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原発比率15%を「落としどころ」として画策する霞ヶ関の狙い

民主党がようやく国民の声に耳を傾けはじめたことはとても良いことだが、「2030年における原発比率」にばかり重きを置いて議論すると、「2030年に0%にすることは現実的ではない」「急激な脱原発は経済への影響が大きすぎる」などの「現実論」との話とごっちゃになってしまう。

今の段階で国としてすべきことは、エネルギー政策の方向性(原発を将来もエネルギーミックスの一つとして許容するのか、しないのか)と安全性に関する姿勢(今までの安全神話路線をやめて、本当に独立した規制組織を作る覚悟があるのか、ないのか)を明確にすることである。

国民に選択させるのであれば、「2030年における原発比率0%、15%、20〜25%」などと数字ではなく、国としての原発に対する姿勢がどうあるべきか、という方向性を問いただすべきである。

私であれば、以下の4つを選択肢として国民に提示する。

  1. 原発の再稼働はやめ、すべての原発をただちに廃炉にする。
  2. 国民の安全を第一に考えて、新たな安全対策を施した原発のみ再稼働し、新設と期間延長を認めずに原発をゼロにして行く。国民の安全を第一に考える人たちから構成される独立した原子力規制委員会を作り(ノーリターンルールに例外は認めない)、ここが作った新たな安全指針を100%満たした原発のみを再稼働する。その際、活断層調査、地震対策、津波対策、ベント、免震重要棟などを先送りすることは許さない。
  3. 経済への影響と国民の安全をバランス良く考え、必要に応じて多少安全性を犠牲にしてでも、日本社会に過剰なストレスを与えない形で、徐々に原発をゼロにして行く。原子力規制委員会は国民の安全性のみではなく経済への影響や電力会社の経営状況を考えた上で、必要に応じて、それなりに安全な原発から再稼働を許可して行く。活断層調査、地震対策、津波対策、ベント、免震重要棟のようなコストと時間がかかるものに関しては、すぐに対応せずとも、計画さえあれば再稼働を許可する。必要に応じて、40年以上の運転や新設も認める。
  4. 原発への過度の依存はしないが(=脱原発依存)、将来も原発をエネルギーミックスの一つとして許容する。

ここで注目して欲しいのが2と3の違い。2は国会事故調が提言した新しい形の安全規制だが、3は今までの安全神話をそのまま踏襲したもの。福島第一での知見を生かして日本の原子力規制の仕組みを抜本的に変えるか変えないかが、この違いに集約されている。

問題は、国民の多くが1もしくは2を望んでいるにも関わらず、官僚や経団連の中には未だに4を正しい選択肢と考える人たちがいることにある。野田総理が「脱原発」ではなく「脱原発依存」というわけの分からない曖昧な言葉を使う理由もここにある。

そんな綱引きの中から、3(もしくは2の衣を着た3)を「妥当な落としどころ」として国民に納得させようというのが霞ヶ関の官僚たちの狙いであり、国会事故調の「第三者委員会に人事案を出させるべき」という提言を無視して政府が出して来た原発規制委員会の人事案なのである。

そして、国が「妥当な落としどころ」として提示した15%にすら国民が拒絶反応を示すのであれば、「2030年にゼロは現実的に無理なので、2030年代にゼロを目指す」という新たな落としどころを見いだし、最も重要な部分(2なのか3なのか=安全神話から脱却するのかしないのか)を曖昧なままにして国民に納得してもらおう、というのが今の政府の立場なのである。

民主党が本音のところで2なのか3なのかを見極める一番良い方法は、今回の原子力規制委員会の人事案を白紙撤回するか、そのまま国会での採決にかけるかを見れば良い。今回の人事は、選別のプロセスが不透明で、経産省の役人が選んだと言われても仕方が無いものだ。本気で原発神話から脱却したいのであれば、この人事こそが鍵だ。民主党がマニフェストに脱原発を掲げようが掲げまいが、この人事案への対応を見れば民主党の本音が分かる。


今週の週刊 Life is Beautiful:8月28日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

今週のざっくばらん

教育アプリ neu.Tutor

先々週、ようやく Release Candidate と呼べるレベルに達した neu.Tutor ですが、週末をまたいで bug bash を行いました。ここまで毎日のように変更を加えて来ましたが、あえて週末の間はコードに変更を加えずに「寝かせ」て徹底的にテストすることにより、これまで見逃していたバグの発見と、ユーザー・インターフェイス上の問題点を洗い出そうという試みです...

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Samsung ordered to pay Apple $1.05B in patent case

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UIEvolution 起業ものがたり(4):Brian MacDonald ふたたび

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日本はどうして原発を止められないのか
第二章 官僚主義と民主主義(2)

国家がそんな「管理社会」になってしまうことを防止するための仕組みが、「三権分立」と「言論の自由」です。 「三権分立」は、国を、法律を作る国会(立法)、国を運営する内閣(行政)、法律に基づいて人や法人を裁く裁判所(司法)の三つの独立した機関に分け...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週の質問です。

先日、佐々木俊尚のこのコラムからTwitterなどで多くの意見が交わされました。大半の意見はこのコラム通り、海外の大学を卒業した日本の学生は日本の企業では求められていないと言うものでした。現在アメリカに留学中の私にとってこの記事は衝撃的でした。しかし、日本で働けないからそのままアメリカで仕事を見つけようといってもそう簡単なことではありません。就労ビザを取得するのもなかなか大変だと聞きます。海外の大学に入学した以上、やはりチャンスがあるなら海外で仕事を見つけることがベストな選択となってくるのでしょうか?またこの日本企業の村社会的な組織体系はいったいいつまで続くのでしょうか?

今、日本全体が大きな意味での「まがり角」に来ているのだと思います。終身雇用制、経団連、官僚主義などの戦後の高度成長経済を支えて来たさまざまなシステムが時代遅れに...


私にとってのブログと有料メルマガの違い

有料メルマガのポジショニングに関してさまざまな議論が盛り上がっているので、私なりの意見を表明しておく。

ブログを書くことは私にとっては基本的にエンターテイメント=「遊び」である。

ブログにはてなブックマークが付きはじめた時には楽しくて、どうやったら「はてなのホットエントリー」に私が書いた記事を3つ同時に載せることが出来るかを試みた(2つは何度も達成できたが、3つは非常に難しく、たった一度だけ達成した)。

「皆が漠然と感じていることを分かりやすく表現する」というのもある意味ではゲームである。

もし日本のメーカーがiPhoneを発売していたら... などは典型的な例だ。説明を一切書かず、疑似広告一つで日本のメーカーの問題点を端的に表現できるかという実験でもあった。

とある家電メーカーでの会話:クラウドテレビ編 とか 福島第一の「冷温停止」について は、対話形式である明確なメッセージを伝えることが出来るか、という課題を自分に与えた結果のものだ。

この手のことは、オープンなネットの場でしか出来ない。できるだけ大勢の人に読んでもらうことを狙い、出来るだけ分かりやすく、シンプルなメッセージを発信し、それをちゃんと伝えることができるか、どれだけ沢山の人に理解してもらえるかが、この「ブログを書く」というゲームのゴールでもある。

ブログを書く際には、読む人を楽しませることを意識してはいるが、それは読者のためではなく、自分のためである。「自分が書いた文章を読んで楽しんでくれる人がいる」ということが自分にとって楽しいから、ブログを書くのである。

これと比べると、「有料メルマガ」を書く時の意識は大きく違う。私にとって、「有料メルマガ」を書くという行為は「遊び」ではなく、「仕事」である。お金を払ってまで私のメルマガを購読してくれている読者に対し、十分な「価値」を提供すること、それがメルマガを書く時に私が意識することである。

先週は、Apple と Samsung の特許闘争に関する英文の記事を勉強の題材として取り上げて解説した。しかし、その記事を読みこなすには「"standard essential patents" とは何か」を理解することが必須だ。ブログではそんな面倒なトピックはあえて避けるが、大半のメルマガの読者にとってはそれは「新しい知識」だろうし、逆に私から見れば「業界で働くのであればぜひとも理解して欲しい言葉」である。

それならば、「この記事を題材に、今週はメルマガ読者全員に『"standard essential patents" とは何か』を理解するという価値を提供しよう」という発想になる。これは今までのブログに対する私の行動とは明らかに違う。

では、お金を出して買ってもらう書籍の執筆と同じかと言えば、それとも少し違う。書籍はある意味で「売りっぱなし」だが、メルマガは読者との関係は継続的で、かつ、双方向である。一度でも大きく期待を裏切れば、そこで購読を打ち切られてしまう。

「メルマガ書き」という商売は、私のようにまだ現役でバリバリとソフトウェアを作っている人間にとっては決して簡単な仕事ではないが、そこにある意味で心地よい緊張感が生まれる。以前よりも時間をもっと大切に使う様になった。ネットの記事をより真剣に読むようになった。

なんだか散文的になってしまったが、これがメルマガ「週刊 Life is besutiful」を書きはじめてもうすぐ1年になる私にとってのメルマガである。


ザッカーバーグの面接試験2:アクティビティ・インディケーター

先日の「ザッカーバーグの面接試験:Objective-C のブロックを使いこなす」には数多くの答えをいただいたので、それに気を良くして第二問。これも iOS 用だが、先の問題と違い、この問題は初級者〜中級者向けだ。

[問題]

iOS ではステータスバー上のアクティビティ・インディケーターの ON/OFF は、[UIApplication sharedApplication] の networkActivityIndicatorVisible プロパティに YES/NO をセットすることにより行います。そのため、複数の非同期通信を同時に行うアプリケーションの場合、少なくとも一つの非同期通信が行われている時だけ YES にする仕組みを作る必要があります。

そこで、NetworkActivityManager というシングルトン・クラス(インスタンスを一個しか持たないクラス)を作り、非同期通信中はそのシングルトンへの strong reference を保持する、という規約でアクティビティ・インディケーターをコントロールすることにしました。

使い方は、非同期通信の開始時期に、

    self.activity = [NetworkActivityManager sharedInstance]; // activity は strong reference

と strong reference を保持し、非同期通信の終了(もしくはキャンセル時)に

    self.activity = nil;

とリリースします。

さてここで問題です。NetworkActivityManager クラスを可能なかぎりシンプルに実装してください。また、このケースで、シングルトンへのstrong referenceを使う利点と欠点を述べてください。

制限時間:15分

 

 

 

 


今週の週刊 Life is Beautiful:8月21日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

今週のざっくばらん

教育アプリ neu.Tutor

4月から開発を続けてきた neu.Tutor ですが、先週、ようやく Release Candidate と呼べるレベル段階に達しました。ここから最後のテストと、UI とデザインの微調整をした上で、アップルへの申請となります。最近は、審査待ちに10日ほどかかるので、実際にストアに並ぶのは9月前半になる予定です...

私の目に止まった記事

Ten Things I Hate About Working at Facebook

色々なところに紹介されていたので、既に読んだ人も多いと思いますが、ぜひとも原文で読んでいただきたいと思います。表向きは「Facebook で働いて嫌なこと10個」となっていますが、実際にはすべての項目が 「Facebook がエンジニアにとっていかに働きがいのある場所か」を宣伝する文章になっています...

Badminton and the Science of Rule Making

先週もこの話に触れましたが、私もこの筆者と同じく、これは「わざと負けた方が有利になる」システムを作った主催者側に責任があり、わざと負けた選手を批判するのは間違っていると思います。スポーツに限らず、人々の行動が必ずしも好ましくない方向に向いている場合には...

Margaret Heffernan: Dare to disagree

Facebook でも紹介しましたが、賢い人たちが沢山いるはずの経産省が、なぜこれほどまでに欠陥だれけのエネルギー政策を押し進めて来てしまったのかを理解するにはとても良いビデオなので、ぜひとも時間を作って見ていただきたいと思います...

Apple FRAND win over Motorola slashes Google's patent power

最近は、Apple と Samsung の間のパテント合戦ばかりが注目されていますが、実はその後ろで、Google が、Motorola の買収により取得したパテントを使って、なんとか Apple からの譲歩を引き出そうとしていることがこの記事を読むと見えて来ます...

Already Valued at $4B, China’s Xiaomi Has Declared War on Apple

先日、業界関係者にNokiaの将来について質問されたので、「Microsoft と作っている Windows Phone が成功するかどうかに全てがかかっていると思う」と答えました。というのも、Nokia がこれまで強かった開発途上国向けのフィーチャー・フォンの市場は、中国や台湾から出て来る安価な携帯電話に駆逐されてしまうことはほぼ確実だからです...

Top 25 medal-winning nations

さまざまなデータをいかに分かりやすく表現するか、というビジュアリゼーションのテクニックにはさまざまなものがありますが、各国のメダル取得数をとても分かりやすく表現した図を作った人がいるので紹介します...

UIEvolution 起業ものがたり(4):Srini Koppolu 

「ブラウザー上で走るワープロ」というアイデアで頭が一杯だった私は、Windows グループ内部でこの話をしていても拉致があかないと判断して、Office グループの知り合い Srini Kappolu に連絡をしました。Srini は Microsoft Office チーム全体のアーキテクトで、「Internet Explorer でウェブ上の Office ドキュメントを直接開く」というプロジェクトの時に一緒に働いた経験がありました...

日本はどうして原発を止められないのか
第二章 官僚主義と民主主義(1)

こんな環境に置かれているNTTや役所の「キャリア組」の人たちは、どうしても「エリート意識の呪縛」に捕われて行きます。「自分たちは選ばれた人間だ」「会社の方針を決めるのは自分たちだ」「非キャリア組の人たちに会社や組織に対する不満や不安を持たずに仕事をしてもらうのが自分たちの仕事だ」「非キャリア組の人たちに中途半端な生の情報を与えるのは必ずしも良くない」という感覚です...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週の質問です。

以前から中島さんが指摘されているように、日本では正社員を辞めさせることが
非常に困難なために、人件費(固定費)の削減が容易でないという問題がありま
す。十分な利益が確保できないという状況下にかかわらず、成長が止まり貢献も
出来なくなったのに維持費の高い中高年や、会社が何かしてくれるのをじっと
待っているだけの指示待ち社員が問題になっています。

リストラで大鉈をふるることができないため、最近はどこの大企業でも社員に対
し、「変われ、変化しろ」ということをしきりに言っているようです。

質問ですが、上記のようになってしまっている社員に「変わること」ができると
中島さんは思いますか? もしできるとしたら、どんなことができると考えますか?

とても難しい問題だと思いますが、一つだけはっきり言えるのは、そんな状況で「変われ、変化しろ」と言ったところで人々の行動は変わらない、という点です...


米国が原子力規制委員会のトップに地質学者を選んだ理由

日本では、原子力規制委員会のメンバーの選択プロセスに問題があるとの指摘がある。国会の事故調査委員会の報告書には人選そのものを第三者委員会に委ねることが大切と明記してあるにも関わらず、いつものように「官僚が政治家に代わって人選を行い、政治家はそれをそのまま受け入れる」という官僚主導でものが進んでいる。

一方、米国では、日本の原子力着せ委員会に相当するNRC(Nuclear Regulatory Comission)のトップに地質学者、Allison M. Macfalane が選ばれたことが報じられている(参照)。彼女がトップになってから、使用済み核燃料の最終処理問題が片付くまではこれ以上原発を増やすべきではないと、新規原発および既存原発のライセンスの延長を凍結した。

それに加え、「既存の原発の耐震基準は時代遅れで不適切であり、最新の知見に基づいた安全基準の根本的な見直しが必要」と主張する彼女の姿勢は、日本の新しい規制委員会にもぜひとも見習って欲しいものだ。

上のニューヨーク・タイムズの記事は、なぜオバマ大統領が彼女を NRC のトップに選んだかの理由についてまでは踏み込んでいないが、これまで地質学者を選んだ前例がないこと、今回が福島第一での原発事故後最初の人選であることを考えれば、放射性廃棄物の最終処理と、福島第一のような事故を二度と起こさないための安全対策の見直しにプライオリティを置いて彼女を選択したことは明らかだ。

【追記】参考までに、彼女が放射性廃棄物の最終処理に関しての意見を表明したビデオを貼付けておく。

 


今週の週刊 Life is Beautiful:8月14日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

今週のざっくばらん

教育アプリ neu.Tutor

怒濤のように続いていた neu.Tutor の開発ですが、ようやく「Feature Complete」と宣言できる段階に到達しました。私が関わるプロジェクトでは、ほとんどの場合が、以下のような5つのフェーズから成り立っています...

私の目に止まった記事

Apple's Most Overlooked Weapon? Its Balance Sheet

「Steve Jobs の素晴らしさは分かるけど、Tim Cook って Apple で何をして来た人なのか分からない」と感じている人にはぜひとも読んでいただきたい記事です。Apple に関しては、商品(もしくはそれが提供するライフスタイル)そのものの価値ばかりが注目されていますが、実は...

Samsung takes 45% of European market

携帯電話のマーケットは国ごと、地域ごとに大きく異なるので、世界全体のシェアだけを見ていてもなかなか何が起こっているかを掴みにくいと思います。この記事は、ヨーロッパのスマートフォン市場の45%を Samsung が握っているという情報です...

Nokia's WP8 launch may come within a month

上にも書きましたが、Nokia としては一日でも早くApple iPhone vs. Samsung Galaxy の戦いに参戦したいところです。Windows Phone 7.5 を搭載した Lumina 900 はとても良く出来たスマートフォンですが、Microsoft の知り合いによると、コアのOSが Windows CE であり、扱えるメモリーの量が圧倒的に少ない点...

How Long Before Facebook Writes Off Its $1B Purchase of Instagram?

「いつになったらFacebookは(買収の失敗を認めて)Instagramの買収金額 $1B を損失として計上するか」という手厳しい Forbes の記事です。なぜ Facebook は Instagram をあれほどの高額で買収したか、に関しては色々な意見を聞きますが、私は...

Why many entrepreneurs come across as jerks

米国では、ベンチャー企業を興す人たちのことを entrepreneur と呼びます。日本語訳は「起業家」ですが、「起業家」「実業家」のように家を最後に付けると、それが「家業=生計を立てるための職業」となってしまい、本来の entrepreneur という言葉の持つ「この世の中に変化をもたらしたい」「人々のライフスタイルを変えるぐらいの何かを作りたい」という、お金に関係のない部分のニュアンスが消えてしまうのが少し残念です...

かつて「二度と人員整理をしない」と誓ったシャープ

シャープだけでなく、ソニーやパナソニックが次々に人員削減を発表しています。「日本の終身雇用制もそろそろ崩壊しはじめた」と感じている人も多いとは思いますが、米国の雇用関係とは全く異なります。まず第一に、日本の大企業による人員削減は、定年退職で辞めて行く人の数よりも新卒の数を少なくすることによる「自然源」と、早期退職奨励プログラム(定年前に辞めた人に割り増しの退職金を渡すこと)による「希望退職」で実現します...

Facebook Asks Federal Court To Respect A First Amendment Right To 'Like'

この記事は、色々な意味でとても興味深いのでぜひとも読んでいただきたいと思います。簡単に解説すると、"First Amendment" とは米国憲法に定められた「表現の自由」のことです。「意見の表明」を理由に従業員を解雇して良いかどうかが第一の問題で、Facebook で「いいね」ボタンを押すことが「表現の自由」で認められた「意見の表明」に相当するかどうかが第二の問題です...

欧州議会が否決したACTAを日本が推進する理由

表現の自由と言えば、ヨーロッパは「ネットでの表現の自由を奪う」という理由で ACTA への批准を拒否しましたが、日本では特に大きな反対もなくこのまま批准してしまいそうです。「原発の再稼働反対」よりももっと重要なことかも知れないのに、ほとんど国民の間での議論もなく、こんな重要な条約の批准をして良いものかいささか疑問です。ACTA に関しては、神保氏が分かりやすい解説をしているので...

UIEvolution 起業ものがたり(3):次世代アプリケーションの形

私が「ブラウザー上で走るワープロ」というアイデアを提案した一番の理由は、従来型の OS におけるアプリケーション・アーキテクチャが根本的に間違っているのではないか、という疑問が湧いていたからです。特にそれを強く感じたのは、Windows 95 をリリースした後に、「DLL Hell」と呼ばれたアプリケーションの相互作用によりシステムが不安定になる問題の対処にあたった時でした...

日本はどうして原発を止められないのか
第一章 日本型エリート(4)

次にショックだったのが、「キャリア」という考え方です。刑事ドラマなどで聞いたことがある人も多いと思いますが、役所や役所に準ずるようなところでは、採用の時点で出世コースが決まっており、その中で最初から「幹部候補」として採用された人たちのことです。NTTの場合、本社採用の大卒を「A採」(キャリア組)、支社採用の大卒を「B採」、支社採用の高卒を「C採」と分類し...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週の質問です。

私は、某外資系ネットワークメーカーでネットワークエンジニアをしているものです。(31歳)
中島さんのメルマガを読んでいるうちに、私もメルマガで情報を発信してみたいと考えるようになりました。メルマガの一部では、ネットワークテクノロジーの情報や海外のニュースについての情報を発信しようと日々ネタを集めようとしていますが、効率が悪いせいか、情報収集になかなか時間が割けておりません。中島さんの「私の目に止まった記事」では、非常に幅広い情報を集めておられ、見ている量もかなりのものだと思われます。そこで、中島さんが日頃どのように(時間、ニュースサイト、クリップ方法等)情報収集を行っているかについて教えていただけますでしょうか。

情報の収集にあまり特別なことはしていませんが、興味のある企業に関する企業情報の...


風が吹くと原発が止まる

昨日も「市場原理と環境保護という二つの力が、米国を脱原発へと向かわせている」という記事を書いたが、安全コストと環境問題で窮地に追いつめられる原発産業と比べ、再生可能エネルギー派の人たちにとって追い風なのは、Obama 大統領による再生エネルギー事業に対する税金優遇政策だ。

大統領選で Obama と戦う共和党の Romney は、「再生可能エネルギーは非現実的」と Obama の政策には反対を唱えているが、現に Obama 政権になってから 風力が 50 GW、太陽光が 5 GW の発電量を持つまでに至ったことの評価は高い(参照)。50 GW あればそれだけで原発11個分に相当し、1300万世帯(太陽発電と合わせれば1500万世帯)に既に電力を提供している(参照)。「非現実的」と呼べない規模になってきた。

Obama が大統領選に勝ってさらに4年間の税金優遇政策が続けば、米国内での再生可能エネルギー事業への投資はさらに膨らむ。規模の経済でさらにコストが下がれば、火力も含めた本当の意味での「grid parity(電力会社から買う価格よりも安い価格で発電すること)」を実現する日も遠くない。

日本の原子力ムラがどんなに抵抗しようが、この世界的な流れはもう止められない。今どき、津波対策のために原発の周りに堤防を築くなんて無駄な設備投資をしているのは日本だけだ。


市場原理と環境保護という二つの力が、米国を脱原発へと向かわせている

一時期は、nuclear renaissance(原発ルネッサンス)という言葉で、スリーマイル島での事故以来低迷していた原発業界が復権を取り戻しつつあった米国。福島第一での事故以来、安全基準はより厳しくなってコストは上がる一方だし、「地球にやさしい」はずだった原発が、フロントエンド(ウランの採掘)でもバックエンド(使用済み核燃料)でも環境に全くやさしくないことが明確になって来ており、旗色は悪くなる一方だ。

コストに関しては、ジェネラル・エレクトリックのCEO、Jeff Immet が「原発のコストは他の発電コストと比べてあまりに高くなりすぎ、やる理由をもう正当化できない」(参照)と事実上の敗北宣言をしたのが象徴的だ。

事故を起こすたびに規制が厳しくなりコストが上昇する原発と比べ、規模の経済が上手に働く太陽発電や風力発電のコストが毎年のように下がっている。原発業界は、厳しくなる安全基準と、毎年安くなる自然エネルギーとの価格競争との間に板挟みになっている(参照)。

これだけでも十分に米国を脱原発に向かわせる理由になるが、さらにそれに追い打ちをかけるのが先週決まった NRC による原発ライセンスの新規発行と更新の停止だ(参照)。使用済み核燃料の最終処理問題を規制当局ぐるみで先送りにして来たことに関して、裁判所が環境破壊行為であることを認め、問題を先送りしたままで原発ライセンスを発行することに制限をかけたのだ。

日本では、この判決に関してはあまり報道されていないようだが、私はこれがターニングポイントになって米国は脱原発に向かうと見ている。高レベル放射性廃棄物の最終処理場問題は、あまりにも問題が大きく、オバマ大統領としては大統領選前には触れたくない問題だ。たとえ選挙に勝ったとしても、先送りし続けたい問題であることには代わりがない。

そして、米国政府が最終処理場問題を先送りし続ける限り、新規の原発はもちろんのこと、既存の原発も40年稼働してライセンスが切れたものから廃炉にせざるをえなくなる。日本のように大騒ぎをしなくとも、ゆっくりと、しかし着実に脱原発へと向かうのだ。

すでに大半の米国の投資家から見れば、「エネルギーのベストミックスは風力+太陽光+天然ガス」であることが明らかだ。市場原理と環境保護という二つの力が、米国を脱原発へと向かわせている。


ザッカーバーグの面接試験:Objective-C のブロックを使いこなす

Facebook もようやくモバイルの重要性を認識したらしく、スマートフォン・アプリの開発経験者を募集している。そこで、「私が Facebook の面接官だったら」という仮定のもとに試験問題を作ってみた。iOS 未経験者がいきなり解くのは無理だが、「iPhone アプリならば毎日のようにバリバリと書いています」と主張するエンジニアの実力のほどを計るのに程よい問題だ。

問題

iOSでは、HTTP 経由でデータをサーバーから取得する場合、NSURLConnection を使います。しかし、一つのコントローラーから複数の HTTP リクエストを同時に発行する必要がある場合、コントローラー自身を delegate にして複数の NSURLConnection で共有すると、プログラムの可読性がどうしても落ちてしまいます。そこで、可読性を増すために、ブロックを活用した HTTPLoader というヘルパークラスを作ることにしました。使い方はこんな感じです。

        NSURLRequest* request = ...
[HTTPLoader loadAsync:request
complete:^(NSData* data, NSError *error) {
if (data) {
// Success: process the data
} else {
// Error: process the error
}
}];

そこで問題です。

HTTPLoader を実装してください(ただし、iOS 4.x 上でも動くように iOS 5.0 で追加された機能は使わないでください。また、紙の上ではなく、xCode を使って実際に動作確認しながら作って下さい) 。実装はできるだけシンプルに、ただし、並行して同時に複数の HTTP リクエストが処理できるように配慮して実装してください。また、このクラスを使う場合の注意点も記述してください。

(制限時間45分)