市場原理と環境保護という二つの力が、米国を脱原発へと向かわせている
2012.08.09
一時期は、nuclear renaissance(原発ルネッサンス)という言葉で、スリーマイル島での事故以来低迷していた原発業界が復権を取り戻しつつあった米国。福島第一での事故以来、安全基準はより厳しくなってコストは上がる一方だし、「地球にやさしい」はずだった原発が、フロントエンド(ウランの採掘)でもバックエンド(使用済み核燃料)でも環境に全くやさしくないことが明確になって来ており、旗色は悪くなる一方だ。
コストに関しては、ジェネラル・エレクトリックのCEO、Jeff Immet が「原発のコストは他の発電コストと比べてあまりに高くなりすぎ、やる理由をもう正当化できない」(参照)と事実上の敗北宣言をしたのが象徴的だ。
事故を起こすたびに規制が厳しくなりコストが上昇する原発と比べ、規模の経済が上手に働く太陽発電や風力発電のコストが毎年のように下がっている。原発業界は、厳しくなる安全基準と、毎年安くなる自然エネルギーとの価格競争との間に板挟みになっている(参照)。
これだけでも十分に米国を脱原発に向かわせる理由になるが、さらにそれに追い打ちをかけるのが先週決まった NRC による原発ライセンスの新規発行と更新の停止だ(参照)。使用済み核燃料の最終処理問題を規制当局ぐるみで先送りにして来たことに関して、裁判所が環境破壊行為であることを認め、問題を先送りしたままで原発ライセンスを発行することに制限をかけたのだ。
日本では、この判決に関してはあまり報道されていないようだが、私はこれがターニングポイントになって米国は脱原発に向かうと見ている。高レベル放射性廃棄物の最終処理場問題は、あまりにも問題が大きく、オバマ大統領としては大統領選前には触れたくない問題だ。たとえ選挙に勝ったとしても、先送りし続けたい問題であることには代わりがない。
そして、米国政府が最終処理場問題を先送りし続ける限り、新規の原発はもちろんのこと、既存の原発も40年稼働してライセンスが切れたものから廃炉にせざるをえなくなる。日本のように大騒ぎをしなくとも、ゆっくりと、しかし着実に脱原発へと向かうのだ。
すでに大半の米国の投資家から見れば、「エネルギーのベストミックスは風力+太陽光+天然ガス」であることが明らかだ。市場原理と環境保護という二つの力が、米国を脱原発へと向かわせている。
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