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ICRPの勧告に照らしても、年間被ばく量が5〜20mSvの地域への帰還は不適切

追加被ばく量が年間20mSv以下の地域への帰還が始まったようだが、どうも以前に読んだ ICRP の勧告(参照)にそぐわない気がしたので、再度読んでみた。

ICRPの勧告の内容を簡単にまとめると以下の様になる。

  1. 住民の立ち入り禁止や帰還措置の際に標準となる追加年間被ばく量を reference level として定めるべき
  2. その数値は、地域の経済事情、事故の規模などから柔軟に定めるべきだが、2007年の勧告で定められた事故後の緊急許容範囲 1〜20mSv/Year のうち下半分に(つまり10mSv/Year 以下に)定めるべきである。
  3. 地域住民の被ばくは、当面はその reference level 以下に抑えるべきだが、それでも十分ではなく、出来るだけ早い時期に 1mSv/Year 以下に抑えるよう措置をとる必要がある
  4. 放射能に汚染された農作物の流通を検査だけで止めることは現実的に不可能なので、追加年間被ばく量が 1mSv/Year を超える地域では、土壌を使った農作物の栽培を制限すべき

追加被ばく量が年間20mSv以下の地域への帰還が始まったということは、日本政府は reference level を10mSv/Year 以下にすべしという ICRP の勧告に従わず、20mSv/Year という緊急許容範囲の中でも最も高い値に設定したことを意味する。

ちなみに、この reference level という言葉は、この勧告書の随所に表れているが、事故後に住民の健康を守る役割を果たすタスク・チームが一番最初にやるべき仕事として 「reference level の設定」が明記されているぐらい重要な数字である。そして、その後の立ち入り禁止地域の設定や地域住民の帰還計画に関しても、すべてこの reference level に基づいて決めるべきと定めている。

しかし、今回の事故の場合、日本政府の誰がどの時点でどんな話し合いの結果で reference level を20 mSv/Year という高い値に定めたかは相変わらず謎に包まれたままだし(議事録が存在しないそうだ)、そもそも reference level を20mSv/Year に設定したという公式なアナウンスもされていない。この20mSv/Year という高い数値に関して住民が文句を言っても「実際の被ばく量はもっと低い値にするように努力する」などという曖昧な答えのまま reference level の変更は未だにされていない。

幸いにも首都圏が汚染されていないこと、汚染された地域で第一次産業を営む人が大勢いたことを考えれば、reference level はICRPの推奨する1〜10mSv/Year の真ん中あたりの5mSv/Year に設定するのが適切だと思う。つまり、今の段階では、5 mSv/Year 以下の地域への帰還だけを許すべきだし、それ以上の地域の住民に対しては、土地の買い上げなどを含めた手厚い保護をすべきなのである。

【追記】経産省は、年間20mSvという数字に関しては「避難については、住民の安心を最優先し、事故直後の 1年目から、ICRPの示す年間20mSv~100mSvの範囲のうち 最も厳しい値に相当する年間20mSvを避難指示の基準とし て採用しました」と主張しているが(参照)、これはミスリーディングである。上に紹介した事故後のICRPの勧告には「The reference level for the optimisation of protection of people living in contaminated areas should be selected in the lower part of the 1–20 mSv/year band recommended in Publication 103 (ICRP, 2007) for the management of this category of exposure situations.(11ページ中頃)」と明記してある。


集団的自衛権の本当の意図は第3次アーミテージ・ナイレポートを読めば分かる

小泉政権による郵政民営化の背景には、米国からの年次改革要望書があったことは良く知られているが、最近の自民党の原発推進、TPP参加、集団的自衛権の容認などの政策は、背景に第3次アーミテージ・ナイレポートがあるのではないかと思えるぐらいにこのレポートに書かれている提言に酷似している。

集団的自衛権に関しては、石破茂自民党幹事長が「アメリカがシリアを攻撃すれば一緒に戦うのですか?」という質問を真っ向から否定しているが(参照)、上のレポートを読むとそうとは思えない。

日本への9項目に渡る提言のうち、集団的自衛権に関係するものは以下の3つである。

(2)日本は、海賊対処、ペルシャ湾の船舶交通の保護、シーレーンの保護、さらにイランの核開発プログラムのような地域の平和への脅威に対する多国間での努力に、積極的かつ継続的に関与すべきである。

(6)新しい役割と任務に鑑み、日本は自国の防衛と、米国と共同で行う地域の防衛を含め、自身に課せられた責任に対する範囲を拡大すべきである。同盟には、より強固で、均等に配分された、相互運用性のある情報・監視・偵察(ISR)能力と活動が、日本の領域を超えて必要となる。平時(peacetime)、緊張(tension)、危機(crisis)、戦時(war)といった安全保障上の段階を通じて、米軍と自衛隊の全面的な協力を認めることは、日本の責任ある権限の一部である。

(7)イランがホルムズ海峡を封鎖する意図もしくは兆候を最初に言葉で示した際には、日本は単独で掃海艇を同海峡に派遣すべきである。また、日本は「航行の自由」を確立するため、米国との共同による南シナ海における監視活動にあたるべきである。

つまり「米国が(世界の平和のために)シリアやイランと戦うことになったら、日本の自衛隊も参戦すべきだ」という要望以外の何物でもない。

集団的自衛権の是非は別にしても、憲法第九条があるからこそ、これまで米国からイラクやアフガニスタンに自衛隊を軍隊として派遣しろと言われても「憲法を盾にして断ることが出来た」点を忘れてはいけない。もし集団的自衛権を合法化してしまえば、交渉下手な日本の政治家が米国から派兵を要請されて断れるとは私には到底思えない。

 

 


今週の週刊 Life is Beautiful:8月27日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

AKB商法によって歪められた日本のメディアビジネス

CNN Moneyの"Devoted CD buyers aren't a dying species. At least not in Japan."という記事によると、CDやDVDなどの「物理メディア(physical media)」の売り上げが勢い良く落ち込む先進国の中で日本だけが特異点となっている点が指摘されています。この記事によると、音楽の売り上げのうち物理メディアの占める割合は、米国では 34% にまで落ち込んでいるにもかかわらず、日本ではまだ 80% を保っているとのことです。この記事によると、「日本人は(手にとって触ることのできる)物理メディアが好き」とのことですが、私はかなり疑わしいと思っています。

この記事にも少し触れられていますが、「AKB商法」と呼ばれる握手券や投票券との「抱き合わせ商法」による CD  の売り上げはばかにならない数にまで伸びており、その数字を考慮せずに日米の数字の違いのみを直接比較することにはあまり意味がないからです...

表現力の一つとしての3Dモデリングツール

先週は、3Dプリンタを活用するために、Blender という3Dモデリングツールの使い方の勉強を始めたと書きましたが、3Dモデリングツールを使いこなせるようになりたかった理由はもう一つあります。「表現力」の拡大です。

自分のアイデアを他人に伝える際には、文章だけに頼らず、グラフや図や写真を使うことにより、直感的に理解できるような資料を作る様に心がけていますが、その際に「3次元のイラスト(もしくはデッサン)を書きたい」と感じたことは今までしばしばあります。絵心のあるデザイナーが自分のアイデアをサクッと描いてしてしまう手腕には憧れていました...

Linear

責任重大な日本の水産庁

私はシアトルに来てから20年以上になりますが、この20年間で米国人の食生活は大きく変わりました。その中でも際立っているのが「魚を食べる文化」の広まりです。20年前には、この海岸沿いの街であるシアトルにも魚を食べるアメリカ人はごく一部しかいませんでしたが、最近は「日本食好き」「寿司好き」の人も数多く見かけるようになったし、魚料理を出す日本食ではないレストランも増え、繁盛もしています。それと共に、鮮度の良い魚も流通するようになり、鮮度の悪い魚しか手に入らなかった20年前と比べて不自由を感じなくなっています...

私の目に止まった記事

Needed at Microsoft: A Catch-Up Artist

Microsoft の Steve Ballmer が引退を表明したことに関しては、色々な記事が書かれていますが、Microsoft が抱える一番の問題を的確にしているのが、この New York Times の記事だと思います。

IBMやAppleが「生まれ変わる」ことに成功したのは、本業が危機に瀕して会社の存続に関わる状態にまで追いつめられていたからであり、相変わらず Windows と Office が莫大なキャッシュフローを生み出している Microsoft にとっては...

On The Future of iOS and Android

これまでも、Android のフラグメンテーションの問題やら、スマートフォンのチップビジネスに関して書かれた記事を数多く紹介して来ましたが、包括的に全体像を捉えている、という意味でとても良い記事なので紹介します。特に注目すべきなのは、古いバージョンの OS を搭載したスマートフォンがいつまでも市場に存在している、という Android 特有の問題が、単に開発者を悩ませるだけでなく...

Report: Apple's Future of TV Is an Actual Television

Apple が単に Apple TV のアップデートではなく、実際のテレビを開発している、という情報です。この情報は、去年から私のところにも入って来ており、少なくとも研究開発をしていることだけはほぼ確実だと考えて間違いないと思います。

Apple がテレビを売る場合...

富裕層は「日本脱出」をあきらめる

日本語の記事ですが、ストックオプションからの収入に関わるとても大切な話が書いてあるので、紹介します。

ある外資系企業のストックオプション保有者が1株50ドルで権利を得て、1株90ドルになったときに権利行使した。しかし、そのまま持っていたら、株価が30ドルくらいに下がってしまった。にもかかわらず税務署から、「90ドルで行使して40ドル儲かっている。その分の税金を払いなさい」と言われた。それで自己破産した人が何人もいた。

当時(2000年前後)は「ストックオプションとは何か」がちゃんと理解できていない人も多かったので仕方がないとは思いますが、ストックオプションとは、会社が社員に対して与える「自社株を(市場価格に関わらず)特定の価格で買う権利」のことです。

このケースでは、1株を50ドルで買う権利をもらっていた人が市場価格が90ドルの時に行使をしたため、(その時に株を売ろうが売るまいが)税法上は1株あたり40ドルの利益を得たことになり...

エンジニアのための経済学:混沌とするゲーム業界

この業界で長く働いていると、「徐々に衰退していく Windows パソコンビジネス」「iPhone と Androidケータイの間に挟まれて苦しむ既存の携帯電話メーカー」などの大きな流れがはっきりと読める場合と、「インターネットテレビが引き起こす放送革命」のように一触即発の進化圧がかかっていることは明らかなのに、まだどちらの方向にどのタイミングで変化が起こるのかが読みにくい場合とがあります。

その意味では、ゲーム業界はモバイル・ゲーム、ソシアル・ゲームの台頭でまさに「先の読みにくい大きな曲がり角」に来ており、今年のクリスマス商戦は業界全体の流れを読む上でとても重要な分岐点になると思います。

そこで今週は、ゲーム業界全体で起こっている一見バラバラな「事象」や「進化圧」を包括的に見ることにより、この「曲がり角」の先でどんなビジネスが可能なのかを考えてみたいと思います...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週はこんな質問が来ました。

7/23のメルマガで『Weak PC Market Catches Up to Microsoft』について書いて おられましたが(Microsoftは、エンタープライズ市場に集中すべきという内 容)、今後、Microsoftがタブレット事業を続けていくとしたら、Windows RTは 捨てて、Windows 8のみに絞るべきだと思いますか? (それ以前に、Microsoftはタブレット事業を続けるべきか?という問題があり ますが)。

また、TechCrunchに「Microsoftが第2世代のSurface RTをさらに大きく価格を 下げて発売する可能性は十分ある。結局Microsoftは、たとえ誰も買いたいと思 わない製品であっても、やりたいことは何でもやる会社なのである」 http://jp.techcrunch.com/2013/07/19/20130718microsoft-finally-reveals-that-no-one-wants-the-surface-rt/ とまで、書かれていますが、元Microsoftの従業員として、やはりそういう(や りたいことはやる)社風だと思われますか?

まず二つ目の質問の方の「たとえ誰も買いたいと思 わない製品であっても、やりたいことは何でもやる会社」という部分は正しくないと思います。性格に言えば「たとえライバルにどんなに差をつけられていても、あきらめずに良いものを作り続ければいつかは勝てると信じて作り続ける会社」という方が正しいと思います...


消費者にメジマグロを食べるなと言っても話にならない

水産庁の「(クロマグロの子供である)メジマグロを食べるのを辞めましょう」というキャンペーンがいかに馬鹿げた話なのか、という解説記事を今週号のメルマガ向けに書いていたのだが、Blogos 経由で「メジマグロは食べるべきではない、に賛成!」というブログエントリーが目に止まったので、ここでもひと言書いておく。

水産資源の保護を本気でするのであれば、そんな生易しいことでは絶対にだめだ。「規定サイズ以下のクロマグロの禁漁」をする必要があるし、巻き網によるマグロの捕獲も禁止にすべきだ。短期的には漁師の間に痛みを生じるが、中長期的に日本の漁業を守りたいのであれば、短期的な痛みは我慢してもらうしかない。官僚たちが「今の時代の人達のために将来を犠牲にするという」という行動に出ざるを得なくなる今の状況を何とか打破しなければ、これから生まれて来る子供達が大人になったころには、クロマグロやウナギは日本だけでなく世界の食卓から消えてなくなる。

私の住むワシントン州は、鮭や蟹などの水産資源の宝庫だが、その取り組みには参考すべき部分がたくさんある。例えば、ダンジョネス・クラブという蟹の場合、「甲羅の大きさが6.25inch以上の雄のみを捕って良い」という規則がある(サイズは漁場によって若干異なる)。

この規則が水産資源を守るためだ、ということは幅広く理解されているため、桟橋などで蟹釣りをしていると、蟹籠を引き上げるたびに野次馬が集まって来て、「これはメスだから海に返せ」だとか「物差しは持っているか、持ってなければ貸してやるぞ」などと言われる。これは「俺たちも規則を守っているんだから、お前も守れ」「10年後、20年後にも蟹釣りを楽しみたいのであれば今は我慢しろ」というメッセージである。

ボートで沖に出て蟹釣りをしていれば安心かというとそんなことはなく、監視船がいきなり近寄って来て抜き打ち検査をし、規則違反をしていればその場で500ドルの罰金だ。趣味で釣りをしている人なら罰金ですむが、商用の漁船が規則違反をしていることが分かれば、経営者が牢屋に入ることになる(シアトルの漁業関係の日本人で実際に牢屋に入った人がいる)。

ぶっちゃけて言ってしまえば、日本の水産庁にとっての No.1 のプライオリティが「水産資源の保護」でないところが一番の問題で、それがクロマグロやウナギを絶滅に追いやっているし、調査捕鯨などという馬鹿げた詭弁を作り出しているのだ。


今週の週刊 Life is Beautiful:8月20日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

Blender

先週書いたように、こうやって3Dプリンターがだんだん身近なものになって来ると、ある時点で何かを作りたくなることはほぼ確実なので、今のうちに3Dのモデリング・ツールの使い方を勉強をしておくことに決めました。前々から「3Dのモデリング・ツールの一つぐらいは使いこなせればいけない」と感じていたので、「この夏の課題」として取り組むことにしました。

ツールとして選んだのは、オープンソースの形で開発が進められていて、無料で入手が可能な Blender をです。Blender に関しては、ゲーム会社の Square Enix で一時期働いていた時に、ゲーム・デザイナー達を通じて...

私の目に止まった記事

Reports: Sony, Viacom Near Deal on Internet TV

Sony が、Viacom がケーブル・テレビ向けに提供しているチャンネル(MTV、Comedy Central、Nickelodeonなど)を、インターネットTVサービスから配信する権利を取得した、という情報です。ここ数年ほど、あまり面白いことをしない会社になってしまった Sony ですが...

Android’s iPad App Gap

Android OS を搭載したタブレットは数だけは多く出ているけれど、品質の高いアプリケーションに関して言えば、相変わらず iPad が大きくリードしている、という記事です。この記事によると、iPad 向けのトップ100アプケーションのうち、Android向けに提供されていないのは30あり...

Why Some Startups Say the Cloud Is a Waste of Money

Amazon に代表されるクラウド・コンピューティング・サービスは、今や資金の乏しいベンチャー企業にとってはなくてはならないサービスになっていますが、サービスの規模がある程度以上になると、やはり自分でサーバーをデータセンターに設置した方が安い、という話です。この記事で取り上げられている MemSQL の場合だと、Amazon から年間 $324,000 で借りていたクラウド・サーバーを、わずか $120,000 ですべて自社製...

The Low Cost iPhone: Apple Plays Offense And Defense

「積極的に口を出す投資家」として知られる Carl Icahn が Apple の株を大量に購入したことを twitter で発表して以来、Apple の株価は大幅に上昇しましたが、この記事の筆者は、Apple がすべきことは(Carl Icahn が主張するような)さらなる自社株買いではなく、廉価版の iPhone を可能な限り安い価格で発売し、グローバル市場でのシェアの確保に走るべき、と主張しています...

今週のビデオ:Garr Reynolds at TEDxOsaka

Presentation tips for teachers (Never give a boring lecture again!)

高等教育における「講義」というスタイルが教育方法としていかに非効率的なものか、ということを分かりやすく説明してくれるスピーチです。特にパワーポイントのスライドに関する批判は正しいと思います...

エンジニアのための経済学:Price Segmentation

巷には、Apple が秋には廉価版の iPhone (iPhone 5C)を発売するという噂が飛び交い(参照:This could be a yellow iPhone 5c Next to an iPhone 5)、実際、かなり信憑性のある写真やビデオまでが公開されています。ちょうど良い機会なので、このように廉価版を出す意味と、それがもたらすだろうメリットとデメリットについて、micro economics (日本語では一般的に「ミクロ経済」と呼びますが、micro processor などの場合には micro を「マイクロ」と読むので、「マイクロ経済」の方が私にはしっくりと来ます)を使って解説してみたいと思います...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週はこんな質問が来ました。

さて、メールマガジン「週刊 Life is Beautiful 2013年7月23日号」や ブログ記事「Life is beautiful: ソフトウェアの仕様書は料理のレシピに似ている」 (http://satoshi.blogs.com/life/2006/03/post_8.html) に関連して質問です。 「『設計からコーディングまで全部自分でやる』エンジニアについて 触れられていますが、米国のソフトウェア企業では大規模ソフトウェアの 開発時にはどのような単位で各エンジニアに仕事が割り振られるのでしょうか。

高度なエンジニアでも一人では開発できない規模のソフトウェアは存在するかと思います。 その際でも、動くプログラム・プロトタイプを作るところから始めるのでしょうか。 それとも、紙の上でソフトウェア部品の構成と、それらの間のやりとり(?) 部分をを設計し、チームや個人に投げるのでしょうか。

大規模なソフトウェアの典型的な例が Operating System ですが、Microsoft でも Apple でも、アーキテクト自身が自らコードを書きながらアーキテクチャを固めて行く、という部分は変わりません。私自身は Windows 95 の Shellのアーキテクトでしたが...

次の質問です。

私は30代半ばになり、都内で起業して5年ほど 経ちました。 いくつかのビジネスを立ち上げて来て、どれもそれなりに形になり利益を生み出すようになりました。 少人数でニッチビジネスをしており、業界での知名度や生産性は比較的高いですが、世の中に与えるインパクトが小さいです。 今後は、もっと世界にインパクトを与える事業をしたいと考えております。今、IT事業に興味あります。

元々、海外に興味あり、外国の方と話すことが好きだったこと、 そして、「誰もやったことないようなサービスを作り、世界を変えたい!」と考える人が多い環境を求め、シリコンバレーのようなところ で、ビジネスをしたいと考えております。 DROP BOXのCEOがスピーチで話されていたように、 「周りにどんな人がいるかが大事だ」という言葉に強く共感します。 アメリカへのコネがない私が、刺激のある人達がいる環境で、ビジネスをするには、どんな入口があるでしょうか? ざっと思いついたのは、

  • MBA、Yコンビネーターなどのスクール
  • 現地会社に就職
  • とりあえず生活
  • 1人で起業またはジョイントベンチャー

ちなみに、英語でコミュニケーションするのは好きですが、片言です。今の会社は、来年には、分社化し、次社長なる人間に引き継がせることもできそうです。 長くなりましたが、ご教授いただければ幸いです。

成功へのパターンは人それぞれなので、簡単には答えられませんが、「人との繋がりが大切」という部分に関してたけは100%確かなので、就職であれ学校であれ「(優秀な)人との繋がりを作る」場面が多いところを選ぶことが大切です。なので、例えばMBAを取得するのであれば...


今週の週刊 Life is Beautiful:8月13日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

多様な価値観の必要性

先週のメルマガで「プログラミングと義務教育」に関して書きましたが、それに関して エンジニア typeに「プログラミングは『教わる』ものか、『学ぶ』ものか」というタイトルでインタビュー記事も書きましたので、ぜひ読んでみてください。最近、日本の教育に関して話したり書いたりする機会が増えていますが、私が強く感じているのは、日本の教育システムの根底にある「画一的な価値観」がさまざまな弊害をもたらしている、という点です...

3Dプリンティング

少し前からとても気になっているのが「3Dプリンティング」です。通常のプリンターは、紙の上にインクを1列づつ置いていくことによりパソコン上の文書や画像を紙の上にプリントしますが、3Dプリンターは、素材の粉を1レイヤーづつレーザーで焼き固めながら重ねて行くことによりパソコン上の3Dモデルを再現します...

私の目に止まった記事

How Technology Is Destroying Jobs 

少し長い記事ですが、テクノロジーが人々の職業にどんな影響を与えているかについての考察が書かれています。社会全体がどんな方向に向かっているかを考えるには良い刺激になると思います。この記事にも紹介されていますが、テクノロジーによって中間層(middle class)の職が消滅しつつある、という説は良く聞きます...

Can Jeff Bezos Bring Amazon Innovation To The Washington Post?

Amazon の CEO である Jeff Bezos が Washington Post を $250 million で購入したことに関してはさまざまな憶測を呼んでいますが、この記事にも書かれているように、彼が Amazon の経営して学んだことを応用してこそ新聞社は立ち直れる、という点に関しては私もそう思います...

Google Inc Handles a Security Hole in the Worst Way

Google の Chrome ブラウザーに格納されたパスワードがアクセス出来てしまうというセキュリティ・ホールを指摘されたところ、Google のエンジニアが逆により簡単にアクセス可能にすることにより「パスワードは守られていない」ことを明確にする、という対応をしたことを批判している記事です...

The coming nuclear energy crunch

日本ではあまり注目されていない話ですが、原発の燃料であるウランは良質な鉱脈を掘り尽くしてしまったために、採掘の効率が大幅に低下しています。この記事は、このままだと2015年をピークに供給が減り始め、2025年には燃料不足が理由で原発をフェーズアウトしなければならないだろう、というレポートです。つまり、ウランという資源は石油や天然ガスや石炭よりも先に枯渇してしまうような頼りにならない燃料なのです...

エンジニアのための経済学:Envisioning Information

先週は私が取締役をしている UIEvolution で今年度の予算会議がありましたが、そのプレゼンの資料がこれまでと比べてあまりにも良く出来ているので、事情を尋ねると、最近CFO役として雇った女性が作ったとのことです。褒めるべき点は色々とりましたが、最も良かったのは、Sparkline の使いこなしです。Sparkline とは文章や表に直接埋め込む小さなグラフのことで、最初に提唱したのは Yale 大学の Edward Tufte 教授です...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週はこんな質問が来ました。

『日米で比較。職業別平均年収事情』という記事がありました。
http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/rxr_detail/?id=20130801-00031393-r25&vos=nr25yn0000001
これを見ますと、システムエンジニアの平均年収は米国は日本の2倍近いという
ことになります。
中島さんの感覚として、やはりそのくらいの差があるように感じられますか?
また、こういう状況が起こっているとしたら、どのあたりに日米の違いの原因が
あるのでしょうか?

米国の場合は、日本のように「年齢とともに自動的に収入が上がる仕組み」がない、役に立たない人はすぐに解雇されてしまうなどの根本的な違いがあるので、必ずしも金額だけを比べることは出来ませんが、この記事にある通り「専門職」に対する対価が日本より高いというのは事実だと思います...


「プログラミングを書くために生まれて来た子供」を発掘すべき

エンジニア type に「プログラミングは『教わる』ものか、『学ぶ』ものか?」というタイトルのインタビュー記事を掲載した。主題としては、「プログラミングを義務教育で教えるべきか」という話だが、結論から先に言えば「プログラムを書くために生まれて来た子供」を発掘するためなら大賛成だが、日本人全員にプログラムを書けるようになって欲しいのであれば、時間の無駄なのでやめた方が良い、というのが私の回答だ。

これはプログラミングに限った話ではないが、音楽や美術やスポーツと同じく、プログラミングが得意な子、プログラミングが三度の飯より好きな子、プログラミングの勉強が全く苦にならない子は、50人のクラスに多くて2〜3名しかいないと思う。

結局は、そんな子供たちに早いうちにプログラミングの楽しみを知ってもらい、将来職業としてプログラマーになることを選んでもらう、ということが「優秀なソフトウェア・エンジニア」を増やす一番良い方法だ。

別の言い方をすれば、義務教育で子供達全員にプログラミングを教え、好き嫌いや才能に関わらず彼らを無理矢理ソフトウェア・エンジニアにすることは、好き嫌いや運動神経に関わらず子供達を集めてサッカーを教えてプロのサッカー・チームを作ろうとすることに等しい。

そして発掘した「プログラミングを書くために生まれて来た子供」たちには、受験など気にせずに、中学・高校の頭の柔らかい時期にプログラミングを思いっきり勉強して楽しむ時間を与えるべき。年齢別のソフトウェア・オリンピックを毎年開催すべきだし、上位入賞者は大学の情報工学科へ奨学金で招待されて当然だ。


今週の週刊 Life is Beautiful:8月6日号

今週のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」の配信準備が整ったので、内容を簡単に紹介する。

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今週のざっくばらん

プログラミングと義務教育

安倍政権が、アベノミクスの「第三の矢」である成長戦略の一つとして、「世界最先端IT国家創造」宣言なるものをしました。政府が提供するデータのオープン化など、良いことが沢山書いてありますが、そのうちの一つがプログラミングの義務教育への導入に関するもので、注目を集めています...

...私はこれまで沢山のソフトウェア・エンジニアと仕事をして来ましたが、本当に優秀なソフトウェア・エンジニアを育成するには、「才能の発掘」のプロセスが必須だと確信しています。どんな仕事にもあるように、仕事には適正というものがあり...

私の目に止まった記事

The dark side of Startup City

シリコンバレーのエコノミーが他の都市と大きく違うという話はしばしば聞きますが、この記事は、Apple や Google などが社員向けに提供しているシャトルバスが公共の交通機関に匹敵するほどの人を移動させる役割を果たしている、という話です...

Apple, Google Among Top U.S. Companies Parking Cash Offshore To Reduce Taxes, Study Says

少し前にここでも書きましたが、米国のグリーバル企業が法人税を節約するために海外に保留している莫大な資産が注目を集めています。この Forbes の記事が紹介しているのは、U.S.PIRG という NPO が発表した「Offshore Shell Games - The Use of Offshore Tax Havens by the Top 100 Publicly Traded Companies」というレポートで、上場企業100社に関して、どのくらいの資産を法人税逃れのために海外に保留しているかをまとめたものです...

Mobile POS Will Surpass $2 Billion in 2013, iPad As Cash Register

POS とは "Point of Sales" の略で、小売業において顧客が商品と交換に代金を支払うトランザクションを処理する部分です。この記事にもあるように、Apple 自身が最初に iPhone/iPad を使った POS を開始し、それが Square や Intuit の参入により、さまざまな業種に広がっています。IHL Group の予想では、北米の小売業のうち28%が何らかの形の Mobile POS を導入し、その市場規模は今年末までに $2 billion を超えるだろうとのことです...

Digital Set to Surpass TV in Time Spent with US Media

米国の成人がパソコンやスマートフォンでデジタル・コンテンツに触れる時間が、テレビ放送を見る時間を超えた、という報道です。この業界で働いている私たちからすると、「やっとか」という感じですが、いわゆる「デジタル・デバイドの向こう側」にいる人達も含めたデータとしてこんな数字が出て来たことは歓迎すべきだと思います...

Microsoft’s new billion-dollar business: Android patents?

Microsoft の決算報告を見ると、Windows Phone グループの売り上げは $1.2 billion (約1200億円)になりますが、実際の Windows Phone OS のライセンス収入はどう計算しても $400 million にしかならないので、残りの $800 million は Android メーカーからのパテント収入に違いない、という記事です。この件に関しては、実際に Windows Phone グループで働いている知り合いから直接聞いたのですが、HTC などは1台あたり...

Spy agencies ban Lenovo PCs on security concerns

米国や英国の諜報機関は、ハードウェアレベルで意図的なセキュリティホールが作られている可能性があるとして、Lenovo 製のパソコンの諜報機関内での使用を禁止している、という話です。ソフトバンクの Sprint の買収の際にも、Huawei 製の交換機を使わないという条件を米国政府から付けられたという報道がありましたが、こんなところまで米中の情報戦が...

エンジニアのための経済学:Amazon の最大の武器

Microsoft 時代の知り合いが、最近になって Amazon に引き抜かれて「極秘プロジェクト」に関わることになったこともあり(参照「Former Windows Phone Exec, Charlie Kindel, Joins Amazon To Work On “Something Secret” - Possibly Phone-Related」)、Amazon について色々と調べています。Apple に関して書いた時にも触れましたが、会社に関してちゃんと調べたい時に最初に読むべき書類は、決算報告書です。上場会社であれば 10-Q (四半期ごとの決算報告書)などを公開することが義務づけられており...

しかし、10-Qをちゃんと読むと、この 0.5% という営業利益率は、ここまでビジネスが大きくなったにも関わらず、相変わらず「将来のための投資」をし続ける、経営陣の長期的で積極的な姿勢がはっきりと見えて来ます。年間売り上げが $60 billion (約6兆円)を超える会社の経営陣が、未だに会社が「成長期」にあると考えて、赤字覚悟の積極的な投資をしているというのは、他の会社にとっては脅威です...

...Amazon が 0.5% という極端に低い operating margin でひたすら売り上げの拡大に走っているのは、このまま走り続ければ「誰も追いつけなくなる」ことを良く知っているからです...

読者からのご質問・ご意見コーナー

今週はこんな質問が来ました。

中島さんやイチロー選手のように超一流の方と、 そうでない人の明確な違いは、1つのことを継続できるかどうか だと思います。

私は、飽きっぽい性格でなかなか一つのことが長続きしないと自分で思っています。

しかし、中島さんでもイチロー選手でも、自分が好きなことでもぶつかる壁というのがあると 思うのですが、それを投げ出さずに乗り越えるにはどのような考え方、工夫をされていますでしょうか? 抽象的で申し訳ないのですが、ご回答頂ければ幸いです。。

難しい質問ですね。私は「ソフトウェア」という大きなくくりでは一つのことを継続しているように見えるかも知れませんが、その枠組みのなかではさまざまなことをしています。今年に入ってからだけでも、4〜5つの新しいプロジェクトに関わっているし、そんな忙しい中でも...