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今週の週刊 Life is Beautiful:5月28日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

Xbox One

Microsoft が三世代目のゲーム端末である Xbox One を発表しました。Xbox 360 が発売されたのが2005年の末だったので、8年ぶりのアップデートとなります。端末そのものから利益を上げるスマートフォンと違い、端末そのものは可能な限り安く販売し、利益はゲームで稼ぐ、というのがゲーム端末ビジネスの特徴です。しかし、今回 Microsoft が...

Google Now

Google の Google Now が iOS でも使えるようになったので、試しています。Google Now はパーソナル・アシスタントという位置づけで、ある意味で Apple の Siri の競合とも言えます。しかし、実際にGoogle の目指しているところは、Siriのような「尋ねれば答えてくれるアシスタント」ではなく、「必要な情報を集めて届けてくれるアシスタント」である点がとても重要です。Google のやることには、時々「不気味さ」を...

私の目に止まった記事

Inside Google's Secret Lab

Google で、Google Glass や自動操縦車などの近未来的なテクノロジーの研究開発をしている Google X と呼ばれるグループの紹介です。通常の企業の研究所と違い、莫大な予算で(2012年度の予算は $7 billion、日本円にして約7000億円)社内ベンチャーとして、すぐにはお金にならないだろう近未来商品の実用化を目指した研究開発を...

SoftBank would add 'security director' to Sprint board

ソフトバンクによる Sprint の買収に関しては、米国政府による審査中ですが(米国では、通信会社の外国資本による買収には許可が必要なのです)、ソフトバンク側が安全保障担当の取締役のポストを用意し、その職に就く人に選出の関しては政府に適切な人かどうかの判断を下す権利を与えることにすると提案した、という...

Bezos to Amazon shareholders: It’s not only Day One, ‘the alarm clock hasn’t gone off yet’

先週は、Amazon の株主総会がシアトルで開かれましたが、そこで CEO の Bezos が語った「(Amazon にとっては)まだ一日目ですらない。まだ、目覚ましが鳴ってもいない」というセリフが紹介されている記事です。すでにオンライン書店としては世界最大の会社でありながらも、「まだいくらでも成長の余地はある」という意味で...

Microsoft's Kinect For Xbox One: What It Can Do And Why It's Special

上で紹介したMicrosoft の次世代ゲーム端末 Xbox One に関連する記事ですが、Xbox 360 向けに発売して大成功をおさめた Kinect を、Xbox One ではより進歩させたテクノロジーで全機種に付けることになりましたが、その戦略的な意味を解説しています。Xbox 360 に使われていた Kinect は、PrimeSense という会社からライセンスしたテクノロジーで作られており、Google や Sony などが真似をしようと思えば、簡単に...

エンジニアのための経済学: Appleの節税戦略

少し前のメルマガで、Appleが莫大な現金を持っているにも関わらず(配当と自社株購入のための)社債を発行したのは、海外の子会社にある現金を国内に持込むと税金がかかるため、と説明しました。ワシントンではこういったグローバル企業による節税行動が前々から問題視されていましたが、先週は Apple の Tim Cook CEO が公聴会に呼び出されて、この件について証言させられ、多いに注目を集めました(NBCの記事でビデオを見ることが出来ます)。問題の根底には、国ごとに異なる...

今週のビデオ:Dan Ariely

What makes us feel good about our work?

今回紹介するビデオは、Dan Ariely という行動経済学者による、職場における人々のモチベーション(やる気)をテーマにした TED スピーチで、いろいろと考えさせられました。スピーチの中の「名前は言えないがシアトルにある大きなソフトウェア会社」とは Microsoft のこと...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週はこんな質問をいただきました。

中島さんのメルマガからNode.jsを勉強初めている初心者です。

中島さんはプログラミング言語はNode.js以外に得意とされているものは何になるのでしょうか? また、Node.jsが使えれば、ゲームや
サイトは作る事は可能でしょうか?

現時点で私が日常的に使っている言語は、JavaScript と Objective-C で、たまに Python も...

二つ目の質問です。

日本の企業の中ではサントリーや竹中工務店、佐川急便など大企業で著名なところでも非上場の企業が見受けられます。米国の場合、新興企業、例えばFacebookなどでも昨年ナスダックに上場しましたが、企業がある程度成長した時点で上場するのが通例なのでしょうか(上場しな
いならば売却ということになりますか?)。
また、上場していない場合に、従業員にインセンティブとしてストックオプションを渡すことは、将来、上場することを念頭としていると考えてよいでしょうか?

米国でも、非上場のままでいる企業も沢山ありますが、基本的には創業者、もしくは、創業者家族が100%の株式を所有している場合です。持ち株会社は非上場のまま、事業会社だけを上場...


Android のセキュリティ問題に関する、メーカーと通信事業者の責任

昨日「Google Playで詐欺アプリ急増、新たな手口も言及 - シマンテック」という報道があった。これは今に始まった話ではなく、「オープン」であることを売りにする Android OS ならではの根本的な問題であり、Google が自ら Apple のような厳しい制限をアプリケーションに課すことを期待すること自体が間違いだと私は思う。

これに関して一義的の責任を持つのは、Google ではなく、セキュリティ・ホールだらけなことが自明である Android OS を搭載した端末を一般消費者に向けて平然と販売しているメーカーであり、通信事業者である。

この問題に関しては、「消費者に注意をうながす」「ウィイルス対策ソフトを導入する」「審査済みのアプリだけを提供するアプリストアを別個にもうける」などの生易しい解決策では全く不十分だ。

根本的な解決策としては、

  • Google に対し、Android のセキュリティを高めるように要求し、実際にやってもらう
  • Android を自ら改造し、セキュリティを今よりもはるかに高めてから販売する

の二つしかないが、前者は Google のポリシー(というか DNA)を考えれば期待できないし、後者は技術的に非常に難しくて手間がかかる 。それが現実的でないのであれば、最終的には「Android の採用を辞める」という選択をするのが、メーカーや通信事業者の責任である。

これはある意味、Microsoft にとって絶好のチャンスで、私が Microsoftの経営陣の1人であれば、ここを徹底的につついて、OEMメーカーを Windows 側に寝返らせる戦略に出る。無料なはずの Android を採用したところで、Apple からは特許侵害で訴えられるし、Microsoft からは特許使用料を請求される。それならば、ライセンス料を払ってでも Windows Phone OS を採用した方が、訴訟リスクは避けられるし、セキュリティのことは Microsoft に任せることができる、というロジックだ。

もちろん、「セキュリティに関して責任を持つ」ということは Microsoft にとっても大変な負担だが、Apple と Google になんとでも追いつかなければならない Microsoft としては、 そのぐらいのコストは払って当然である。


橋下発言は女性と軍人に対する大いなる侮辱だけでなく、日本人全員の顔に泥を塗る行為だ

橋本氏の慰安婦容認発言は、海外でも取り上げられている。特にBBC の記事は非常にストレートだ。冒頭の部分を直訳するとこうなる。

橋下曰く「日本の従軍慰安婦は必要であった」

日本で注目を集めている政治家が、第二次世界大戦中に女性達を強制的に売春婦にしたシステムのことを「必要だった」と表現した。

大阪府知事である橋下徹氏によると、従軍慰安婦は命をかけて戦う兵士たちに「安らぎ」を与えていたそうだ。彼は、その女性達が「自分たちの意思に反して」その仕事をしていたことも認めている。

BBC: Japan WWII 'comfort women' were 'necessary' - Hashimoto

これは致命的だ。今まで日本の政治家はさまざまな失言を繰り返して来たが、ここまで他国の人々の心を逆なでするものは始めてだ。女性はもちろん、軍人に対する大いなる侮辱だ。

日韓関係を悪化させるだけでなく、これで西洋諸国の多くの人々が「日本では何か異常なことが起こっている」と感じることは避けられない。最近の安倍総理の発言と合わせて聴けば、これは十二分な(極右化、第二次世界大戦の正当化の)危険信号だ。

米国に住む日本人として言わせていただく。橋下氏の発言は、日本人全員の顔に泥を塗る行為だ。断じて許されるものではない。


今週の週刊 Life is Beautiful:5月13日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

TPPが加速する多国籍企業による寡占化

少し前までは、日本で TPP に対する論議がさかんでしたが、政府が公式に TPP への交渉参加を発表して以来、既成事実化してしまっている点が少し心配です。TPP は「日本の農業市場を解放するかどうか」という局所的な話ではなく、米国の多国籍企業が中心となって進めている「グローバル化」の波に日本も乗るかどうかという大きな話なのです。米国国内では、TPP に関する報道はほとんどないし、国民の関心も...

Amazon ダイレクト・パブリッシング

ブログにも書きましたが、メルマガのバックナンバーをKindle向けの電子書籍として出版してみました。出版社を通さずに自分で直接出版するのにどのくらい手間がかかるものかを自ら体験してみたかったのもあるし、マーケットの規模が現在でどのくらいなのかを知りたかったというのもあります。メルマガはもともと HTML で書かれているので、それを Amazon の提供する Kindle Previewer というツールを使って...

私の目に止まった記事

 Microsoft Mulling Nook Media LLC Purchase For $1 Billion

Techcrunch による、Microsoft が Barns & Noble から Nook Media LLC を $1 billion で買収する、という報道です。Nook Media LLC は大規模書店を経営する Barns & Noble が電子書籍の時代に備えて作った子会社で、Android ベースのタブレット Nook とそれ向けの電子書籍の販売をしている会社...

Apple's 4K Television Opportunity

4K テレビ(走査線の数が今の HDTV の倍の2160 という超高解像度テレビ)に関しては、ソニーなどの既存の家電メーカーよりも Apple の方が有利だ、という意見です。私はそもそも 4K テレビ市場そのものに関して懐疑的なので、この記事の筆者の意見に必ずしも賛成ではありませんが、Apple がそろそろ出してくるだろう iTV もしくは...

Streaming Behemoth: Netflix's Astounding Math

米国内のインターネット・トラフィックの3分の1は Netflix のものと言われるほど人々のライフスタイルを大きく変えてしまった Netflix ですが、 Netflix が提供しているサービスは、通常の放送とは大きく違うのはもちろん、他社のオンデマンド・テレビ・サービスとも大きく異なっている点に関して...

U.S. Opposes Japan's Nuclear Plan

米国政府が六ヶ所村での使用済み核燃料の再処理開始に懸念を表明している、という報道です。原子爆弾の材料となるプルトニウムをこれ以上日本が備蓄することは、中国や韓国を刺激することになり、アジアでのプルトニウム備蓄競争が起こってしまうことを懸念しているのです。止まっている原発を再稼働するしないに関わらず...

3 Graphs Explain Why There Is A Tech-Talent Shortage And Immigrants Are Needed

米国のハイテク企業が国内に不足している科学者や技術者を海外から雇う際に使う H1B ビザに関しては、「もっと発行量を多くすべき」という意見と「H1B ビザが米国人から職を奪っている」という両方の意見がありますが、この記事は、前者の方が正しいということを数字を持って...

The Science of Stretch

人間の体はさまざまな臓器・組織で出来ていますが、その中でもこれまであまり注目されて来なかったのが、筋肉を包んでいる膜状の組織、筋膜(fascia)ですが、これが実は肩こりや腰の痛みに大きな役割を果たしているのではないか...

How Does Multitasking Change the Way Kids Learn?

スマートフォンによる「常時接続ライフスタイル」が学生達の勉強にどんな影響を与えているかについてのさまざまな研究結果が報告されています。私が興味深いと思ったのは、一つのことだけを集中してやっている時と、複数のことを同時にやっている時とは脳の使う場所が違う...

UIEvolution 起業ものがたり(18): Pete Stoppani

会社を設立し、Ignition Partners による投資と Incubation が決まると、すぐにメンバー集めにとりかかりました。最初に連絡したのは Pete Stoppani です。Pete は私が Microsoft で Netdocs プロジェクト(Office アプリケーションをブラウザー上で動かそうというプロジェクト)で働いていた時に部下として...

今週のビデオ:Eric Schmidt

Eric Schmidt on the Future of Android, Motorola, Cars and Humanity

AllThingsD による Google の Eric Schmidt のインタビューです。前半は、Samsung が Android OS のメーカーとして一人勝ちしていることを問題視しているかどうか、Facebook Home が成功することは Google にとってプラスかマイナスか、Eric がもし Apple の経営者だったとすれば溜め込んだ現金をどう使うか、など答えにくい質問を...


TPPを「米国の陰謀」と捉えると本質が見えなくなる

内田樹氏が朝日新聞に寄稿した「壊れゆく日本という国」という文章が注目を集めている。喧嘩好きの池田信夫氏は、「壊れゆく内田樹氏」というタイトルの記事で批判しているが、今回はちょっとキレが悪い。

この件に関しては、ちょうど次号のメルマガ(週刊 Life is Beautiful)向けに小論文を書いているところなので、頭に入れておくべき重要なポイントをいくつか書いておく。

  • グローバル企業にとって一番の敵は、ライバル企業ではなく、それぞれの国の関税や非関税障壁
  • 現時点で、TPPに最も大きな影響力を持っているのは米国のグローバル企業
  • TPP の最終ゴールは国の間の関税や非関税障壁の撤廃(自由貿易)
  • その意味では TPP は「米国政府の陰謀」などではなく、グローバル企業による「企業戦略の一環」である。
  • 日本のグローバル企業も、日本のTPPへの参加でアジアでのビジネスがやりやすくなると期待している
  • 自民党が TPP への参加に積極的なのも、そんな日本のグローバル企業のためである
  • TPP への参加で被害を被るのは、グローバル市場で戦えない(もしくは、戦うことなどに興味のない)中小企業や零細農家。街角の喫茶店がスタバに、商店街の酒屋がコンビニになったのと同じことが、あらゆる業種で加速される。
  • TPP のもう一つの問題は、自国の国民を守るための環境・安全のための規制が(非関税障壁と見なされるために)やりにくくなること。TPPの理念に従えば、日本の厳しすぎる排ガス規制は「米国車を締め出すための非関税障壁」に他ならない。

グローバル化の行き着く先は一体どこなのかを、今一度立ち止まって考えてみるべきだと思う。

カート・ヴォガネット・ジュニアの「プレーヤー・ピアノ」に描かれた通りの世界に近づいて行くことが、果たして人類全体にとって良いことなのかどうかを。

「私たちがニューヨーク市からここへくる間に見た奴隷はどなたの持ち物ですか?」

「奴隷じゃありません。あれは市民です。政府に雇われているんです。彼らはほかの市民と同じ権利を持っていますー言論の自由、信教の自由、それに投票権。」


トルコ原発受注の舞台裏

(注)このエントリーはあくまでフィクションです。実在する人物・企業とは一切関係ありません。

3月XX日 霞ヶ関経産省本館会議室

経産官僚A: 皆さん、本日はお忙しい中お集りいただきありがとうございます。総理と経産大臣は国会質疑中なので参加出来ませんが、私が代理人として、5月の安倍総理の中東訪問の関して、ご同行いただく皆さんにその目的と手順を確認させていただきたく思います。お手元にの資料には...

...福島第一での事故以来のヒステリー状態から国民が目を覚ますには、まだ数年はかかると見ております。そのため、既存の原発の再稼働はまだ良いとして、国内での原発の新設に関して国民の理解を得るのはかなり難しいと考えております...

...その意味では、日本の原発産業の維持、原発技術の保持という観点からも、海外の原発の受注によりそのギャップを埋めることが何よりも重要と考えております...

...そのためには、日本政府としてもあらゆる外交手段を使って協力をさせていただく所存でございます。そこで、別途もうけさせていただく、企業別のヒアリングの席にて、何がボトルネックになっているかを出来るだけ具体的な形で教えていただきたく存じます...

 

同日 霞ヶ関経産省本館小会議室

外務官僚B:すると、カナダ、韓国がトルコの原発から手を引いたのは、トルコ政府が原発の設置コストまで彼らに負担しろと主張しているから、ということなんですね。

三菱重工専務C:そうなんです。トルコ側はとしては原発は欲しいが設置コストは出せない。電力の買い取りは保証するから、設置コストはそこから回収してくれ、と主張しているのです。

外務官僚B:実際のところ、EU加盟を望むトルコとしては、これ以上財務状態を悪化させるわけにはいかず、そこがネックなんだと思います。ちなみに、三菱さん側ではいくらぐらいまでなら投資して良いと考えているんでしょうか?

三菱重工専務C:私どもとしては、6000億円までの投資は覚悟しています。フランスの GDF Suez からは4000億円引っ張って来れるので、合計で1兆円。総工費が2兆円なので、残りの50%をトルコ政府に負担して欲しいと提案していますが、受け入れてもらえません。

外務官僚B:了解しました。つまり、残りの1兆円をトルコ政府が調達できさえすれば、受注は可能だということですね。考えてみましょう。

三菱重工専務C:よろしくお願いします。ファイナンスリスクをどこまで日本側が負えるかがこのディールの鍵になると思います。

外務官僚B:このミーティングの後、NEXI の板東一彦理事長と会う予定になっているので、この件に関して相談してみます。坂東理事長は、大臣官房審議官も務められていた通産OBなので、このあたりの事情は良くご理解いただいております。

 

4月1X日 トルコ日本大使館会議室

経産官僚D:つまり、国のバランスシートにこの1兆円が借金として記載される点が一番のネックだということですね。

トルコ政府要人E:その通りです。トルコ政府としても、後々電気料金を払うことには何の抵抗もありませんが、巨額な借金を今の段階ですることだけは出来ないのです。

経産官僚D:しかし、 カナダと韓国がこの件から手を引いたのは、そこがネックだったんですよね。少しは譲歩していただけませんか?

トルコ政府要人E:難しいと思います。そもそも、1兆円もの資金の調達は簡単ではありません。

経産官僚D:株式市場から調達というのはいかがでしょうか?

トルコ政府要人E:私たちもそれは考えました。4000億円程度であれば調達は可能だと思います。

経産官僚D:すると問題は残りの6000億円ですね。もし、この6000億円の調達を日本側がお手伝いする、と言ったらどうします?

トルコ政府要人E:日本政府が貸す、ということですか?

経産官僚D:日本政府が直接というのは世論が許さないので、独立行政法人である日本貿易保険 NEXI がファイナンシャル・リスクを追う形を取ることにより、低金利での資金調達をすることは可能だと思います。

トルコ政府要人E:それは助かります。しかし、その場合でも、いきなり6000億の借金を国として抱えるのはリスクが高すぎます。

経産官僚D:というと?

トルコ政府要人E:「プラントが完成し、予定通りの発電が出来る」ことが確認できた点で、株式の買い取りの義務が発生する、という形にしていただきたい、という意味です。工事が遅れたり、何らかのトラブルで発電出来ないとなった時のリスクをトルコ政府としては負えない、という意味です。

経産官僚D:分かりました。そこは契約しだいで何とでも出来ると思います。

トルコ政府要人E:ありがとうございます。

 

4月2X日 総理官邸にて

総理秘書G:トルコは使用済み核燃料の引き取りまで要求しているのか

経産官僚E:ロシアが建設したアキュユ原発の場合には、使用済み核燃料はロシアが引き取っているという前提があるため、日本にもそれをして欲しいとのことです。

総理秘書G:それは難しいな。当初考えていた、六ヶ所で再処理してプルトニウムを取り出して送り返すプランには、米国政府がストップをかけたのは知っているだろう。

経産官僚F:その件に関しては「とりあえずは中間貯蔵施設をトルコ国内に作って保管しておき、最終処分地に関しては両国で協議して決める」という曖昧な表現にしておくのが良いと思います。例のモンゴルの最終処分地の話が決まれば、そこに引き取ることも可能になりますから。

経産官僚E:もう一つの課題としては、売電価格があります。トルコ側は1キロワットアワーごとに 11 セントを主張しており、まだ三菱側が提示している数字とは開きがあります。

総理秘書G:ロシアはアキュユ原発はいくらだったっけ?

経産官僚E:12.35 セントです。

総理秘書G:ロシアより安くしろと言っているのか。

経産官僚E:最新式の原発だから安く作れるはずだ、と主張しているのです。

総理秘書G:落としどころはどのあたりだと君は考えているんだ?

経産官僚E:11 セントの後半だと思います。

総理秘書G:よろしく頼むよ。首脳会談までにはすべてクリアにしておく必要がある。

 

5月X日 トルコ日本大使館にて(総理へのブリーフィング)

経産官僚E:総理、今回のディールのサマリーは以下の通りです。

  • 日本側は日本から三菱重工と伊藤忠、フランスからはアレバとGDFスエズ、という座組ですが、プライム・ベンダーはあくまで三菱重工です。
  • 原子炉は三菱重工とアレバの合弁会社であるアトメアが作りますが、原発の運営はフランスの GDFスエズ社 が担当します。
  • 総工費は220億ドル、約2兆1800億円になります。
  • 工事の開始は2017年、原子炉の営業は2023年を予定しています。
  • 開発資金は70%を日本側が、30%をトルコ側が負担することになります。ただし、トルコ側の資金は原発が実際に電力を提供できることを証明してから入金という契約になっているので、それまでの間は日本側がファイナンスすることをトルコ側は期待しています。
  • 原発事業会社の株式に関しては、51%を日本側が、49%がトルコのEUASが持つことで合意しています。ただし、トルコ側はその半分までは株式市場で売却すると言っています。日本側は31%を三菱重工が、20%をGDFスエズが持つことになります。
  • この事業への巨額と投資は、かなりリスクの高いものとなるため、大半のリスクは独立行政法人である日本貿易保険 NEXIが引き受けることになります。これにより三菱重工は低金利での資金調達が可能になります。
  • 売電価格は 11.8 セントに決まりました。ロシアのアキュユ原発の 12.35 セントよりも 0.55 セント安くなっています。トルコは、その価格で15年間電気を買うことを約束しています。稼働率は70%を想定しています。
  • 使用済み燃料に関しては、トルコ内に中間貯蔵施設を作ることで合意しています。

ちなみに、今回の発表は、最終契約ではなく「排他的交渉権」の獲得です。最終契約までにはファイナンスの細部を詰める必要がありますが、トルコ政府のバランスシートを汚さない形でのファイナンスを日本側が提供しさえすれば契約は取れます。首脳会談で先方がファイナンスの話を持ちかけて来た場合は、出来るだけ曖昧に答えておいてください。あと、使用済み核燃料の最終処分場の問題についても今回は触れないでいただきたいと思います。

 

【参考資料】

 


Kindle ダイレクト・パブリシング、失敗から学んだこと

先日「Kindle ダイレクト・パブリシングを試してみた」というエントリーに書いた通り、私としては初のKindle 向けの電子書籍を発売したのだが、いきなり失敗をしてしまった。

出版したのは、下の二冊。

メルマガの読者の協力も得て、Kindle、iPad版 Kindle、Android版 Kindle のそれぞれで読めることを確認した上で出版し、ブログでアナウンスをした。滑り出しは上々で、出版して2時間もしないうちに、創刊号がヒット商品の1位になり、続いて Vol.2 が2位に。全体のランキングでも創刊号が98位に食い込む。

「この調子ならば全体のランキングでも上位を狙える!」と思ったとたんに問題が起こった。

購入した読者の1人から「購入した電子書籍が iPad 版 Kindle で読めない」という連絡が入って来たのだ。読もうとすると「このデバイスの種類では、商品はご利用いただけません」というエラーメッセージが出て本を読むことが出来ない、というのだ。

再び私の iPad で確認するが、問題は再現できない。どうしたものか。

すると、今度は別のフランスに住む読者から、同じエラーが報告されてくる。やはり iPad 版 Kindle だ。

ネットやAmazonの開発者向けのフォーラムで調べても原因が分からない。

しかたがないので、Amazon のユーザー・フォーラムに、創刊号へのリンクとともに問題を報告する(本来ならば開発者向けのフォーラムに投稿すべきだったのだが、焦っていたので、あまり考えている時間はなかった)。

すると、今度は別のユーザーから、「創刊号が発売中止になっていて買えない」という連絡が入る。アマゾンで確認すると、確かに「この本には不具合が発見されたので、調査中のため、一時的に販売を中止しています」となっている。

「せっかくヒット商品に入ったのに!」と焦るが何も出来ない。売り上げの報告を見ると、当然、創刊号の数値は止まったままで、Vol.2 だけが徐々に増え、創刊号の数値を超えている。創刊号が買えないにもかかわらず、Vol.2 を買ってくれているユーザーがいるのだ。

そうこうしているうちに、Vol.2 も発売中止になってしまう。たぶん創刊号の問題点を調べたアマゾンの人が Vol.2 にも同じ問題点があることを発見して発売中止にしたのだろう。しかし、メールボックスを見てもまだアマゾンから何の連絡も来ていない。

この間、何が問題なのかも分からず対処のしようもないので、ひたすらアマゾンからの連絡を待つだけであった。精神的にはタフな方だが、この待ち時間だけはさすがに何も他のことが出来なかった。

4時間ほど後、ようやくアマゾンから連絡が入る。iPad 版 Kindle でダウンロード出来る様にするためには、メタタグ <meta name="language" content="ja"> を入れておく必要があるという。書籍のダウンロードの部分でひっかかっているので、私の iPad では再現できなかったのだ(テストの際には USB ケーブル経由で書籍をコピーしていた)。「Kindle 本体でも、Android 版 Kindle でも必要ないのに、なぜ iPad 版だけ必要なのか」についての説明は全くなかったが、仕様は仕様なので仕方がない。

すぐに修正をする。ついでに目次を付け加え、画像の大きさも調整してから、修正済みの書籍をアップロードする。後は、アマゾンの審査を待つだけだ(ついさっき、どちらも審査に通って買えるようになった)。

このゴタゴタで、せっかく「ヒット商品の1位、2位」を独占するという大チャンスを有効に使うことができなかったのはとても残念だ。しかし、アマゾンが問題を見つけ次第、すぐに発売を中止するという読者保護の立場を貫いていることは素晴らしい。

まだまだツールも充実していないからこそこんな問題が起こるのだが(メタタグが抜けていることぐらいはツールが指摘すべき)、アマゾンがこんな態度でちゃんと対応してくれる限りは、Kindle ダイレクト・パブリッシングの将来は明るい。


今週の週刊 Life is Beautiful:5月7日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

パーソナル・メディア・ビジネスの市場規模

ブログ・メルマガを使ったパーソナル・ジャーナリズム、電子出版を使ったパーソナル・パブリシング、Youtubeを使ったパーソナル・放送局、スマートフォン向けのパーソナル・アプリケーション・パブリシング、Amazon Web Service や Google App Engine などを活用したパーソナル・ウェブサービスなど、インターネットのおかげで配信コストと参入障壁が限りなく低くなったことを利用した...

私の目に止まった記事

Amazon Fresh expansion? Company sidesteps question on refrigeration rollout

シアトル近郊に住んでいる人以外にはあまり知られていないと思いますが、Amazon が生鮮食料品の宅配サービスを Amazon Fresh というブランドで展開しています。オンラインですべてを注文出来るという消費者にとっての利点はもちろんのこと、売る側にとっても、店舗が不要な上に、商品を店舗に陳列する必要がないために商品の鮮度を長く保てるという利点があります...

Surprise! Microsoft's Gaining Domestic Smartphone OS Market Share

スマートフォン市場でのシェアをなかなか確保できずに苦しんでいた Microsoft ですが、ようやく良い兆しが見えて来ました。この記事によると、今年の第一四半期の Windows 8 ベースのスマートフォンの米国でのシェアは 5.6% に上昇したそうです。5.6% というと小さな数字ですが、去年の同じ時期の 3.7% と比べると50% 以上の伸びであり、iPhone vs. Android という二強が火花を散らす戦いを繰り広げる脇で少しでもシェアを伸ばした、というのは評価に値します...

Dirty war

シェール革命により天然ガスの価格が下がり、そのために米国内で採掘される石炭への需要が落ち込み、石炭産業が苦境に立たされている、という記事です。その需要の穴を埋めるために、福島第一での原発事故後に原発を再稼働できずに火力に頼っている日本を中心としたアジアへの輸出を模索している、という話です。この記事を読んで思い出したのが、少し前に見た「ニッポンの火力発電がスゴイ!」という番組で...

Jawbone Acquires BodyMedia For Over $100 Million To Give It An Edge In Wearable Health Tracking

これまでスマートフォンのさまざまな周辺機器を販売して来た JawboneMassive Helth に続いて Body Media を買収し、スマートフォンとウェアラブル・センサーを使った健康管理ビジネスに本格的に力を入れることが明らかになった、という報道です。ウェアラブル・コンピューターというと Google Glass ばかりが注目されていますが...

You can now watch and review all 14 pilot episodes created by Amazon Studios online

Netflix がオリジナル・コンテンツを提供しはじめたことはここでも何度か伝えて来ましたが、今度は Amazon の番です。Netflix が一気に $100 million を投じて「House of Cards」シリーズを制作したのに対し、Amazon は14個 のシリーズ番組のパイロット版をまず無料で提供し、消費者からのフィードバックに応じて適切なシリーズ番組を選び出してそこに投資して行く、というアプローチを採用することに決めたそうです...

エンジニアのための経済学: 現金を沢山持っているAppleがなぜ借金をするのか?

ウォールストリートでは、Apple が先週の火曜日に発行した $17 billion という巨額の社債が大きな話題になりました。10年満期のものを 2.4515%、5年ものを1.076%、3年ものを 0.511% という超低金利での資金調達です(参照:Apple's Record Plunge Into Debt Pool)。Apple と言えば $145 billion もの現金を溜め込み...

今週のビデオ:How a fly flies

Michael Dickinson: How a fly flies

Fluit Fly (熟した果実を食料にする小さなハエ、科学の実験でつかうショウジョウバエのこと)がどうやって飛ぶか、そしていかにそれが脳の大きさに比べて賢いかを語っているスピーチですが、分かりやすく、観客の興味を引き出しながら語る口調はとても参考になります...

今週のKickStarter:WISH I WAS HERE

WISH I WAS HERE

俳優・監督・脚本家として映画 Garden State を作った Zach Braff が "Garden State" に続く作品として脚本を用意している "Wish I was here" の制作費 $2 million を KickStarter を使って集めることに成功しています。既に知名度が高いという利点を最大限に活用していると言えばそれまでですが...


政治家も国民も信用できないから憲法がある

橋下さんが、憲法の96条改正について「政治家からの発議の敷居を下げるべき」「国民をもっと信頼すべき」と理論を展開しているが(参照)、そもそも憲法が他の法律の上位に位置づけられており簡単には変更できなくなっている根本の理由をちゃんと考えてみれば、この理論は少しおかしい。私はこれまで橋下さんを支持して来たが、この件に関しては正直言ってがっかりだ。次の選挙では投票すべき別の政党を見つけなければならない。

憲法がこれほどまでに変更しにくくしてあるのは、人間はそもそも弱い生き物で、どうしても私利私欲に走ったり、目先の利益を優先して大きな問題を先送りしたり、マスコミの報道することを頭から信じてしまったり、調子の良いことを言う政治家に騙されてしまったり、その場の勢いに流されて思考停止をしてしまったりするからだ。つまり、政治家も国民も「信用」などできないのだ。

憲法を「アメリカから押し付けられた憲法」と呼ぶ人がいるが、実際に日本に来て日本国憲法を作った米国人は、これを「アメリカから日本への最も貴重な贈り物」だと考えている(参照:1945年のクリスマス)。「上から目線」と言ってしまえばそれまでだが、米国の憲法は、「人間は弱い」ことを前提にして、どんな政治家が政権を取ろうと、国民の人権を侵害したり政府の方針に真っ向から反抗する人を弾圧したりできないような歯止めがしっかりとかけてある素晴らしい憲法だ。

軍部の暴走により負けると分かっている太平洋戦争に突っ走ってしまった日本という国を、どんな暴君が政権を取ろうと、二度とあのような間違いは起こさないような国にしてあげよう、という思いが込められているからこそ、人権の尊重や表現の自由が徹底的に貫かれた素晴らしい憲法になっているのだ(自民党はそこも気に入らないようで、人権よりも「国の秩序」が大切だと主張している→自民党の改憲案を参照)。

その憲法の変更を国会議員の高々半分が賛成すれば発議することが出来るようにする、というのはどう考えてもおかしい。その後一応、国民投票をすることにはなっているが、国が税金を使って本気で改憲キャンペーンを展開すれば世論を操作することは決して難しくない。電通に「金は幾らでも使って良いから国民投票で多数を取らしてくれ」と頼めば良いだけの話だ。

ちなみに、私は憲法96条の変更には反対だが、憲法9条の変更には必ずしも反対ではない。日本という国を守るために必要な自衛隊と憲法が矛盾している点は修正すべきだと考えている。

しかし、憲法9条を変更するために、まず憲法96条を変更しようというのはあまりにも姑息な手段だ。革新政党も含めた超党派の議員の間で「憲法9条の持つ矛盾をどう解決するか」を徹底的に話あった上で、彼らが賛成せざるを得ない改憲案を超党派で発議した上で国民投票にかけるべきだ。国民投票にかけるのは、その「超党派での発議」という高い塀を乗り越えて来た改憲案だけで十分だ。


Kindle ダイレクト・パブリシングを試してみた

発表された時から一度は試してみなければと考えていた Amazon の Kindle ダイレクト・パブリッシング。出版社を通さずに、誰でも自費出版を自己資金ゼロで出来、かつ、印税も30%〜70%という高いのも魅力だ(紙の書物だと、印税は10%前後)。

そこでまずはメルマガ「週刊 Life is Beautiful」のバックナンバーを電子書籍化して出版してみた。

値段はどちらも最低の99円に設定してあるのでぜひお試しいただきたい。私が原発事故まもない時期に管総理と会って「東電の破綻処理」のお願いをした時の話を連載したのはこの時期だ。また「ブログには書けない/書かない話」のコーナーでは、スクエニによるUIEvolution の買収と、その後のMBOに関する裏話を書いてある。

ちなみに、出版の手順は以下の通り。

1. Amazon の Kindle ダイレクト・パブリシングでアカウントを作る。

2. フォーマット変換用のツール(Kindle Previewer)をダウンロードする。

3. 書籍を用意する

私の場合は、元の原稿が HTML メールなので、最初はそれをそのまま変換してみたが、これをするとリンクしている画像がうまく変換できない。そこで一度ブラウザーで開いてから、File->Save As...で "Webpage Complete" の形にして画像をローカルに引っ張って来る必要があった。

4. Kindle Previewer を使ってフォーマット変換する

5. 表紙画像を作る

表紙画像はビットマップ・エディターではなくて、ベクター・エディターで編集した上で、長い方の辺が2000ピクセルになるようにラスタライズすると良い。私の場合は、iPad上の neu.Draw を使った。

デザインはシンプルにしたかったが、宣伝文句も入れたかったので、実際の書籍を参考に、シンプルな表紙の上に「帯」をかぶせることで解決した。下がその具体例。

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6. 管理ページの本棚に本を追加する

タイトルなどの必要な項目を入力した後、表紙画像と書籍(MOBIファイル)をアップロードする。この時、出版のページに移行しようとすると、著者名が日本語であるため、読みがなとローマ字表記の入力をリクエストされたので、これも追加。

7. 販売する国、値段を設定して、出版プロセスをスタート

販売する国はデフォールトの全世界。値段は、まずは米国での値段を 99セントに設定し、他の国は(日本も含めて)「米国の値段を標準に決める」ように指示した。

8. 審査に通るのを待つ

ここまでの操作で書籍は Amazon による審査待ちに入るので、ここはひたすら待つ。私の場合、次の日になぜか一旦「ドラフト」モードに変更されていることを発見したので、もう一度出版ボタンを押して再審査をリクエスト。すると翌々日は出版された(トータルで3日)。

まとめ

結果的には編集も含めてちょうど一週間で出版にまでこぎつけたので悪くはないが、ツールのユーザー・インターフェイスがとても分かりにくいので少々苦労した。変換途中の問題点をコンソール出力している点などは完全に開発者向けで、これが一般の作家にとっての自費出版の敷居を高くしている。

また、エミュレータがとても使いにくいので全ページをめくって確認するのにとても手間がかかっていたが、途中で iPad 版の Kindle に mobi ファイルを(iTunes の File Sharing 機能を使って)転送すれば簡単にテスト出来ることを発見して、効率が圧倒的に良くなった。

つまり、ひと言で言えば「開発者向けのツールとしては及第点だが、一般の人向けの出版ツールとしては、100点満点で30点ぐらいの出来。まだまだ改良の余地がある」という感じだ。