今週の週刊 Life is Beautiful:7月17日号
エネルギー政策に関し、国が皆さんの意見を募集いています

たかが電気、されど電気

メルマガ「週刊 Life is Beautiful」で「なぜ日本は原発を止められないのか」という連載を始めた。通信業界の東京電力に相当するNTTで働いていた経験を活かし、霞ヶ関や東電のエリートが何を考えてあんな行動に走るのかを解説する。ちょうど良いタイミングで先日の「さようなら原発10万人集会」での坂本龍一氏の「たかが電気のためになんで命をさらさなければいけないんでしょうか」という発言が注目を集めているので、このブログでもひと言書いておく。

「たかが電気」という発言に対して「電気を止めたら死んでしまう病人がいる」「真夏にクーラーがかけられなければ、熱中症で死ぬ人がいる」と噛み付いている人がいるが、これらの指摘は大間違いである。日本は、原発を止めたぐらいで、病人の生命維持装置が止まってしまったり、熱中症で死ぬ人が増えたりする国ではない。

本当の理由は別のところにある。日本経済が重度な「原発依存症」にかかってしまっているのだ。

資源の少ない日本のような国にとっては、原発はドーピング剤のようなものだ。放射性廃棄物の問題を先送りにし、事故さえ起こさずに原発で電気を起こすことができれば、化石燃料に頼らずに安定して電気を提供することができる。火力発電と比べて必ずしも安くはないが、大半のお金が化石燃料の購入費として海外に流れてしまう火力発電と違い、原発は大半のお金が原発関連企業やゼネコンを通じて国内に流通する。

莫大な借金をして、原子力発電所を建ててしまった電力会社にとって、いきなり脱原発をすることは、経営破綻を意味する。電力会社が経営破綻すれば、主要銀行が保有している所有している電力債が不良債権化する、保険会社が所有している電力会社の株が紙切れになる。

原発依存症なのは、電力会社や銀行や保険会社だけではない。原発交付金と原発がもたらす雇用に大きく依存している原発の地元も、いまさら原発が止まってしまっては財政が破綻する、原発労働者向けのさまざまなサービスを提供している地元の企業も一気に倒産する。

これまで原発の建設・設置でおいしい思いをしてきた原発関連企業やゼネコンも大きく収入を減らす。もちろん、その傘下に7次受けまでいるほど階層化している下請け企業も大きく収入を減らす。これまで経産省が数多く作って来たさまざなな原発関連の特殊法人・公益法人も存在意義を無くしてしまう。

原発を止めれば、これまで各地の原発のプールに保管することにより先送りして来た使用済み核燃料の最終処理問題を解決しなければいけないことが明白になってしまう。高速増殖炉が見果てぬ夢だったことを認め、「プルサーマル」が単なるさらなる問題の先送りだったことを認めなければならなくなる。

だから日本は原発を止められないのだ。だから「たかが電気」などと言ってもらっては困るのだ。

電力会社も経産省もそして野田総理も、国会事故調の「福島第一での事故の原因は人災」という指摘が正しかったことは十分承知している。しかし、ここまで原発への依存度が高くなってしまった段階で、脱原発などいまさら無理なのだ。

たとえ脱原発をしなくとも、福島第一での事故を教訓にさらに厳しい安全基準など作り、「安全基準にパスしたものだけを再稼働して良い」などと言ったら、ほとんどの原発がしばらく運転できなくなってしまうし、必要な改修には莫大なコストがかかる。即時廃炉せざるを得ない原発も出て来る。電力会社のバランスシートは一気に悪化する。

つまり、脱原発をしなくとも、福島第一での事故を教訓に安全基準を作って厳格にそれを適用しようとしただけで、電力会社はその改修コストと、改修が済むまでの間の化石燃料のコスト増で経営が非常に苦しくなってしまうのだ。

確かに「たかが電気」ではあるのだが、「されど原発は止められない」のが日本の現状なのだ。

急激な脱原発をすると電力会社が経営破綻を起こして日本経済が大混乱する。しかし、安全に原発を運営しようとすると、原発はしばらく再稼働できなくなってしまうし(その間は化石燃料を輸入する必要がある)、原発による発電コストがさらに上昇してしまう。いずれの道を選んだところで、電力会社の経営は非常に厳しくなるし、その影響が、銀行、保険会社、ゼネコンなど数多くの業種に及ぶことは避けられない。東電以外の電力会社にも政府は資金注入をしなければならなくなってしまう。

そんな経済への悪影響を避ける唯一の方法は、「問題を先送りして、多少の危険を承知で原発を運営し続ける」ことなのである。

野田総理の会見にまったく説得力がないのは、そこを正直に言わないからだ。「そんなことをわざわざ言うと国民は冷静な判断が出来なくなる」という愚民思想がその根底にあるからだ。

今問われているのは、「痛みを伴う脱原発に向けて大きく舵を切る」か「問題を先送りして、多少の危険を承知で原発を運営し続ける」の二つに一つだということを忘れてはいけない。「安全に、かつ問題を先送りにせずに原発を安く運営する」というバラ色の選択肢は残念ながら存在しないことを素直に認めなければいけない。

 

Comments

Yoshiaki Watanabe

ご意見に同意します。

さらにいうと、国民は「政府は我々を愚か者扱いしている」と気づき始めているのに、政府/官僚が国民の意識の変化に気づいていないのが根本問題なのではないでしょうか。愚民ならぬ愚政府・愚官僚ですね。

政府は投票で入れ替えることが出来ても、官僚のクビを投票ですげ替えることは出来ません。それをいいことに今や政府は官僚の出先機関になってしまっているように思えます。これではいくら投票行動で政府を変えたところで、国民の意思は政策に反映出来ません。

ただ、以前と違って3.11以降、国民はそのことに気づき始めていると思います。例えば橋下大阪市長待望論などはその一つの表れだと思います(私自身はあまり支持していませんが)。

国民の意識の変化を官僚が無視/軽視し続けると、本当にこの国の将来は危ういと思います。

Naoki INADA

完全に同意します。

付け加えさせていただくとすれば、火力を使っても結局温暖化等の問題は先送りにしていること、しかも、
大量の燃料購入により「今」途上国の人を虐めることになることも考えた上で、原発再稼働問題を考えて
欲しいと思います。

Waru_rakko

現状認識には、完全同意なのですが、選択肢に、痛みを伴うより安全な原発再稼働の道、がないのかが不思議です。
自分は、痛みを伴うより安全な原発再稼働の道を選びたいです。
現状の代替案である化石燃料の諸処のリスク(特に、地政学的リスク)と、科学技術のより発展の可能性を考えると、
それでも原子力はありだと思えるのです。もちろん、より痛みを伴う安全のための廃炉、点検も考えた上で、です。
いくも地獄、かえるも地獄。自分は前に進みたいですね。

Jinriki Gakari

確信犯的に原発を進めてきたことが腹立たしいです。
事故が起きても責任取らず。
温暖化にしても、二酸化炭素が増えて気温が上がるのか、気温が上がると二酸化炭素が増えるのか
IPCCはじめ温暖化研究者の方々に言わせると、この因果関係は分からないそうです。
それやのになぜCO2?っとなります。
子供のいじめが問題になっていますが、子供は大人を見て育ちます。
子供に残すことになる使用済み核燃料は何万年と管理しないといけません。
責任ある大人の行動、責任ある政治をしていってほしいものです。

Keyey Nakayama

わかりやすく正しいと思いました。

一方で、あなたの中にも私の中にも
そして賢く間違いたくない人
友達に「さむい」と思われたくない人
すべての人の自我の中に「愚民思想」が存在するのでは?
と問いかけさせていただきます。

少なくとも
昨日の代々木の数割の人、坂本龍一も
このエントリーに書かれたことを、うっすらでも
分かった上で、それでも今、声を大きくすることが

政府の情報開示や
「痛みを伴う脱原発に向けて大きく舵を切る」
ことにつながる、効果的な道だと踏んで、やっています。

話題にもならない、今までのままで
どうやって議論や、正しいことを導きだしますか?

その方法を言わないで批判する人が多すぎて
(あなた様のことではこざいません)うんざりしたりします。
うんざりしたり、嬉しかったりの今日この頃です。

Yog3

「電気を止められたら」という指摘に「原発を止めたくらいで」と返しては話が噛み合いません。
坂本氏の発言は「たかが電気」です。電気は原発のみで作られるものではありません。「原発」を止めよというのが坂本氏の真意でしょうが、出たのは「電気」そのものが要らないかのような言葉です。
坂本氏の発言を原発を止めたくらいでと肯定するのには無理があります。彼の真意はこうなのだろうが、原発に的を絞った言い方をすべきだと指摘して、資源の少ない日本云々の話に繋げるべきだったと思います。
坂本発言に噛みつく人は、原発と電気そのものを一緒くたにしてしまう思慮の浅さに不信の念を抱き、そんな非論理的な発言を支持・許容してしまっている(ように見える)人々へも反発しているのではないでしょうか。

知らぬ幸せ

この方は福一事故の深刻さをりかいしてない。放出された放射性物質の9割が海に流れたからあれだけの被害で済んだのです。もし風向きで全部内陸部へ流れていたら東北南部と関東は人が住めない程の汚染地域になったでしょう。移住は事実上不可能でしょうから、十年後にかなりの人が子供を含めガンになる覚悟で生活することになる、これは妄想ではなく、論理的に考えれば当然の結論です。日本のほとんどの原発は活断層の上あるいは近くにあり、巨大地震が起きる確率は高い。福一事故が地震で起こったことは最近の情報から明らかです。また、日本の統治システムが安全に稼働させるには問題があることも明らかです。原発保有国で地震のリスクが一番大きい国は日本。上記の事情を考えれば再稼働のリスクが如何に大きいか分かるでしょう。だからと言って私は即時全廃を主張しているにではない。大きな事故のリスクを考慮して、安全対策を十分準備してから最小限の原発を稼働させる努力をすべき。大飯原発でで事故が起これば日本経済は致命的打撃を受ける。汚染国の製品の輸出は困難になるのは明らか、富裕層は日本から逃げるでしょう。このリスクは半端でないことをもっと理解すべきではないでしょうか。

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