アウトプットに遠慮や忖度が必要ない理由
会話におけるアウトプットの重要性

あらゆる文章は実践あるのみ

9月22日発売の「結局、人生はアウトプットで決まる 自分の価値を最大化する武器としての勉強術」からの引用です。

◉アウトプット実践編。200字で解説してみよう(169ページ)

第1章で、文章は「情報を伝えるためのツール」にすぎないとお伝えしました。そして、この事実を知ったときに、これまで持っていた文章への苦手意識がものの見事に消えていったともお伝えしました。

それでも苦手意識がある人もいるでしょう。自分の書いた文章を「正しく理解してもらえないのではないか」と不安に思っている方も多いと思いますが、これは練習によって克服することが十分に可能です。そこで、ここからは実際にアウトプットの練習をしていきましょう。

全国の小・中学校では、今なお読書感想文を書かせているようですが、良い読書感想文として求められる感情や情緒の伝達というのは、高度なテクニックです。文章がうまくなるには、いったんそれらを排除し、「情報(事実)の伝達」に絞ってトレーニングすべきです。

つまり、小学校の国語の授業であれば、小説を読んで読書感想文を書くのではなく、たとえば、「ランドセルとは何か」ということを、一度もランドセルを見たことがない人に200字以内で説明させるような課題を与えるべきでしょう。

本来であれば、こういった形の作文の授業を続けていれば、「文章とはものごとを簡潔に、わかりやすく伝えるためにあるものだ」ということを直感的に理解してもらえるし、本当の意味での文章力が養えたのです。

にも関わらず、今の教育は「ランドセルをテーマにした詩や文章を書きましょう」といった高度なことを、簡単な説明文すらまだ書くことのできない子どもたちに要求するため、大半の子どもたちは「何を書いたらいいかわからない」という部分で行き詰まってしまい、結果的に(私のように)何も得られない不毛な国語の時間を過ごすことになってしまうのです。

これは子どものみならず、大人にも言えることです。アウトプットとして書評ブログをやろうとしている人は、この弊害が出て、踏みとどまってしまうかもしれません。

そこで、試しに、「ランドセル」をテーマにしてみましょう。まずは、良くない例から。〝文学的〟であることを期待されている文章を私なりに書いてみると、次のようになります。

 角を曲がると、その先に小学生が6、7人固まって歩いているのが見えた。ランドセルが背中の半分以上を覆い隠しているため、まるでランドセルから足が生えているようだ。だらしない歩き方をしているため、時々ランドセルの一つが車道にはみ出す。私はその度にハラハラしてしまうのだが、だからといって注意する勇気はない。

この手の文章は、客観的に評価するのが非常に難しくなってしまいます。「足が生えたランドセル」という表現を滑稽と感じる人もいれば、「文学的に見せようとしていてあざとい」と感じる人もいるからです。この手の文章は、書くのが難しいだけでなく、読者にとっても評価が分かれる(教師にとっても採点するのが難しい)、教材としてまったく不適切なものなのです。ところが、こういった文章ではどうでしょうか。

 ランドセルとは、日本の小学生が教科書、ノート、筆箱などを入れて背負う革製のカバンである。重い教科書が入った肩掛けカバンや手提げ鞄を成長期の子どもたちが持ち歩くと、背中が曲がるなどの成長障害につながるため、両肩に均等に重さがかかるように設計されている。祖父母が孫の入学祝いに贈るのが慣例となっている。

こんな説明文であれば、「成長障害につながるため」ではなく「成長障害につながる可能性がある」の方が正確だ、同じく両肩にかけるリュックサック・ナップザックとの違いがわからない、2番目の文の主語(ランドセルは)の省略はちょっと冒険だけど、あいまいさはないので悪くない、などの客観的な評価が簡単にできるのです。

本来であれば、小・中学校での国語教育で、まずはこのレベルの感情が入らない説明文の書き方を徹底的に鍛えるべきでした。そして、ある程度それができるようになってから、(中学の高学年、もしくは高校から)初めて自分の意見が入る文章を書かせれば良いと思います。何度も言うように、今現在、文章に対する苦手意識を持っている大人にも同じことが言えます。

さらに付け加えると、自分の意見を込める文章として、読書感想文は向かない題材だと私は思います。「はっきりした目的」がないからです。あえて言えば「教師から良い評価を得ること」が目的ですが、それでは評価の基準が曖昧すぎて、「いかにも優等生の中学生が書きそうな感想を書こう」という本末転倒なことになってしまいます。

たとえば、先のランドセルの例を拡張して「高学年になるとランドセルを使わなくなる子どもたちがいることを問題視し、少なくとも小学校を卒業するまではランドセルを使うべきだ」というメッセージを含んだ説得力のある文章にするにはどうしたらいいのか、といった練習をした方が、文章力もつくし、世の中に出てから役立つのです。

さて、ここでワークです。これまで一度もランドセルを見たことがない人に向けて「ランドセルとは何か?」というテーマで、200字以内でまとめてみましょう。

 

◉ビジネスメールや文書はこう書く(182ページ)

多くの人が盛んに使っているコミュニケーションに「メール」があります。私がメールでのコミュニケーションについて学んだのは、マイクロソフトの本社においてでした。

特に、スティーブ・バルマーとのエピソードは感動すら覚えたほどです。バルマーは、1998年にマイクロソフトの社長に就任、2000年にはビル・ゲイツから最高経営責任者を引き継いだ人物です。アメリカでも屈指のエグゼクティブであり、当時から常に時間に追われているような人物でした。

当時の私といえば、名もなき一プログラマー。彼は、そんな私のメールですら読んでくれていました。私のメールをチェックしているということは、マイクロソフト社内の社員のメールをほぼ全部チェックしていることになります。当時からマイクロソフトは何万人という規模の従業員がいました。外部からのメールを合わせたら、その確認や返信だけで1日の大半が終わってもおかしくないような状況ですが、彼はきちんとチェックしてくれていたのです。

そんな状況のなか、彼は返信してくれました。もちろん、ダラダラと返信していると時間がいくらあっても足りません。ですから、メールの文面は極端に短い。

私が一番感動したメールが、スティーブにちょっと複雑なことを頼んだときのことです。当時の私は、他のグループにやってもらいたいことがありました。そのグループに私が直接お願いしてもらちが明かない状況だったので、スティーブに「仲介してほしい」という旨をメールしたのです。そのメールを読んでもらえるのかすらわからない状況でしたが、とにかく返事を待つしかありません。すると、しばらくしてから返信が来たのです。

そこには、二つの単語がアウトプットされていました。

Will do.

「了解です」や「任せて」といった意味で、「I will do.」を略したものです。

時間にすれば一瞬で終わってしまう返信。もしかしたら「なんだか冷たいな」と思われる方もいるかもしれません。しかし、これを受け取った私は、わざわざ返事をしてくれたこと、そして、その返事が肯定的だったことへの嬉しさに加え、強い衝撃を受けたのでした。

主語「I」が省略されているのはもちろん、通常あるべき署名もありません。今ではLINEやSlackによってチャットでのやり取りは日常的になりましたが、当時はメール全盛の時代。「一流の人はこんなメールの使い方をするのか……」とただただ、驚いたのでした。

文自体は異様に短いものの、即座に受け手に意味が伝わり、結果的に過不足のないコミュニケーションが取れている。こういうスタイルだからこそ、スティーブは何万人規模の会社を率いていても、一兵卒から来たメールに応えられるわけです。この返信の根本には、どのくらいの密度で社員とコミュニケーションしたいかという意識が表れているのです。

この出来事以来、私のメールの文面も自然とシンプルになってきました。メール相手との関係にもよりますが、メールに書く文面は基本的に用件だけ。

日本では「〇〇様」から始まりますが、ほとんどのメールにおいて、メッセージを伝えたい相手は明らかになっているので本来は不要。わざわざ「いつもお世話になっております」と書く必要もありません。英文メールであれば日本語で「よろしくお願いいたします」という意味の、「Best regards」や「Regards」を書くことはありますが、無駄なものはなるべく省き、コミュニケーションの密度を高めるようにしています。

さすがに、初回のメールへの返信として「Hi」は使いますが、その後のやり取りとなると、もはやチャットレベルの短さです。

先日もスウェーデンの知り合いがシアトルに来ていて「金曜日まで(シアトルに)いるけど会えない?」というメールが来ました。私の返事はというと、「Yes, How about Thursday morning?」(いいね。木曜日の朝はどう?)。彼からの返信は「Great」という、ものすごくシンプルなやり取りでした。彼とはフランクなトークができる間柄ですが、これが日本でのやり取りとなると、「場所はどちらがご都合よろしいでしょうか?」などと書いてしまいがちです。

最近ではチャット系のアプリが普及し、コミュニケーションの密度は高くなりました。私も、Slackでやり取りすることが増えています。メールでは後から人を追加しづらいこともあり、長く続くプロジェクトなどでは活用していますし、中国人が相手の場合は「We Chat」を使うことも。「カカオトークでお願いします」と言われた人とはカカオトークでやり取りしています。このように、相手に合わせてチャットアプリを使い分けています。

コミュニケーションの特性でいえば、日本発と言える「絵文字」は面白い文化だと思っています。アメリカにいるとよく感じますが、アメリカ人は自分の意見をはっきりと伝える傾向にあります。対して、日本人の傾向として、はっきりと意見を言うことが苦手。少し面倒な作業をお願いするときも、遊びの誘いを断るときも、「今日は行けない」ではなく「今日はちょっと難しい」などと行間を読ませようとしたり、ニュアンスで伝えがちです。そんなとき、非常に役に立つのが絵文字です。汗を書いている表情や泣いている表情などは、「申し訳ないと思っている」「本当は行きたいんだけど……」といったニュアンスを上手に伝えてくれます。

海外ではすでに日本語の「emoji」という単語が使われていて、日本発の文化が、今や世界に広がりつつあります。さすがに、ビジネスの場面ではまだ使いづらい状況ですが、近いうちに絵文字を使ったコミュニケーションも当たり前になってくるのではないかと予想しています。フェイスブックのメッセンジャーやSlackなど、おもにビジネスで活用されるチャットアプリにもすでに導入されています。ビジネスシーンで盛んに使われる可能性もかなり高いと言えます。

今回は、返信の仕方をもとに、コミュニケーション特性の話題を取り上げてみました。アウトプットにおいても、この密度というものを意識しておいて損はないでしょう。

 

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