TPPを「米国の陰謀」と捉えると本質が見えなくなる
2013.05.09
内田樹氏が朝日新聞に寄稿した「壊れゆく日本という国」という文章が注目を集めている。喧嘩好きの池田信夫氏は、「壊れゆく内田樹氏」というタイトルの記事で批判しているが、今回はちょっとキレが悪い。
この件に関しては、ちょうど次号のメルマガ(週刊 Life is Beautiful)向けに小論文を書いているところなので、頭に入れておくべき重要なポイントをいくつか書いておく。
- グローバル企業にとって一番の敵は、ライバル企業ではなく、それぞれの国の関税や非関税障壁
- 現時点で、TPPに最も大きな影響力を持っているのは米国のグローバル企業
- TPP の最終ゴールは国の間の関税や非関税障壁の撤廃(自由貿易)
- その意味では TPP は「米国政府の陰謀」などではなく、グローバル企業による「企業戦略の一環」である。
- 日本のグローバル企業も、日本のTPPへの参加でアジアでのビジネスがやりやすくなると期待している
- 自民党が TPP への参加に積極的なのも、そんな日本のグローバル企業のためである
- TPP への参加で被害を被るのは、グローバル市場で戦えない(もしくは、戦うことなどに興味のない)中小企業や零細農家。街角の喫茶店がスタバに、商店街の酒屋がコンビニになったのと同じことが、あらゆる業種で加速される。
- TPP のもう一つの問題は、自国の国民を守るための環境・安全のための規制が(非関税障壁と見なされるために)やりにくくなること。TPPの理念に従えば、日本の厳しすぎる排ガス規制は「米国車を締め出すための非関税障壁」に他ならない。
グローバル化の行き着く先は一体どこなのかを、今一度立ち止まって考えてみるべきだと思う。
カート・ヴォガネット・ジュニアの「プレーヤー・ピアノ」に描かれた通りの世界に近づいて行くことが、果たして人類全体にとって良いことなのかどうかを。
「私たちがニューヨーク市からここへくる間に見た奴隷はどなたの持ち物ですか?」
「奴隷じゃありません。あれは市民です。政府に雇われているんです。彼らはほかの市民と同じ権利を持っていますー言論の自由、信教の自由、それに投票権。」
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