「早期退職の誘惑」と「逃げ切りメンタリティ」
2014.01.24
日本の家電メーカーがグローバル市場で戦えなくなっている原因の一つが、バブル時代に大量に雇った人達の人件費だということは、メルマガでもしばしば取り上げる話題だ。彼らが働き盛り(=アウトプットのピーク)を過ぎた50才以上になり、「アウトプット<給料」な人達が増えて来たことにより、「コストパフォーマンスの悪い企業体」になってしまっているのだ。
「社会常識に照らして不当な解雇はしてはいけない」などという曖昧な法律に守られた彼らを一方的に解雇することも出来ない会社は、早期退職プログラムでなんとか人員整理をしようとしているが、この方法では「外に職が簡単に見つけられる優秀な人たち」が先に辞め、「何とか定年まで会社をしゃぶり尽くそうとする逃げ切りメンタリティ一杯の人たち」が残り、逆に会社のコストパフォーマンスは悪くなる。
日経オンラインに、早期退職の誘惑 50代でも早まってはいけないという記事が出ているが、これには「電動マッサージ機が女性に大人気な5つの理由」と同じ違和感を感じた。
本音を書くのであれば、こんな感じになるだろう。
勤務先が早期退職者を募集しています。すでに住宅ローンは完済し、子どもも独立しているので応募して早めにリタイアしようかと思っていますが、夫婦2人の老後の生活は大丈夫でしょうか。(東京都、男性、57歳)
こんな質問をするのですから、すでにあなたは「今の会社で働き続ける意義」は感じておらず、今の会社を辞めた後に別の会社で働く気もない、という前提でお話します。会社が早期退職者を募集しているという状況から想像するに、高度成長期とともに躍進し、バブル期には大量に人を雇った、典型的な日本型の大企業で働いていらっしゃるのでしょう。
ご存知の通り、多くの日本企業は、終身雇用を前提に「若いうちは安月給でモーレツに働かせ、歳をとってから待遇を良くして借りを返す」というビジネスモデルで成長して来ました。会社が成長を続け、年齢構成がピラミッド型だった時代には良かったのですが、バブル崩壊後の低成長期のために、ピラミッド構造は壊れ、多くの企業の平均年齢は40才を超え、今やこのバランスシートに書かれていない負債(=終身雇用を前提に若いうちにこき使った従業員に体する「借り」)が会社に大きな重荷になっているのです。
つまり、会社はあなたに対して大きな「借り」があるのです。早期退職プログラムとは、その「借り」を帳消しにしようという会社の策略です。決して乗ってはいけません。若い頃に、さんざん「サービス残業」をさせられたことを忘れてはいけません。あの「貸し」を返してもらうためにも、何としてでも定年まで今の職にしがみつくべきです。
会社はあなたをいわゆる「窓際」に押しやるかも知れませんが、この圧力に屈してはいけません。適当に暇つぶしをして、定時に帰れば良いのです。毎日会社に行くだけで、ろくに仕事をせずに給料をもらえるなんて、とても恵まれていると考えなければいけません。若いうちの貸しを返してもらうために、徹底的に会社をしゃぶり尽くせば良いのです。
「そんなことをしたら会社が潰れる」などとあなたが心配する必要はありません。あなたの同期で既に役員になっている人もいるでしょう。あいつらに任せておけば良いのです。
大会社は蓄えもあるし、たとえ赤字でも、既存のビジネスからのキャッシュフローは潤沢にあるので、そう簡単には倒産しません。株を持っている銀行は簡単には諦めないし、いざとなれば政府が救済してくれます。日本政府は、大企業の倒産を嫌うのです。あれだけの事故を起こした東電を政府が破綻処理したがらないのは、銀行や保険会社が大量の株や債権を持っているからです。
結局のところは、こんな「逃げ切りメンタリティ」が日本企業の競争力を奪い、日本全体に閉塞感を生み出しているのだ。企業の新陳代謝を促し、終身雇用制が生み出した莫大な「借り」を何らかの形でチャラにしない限りは、この閉塞感は消せない。
ちなみに、2月7日にUIEvolutionの新オフィスで「若手エンジニア向けリクルーティング・トークイベント」というイベントを行うので、こんな閉塞感など吹き飛ばすべく、「人々のライフスタイルを変える大きな仕事をしたい」と感じているエンジニアの方々にはぜひとも参加していただきたい。一番の目的はUIEvolutionという会社とそこでのエンジニアの仕事を知ってもらうことにあるが、エンジニアとしてのキャリアの話とか、ソフトウェア重視の経営のあるべき姿など、より大きな視点でのディスカッションをしたいと考えている。
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