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Windows8 と iOS7 が示すモバイル時代のGUIの方向性

最近は日経新聞のオンライン版に記事を書いている私だが、今朝の記事は、

第3次OS戦争に突入、スマホが促す究極の『直感操作』

いかにも新聞社らしいタイトルの付け方が何とも言えない。私だったら「Windows8 と iOS7 が示すモバイル時代のGUIの方向性」というタイトルにするだろう。

ちなみに、強調したい部分は、direct manipulation (直接操作?)の部分ではなく、immersive experience (没入体験)。マウスを使わずに直接タッチするデバイスにおいては、可能な限りメニューやボタンは隠したり控えめにして、書籍やゲームなどのコンテンツそのものを全画面に表示して、「あたかもコンテンツを直接操作しているような錯覚」を起こすことが理想だ。

そうは言っても、direct manipulation が必ずしも直感的で分かりやすい・発見しやすいとは限らないので、ここがおもてなしの設計者としては悩ましいところだ。

Microsoft が Windows8 からスタートメニューとタスクバーを外したのはまさにこの immersive experience の実現のためだが、既存ユーザーから猛反発をくらってしまった。

iOS7 のアイコンがフラット化し、Navigation Bar や Toolbar がモノトーンや半透明になったのも、同じところを目指しているのだ。

第3次OS戦争というのはいささか大げさだが、パソコン向けに設計されたGUIが、モバイルデバイス向けに(というかタッチデバイス向けに)進化した結果がこの immersive experience だということを意識しておくことは、アプリ開発者にとって大切だと思う今日この頃である。


今週の週刊 Life is Beautiful:6月25日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

Jawbone UP のある生活

少し前にここで、「Apple が次に作るべき製品」として、カメラとe-Inkディスプレイ付きの腕時計型万歩計のアイデアを書きましたが、いつまでも待っていても仕方がないので、Jawbone UP を入手しました。Jawbone UP を付けるようになってまだ2週間ほどですが、生活習慣に対する影響は多大なものがあります...

シアトル地域の不動産を買いあさる中国人

リーマンショック以来低迷していた米国の不動産市場が、まずは高級住宅地を中心に復活しはじめていますが、知り合いの不動産屋さんによるとその一番の原動力となっているのが中国人による不動産の購入だそうです。彼女が仲介して販売した家も、売りに出してすぐに5件のオファー(購入したいという意思表示)が入り、すべて中国人のものだったといいます...

私の目に止まった記事

Why Wouldn’t We Let Students Blog? Reasons to Get Students Blogging

学校で、先生しか読まない作文を書かせていても、生徒のモチベーションも上がらないし、本当の文章力はつかない。学生たちにはブログを書かせるべきだ、という意見を持つ先生の主張です。私はブログを書く様になってから「書くこと」が本当に好きになりました。実際に大勢の人に向かって文章を書いているうちに...

Samsung Could Be in Serious Trouble 

先週号で紹介する予定だった記事ですが、とても重要な点を指摘しているので紹介します。飛ぶ鳥を落とす勢いでスマートフォン市場のシェアを伸ばして来た Samsung ですが、本質の部分では他の Android メーカーとあまり違いはなく、Android メーカー間の消耗戦故に、現在のシェアと利益率の両方を維持するのは難しいだろうという予想です...

Report: AMD Is Making Its First Ever ARM Chip

これまで Intel 互換の CPU のみを作って来たAMDが ARM からライセンスしたコアを持つ CPU を作ることになった、という報道です。パソコンの世界は、Intel および Intel 互換の CPU が実質的に独占して来ましたが、モバイルの世界においては ARM が圧倒的なシェアを持っています...

How This Retailer has Completely Turned it Around

米国のヨドバシカメラのような存在である Best Buy は、Amazon の台頭と、Costco による家電の安売り販売の板挟みとなり、倒産も近いのではないかと予想する人も多かった会社ですが、ストア内ストアの形で、Samsung と Microsoft の専門店を持つことによる復活を果たしている、という報道です...

Your Feedback Matters - Update on Xbox One

つい先日指摘したXbox One マーケティングの最初の失敗であった「常時接続問題(インターネットに接続していないとゲームが遊べないという仕組みを Xbox One に導入しようとして批判された問題)」に対して、Microsoft が素早く対応して来ました。あそこまでメディアに批判され、かつ、ソニーまでそこを攻撃して来たとなっては、対応せざるを得なかったというのが現実です。対ソニー戦略としてはこれで正しいのでしょうが...

エンジニアのための経済学:スマート万歩計市場

この市場は、まだ立ち上がったばかりなので、確固とした市場の名前すらありませんが、私は「スマート万歩計」と呼んでいます。こちらには "fitness watch" とか "fitness wristband" と呼ぶ人もいますが、 必ずしも時計の機能があるわけでもないし、リストバンドの形状を取っているとは限らないので、やはり素直に「ちょっと賢くなった万歩計」という意味で「スマート万歩計(smart pedometer)」で良いと思います...

今週のビデオ: Steve Jobs

Apple founder Steve Jobs, in rare video, explains why the tech world is not like the Renaissance

Silicon Valley Historical Association が発売した DVD の宣伝のために抜き出して公開した Steve Jobs の 1994年時点でのインタビューですが、とても興味深いことを言っています。ルネッサンスの時代の教会や絵画が、今でも価値を失わずに、実際に使う・楽しむことが出来るのと違い、IT業界の生み出すものは10年も経てば価値を失い、まったく使い物にならなくなってしまう、という点をいかにも Steve Jobs らしい口調で...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週はこんな質問をいただきました。

毎週楽しくメルマガ拝見させていただいてます。現在、工学部3年生の多田と申します。英語のニュースを見る際、どのサイト利用してますか?

私にとってのニュースソースは、大きく分けて3つあります。1つ目は Wall Street Journal です。紙の新聞を購読しており、毎朝一通り目を通すことにしています。IT業界以外の記事もたくさんありますが、経済全般の流れを把握するには、やはり...


今週の週刊 Life is Beautiful:6月18日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

iOS7 の裸眼3D技術

先週のWWDCで発表された iOS7 ですが、開発者向けにベータ版が配布されたので、早速私の iPhone(4S)にインストールしてみました。不安定なベータ版を日常的に使っているデバイスに入れることは若干リスクがありますが、特に今回は、日常的に使って経験することが大切だろうと感じたのでリスク覚悟でインストールしました。いくつか小さな不具合は見つかりましたが、全体的には安定しています...

...つまり極端な言い方をすれば、Microsoft が Windows 8 からスタートボタンを排除した理由と、Apple がアイコンをフラットなデザインなものに変えた理由の根っこは同じところにあるのです...

...iOS7 のもう一つの特徴として注目されているのは、アイコンのフラット化ですが、これはフラット化そのものが目的ではなく、何か別のものを実現するために、アイコンがフラットである必要があった、と理解する必要があります...

私の目に止まった記事

You’re Not Wrong, Microsoft, You’re Just An Asshole

先週開かれた E3 で最も注目を集めたのは、やはり Microsoft Xbox One と Sony Playtation 4 の「次世代ゲーム・コンソール」対決でしたが、メディアの反応を見る限りは、今回は Playstation 4 に軍配が上がったと言えると思います...

...本当の狙いが単なる「据え置き型ゲーム端末市場でソニーに勝つ」ことではなく、「Appleが本気を出したり、Amazonがやって来る前にリビングルームでの総合エンターテイメント市場を制覇する」ことであるMicrosoft としては...

US Supreme Court: Human Genetic Material Can't Be Patented

米国の最高裁が、人間の遺伝子を特許として権利化することを認めないという判断を示したそうです。そもそもは、Myriad Genetics が乳がんのリスク要素として発見した遺伝子を権利化しようとしたことから始まった裁判で、元々人間が持っているものを権利化することは認められない、というのが最高裁の判断です...

220-pound flying bicycle test flight a success

米国では全国ネットワークのニュース番組で取り上げていたし、日本でもNHKが報じたそうですが、チェコの発明家グループが「空飛ぶ自転車」のテストフライトとに成功したというニュースです...

...世界で最初に電池式の multi-copter (羽根が複数あるヘリコプター)に人間をのせて飛ばすことに成功したのは、ドイツのエンジニア・グループで...

Softbank's Son And Sprint's Hesse Demo How To Mess Up A Great Deal

ソフトバンクによる Sprint の買収には私も注目して、さまざまな記事を読んできましたが、この記事は情報が豊富で、読む価値の高いものです。筆者自身は、ソフトバンクによる買収には反対しているようですが...

エンジニアのための経済学:Warrent Buffet に学ぶ

Bill Gates と Warrent Buffet がお互いに信頼関係を築いていることは、Buffet が彼の財産を Gates 財団に委託したことからも分かりますが、彼らがどんな経緯で知り合って、どこで意気投合したのかはあまり知られていません。先週、Bill Gates が Three Things I’ve Learned From Warren Buffett (Warrent Buffet から学んだ三つのこと)という文章を LinkedIn に投稿したので、それを紹介します...

ちょうど Berkshire Hathaway (Warrent Buffet の経営する会社)の Annual Report が手元にあるので、そこから彼のレターの一部を引用します...

今週のビデオ: Gillette

How does the man of steel shave?

DVR (Digital Video Recorder の略。日本では未だに「DVD レコーダー」と呼ぶ人が多いですね)とYoutubeの普及によりテレビ・コマーシャルを見る人が激減しているのは日本も米国も同じです。そこで、広告を作る方も「Youtubeを利用して視聴者があえて見たくなる・共有したくなるビデオを作ろう」とするのは当然で、さまざまな試みがされています...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週はこんな質問をいただきました。

米国におけるベンチャーの起業については、中島さんのメルマガなどを見て、なんとなくわかってきたのですが、出資する側のことがよくわかりません。
出資するのはどういう人(団体?)なのでしょうか? また「千三つ」というように起業が成功する確率はごくわずかであり、出資したベンチャーが当たれば見返りは大きいのでしょうか、そううまくはいかないと思います。何かリスクヘッジのような仕組みがあるのでしょうか?

ベンチャー企業に対する出資者は大きく分けて二つあります、一つはエンジェル投資家と呼ばれる個人で、もう一つはベンチャー・キャピタリストと呼ばれる投資会社です。

エンジェル投資家の方は、創業者の家族や友達のケースもあれば、自分自身が何らかのビジネスで成功したいわゆる「資産家」のケースもあります。エンジェル投資家達が投資する理由は、単に「家族や友達を応援したい」から「ギャンブルよりも楽しいから」までさまざまで、あまりはっきりとしたパターンはありません。

ベンチャー・キャピタリストの方は、ビジネスなのでとても真剣です。まずは投資の前に徹底的なスクリーニングをして、「これは成功しそうだ」という会社だけに投資します。特に重要なのは大成功した時にどのくらい大きなビジネスを生み出せるかというポテンシャルで、これが小さい会社は投資してもらえません。また創立メンバーの才能、頭脳、知識、意思の強さ、柔軟性、リーダーシップなどが...


今週の週刊 Life is Beautiful:6月11日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

Windows 8 に思うユーザー体験デザインの難しさ

Microsoft の新しい OS、Windows 8 が発売されてから7ヶ月が経ちますが、シェアはまだ 4.3% と低く、「最悪のWindows」と呼ばれる Windows Vista の 4.5% にまだ追いつかないそうです。逆に、一つ前の OS である Windows 7 が 44.9% とシェアを伸ばしているそうです。Microsoft は既に Windows 7 の一般ユーザー向けの小売りを辞めてしまいましたが、企業が新しいパソコンを導入する際には Windows 7 を選んでいるそうです(参照:Windows 7 gains market share as successor strubbles)。

これを見て「Windows 8 のローンチは失敗した」と批判する人もいますが、Microsoft が Windows 95 以来十数年間という長い期間親しまれて来たユーザー・インターフェイスを大幅に変更する、という大冒険に出たことを...

私の目に止まった記事

Tesla CEO promises to make a car the rest of us can afford

企業のトップが、会社のビジョンを内外に向けて語ることは、社員・株主・顧客などのいわゆるステークホルダー(stakeholder)から見た時に「自分がこの会社をサポートし続けると将来どんな社会が実現されるのか」を明確にすることに相当します。その意味で、今回 Tesla の株主総会での Elon Musk による「将来には、Model S の半分のコストで車を生産できるプラットフォームを作ります。それが私が Teslas を立ち上げた時からのゴールだったし、それを市場に出せる日を心待ちにしています」という発言は...

Apple to sell audio ads on 'iRadio' music service: sources

このメルマガが配布されるころには発表されているかも知れませんが、Apple が Pandora に対抗する音楽聞き放題のサービスを始めるというリーク情報です。

音楽聞き放題サービスに関しては、Real Networks が始めた Rhapsody が老舗です。今や1600万局が聞き放題という素晴らしいサービスに成長していますが、有料だということが未だにマイナスになって、あまりユーザーが増えていません。

それと比べると Pandora は...

Meet The YouTube Stars Making $100,000 Plus Per Year

Youtube に面白いビデオを投稿するだけで生計を立てている人がいる、という話は以前にも書いたことがありますが、この Business Insider は、視聴数からはじき出した "Youtube スター" たちの年収を算定しています...

Photoshop Live - Street Retouch Prank

Adobe が Photoshop のプロモーションのために、バス停で待つ人の姿をカメラで撮影し、それをリアルタイムで Photoshop で編集する様子をバス停のビデオ広告として流す、という実験をした様子が映されています。この実験の素晴らしいところは...

Ban On Some Older iPhones, iPads Could Cost Apple $680 Million

スマートフォン業界のパテント訴訟合戦はいまだに続いていますが、先週は Samsung による 旧式の iPhone と iPad に使われているテクノロジーが Samsung のパテントを無断に使っているという訴えが認められ、海外の工場から米国国内への輸入が禁止されるという事態になりました...

President Obama Wallops The Patent Trolls

Apple vs. Samsung のパテント訴訟合戦とは別の話ですが、米国では実務を行っていないのに、パテントだけを入手して、パテント料や示談金目当てで実務を行っている企業を訴えるいわゆる「パテントやくざ(英語では Patent trolls)」の存在が大きな問題になっています...

In China, an Empire Built by Aping Apple

中国は他の国の製品の模造品を作ったり真似したりして成長して来た国ですが、ついに会社を丸ごと真似するケースが出て来たという話です(タイトルの"ape"は"猿真似"するです )。Xiaomi の CEO であるLei Jun は、まるで Steve Jobs のモノマネをしているように黒いシャツとジーンズで舞台に表れてプレゼンをし...

Leading the Enterprise Cloud Era

Microsoft の Server and Tools グループを Satya Nadella が Bob Muglia から引き継いで二年経ちますが、このブログポストは、Satya Nadella 自身が社内向けに送ったメールを紹介しています。彼がイニシアティブをとった Windows Asure ビジネスへのシフトが効果をもたらし、実際に Enterprise の市場で使われるケースが増え始めている...

今週のビデオ: Jennifer Pahlka

Jennifer Pahlka: Coding a better government

「Code for America」というソフトウェアを使って米国をより良い国にしようという試みをしている Jennifer Pahlka のTEDでのスピーチです。「政府のソフトウェア・プロジェクトには莫大なコストと時間がかかり、それもしばしば役に立たない」という彼女の意見は、日本の特許庁のプロジェクトを思い出させてくれます...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週はこんな質問をいただきました。

メルマガ6月4日号のTim Cookの記事を興味深く読ませていただきました。
Tim CookにはJobsの役を十分にこなせていないという指摘ですが、Appleのよう
な企業をつくり、維持するにはJobsのようなカリスマ性を持つ人物が必須という
ことになるのでしょうか。Amazon, Google, Facebookのような企業が今のように
繁栄しているのは、Bezos, Larry Page, Mark Zuckerbergのような人物が不可欠
ということになりますか?
また、マイクロソフトが「普通の」企業になってしまったのは、Bill Gatesの
引退の影響が大きいのでしょうか?
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK31036_R30C13A5000000/

とても良い質問だと思います。

まず確実に言えることは、Apple や Microsoft のような新しい市場を作り出す会社を作る時には、Steve Jobs や Bill Gates のようなビジョンとカリスマ性の両方を持った人がだということです。まだ存在しない市場に進出することは大きなリスクを伴うので、そこに向かって...


私なりに Apple が次に出すべきウェアラブル製品を考えてみた

エンジニアtypeに「『Google Glass』わたしならこう売る~ウエアラブル・コンピュータが超えるべき壁」というインタビュー記事を書いた。

主旨としては、「スカウタースタイルのデバイスを売るのであれば、消費者向けの汎用デバイスではなく、まずはニーズがはっきりとある医療や警察や整備などのバーティカル・マーケット向けに専用デバイスとしてハードウェアとソフトウェアの両方を使用目的に特化した形で作るべき」というものだ。

ある意味、今は「汎用パソコン」を作るタイミングではなく、「専用ワープロ」を作るタイミングなのだ。

日本のメーカーにも多いにチャンスがある。ガラパゴス化などは恐れる必要は全くない。とにかく特定のマーケットにはっきりとした価値を提供することに集中すべきだ。10年後には、人々が「昔はこれなしでどうやって仕事をしていたのか想像できない」状況を作り出すことを目指すのだ。

ちなみに、アップルがウェアラブル・コンピューターの分野で何を作るべきかについては、少し前のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」に書いたので、紹介する。

(...前略...)そこで、「私が Tim Cook だったらどうする」という設定で、私なりに Apple が次に出すべき製品を考えて見ました。

Apple には、Mac、iPod、iPhone、iPad という4つの柱となるビジネスがあり、その回りに、Time Capsule や Airport Express のような周辺機器ビジネス、そして iWork や Final Cut Pro のようなソフトウェア・ビジネスがあります。独立した商品でありながら、主要な売り上げの源泉になっていない Apple TV や Mac mini は例外的な存在です。

ウェアラブルに関しては、Apple には二つのアプローチが考えられます。一つ目は、iPhone の周辺機器としてブレスレット型の Activity Monitor の市場に参入することです。既に、Nike+、Jawbone UP などが市場があることを証明しているので、このビジネスに参入することは比較的リスクも少ないし、それなりの数も売れると思います。しかし、このアプローチでは、本当の意味の Game Changer になるのは難しいように思えます。

もう一つのアプローチは、Google が Google Glass でしているような、「未だ市場が存在することは証明されていない」市場にいきなり参入することです。それが、Google Glass のようなスカウター型のデバイスなのか、液晶付きのブレスレットなのかは分かりませんが、本当の Game Changer を目指すのであれば、この道しかありません。

しかし、考えてみると、iPodの前には各社の MP3プレーヤーが既に市場に出ていたし、iPhoneの前にはBlackberryや日本のガラケーがありました。iPadも決して最初のタブレット端末ではありません。

その意味では、Apple がやって来たことは、いきなり Game Changer を世の中に出すことではなく、Game Changer となりうるデバイスの市場がニッチなマーケットで立ち上がって来たタイミングで(つまり「期が熟した」段階で)、圧倒的な完成度を持った商品を出して、そのカテゴリーの存在をマスマーケットに知らせるシンボル的な存在になることで市場そのものを立ち上げて来たことに他なりません。

そう考えてみると、一部のアスリート向けのデバイスであった Nike+が、より一般向けの健康管理デバイスである Jawbone UP、Fitbit という形で具現化して来つつある今の「スマート万歩計」の市場は、Apple にとって、まさに「期が熟した」市場だとも言えます。

ただし、それを単なる「iPhone の周辺機器」で終わらせないためには、何か圧倒的な魅力を持つ「何か」が必要であり、それを iPhone 並みの完成度で提供出来るのであれば、iPad に続く5番目の柱になる可能性もあるし、結果として「Appleが参入したからこそスマート万歩計の市場が一気に立ち上がった」と認識される存在になるチャンスも十分にあると思います。

問題は、その「何か」が何であるかを見つけることですが、「iPhoneをポケットから取り出さなくともチャンスを逃さずに撮影できる」ためのカメラであったり、「iPhoneアプリが受け取った Notificationを見逃さない」ための表示機能(ただし直射日光化でも読めることが必須)というように、はっきりとしたニーズのあるところをきちんと抑えて実装して行けば、かなり価値の高い(結果として、iPhone を持っている人の大半が欲しくなるような)デバイスを作ることは十分に可能だと思います。

具体的には、ワンボタンでいつでも写真が撮影できるカメラ付きのブレスレット型万歩計で、ブレスレットに沿って e-Ink の細長いフレキシブル表示板がついており、普段は日時を表示していますが、iPhone からの Notification が来ると振動した上で、一行だけ表示してくれます。iPhone とは Bluetooth で繋がり、撮影した画像・映像は iPhone の Camera Roll に格納されます。

こんなデバイスを $149〜$199 ぐらいで発売することが出来れば、かなりの率で既存の iPhone ユーザーに普及させることが可能だと思います。

 


今週の週刊 Life is Beautiful:6月4日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

ソシアル・ゲーム・ビジネスの問題点

前回のメルマガでも書きましたが、ここ2週間ほど集中して iPhone 用のゲームを作っています。Angry Birds (Rovio Entertainment)やパズドラ(GunHo Online Entertainment)のような大御所が幅を利かせる時代に、個人でゲームを出すのは無謀という見方もあるとは思います。しかし、昨今のゲーム業界に関して私なりにいろいろと思うこともあるので、その思いを込めた私なりの作品を発表したいと考えています。

今やモバイルの世界は、パズドラや怪盗ロワイヤル(DeNA)に代表されるソシアル・ゲームで射幸心をあおってアイテム課金で荒稼ぎをする時代になりました。この件に関しては、業界の内外に色々な意見がありますが、私は、(自粛などに頼らずに)法律でより厳しい規制をかけて消費者を守るべきだと考えています...

Tim Cook のインタビュー

Facebook ページでも紹介しましたが、All Things D による Tim Cook のインタビューは、 色々な意味でとても興味深いものでした。

まず最初に感じたのは、やはり Steve Jobs の後を継ぐというのは大変な仕事だと言うことです。Tim Cook は会社の経営者としてはとても優秀な人ですが、Steve Jobs のような「ビジョン」を持つ人ではないことがこのインタビューで明確になって...

Apple が次に出すべきデバイス

そこで、「私が Tim Cook だったらどうする」という設定で、私なりに Apple が次に出すべき製品を考えて見ました。

Apple には、Mac、iPod、iPhone、iPad という4つの柱となるビジネスがあり、その回りに、Time Capsule や Airport Express のような周辺機器ビジネス、そして iWork や Final Cut Pro のようなソフトウェア・ビジネスがあります。独立した商品でありながら、主要な売り上げの源泉になっていない Apple TV や Mac mini は例外的な存在です。

ウェアラブルに関しては、Apple には二つのアプローチが考えられます。一つ目は...

私の目に止まった記事

 Sony: We Want a Strong Entertainment Business, Says CEO Hirai

Third Point LLC が提案したソニー・エンターテイメントのソニーからの分割案に関して、ソニーの平井CEOが質問されています。冒頭に「これは取締役会レベルの問題です。外部のアドバイザーにも相談してこの提案を評価したいと考えています」と優等生的な回答をしているのは、いかにも弁護士が準備した回答です。米国の場合、経営者には「株主利益を最大化する義務(fiduciary duty)」が課せられており、これを怠っているとみなされると、単に職を失うだけでなく、犯罪者として刑務所に...

Live TV on the Xbox One: Microsoft learns nothing from Google TV's mistakes

Microsoft が発表したXbox One に関して、「Microsoft は Google TVや(Microsoft自身の)WebTVの失敗から何も学んでいない」と強烈に批判している記事です。

この筆者(Nilay Patel)は、Xbox One のテレビ映像にインターネットから取得して来た情報を重ねて表示するやりかた(オーバーレイ)は、Google TV や WebTV がやったアプローチと同じであり、これだけで失敗が約束されているようなものだと酷評しています。

確かにこのやり方では...

Tomorrowland Today: Disney MagicBand Unlocks New Guest Experience for Park Goers

最近、Google Glass の影響か、ウェアラブル・デバイス関連の記事や話を依頼されることが増えましたが、まず最初に幅広く普及するのはリストバンド型のウェアラブル・デバイスだと私は見ています。一つの方向性は、Jawbone UP に代表される「スマート万歩計」で、もう一つは、この記事で紹介されている Disney MagicBand に代表される「Guest Experience」向上のための...

SoftBank Gets Key Regulatory Okay for Sprint Deal

ソフトバンクによる Sprint の買収が、ようやく「Committee on Foreign Investment in the United States」からの許可を得たという報道です。外資による通信事業者の買収は、安全保障上の観点から特別な許可が必要ですが、ソフトバンク側が「中国製の交換機を使わない」「ソフトバンクが任命する取締役に関して米国政府の承認が必要」という条件をのむことにより、ようやく決着が着いたようです。

次の大きなハードルは、Dish からも出されている買収条件と比べて...

HTC Said to Cancel Large Windows RT Tablet on Weak Demand

HTC が 12-inch の Windows RT タブレットをリリースすることを中止した、という報道です。値段が高くなり過ぎ、十分な需要が見込まれないのが理由とされています。

Windows RT は、技術的に見ればとても「正しい」選択肢です。Qualcomm や Nvidia によるARM コアを持ったチップの開発競争がここまで激化して来た今、OS として ARM をサポートしないことは「モバイル市場をあきらめる」ことに相当します。

しかし、ARM に移行するとなれば、既存の Intel 向けのアプリケーションは...

今週のクラウドファンディング: Monkey Light Pro

Monkey Light Pro - Bicycle Wheel Display System

一連のLEDを自転車のホイールに取り付けて回転させることにより、静止がや動画を表示するというとても面白い商品のプロジェクトです。

元々は、投資家から資金を集める代わりに、プロジェクトをサポートしてくれる人々から幅広く集める、という発想で始まったクラウドファンディングですが、次第に「新製品(特にハードウェア)のプロトタイプまでは出来たが、実際の製品化には金型(mold)の作成や部材の購入など運営資金(working capital)が必要だ。ぜひとも製品の先行予約をすることにより、製品化をサポートして欲しい」というタイプ...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週はこんな質問をいただきました。

2011年にパナソニックに買収(完全子会社化)された三洋電機が、戦略の失敗か
ら解体されようとしています。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDD170D0_X10C13A5MM8000/
こういうケースにおいて、例えば従業員なり経営陣が、企業の一部門だけでも残
そうとしようとするならば、手段としては、MBO(マネジメント・バイアウ
ト)、もしくはEBO(エンプロイー・バイアウト)ということになるのでしょうか。
また、米国DELLの創業者がマイクロソフトなどの融資を得てMBOを目指すという
報道がありましたが、米国において、これらのスキームは比較的よく行われるこ
とで、日本においても今後増えていくと見てよいのでしょうか。

一度子会社された三洋電機の経営陣が何らかの方法で外部から資金を集めてスピンアウトするのであれば、MBO ということになりますが、今回のケースはとても難しいと思います。

そもそも、松下電器が三洋電機を買収したのは、三洋電機の技術力や製品に魅力があったからではなく、経営難に陥った三洋電機を松下電器が子会社化して救済する...