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安倍総理に講演の場を与えたCSISとは何か

オバマ大統領との会見のためにワシントンDCを訪れた安倍総理だが、同日に、保守系のシンクタンクである CSIS (Center For Strategic & International Studies)が開催するフォーラムで40分の講演をした点は注目に値する(ビデオはここで見ることが出来る)。 

CSISは表向きは民間のシンクタンクで、政府や軍需産業のための調査・研究をするコンサルタント会社だが、実際には、政権交代で政府を出た高級官僚が次の政権交代で復活するまでの間準備をしたり、政府の外から影響力を公使(ロビー活動)するための場所である。

その典型的な例が、ブッシュ政権下で国務副長官を務めたリチャード・アーミテージで、国務副長官の職を離れた後も、CSISを通じ、オバマと大統領選を争ったマケイン候補のための戦略を立てたり、日本政府に対して「原発を捨てると日本は二流国に成り下がる」と警告を鳴らした「アーミテージ・ナイ報告(参照)」を書いたりと非常に積極的な政治活動をしている。

Right Web (軍事マフィアによる米国政府への影響力を監視する団体)によれば、CSIS はレーガン政権時代に作られた「米国は世界の警察官であるべき」という信念の元に各種メディアを通じて米国内外に多大な影響力を持つネオコンのフロント組織である(参照)。

日本再占領」の作家である中田安彦は、彼らを「ジャパン・ハンドラーズ」と称して警告をならしている(参照)。

CSISに関しては、外務審議官・対米全権大使を務めた加藤良三の娘、加藤和世が「ワシントン・ジャパニーズ・ウィメンズ・ネットワーク」にそこで働いた経験談を書いているので一読をお勧めする(参照)。彼女は現在は笹川平和財団の研究員の1人だが(参照)、今でも CSIS のフェローの1人でもある(参照)。

笹川平和財団はCSISへの助成事業としてSPFフェローシッププログラムを進めたり(参照)、CSISが去年発表した「アーミテージ・ナイ報告書」のプロモーションを手伝ったりと(参照)、CSISとの関係を強めている。

ちなみに、CSISに自分の子供を送り込んだのは、加藤良三だけではない。小泉純一郎が次男の小泉進次郎を、渡辺恒三が長男の渡辺恒雄を送り込んでいる。

CSISは昨年、日経新聞と「日経・CSISバーチャル・シンクタンク」なる組織を日本に立ち上げ、そこを通じた保守系政治家のサポート、若手政治家の育成、政策提案、などのロビー活動をしている。アドバイザーとして自民党の石破茂、民主党の前原誠司他、数多くの霞ヶ関OBが名を連ねる、日本版 CSISである。

安倍首相はCSIS主催のフォーラムでの講演で「アーミテージ・ナイ報告」を引用して「日本は二流国にはならない」と宣言したが、参考までに、下に「アーミテージ・ナイ報告」に書かれた日本への提言を外務省が翻訳したものを添付しておく。

この報告書が去年の8月に書かれたものであるにも関わらず12月に発足した安倍政権の政策とほぼ完全に合致している点は注目に値する。これを偶然の一致と解釈するのか、(CSISを通じた)米国保守派勢力の内政干渉と解釈するのかは読者次第だが、今後、自民党が日本のエネルギー政策をどうするのか、ホルムズ海峡が閉鎖された場合に何をするのか、などを予想するにはとても良い材料になる。

【日本への提言(アーミテージ・ナイ報告)】

(1)原子力発電の慎重な再開が日本にとって正しくかつ責任ある第一歩である。原発の再稼動は、温室効果ガスを2020年までに25%削減するという日本の国際公約5を実現する唯一の策であり、円高傾向の最中での燃料費高騰によって、エネルギーに依存している企業の国外流出を防ぐ懸命な方策でもある。福島の教訓をもとに、東京は安全な原子炉の設計や健全な規制を促進する上でリーダー的役割を果たすべきである。

(2)日本は、海賊対処、ペルシャ湾の船舶交通の保護、シーレーンの保護、さらにイランの核開発プログラムのような地域の平和への脅威に対する多国間での努力に、積極的かつ継続的に関与すべきである。

(3)環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加に加え、経済・エネルギー・安全保障包括的協定(CEESA)など、より野心的かつ包括的な(枠組み)交渉への参加も考慮すべきである。

(4)日本は、韓国との関係を複雑にしている「歴史問題」を直視すべきである。日本は長期的戦略見通しに基づき、韓国との繋がりについて考察し、不当な政治声明を出さないようにするべきである。また、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)や物品役務相互提供協定(ACSA)の締結に向けた協議を継続し、日米韓3か国の軍事的関与を継続すべきである。

(5)日本は、インド、オーストラリア、フィリピンや台湾等の民主主義のパートナーとともに、地域フォーラムへの関与を継続すべきである。

(6)新しい役割と任務に鑑み、日本は自国の防衛と、米国と共同で行う地域の防衛を含め、自身に課せられた責任に対する範囲を拡大すべきである。同盟には、より強固で、均等に配分された、相互運用性のある情報・監視・偵察(ISR)能力と活動が、日本の領域を超えて必要となる。平時(peacetime)、緊張(tension)、危機(crisis)、戦時(war)といった安全保障上の段階を通じて、米軍と自衛隊の全面的な協力を認めることは、日本の責任ある権限の一部である。

(7)イランがホルムズ海峡を封鎖する意図もしくは兆候を最初に言葉で示した際には、日本は単独で掃海艇を同海峡に派遣すべきである。また、日本は「航行の自由」を確立するため、米国との共同による南シナ海における監視活動にあたるべきである。

(8)日本は、日米2国間の、あるいは日本が保有する国家機密の保全にかかる、防衛省の法律に基づく能力の向上を図るべきである。

(9)国連平和維持活動(PKO)へのさらなる参加のため、日本は自国PKO要員が、文民の他、他国のPKO要員、さらに要すれば部隊を防護することができるよう、法的権限の範囲を拡大すべきである。


今週の週刊 Life is Beautiful:2月26日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

日本企業のグローバル化の課題

Diixi というコンサルティング会社の「なぜ、日本企業のグローバル展開は失敗するのか? その5つの理由とは」という文章を読みました。私が経験して来たことと重ね合わせると納得できることが多いので紹介します。私がこの件に関して最も勉強できたのは、UIEvolution がスクエア・エニックス(スクエニ)に買収されていた2004年からの3年間でした。スクエニの社長は当時から和田さんでしたが、和田さんは英語もそれなりにしゃべれるにも関わらず、経営スタイルはとても日本的でした...

私の目に止まった記事

Too Big to Fail has become Too Big for Trial

このビデオは、民社党の新人上院議員の Elizabeth Warren が Federal Bank Regulators (連邦銀行規制局)に対して「なぜ(リーマンショック以来)どの銀行も彼らの違法行為に対して裁判所で裁かれていないのか」について厳しいツッコミをしている所です。このビデオを見て私はすっかり彼女のファンになってしまいましたが、同時に「政治家の役割はまさにここにある」とつくづく思いました...

The Super Supercapacitor | Brian Golden Davis

炭素原子をシート上に並べた Graphene (グラフェン)が、リチウム電池のように電気を高密度に長時間保持出来る上に、コンデンサのように高速充電が可能、という性能を持っていることが分かった、という話です。Graphene を使った蓄電池が実用化されれば、スマートフォンや電気自動車をわずかな時間で充電することが出来る様になる、というとても楽しみな話です...

Apple’s Upgrade Dilemma

市場が期待しているほどに消費者は iPhone/iPad を頻繁に買い替えない、という指摘です。私自身も iPhone5 ではなく、iPhone4S で十分に満足しています。これを問題視するかどうかは、何を Apple に期待するかによって違うと思います。これまでのように、年率30%以上の売り上げを延びを期待している投資家から見れば...

A tantalising prospect

チタン(Ti)やタンタル(Ta)のような高価な金属を、電気を使った新しい方法で還元(酸化物から酸素を除くこと)することにより、これまでよりもはるかに安く製造する方法が見つかり、それが実用化されつつある、という話です。この記事によると、昔はアルミニウムも非常に貴重で高価な金属だったそうです...

Nielsen Agrees to Expand Definition of TV Viewing

テレビの視聴率の調査会社、ニールセンがようやく重い腰を上げて、インターネットでの動画視聴も含めた「本当の視聴率」の測定に乗り出す、という話です。一見、もっともな話のようにも思えますが、「時すでに遅し」というのが正直な感想です。Youtube の視聴率に関しては、Google が100%把握している上に...

Bitter Pill: Why Medical Bills Are Killing Us

TPPに参加することの一番の問題は米国からの農作物にあると勘違いしている人にはぜひとも読んでいただきたい話です。まともな国民健康保険のない米国では、この記事に書いてある通り収入の20%(このケースだと月々469ドル)を健康保険に費やしたところで必ずしも十分な医療費がカバーされず、重い病気にかかっていても健康保険で十分にカバーが出来ない場合...

Apple Should Embrace Netflix's Latest Move And Make It Their Own

オリジナルTVシリーズ「House of Cards」を作った Netflix を見習って、Apple もコンテンツの制作に乗り出すべき、という意見です。私も同じようなことを考えていました。Apple TV を単なる「ホビー」から、「放送革命の起爆剤」に格上げするには、映像コンテンツが鍵を握ります...

My first month with the Nike FuelBand: Stay out of my way and we’re cool

Nike の FuelBand を1ヶ月つけていた人のレポートです。FuelBand はモーションセンサー付きのアームバンドで、付けている人のアクティビティを記録したり、1日のゴールを設定してそれに向けて運動したりするためのものです...

首からさげる「ウイルス除去剤」でやけど 幼児が重傷

最近の日本の「除菌」ブームは少し問題だと感じていましたが、この「ウィルス除去剤」はその極めつけです。幼児がやけどをするかどうかの以前に、そもそもこんなデバイスが子供に必要だと感じてしまう親がいること事態が問題だと思います...

Oculus VR

Sony が Playstation 4 に関する発表を行いましたが、私にはなんだか典型的な「イノベーションのジレンマ」に陥っているように思えます。ゲーム好きの人に聞けば「もっとゲームをリアルにして欲しい」と言うでしょうし、ゲーム開発者に聞けば「もっとゲーム機の性能を上げて欲しい」と言うでしょう。しかし、今やゲーム市場の主流はスマートフォンに移りつつあり、据え置き型ゲーム機の市場は衰退の道を...

Desktop 3D scanning 

最近は3Dプリンターが安価になり、個人でも購入が可能になりましたが、それと対で注目すべきなのは 3Dスキャナーです。この二つを組み合わせれば、色々なものの複製がコピーマシンを使うのと同じ様に簡単に出来てしまいます(ただし、外見のみ)...

Amazon's Star Engineer Has A Sweet Life, Lives On A Boat And Work

アマゾンのスター・エンジニアである James Hamilton が普段はシアトルの港に泊めてあるボートで暮らし、時々ハワイに向けて航海しては、そこから働いている、という話です。こんな話をすると日本に暮らすエンジニアは「とても遠い話」だと感じるかも知れませんが、実際にはそれほど遠い話ではありません。私がマイクロソフトで働いていた時も...

日本企業の「ものづくりの病」を打破する方法

私が何度か足を運んだことのある IDEO のビジョンにも通じる話ですが、顧客からの要望に従って商品を改良していくのには限界があり、そこから一歩先に進むには、顧客の行動を良く観察し、潜在的な需要を掘り起こさなければならない、という話です。家庭用のテレビが典型的な例で、最近の 3D、4K(ウルトラハイビジョン)、スマートテレビなどの方向性は、...

今週の TED ビデオ:Colin Powell

Colin Powell: Kids need structure

George H.W. Bush 政権の下でChairman of the Joint Chiefs of Staff(統合参謀本部議長)を、 George W. Bush 政権の下で Secretary of State(国務長官)を務めた Colin Powell のスピーチです。内容は「子供達にはもっとストラクチャーが必要だ」という話ですが、さすがに軍隊出身の人だけあって、説得力があります。スピーチも明確なので、英語の聞き取りには良い題材だと思います...

UIEvolution 起業ものがたり(12): ビジョンとミッション

そこでビジネスプランを書くことにしました。Java が達成出来なかった "Write Once Runs Anywhere" を UJML という言語を使って達成しようというプランです。今になって考えると、「どうやって儲けるのか」というビジネスの部分はとても稚拙でしたが、ビジョンの部分は、私が Microsoft 時代に漠然と感じていたことを言葉にすることにより...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週の質問です。

桜宮高校生徒自殺事件を皮切りに、日本では体罰問題が連日取り上げられており、2020年のオリンピック招致にも影響が出かねないとも騒がれています。今回の一連の報道に対する海外からの反応は冷ややかで、批判的な意見が多く、実際、海外ではスポーツ指導をするコーチ(監督)が体罰に走るケースは少ないという記事を目にします。しかし、体罰問題がある程度容認されている(いた)日本社会において、今回の事件は氷山の一角に過ぎません。

実際、私自身は1988年(昭和63年)生まれの25歳で、小中学生時代は教員から何度か手を挙げられた記憶があります。知り合いの30~40代の方々も「俺たちの頃は、もっとヒドかった」と口を揃えます。
しかし、私自身、当時の経験はそれほど悪い記憶ではありません。また、30~40代の人達も当時の話を明るく半ば自嘲気味に話している様子を見ると、正直、体罰に対してそこまで悪いイメージはないです。体罰自体は昔から存在していたのですから(もっと激しい)、問題の本質は体罰ではなく、別のところにあると考えています。

中島さんにお聞きしたいことは、「体罰は昔から存在していたのに関わらず、なぜ、彼は体罰がきっかけで自殺することになったのか?」です。「悪いものは悪い」で終わらせられる話でもありますが、中島さんの意見を聞かせていただけると幸いです。

難しい問題ですが、「体罰は昔から存在していたのに関わらず、なぜ、彼は体罰がきっかけで自殺することになったのか?」という部分に絞って私の考えを述べたいと思います...


皆が「空気を読み、流れに乗って」ばかりいたらこの国は沈む

先日の「日本の大学生はなぜ勉強しないのか」というエントリーには、賛否両論、数多くの意見をいただいた。その中のでも、旧来型の日本人の考え方を表す典型的な例がこのコメントだ。

「大学のとき、周囲には真面目に勉強している人も結構いたけど、えてして勉強せずにサークル・飲み会etcで普通の大学生していた人のほうが大企業入って出世していて、勉強していた人にはレールから外れて苦労している人が多い。社会に出てから、なるほど人付き合いや飲み会は勉強よりも重要だったんだな、と遅まきながら気がついた。日本て、皆がやっていることをその流れに乗って同じようにできる人が求められている社会で、なまじ大学の図書館にこもって勉強ばかりしている異質な大学生は社会に出た後レールから外れる傾向にあるのだと思う。」

欧米に追いつくことだけを考えれば良かったころは、創造性よりも調整能力、専門性よりも汎用性、知恵や知識よりもコミュニケーション能力が重視された。高度成長期に学校・社会がそんな「ゼネラリスト」を育み、優遇するように作られて来たのは当然の結果である。このコメントにある通り、「ちゃんと予習をして来る、教室の前の方に座る、質問で授業を長引かせる」ような連中は「異質」であり、「皆がやっていることをその流れに乗って同じようにできる人」が重宝されて来た。

しかし、今の時代はもう違う。これからは、「正解が決まった問題をすばやく解ける」ゼネラリストではなく、「誰も解こうともしなかった新しい問題を自ら見つけ出して正解を探す」イノベーターが必要なのだ。

「出る杭は打たれる」「空気を読め」「長い物には巻かれろ」という言葉に萎縮し、「皆がやっていることをその流れに乗って同じようにできる人」ばかりの国には未来はない。

イノベーションには、人と違うことを失敗を恐れずに出来る「出る杭」が必須だ。「そんなもの誰も使わないよ」「そんなもの誰も作ってないよ」「絶対儲かるわけないよ」と回りの人に批判されても、信念を持って、何度失敗してもへこたれずに前に進み続けることの出来るガッツが必要だ。

この件に関して、Dave McClure が日本人のために素晴らしいメッセージを熱く語ってくれているので、ぜひとも下のビデオを見ていただきたい。特に冒頭の4分目〜6分目あたりが良いので時間のない人はそこだけでも見て欲しい。


日本の大学生はなぜ勉強しないのか

今週号のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」に向けて、「日本の大学生はなぜ勉強しないのか」という文章を書いたのだが、特に冒頭の部分はぜひとも多くの人に読んで欲しいので、引用する。

NHKニュースで「日本の大学生が予習復習のために費やす勉強時間は一日平均39分」というデータが発表されていました。まさに「ぬるま湯大学」です。私が大学(早稲田大学)に通っていた時も似たような状況でしたがが、これが日本の国際競争力をなくしている原因の一つであることをより多くの人が強く認識すべきだとつくづく思います。

私は米国の大学(University Washington)でも勉強した経験がありますが、日本の大学とは全く異なっていました。まず第一に、予習をしていかなければ全く授業について行けません。授業にもよりますが、90分の授業の準備に1〜3時間の予習が必要です。

例えばビジネス戦略の授業の場合だと、全員が前もって配布されたケーススタディ(十数ページの論文)を読んで来た前提でいきなりディスカッションから始まりました。Benihana という焼き肉レストラン・チェーンのケースでは、「Benihana レストランがバーコーナーをもうけた理由は?」「Benihana のウェイターと普通のレストランのウェイターとの違いは?」「何年目に黒字化したのか?」「これからの成長における課題は?」などという質問が授業の冒頭から矢継ぎ早に飛んできます。

前もって予習しておかなければ何を話しているかすら分からず、すぐに教授にばれてしまいます。そんな生徒を見つけると「次からは読んで来る様に」と厳しく指摘した上で、その生徒を無視して授業は進んでしまいます。

生徒の授業に対する姿勢も、日本の大学生とは大きく違います。米国の場合、大学の卒業証書をもらっただけでは良い仕事を見つけることが出来ないため、良い成績を取ること、実力を身につけることに皆、懸命です。授業料も基本的には本人が借金をしたり奨学金でまかなっているため、「お金を払った分だけの対価を得よう」と真剣です。特に奨学金で大学に来ている生徒の場合、成績が悪くなると奨学金が打ち切られてしまうので、必死です。

なぜ、どうしてこれほどまでの違いがあるのか、どうやったら直すことが出来るのか、私なりに色々と考えて来ました。

「生徒を簡単に卒業させてしまう大学が悪い」という意見もありますが、私はもっと根の深い、社会構造そのものに問題点があると見ています。

極論で言えば、日本の社会は未だに「身分社会」の色が強く残っているからこんなことになっているのです。さすがに江戸時代のように「生まれ」で決まる時代ではありませんが、大学を卒業した時にどこに就職するかでその人の一生の「身分」が決まるのが今の日本の社会です。その時点で、霞ヶ関の官僚や東電・NHK・NTT・大手金融機関のような国策企業に入ることができればベストですが、(いざとなったら政府が「雇用の確保」のために救済してくれるような)一部上場企業に入ることが出来ればほぼ「身分」は一生保証されます。

(以下略)

資本主義社会において、貧富の差が生じるのは仕方がない。しかし、大学を出た瞬間の就職先で一生が決まるという「やり直しのきかない」社会はあまりにも不健全だ。それが若い人達を保守的な行動に走らせ、国全体としての活気を奪っている。

中学高校で「詰め込み教育」を受け、大学ではろくに勉強せずに、霞ヶ関や大企業を好み、3年生で内定を受け、会社に入ったら上司の顔色をうかがいながら一生懸命に働き、偉くなったら天下り。これが日本のエリートだ。私がNTTの研究所に入って最も失望したのは、部長クラスの人達全員の頭が自分の「天下り先」このとで一杯だったこと。

私が「NTTを辞めてMicrosoftに行く」と宣言したら、上司だけでなく、先輩や大学の教授までが入れ替わり立ち代わり「この日本の社会でレールから外れること(=身分を捨てること)がいかに馬鹿げているか。ベンチャー企業で働く人生がいかに厳しいか」を説得に来てくれた。

彼らには申し訳ないが、あのままNTTにいたら、私も今頃は天下り先を物色しているのだろうと考えるとゾッとする。


iPad/iPhone だけで「WiFiマンガ喫茶」を設置する方法

Apple の審査に手間がかかってしまったが、ようやく neu.Node を活用して「WiFiマンガ喫茶」機能を内蔵した CloudReaders 2.0 をリリースすることが出来た。

「WiFiマンガ喫茶」の設定は少し分かりにくいので簡単に解説する。

1. サーバーの役割を果たすiPhone/iPadをWiFiに接続する 

2. WiFi経由でシェアしたい書籍・雑誌・マンガを CloudReaders に入れておく

3. ホーム画面(My Bookshelf)で、アクション・ボタン Actionをタップし、シェアしたい書籍を選択する

Photo 2

4. 書籍が選択された段階で、シェアボタン Share をタップする

基本的にはこれで十分だが、ホーム画面からシェアボタンをタップして、現在シェアしているドキュメントを確認したり、取り除いたりも可能だ。

「WiFiマンガ喫茶」でシェアされた書籍を別の端末から読むには、同じ WiFi に接続して、CloudReaders を起動するだけでよい。すると、ホーム画面に WiFi Bookshelves というセクションが追加され、シェアされた書籍が SharedBooks として表示されるので、それを選択し、表示される書庫から読みたい本を選ぶ。

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今週の週刊 Life is Beautiful:2月12日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

永久機関とエンジニアに必要な地頭

Facebook でも紹介した「磁石を利用した永久機関」のビデオですが、とても良く出来ています。あまりにも良く出来ているので、GIZMODOの記者までもが騙されてしまい、「もちろん、永久機関はあり得ないので、たとえ摩擦によるエネルギーロスがなかったとしても、1〜2年も回していれば磁石が磁性を失ってしまうでしょう」と書いているしまつです(参照)...

私の目に止まった記事

Retired Duke reactor may signal more U.S. nuclear shutdowns

日本でも報道されたと思いますが、米国フロリダ州の原発が廃炉になったことに関しての解説記事です。シェールガス革命による天然ガスのコストが下がっていることが一番の原因として挙げられていますが、(州ごとに異なる)規制緩和の重要性も見逃せません。日本と同じく、米国でも電力は100%自由化されているわけではありませんが...

Raging (Again) Against the Robots

「マシンが人から職を奪っている」という話題は、何年かに一度、映画や小説をキッカケに広がりますが、この New  York Times の記事によると、今回のキッカケを作ったのは CBS が「60 minutes」という特集番組で作った「Are robots hurting job growth?」という番組なようです...

再生可能エネルギー: マグネシウム発電

Mg・Soleil(砂漠太陽エネルギー)プロジェクト

今回は東北大学の未来科学技術共同センターの小濱研究室というところで研究されている、マグネシウムを触媒として利用した太陽光エネルギーを蓄積・運搬可能にするという壮大なアイデアです。小濱研究室では、これを「燃料耕作」とか「Mg・Soleil」と呼んでいますが、基本的なアイデアは...

今週の TED ビデオ:Andy Puddicombe

All it takes is 10 mindful minutes

ここ数年、米国では meditation (瞑想) の効果が注目されていますが、なぜ meditation がこれほどまでに注目されているかを理解するには、このビデオはとても良い参考になります。ここで言う meditation とは、決して宗教的なものではなく...

UIEvolution 起業ものがたり(10): TicTacToe

状態遷移言語 UJML も、開発当初は「内部状態に応じて別のユーザーインターフェイスを表示する」ぐらいの単純なことしか出来ませんでしたが、私は「かなり複雑なアプリケーションでも状態遷移だけで記述出来るはず」だと考えていました。そこで最初に作ることにしたのが、tictactoe (三目ならべ)でした。UJML を使った状態遷移のみで tictactoe が実現できるのであれば、どんな複雑なアプリケーションでも...

読者からのご質問・ご意見コーナー

最初の質問です。

英語のリスニング及びスピーキング上達に関して質問させていただきます。
私はアメリカのカリフォルニア大学にて、Certificateを取得できるビジネスプログラムで半年間経営の勉強をしてきました。
 
現在は米国企業にてインターンシップをしているのですが、リスニングに関してはゆっくり...

今週の週刊 Life is Beautiful:2月5日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

楽天による buy.com の買収

Facebook の知り合い(米国人)による投稿で知りましたが、buy.com を開こうとすると rakuten.com にリダイレクト(ユーザーが指定した URL と別のサイトに飛ばしてしまうこと)されてしまいます ... Phillip の言う "Where did they find someone who though that was a good idea?" とは「これ(buy.com を rakuten.com にリダイレクトすること)が良いアイデアだと考えるような(アホな)奴をいったいどこで見つけて来たんだ?」という意味です...

私の目に止まった記事

悪いこと言わないから、会社なんて始めるべきではありません

Evernote の CEO の Phil Libin のインタビュー記事(日本語)ですが、「起業すること」の厳しさと、それに必要な「動機」に関したとても良い文章なのでぜひとも読んでいただきたいと思います。私も、2000年に UIEvolution Inc. を立ち上げてしばらくして同じような感想を持ちましたが、とにかく最初の数年間は文字通り「死に物狂い」で働く必要があります。創設者自らが力尽きてしまったり、諦めてしまったらそこで...

Microsoft's Ballmer disses Dropbox as a 'little startup' 

オンライン・ストレージ・サービスを提供しているDropbox のユーザーが100万人を超えたことに対し、Microsoft の Steve Ballmer が「100万人という数字は私から見れば小さな数字だ。Microsoft Office のユーザーははるかに多い。オンラインのユーザーを考えて見ても、Hotmail や Skydrive のほうがずっと多い。私は Dropbox をバカにしているわけではない。Dropbox は小さなスタートアップで、それはすばらしいことだ」と言ったという記事です...

BlackBerry 10: Company Says It Will Teach People How to Use New Phones

iPhone 登場前には「米国のビジネスマンには必須のデバイス」だった BlackBerry ですが、今ではすっかりその座を失ってしまいました。この記事のビデオの冒頭にもあるように、BlackBerry を使っていると「え、何でまだ BlackBerry を使っているの?」と驚かれてしまうぐらいです。何とか挽回するために OS を一新した BlackBerry 10 をリリースしましたが、ユーザーやメディアからの評価はかなり厳しいものになっています...

Facebook Unveils The “Facebook Card,” A Reusable Gift Card That Holds Multiple Balances From Different Stores

Facebook が "Facebook Card" と呼ばれる新しいサービスを開始しました。友達や家族に対して、さまざまな小売店(たとえば量販店の Target)のギフトカード(商品券)をプレゼントする仕組みです。日本には、お中元・お歳暮という慣習がありますが、ほとんどが、企業から個人へのギフトです。納入業者や下請け企業からの「合法的な賄賂」という側面も否定できないと思います。米国の場合は、もっとも額が大きいギフトは家族・親戚間のクリスマス・プレゼントで...

Zuckerberg is adamant: Facebook is not building a phone

浮上しては消える「Facebook がスマートフォンを開発中」という噂を Zuckerberg 自らが完全否定した、というニュースです。iPhone 発売前にも、「Apple が携帯電話を開発中」という噂が何度も浮上していましたが、この件に関しては私もありえないと思います。Facebook が対象としているのは、10億人を超えるユーザーであり、Facebook が独自のスマートフォンをリリースしたとしても...

UGE’s ‘Seamless Grid’ Combines Wind & Solar Inputs For Maximum Efficiency

UGE (Urban Green Energy) という会社が、安定しない風力・太陽光発電による電力をグリッドに繋ぐための電源管理システム Seamless Grid を発表した、というニュースです。福島第一での原発事故以来、再生可能エネルギーへのシフトが世界中で加速していますが、その実現のためには、発電設備だけでなく、電源管理システム、蓄電システムなど分野での研究開発が不可欠です。今回発表された Seamless Grid もそんな要素技術の...

Japan’s Role in Making Batteries for Boeing

ボーイングの 787 がリチウム電池の問題で飛べなくなった問題に関しては、「(日本製の)電池が悪い」「(フランス製の)充電システムが悪い」「ボーイングの配線ミスだ」など、さまざまな意見が飛び交っていますが、この記事は「そもそも ANA と JAL がボーイングの機種ばかりを導入している点からして不透明な部分が多い」と鋭い指摘をしています。この記事が指摘する通り、日本の場合「飛行機の購入」のような大きな決定には、政治家と霞ヶ関の官僚が大きな役割を...

今週の TED ビデオ: Peter Tyack

The intriguing sound of marine mammals

Peter Tyack という生物学者が、クジラ・イルカ類の音によるコミュニケーションに関して、とても興味深い解説をしてくれます。自然や動物の話が好きな人には良い素材だと思います。ちなみに、私も昔はクジラの肉を食べていたので、米国に来たばかりのころはこちらでの捕鯨反対運動には懐疑的でした。しかし、...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週の質問です。

AppleのWWDCに参加したいと思うのですが、実際に旅費を使って行く価値はありますか?...

WWDC に限った話ではありませんが、その場の「空気」を感じることが出来るというのが一番分かりやすいメリットです。配布された資料や、プレゼンのビデオを後から見ることも可能ですが、2〜3日集中してその場の雰囲気にどっぷりと浸かるというのも悪くないと思います。ただし、それだけのメリットのためにわざわざ日本から旅費を出して行く価値があるか、というと少し疑問です...