スパコン「京」に関する素朴な疑問
2013.01.08
昨晩放送されたNHKのクローズアップ現代「超高速計算が起こす“新・産業革命”〜スパコン「京」のひらく未来〜」を見た。本来ならば「スパコンを使ったシミュレーションを使えば...」と一般名詞を使うべき部分をことごとく「京を使えば...」と言い換えているため、すっかり「ちょうちん番組」に成り下がっている。
「なぜ京なのか?」という部分が私には全く伝わって来なかったのだが、この番組を見た人の大半の人は、「京ってすごい。事業仕分けなんかしなくて良かった」と感じたに違いない(というか、そうなるように作られている)。
この番組を見て、私の頭の中には以下のような疑問が次々と浮かんだのだが、この番組はこれらの疑問に答えていないどころか、疑問を提示すらしていないのが何とも残念だ。
- 本当に大量の税金をつぎ込む価値があるのか?税金を使うにしても、もっと別の方法があるのではないか?
- 無料で京を使わせてもらえる研究機関や企業は喜ぶのは分かるが、本当のコストはどのくらいかかっているのか?アマゾンより安いのか?
- 京向けに書いたシミュレーション・プログラムは他のスパコンでも走らせることができるのか?世界中の研究者がシミュレーションプログラムをオープンソースの形で進化させて行くという今の時代にマッチしたアーキテクチャなのか?
- 専用のスパコンに投資するより、GPGPUを搭載した汎用サーバーをクラウドに大量においてサービスとして提供し、ニーズに応じて台数を増やしていった方がはるかに安いし柔軟性があるのではないか?
- 京を使えば6時間で出来ると言っても、その時間を確保するのに6ヶ月かかるんだったらアマゾンからGPGPU付きのサーバーを1000台借りて数日間走らせた方が手っ取り早くないか?
- 日本のIT業界の将来を考えれば、スパコンで1位を取ることよりも、世界市場でアマゾンのAWSとまっこうから戦えるサービスを提供できる日本企業が存在しないことを問題視すべきではないか?
- 「京の活用のため」という名目で新たな天下り先を作っていないか?政治家はちゃんと監視しているのか?
- そもそも、こんな疑問を持つのは私だけなのか?なぜこの業界の技術者たちは、この手の疑問を投げかけないのか?「業界に流れ込むお金に水をさすようなこと」をわざわざ言ってはいけないという空気があるのか?これでは(原発の安全神話を作り出した上に、事故後にも事故の影響を故意に小さく見せて福島の子供たちを被曝させてしまった)原子力業界と同じではないのか?
「京」に関しては、業界内にも色々な意見があってしかるべきなので、ぜひとも賛成・反対両方の意見を聞きたいと思う。コメント欄は自由に使っていただいて構わない。
【参考文献】
- $4,829-per-hour supercomputer built on Amazon cloud to fuel cancer research
- Sad end to supercomputer in New Mexico
- AWS Case Study: Cycle Computing and Varian
- High-Performance Computing Takes to the Cloud
- NVIDIA Unveils World's Fastest, Most Efficient Accelerators, Powers World's No. 1 Supercomputer
【参考資料】
GPGPUを活用して、IBMのSequoiaから1位の座を奪ったTitanの紹介ビデオ
汎用部品で超安価なスパコンを作ってしまった長崎大学の濱田剛教授のインタビュー
「スパコン 京 池田信夫」で検索すれば、すでになされた論議が答を与えてくれる。
ググれ。
Posted by: Ponta | 2013.01.08 at 17:00
あった方がいいとは思いますがどれだけ使い倒すか?でしょうね。
あとはミドルウェアがどこまで充実しているか?
C/FortranでMPIで書いてくださいのレベルなのか、コンパイラがそこそこ自動化するのか?
利用者になってみなければわかりません。
やはりシミュレーションモデルによって得手不得手があるので
並列処理しやすいモデルだとGPGPUでも、サーバクラスタでも全然いけるのは事実
Posted by: 114tak | 2013.01.08 at 17:01
確かに番組前半は指摘の通りですが、内容としては「京」以外のスパコン全般の利用にも言及していたと思います。企業へのスパコンを売り込むセールスの話とか。自動車メーカーや航空機の機体開発の事例も「京」クラスでないスパコンであるという前提での話であったと思います。
運用についても、最後の方で日本の技術者や研究者に専門分野の知識以外にスパコンを使いこなすスキルが必要、と指摘していましたね。個人で全ては出来なくとも、チームを組めるような仕組みや文化が醸成されるべきなのかな、と思います。
それにしても、解説にせっかく松岡さんを起用したのならTSUBAMEプロジェクトの話題も「京」とのコンセプトの違いなど含めて取り上げて欲しかったと思います。
Posted by: Ichitaro Takahashi | 2013.01.08 at 23:32
> 京向けに書いたシミュレーション・プログラムは他のスパコンでも走らせる
> ことができるのか?
流用は出来るでしょうが、スパコンというのは結局そのスパコンに合わせて
チューニングしなければ、性能を引き出せない物のようです。
台数やアーキテクチャ、ネットワーク構造・速度等が違うので、それらに合わ
せないと駄目なようです。
> 専用のスパコンに投資するより、GPGPUを搭載した汎用サーバーをクラウドに
> 大量においてサービスとして提供し、ニーズに応じて台数を増やしていった
> 方がはるかに安いし柔軟性があるのではないか?
これはネットワーク速度が遅すぎて無理な部分があるでしょう。
スパコンが扱うデータは莫大で、PB級のデータなどとてもネットワークで転送
できません。
そして、GPGPUで満足に計算出来る分野は限られます。GPGPUは搭載メモリの少
なさと転送速度がネックになり、かなり限られた分野でないと性能が発揮でき
ません。汎用プロセッサによる計算はそれよりは柔軟になります。
さらには、地球シミュレータの様なアーキテクチャでないと全く歯が立たない
分野もあります。
地球シミュレータで実行効率 10%、普通のスパコンで0.5%の分野の場合、
LINPACK で 20倍以上の性能を出せないと同等の性能が出せません。
そしてGPGPUは計算ミスとかが多くて、見かけ程の性能は出ないという問題も。
> なぜこの業界の技術者たちは、この手の疑問を投げかけないのか?
2位じゃ駄目かの議論の時、むしろ技術者の方がプロジェクトに疑問を持ってた
人が多かった感じがしますね。国威高揚のために半年間だけ1位を取るのには意
味がないとか、1/10の性能のスパコンを10台用意した方が多くの人が幸せに出
来るとか。
もちろんその性能がどうしても必要な分野というのはありますが、結局は金や
時間などとのトレードオフ。
Posted by: Tomone_pact | 2013.01.09 at 14:33
> 本来ならば「スパコンを使ったシミュレーションを使えば...」と一般名詞を使うべき部分をことごとく「京を使えば...」と言い換えているため、すっかり「ちょうちん番組」に成り下がっている。
とおっしゃいますが、Ichitaro Takahashi さんのおっしゃるとおりで、冒頭の1分と映像の最初の7分程度は京の話をしていましたが、それ以外はほとんどで一般的なスパコンの話をしていた印象です。
そもそも「京の利用例」を紹介している場面で「京」という単語を使わないほうが不自然で、それをもってちょうちんだとおっしゃるのはいささか乱暴な意見ではないでしょうか。
TSUBAMEの開発者、SX-9の利用例、ドイツ・イギリスのスパコン例なども出ていたことは無視できる量ではないと思いますが。
Posted by: Nminm | 2013.01.10 at 04:42
私は門外漢なのですが、ここのコメントを読む限り 1/10の性能のスパコンを10台用意したほうが、良いように見えます。利用者も数倍になりその分技術的な蓄積も期待できそうに思えます。
Posted by: yoshifumi1975 | 2013.01.10 at 20:23