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バブル時代の価値観が未だに幅を利かせている日本

5月にした堀江貴文さんとの対談の内容が文章になり、一部が horiemon.com で公開された(参照:Windows隆興の礎を作った伝説の日本人。マイクロソフトを支えた天才プログラマー 中島聡)。

堀江さんとは、私のメルマガ「週刊 Life is Beutiful」を通して間接的なコミュニケーションはいままでもしていたが、実際の人物と話のは今回が初めてであった。

Nakajimatop

今一度読み直してみると、このインタビューの中で、私が就職先に関して、

中島 そうですね。その時は親だったり先生から植えつけられた価値観があったんですよ。せっかく大学に行ったんだから、大きな企業に、名の通った大企業に行かなくちゃいけないって、ガッツリ疑問にすら思わず囚われていたわけですよ。アスキーでアルバイトして小銭も稼いで、みんなにちやほやされていたにも関わらず「俺は早稲田も行っていたエリートだから、一流大企業に行くのが当然だ」みたいな感じに行ったんですよ。すごい嫌ですよね、今考えてみると。でも、それに完全に囚われていましたね。

と答えている部分がとても重要だと思う。

パソコンの黎明期に、まさに日本の「ベンチャー企業の走り」のようなアスキー出版でアルバイトをし、かつ、そこで自分が作ったソフトウェアが数億円の売り上げをあげていたにも関わらず、アスキー出版で働くとか、自分で会社を興すということを考えもせずに、親や教授が進めるままに、NTTの研究所に入った私。当時の価値観から考えれば当然の行動だが、その価値観に囚われて「目の前の宝石」に気がつかなかったのである。

今や、日本の大企業は国際競争力を失い、終身雇用制は崩壊しつつあるというのに、未だに「一流大学から一部上場企業に新卒で正社員として入るのがエリート」というバブル時代の価値観が幅を利かせている日本。

この時代遅れに価値観を一日でも早く破壊し、大企業で飼い殺しにされている優秀な人材がベンチャー企業で有効活用されるようにすることが、何よりも大切だとつくづく思う。


iOS8が加速する家電メーカーの新陳代謝

メルマガの読者に向けて、今回のAppleによるWWDCでの発表に関する解説を執筆中ですが、それを書きながら強く認識したのが、2007年に登場したiPhoneが携帯電話機メーカーの勢力図を大きく変えたのと同じ様な大変化が、今度は家電メーカー全体に起ころうとしている、という事実です。

iPhone が証明したのは、ハードウェアの世界においても勝負の鍵となるのはソフトウェアであり、世界最高のプログラマー集団を抱えた企業しか、この業界では利益を上げられない、勝ち残れない、ということです。

日本のメーカーは、NTTドコモによる iモードで、世界で最初にインターネットに繋がる携帯電話を作っておきながら、iPhone の登場とともに市場から淘汰されてしまいました。

これに関しては、「日本は独自企画にこだわったから負けた」と思っている人が多いのですが、それは誤解です(日本の携帯電話市場のことを最初に「ガラパゴス」と呼んだのは私ですが、当初はポジティブな意味で使っていました)。一番の問題は、携帯電話メーカーの経営者たちがソフトウェアの重要性を理解していなかったことにあります。

日本の携帯電話メーカーは、せっかく優秀な技術者を雇いながらも、彼らをプログラマーとして育成せず、「正社員は仕様書の作成とプロジェクト管理、プログラミングは下請けと派遣」というゼネコン・スタイルでの開発体制をとっていました(現在でもほぼ同じです)。「正社員は使い回しのきく一般職/ホワイトカラー。専門職は職人/ブルーカラー」という工場経営時代の人事システムを継承しているのです。

ゼネコン・スタイルでのソフトウェア開発の問題点に関しては、「ソフトウェアの仕様書は料理のレシピに似ている」というブログ・エントリーを2006年に書きましたが、一向に改善される気配はありません。ひとことで言えば、日本のメーカーでは「料理を作ったことのない『なんちゃってシェフ』たちが机上で作ったレシピに従って、最低賃金のパートさんたちが料理を作っている」状態であり、「自ら料理に腕を振るう一流のシェフ達」を数千人抱えた Apple や Google と比べると、少年野球とプロ野球ぐらいの差が出てしまっているのです。

そんな状態なので、日本のガラパゴス・ケータイがiPhoneに駆逐されてしまったのも当然なのです。藁にもすがる気持ちで Android OSを採用したものの、美味しいところはすべて Google に持って行かれてしまい、携帯電話機で利益を上げている日本メーカーは一社もない状態です。

NECとパナソニックは既にスマートフォン市場からの撤退を決めました。かろうじて市場に残っているソニーの経営陣も、パソコン事業と同じくスマートフォン事業からも撤退すべきかどうかに関して、日夜議論を交わしているはずです。

Apple は今回の発表で、iOS8 の新しいフレームワークとして、HealthKit と HomeKit を発表しましたが、これは Apple が万歩計や血糖値/心拍計を含むウェアラブル・デバイス、および、ホーム・オートメーション/ホーム・セキュリティの分野に本気で進出してくることを意味しています。

Apple がどこまで自分でハードウェアを作ってくるかは現時点では未定ですが、一つだけ確実に言えることは、これらの市場に置いても、携帯電話市場と同じく、ソフトウェアが勝負の鍵を握る時代になることであり、正社員としてソフトウェア技術者を育てて来なかった日本の家電メーカーは、このままだと携帯電話メーカーと同じ道を歩むことになる、ということです。

日本の家電メーカーの経営陣の方々にお願いしたいのは、今回の Apple によるキーノートを危機感を持って自らの目で見ることです。これが自分たちのビジネスにとってどんな意味を持つのか、(若い技術者達に任せたりせずに)自分の頭で考えて、戦略を立てて下さい。これまでのように、守りの姿勢では淘汰されるだけです。

どの事業を捨てて、どの事業に集中するのか。勝負の鍵を握るソフトウェア技術者をどうやって社内に育成するのか。Apple や Google などの企業と、どんな距離を保って戦って行くのか。ここから1〜2年の経営判断が、日本の家電メーカーの死活を決めることになるのです。