャーの魅力を伝えきれずにいます。

得意なことは人それぞれなので、優秀な技術者が必ずしも...

次の質問です。

私は今年度で21歳になる学生です。日本の大学で情報系(プログラミングやソフトウェア設計、ネットワーク設計など)を勉強していたのですが、3回生になると授業の量も徐々に減っていき、就職活動に費やす時間が増えていくことがわかったので中退してしました。現在はカリフォルニアにあるコミュニティ・カレッジで同じ情報系の勉強をしているのですが、そこの教授に、コミュニティ・カレッジを卒業したぐらいでは、シリコンバレーなどでエンジニアとしては活躍できない。あそこの第一線で活躍している人間はみなスタンフォード大学などの超一流大学を卒業しているやつらだと言われました。エンジニアなら自分で作ったアプリやWebサイトなどで力量がアピールできるので、学歴は関係ないだろうという思いがありました。この2年間のコミュニティ・カレッジの時間をひたすらコンピュータの事に費やそうか、名門校への編入を目指し一般教養を履修しようかすごく迷っています。中島様のブログ(http://satoshi.blogs.com/life/2012/06/pana.html)にも書かれていましたが、これからは学歴よりも経験で判断されるのではと思ってますので、私はコンピュータの事に集中したいと考えています。また私は、おもしろく目的が共有できる会社であれば日本だろうがアメリカだろうか、大企業だろうが小さなベンチャー企業だろうが、どこに就職してもいいという気持ちでいます。

米国の会社の場合、一旦会社に入ってしまえば、後は実力主義なので、スタンフォード大学を出ていようと、大学中退だろうと...


Android 搭載セットトップ・ボックスは裸の王様か?

今回の日本出張の一番の目的は、ケーブルコンベンション2012での講演(参照)。「放送ビジネスの将来に関して何でも好きなことを言ってくれ」と頼まれたので、いつもの調子で「セットトップボックスにAndroidを載せれば何とかなる、なんてとんだ勘違い。そんな甘い考え方でいたらケーブル業界は必ず負ける」と言い放ったとたんに会場がどよめいた。苦笑いをする人、しかめ面をしている人、拍手をしている人、など反応は人それぞれであったが、何か「触れてはいけないこと」を私が言ってしまったことは、明確であった。

講演後に知ったのだが、私の講演の直前に、KDDI の田中社長が自ら壇上に上がり Android 4.0 搭載のセットトップボックス「Smart TV Box」を発表してケーブル業界の人たちに協力を呼びかけたばかりだったそうだ(参照)。あの会場のどよめきは、その「鳴り物入り」のKDDIのアナウンスメントに対して、私が思いっきり「王様は裸だ!」と叫んでしまったからこその反応だったのだ。

関係者には「中島さん、狙いましたね」と指摘されたが、それは違う。例によって「Androidさえ載せておけばなんとかなる」という甘い考えの連中が表れるだろう、と牽制球を投げたつもりだったのだが、それがたまたま絶好のタイミングの図星になってしまっただけのことだ(その後に業界関係者から得た情報がまた何とも興味深いのだが、これ以上余計なことを書くと夜道が歩けなくなりそうなので、後はメルマガでつぶやくことにする)。

Android にしろ、HTML5 にしろ、テクノロジーは道具でしかなく、それ自身がゴールではないことを忘れてはいけない。テレビにせよ、セットトップボックスにせよ、「Android 4.0を搭載していること」をユーザーに対して宣伝したくなったとしたら、それは道具でしかない Android搭載 が「目的化」してしまっている証拠である。参考までに、少し前のエントリー「もし日本のメーカーがiPhoneを作っていたら...」向けに描いた絵を下に貼付けておく。

 


エネルギー政策に関し、国が皆さんの意見を募集いています

内閣府の「エネルギー・環境に関する選択肢」に対するパブリックコメントを書きました。せっかくのチャンスです、ぜひとも発言してください。このパブリック・コメントに関しては、WWFの「パブリックコメントに参加しよう!」というページにとても分かりやすい解説が書いてあるので参照してください。

ちなみに、私のコメントは以下の通りです。

◇ ◇ ◇

ゼロシナリオを選択すべきだと思います。

本来ならば、まずは大枠のルールを決めた上で、(1)速やかに脱原発を進める、(2)ゆるやかに脱原発を進める、(3)自然減に任せる、の三つから選ぶべきです。その場合には、0%、6〜7%、12〜15%の三択になるはずで、それならばもっと建設的な議論が可能です。

0%、15%、20〜25%という三択そのものが茶番です。15%の選択肢に「稼働率が70%程度である場合は二機を新設」という条件が入っているのは、すでに脱原発という路線から外れています。

その場合の大枠のルールとしては、以下の5つを提案します。

  1. 新規での建設はしない
  2. 40年で廃炉にする(例外なし)
  3. 独立した規制組織を作る(例外なしのノーリターンルール)
  4. 福島第一での事故の知見に基づいた新しい安全基準作り
  5. 新しい安全基準に合格したもののみ再稼働(バックチェックという詭弁はなし)

それに加え、今回の国会事故調査委員会の報告に基づき、責任者(特に行政側)の刑事責任を問うべきだと思います。万が一の事故を起こした場合には、刑事責任に問われる、という緊張感があってこそ、新しい規制組織の人たちも真剣に仕事をすると思います。


たかが電気、されど電気

メルマガ「週刊 Life is Beautiful」で「なぜ日本は原発を止められないのか」という連載を始めた。通信業界の東京電力に相当するNTTで働いていた経験を活かし、霞ヶ関や東電のエリートが何を考えてあんな行動に走るのかを解説する。ちょうど良いタイミングで先日の「さようなら原発10万人集会」での坂本龍一氏の「たかが電気のためになんで命をさらさなければいけないんでしょうか」という発言が注目を集めているので、このブログでもひと言書いておく。

「たかが電気」という発言に対して「電気を止めたら死んでしまう病人がいる」「真夏にクーラーがかけられなければ、熱中症で死ぬ人がいる」と噛み付いている人がいるが、これらの指摘は大間違いである。日本は、原発を止めたぐらいで、病人の生命維持装置が止まってしまったり、熱中症で死ぬ人が増えたりする国ではない。

本当の理由は別のところにある。日本経済が重度な「原発依存症」にかかってしまっているのだ。

資源の少ない日本のような国にとっては、原発はドーピング剤のようなものだ。放射性廃棄物の問題を先送りにし、事故さえ起こさずに原発で電気を起こすことができれば、化石燃料に頼らずに安定して電気を提供することができる。火力発電と比べて必ずしも安くはないが、大半のお金が化石燃料の購入費として海外に流れてしまう火力発電と違い、原発は大半のお金が原発関連企業やゼネコンを通じて国内に流通する。

莫大な借金をして、原子力発電所を建ててしまった電力会社にとって、いきなり脱原発をすることは、経営破綻を意味する。電力会社が経営破綻すれば、主要銀行が保有している所有している電力債が不良債権化する、保険会社が所有している電力会社の株が紙切れになる。

原発依存症なのは、電力会社や銀行や保険会社だけではない。原発交付金と原発がもたらす雇用に大きく依存している原発の地元も、いまさら原発が止まってしまっては財政が破綻する、原発労働者向けのさまざまなサービスを提供している地元の企業も一気に倒産する。

これまで原発の建設・設置でおいしい思いをしてきた原発関連企業やゼネコンも大きく収入を減らす。もちろん、その傘下に7次受けまでいるほど階層化している下請け企業も大きく収入を減らす。これまで経産省が数多く作って来たさまざなな原発関連の特殊法人・公益法人も存在意義を無くしてしまう。

原発を止めれば、これまで各地の原発のプールに保管することにより先送りして来た使用済み核燃料の最終処理問題を解決しなければいけないことが明白になってしまう。高速増殖炉が見果てぬ夢だったことを認め、「プルサーマル」が単なるさらなる問題の先送りだったことを認めなければならなくなる。

だから日本は原発を止められないのだ。だから「たかが電気」などと言ってもらっては困るのだ。

電力会社も経産省もそして野田総理も、国会事故調の「福島第一での事故の原因は人災」という指摘が正しかったことは十分承知している。しかし、ここまで原発への依存度が高くなってしまった段階で、脱原発などいまさら無理なのだ。

たとえ脱原発をしなくとも、福島第一での事故を教訓にさらに厳しい安全基準など作り、「安全基準にパスしたものだけを再稼働して良い」などと言ったら、ほとんどの原発がしばらく運転できなくなってしまうし、必要な改修には莫大なコストがかかる。即時廃炉せざるを得ない原発も出て来る。電力会社のバランスシートは一気に悪化する。

つまり、脱原発をしなくとも、福島第一での事故を教訓に安全基準を作って厳格にそれを適用しようとしただけで、電力会社はその改修コストと、改修が済むまでの間の化石燃料のコスト増で経営が非常に苦しくなってしまうのだ。

確かに「たかが電気」ではあるのだが、「されど原発は止められない」のが日本の現状なのだ。

急激な脱原発をすると電力会社が経営破綻を起こして日本経済が大混乱する。しかし、安全に原発を運営しようとすると、原発はしばらく再稼働できなくなってしまうし(その間は化石燃料を輸入する必要がある)、原発による発電コストがさらに上昇してしまう。いずれの道を選んだところで、電力会社の経営は非常に厳しくなるし、その影響が、銀行、保険会社、ゼネコンなど数多くの業種に及ぶことは避けられない。東電以外の電力会社にも政府は資金注入をしなければならなくなってしまう。

そんな経済への悪影響を避ける唯一の方法は、「問題を先送りして、多少の危険を承知で原発を運営し続ける」ことなのである。

野田総理の会見にまったく説得力がないのは、そこを正直に言わないからだ。「そんなことをわざわざ言うと国民は冷静な判断が出来なくなる」という愚民思想がその根底にあるからだ。

今問われているのは、「痛みを伴う脱原発に向けて大きく舵を切る」か「問題を先送りして、多少の危険を承知で原発を運営し続ける」の二つに一つだということを忘れてはいけない。「安全に、かつ問題を先送りにせずに原発を安く運営する」というバラ色の選択肢は残念ながら存在しないことを素直に認めなければいけない。

 


今週の週刊 Life is Beautiful:7月17日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

今週のざっくばらん

新しいMacBook

注文していたMacBook(Retina ディスプレイのもの)が届きました。3年前に買ったMacBookからのアップグレードなので、その差は圧巻です。ハードディスクがシリコンディスクになったのも大きいとは思いますが、やはりメインメモリが4GBから16GBへと一気に4倍になったので、xCode が本当にサクサクと動く様になりました。Retina ディスプレイに関しては...

教育アプリ

最後の最後に小さなバグで苦労してしまいましたが、予定通り10日にアプリをアップルの審査に提出することができました。スタートダッシュで一気に仕事をするタイプの私としては、この手の最後の追い込みは逆にあまり得意ではないのですが、「何を今の段階でやるべきか」を一つ一つ判断しながら、慎重に作業を進めました。同時にアプリ名とロゴのデザインも決定したので、ここに貼付けておきます(メルマガ読者限定です)...

私の目に止まった記事

Amazon、「Kindle Fire」のソーシャルゲームサービス「GameCircle」スタート

Amazon の Kindle Fire がまったく使えない中途半端なデバイスだということは前にも書きましたが、デバイスはそのままに、より「iPad に対抗しよう」という方向に加速しているように見えます。前にも書いたように、e-ink を使った白黒の Kindle は本当に素晴らしいデバイスです...

Apple and the Innovator's Dilemma: What an iPad Mini Tells Us 

ちまたには Apple が 7インチの iPad Mini を出すという噂で持ち切りですが、それに関してとても良い解説記事を見つけたので紹介します。しかし、この記事の中頃にあるグラフを見ると、いかに iPad の立ち上がりが良いかが一目で分かります...

Push in U.S. for fewer sales bans for patent infringement

モバイル業界のパテント戦争が激化していますが、「スマートフォンやタブレットを作る際に不可欠なパテントに関しては、そのパテントを理由に安易に発売禁止にしてはいけない」と米国政府が声明を出したとのニュースです。私はそもそもがソフトウェア・パテントやデザイン・パテントを認める法律に反対する立場をとっているので...

「電力網の再発明」を狙う、少壮の天才女性科学者:ダニエル・フォン

再生可能エネルギーにシフトするためには、発電技術だけでなく、送電と蓄電の技術も進化させなければなりません。その意味で、この記事は楽しく読ませていただきました。エネルギーを圧縮空気の形で蓄積する、というアイデアは面白いと思いますが、この女性科学者が天才かどうかと、この技術が実用化できるかどうかは別の話だと思います...

Kill Your Treadmill

テクノロジーの話題でも原発の話題でもないのですが、楽しんで読めた記事なので紹介します。トレッドミル(スポーツジムに並んでいるランニング・マシン)を「イカダで漂流していて何も食べるものがなくなった時に仕方なく死体を食べるようなもの」と酷評しています...

日本はどうして原発を止められないのか(1)
はじめに 

私がシアトルで暮らしはじめたのは1989年の10月なので、今年で足掛け23年になります。今でも日本には年に2〜3度は行くし、日本のメディアにも触れる機会が多いので、日本人としてのアイデンティティを失ってはいないつもりです。しかし、日々の仕事や生活はアメリカ人と過ごしているので、「アメリカ人の目を通して見た日本」というものも良く理解できるようになって来ました。その「アメリカ人の目」からみた事故後の日本は本当に異常としか表現しようがありません...

Windows95誕生ものがたり(24): エピローグ

最後に、Windows95のメンバーで撮影した写真を紹介する。OSのコアの部分を開発しているエンジニアは、私を含めて30人ほどだが、その他に、プリンター、ディスプレー、ネットワークなどの各種ドライバーを作っている人たち、プロジェクトの仕様を取りまとめたり、進捗を管理する役割のプログラム・マネージャ、そして、さまざまなテストをしてくれるテスターの人たち、など大勢の人たちが関わっていたので、総勢だとこのぐらいの人数になる...

読者からのご質問・ご意見コーナー

最初の質問です。

アップルが「喜んで週末働きたくなる仕事」を求める人を求め、中島さんも 「仕事とはそういうものだ」というスタンスだと思います。 しかし、10年連続で「働きがいがある企業ベスト100」に選ばれているSAS instituteは、入社がとても難しく、能力が基準に満たない人は継続勤務が できないなど「優秀な人材であること」という前提がありますが、社員の1日の 仕事量は8~9時間だそうです(参照)。 また、夕方4時になると駐車場の入り口が帰宅する車でラッシュになるという マイクロソフトも40%近い営業利益を上げていることから考えれば、日本の 電機企業などに較べ、はるかに良い仕事をしていると言えるのではないでしょうか。 つまり「喜んで週末働いてしまう企業」でなくとも、働きがいのある仕事は できるのではないか、と考えられるのですが、どう思いますか?

この話をするとどうしても誤解する人が多いのですが、私が「週末も喜んで働きなるような仕事」という時は、「実際に週末働くかどうか」ではなく、「どのくらい仕事を楽しんでいるか」の話なのです...

次の質問です。

今回は思考・視点の切り替えについて質問させていただきます。 私は技術者ですが、案件によっては技術面だけではなく、管理者としての業務も行わなければならないときがあります。しかし技術者ということもあり細部にこだわってしまい、全体像を見失うことがあります。逆に管理という立場を意識し過ぎるあまり、細かいところまで目が届かず上手く方向性を出せなかったりすることがあります。 中島さんはプログラマーであるとともに経営者でもありますが、こうした大きな視点、小さな視点の両方を上手く扱う場合の思考や視点の切り替えについてどのように意識し切り替えていますか?もしよければ経験などを交えておしえてください。 よろしくお願いします。

これは本当に良い質問です。私自身もここが一番難しいと考えています。エンジニアだけでなく、「目の前の仕事を一つづつこなしているうちに全体像を見失う」ことは良くある話です。そんな状態に陥らないためには...


公開インタビューのお知らせ(7月18日水曜日)

5月から「エンジニアtype」でインタビュー記事の連載をはじめた(参照)。普段はスカイプで行っているのだが、7月分はちょうど日本にいるので、公開インタビューという形を取ることにした。詳しくは以下のページをご覧いただきたい。

今回は、メルマガでも質問の多い、開発プロセスの話、エンジニアに必要な気質などの話を中心に、私自身がどんな形で開発を進めているか、私が人を採用する時にどんな所を見てどんな質問をするとか、一緒に仕事をするのであればこんな人と働きたいなど、少し具体的な話をしたいと考えている。