ICRPの勧告に照らしても、年間被ばく量が5〜20mSvの地域への帰還は不適切
2013.08.31
追加被ばく量が年間20mSv以下の地域への帰還が始まったようだが、どうも以前に読んだ ICRP の勧告(参照)にそぐわない気がしたので、再度読んでみた。
ICRPの勧告の内容を簡単にまとめると以下の様になる。
- 住民の立ち入り禁止や帰還措置の際に標準となる追加年間被ばく量を reference level として定めるべき
- その数値は、地域の経済事情、事故の規模などから柔軟に定めるべきだが、2007年の勧告で定められた事故後の緊急許容範囲 1〜20mSv/Year のうち下半分に(つまり10mSv/Year 以下に)定めるべきである。
- 地域住民の被ばくは、当面はその reference level 以下に抑えるべきだが、それでも十分ではなく、出来るだけ早い時期に 1mSv/Year 以下に抑えるよう措置をとる必要がある
- 放射能に汚染された農作物の流通を検査だけで止めることは現実的に不可能なので、追加年間被ばく量が 1mSv/Year を超える地域では、土壌を使った農作物の栽培を制限すべき
追加被ばく量が年間20mSv以下の地域への帰還が始まったということは、日本政府は reference level を10mSv/Year 以下にすべしという ICRP の勧告に従わず、20mSv/Year という緊急許容範囲の中でも最も高い値に設定したことを意味する。
ちなみに、この reference level という言葉は、この勧告書の随所に表れているが、事故後に住民の健康を守る役割を果たすタスク・チームが一番最初にやるべき仕事として 「reference level の設定」が明記されているぐらい重要な数字である。そして、その後の立ち入り禁止地域の設定や地域住民の帰還計画に関しても、すべてこの reference level に基づいて決めるべきと定めている。
しかし、今回の事故の場合、日本政府の誰がどの時点でどんな話し合いの結果で reference level を20 mSv/Year という高い値に定めたかは相変わらず謎に包まれたままだし(議事録が存在しないそうだ)、そもそも reference level を20mSv/Year に設定したという公式なアナウンスもされていない。この20mSv/Year という高い数値に関して住民が文句を言っても「実際の被ばく量はもっと低い値にするように努力する」などという曖昧な答えのまま reference level の変更は未だにされていない。
幸いにも首都圏が汚染されていないこと、汚染された地域で第一次産業を営む人が大勢いたことを考えれば、reference level はICRPの推奨する1〜10mSv/Year の真ん中あたりの5mSv/Year に設定するのが適切だと思う。つまり、今の段階では、5 mSv/Year 以下の地域への帰還だけを許すべきだし、それ以上の地域の住民に対しては、土地の買い上げなどを含めた手厚い保護をすべきなのである。
【追記】経産省は、年間20mSvという数字に関しては「避難については、住民の安心を最優先し、事故直後の 1年目から、ICRPの示す年間20mSv~100mSvの範囲のうち 最も厳しい値に相当する年間20mSvを避難指示の基準とし て採用しました」と主張しているが(参照)、これはミスリーディングである。上に紹介した事故後のICRPの勧告には「The reference level for the optimisation of protection of people living in contaminated areas should be selected in the lower part of the 1–20 mSv/year band recommended in Publication 103 (ICRP, 2007) for the management of this category of exposure situations.(11ページ中頃)」と明記してある。