一流のプレゼンターが必ずやっていること
2018.09.24
9月22日発売の「結局、人生はアウトプットで決まる 自分の価値を最大化する武器としての勉強術」からの引用です。
◉世界的企業のCEOはアウトプットも超一流(214ページ)
私は現在、シアトルに住んでいます。シアトルという街には世界的な大企業の本社が多数ありますが、その代表的な企業にアマゾンがあります。以前、とあるパーティでアマゾンCEOのジェフ・ベゾスと偶然会ったことがありました。
彼の第一印象は、「思ったより小柄だな」というものでした。PCやスマホの画面越しに何度も見ているベゾスですが、生身で話してみるとやはり圧倒されました。独特のギョロッとした目は眼光鋭く、いかにも変わり者というオーラを放っていたからです。
雑談のテーマでもお話ししたように、ベゾスとの共通の話題を探ってみました。すると、どうやら彼もテニスを趣味にしているとのこと。どのコートでテニスをしているのかという話になり、私が「○○というテニスクラブに入っていて、そこでよくやっている」と言ったところ、ベゾスはこう答えました。「僕は家でするよ」。さすが世界屈指のエグゼクティブだと唸らされたことを覚えています。
同じくシアトルに本社を置く、スターバックス。同社を世界的なコーヒーショップチェーンに育て上げた元会長のハワード・シュルツとも話したことがあります。
彼と私の息子が同じ学校に通っていたので、何度か話す機会がありました。彼の印象は、「人を納得させるのがうまいな」ということ。人あたりが柔らかく、押しつける感じが一切ない。本当に真摯な態度でアプローチしてきます。
彼が話している姿から察するに、スターバックス社内でも「なぜ我々はスターバックスを運営しているのか」という、〝なぜ〟の部分の説明をものすごく丁寧に行っているのだろうと思いました。
飲食を始めとするサービス業においては、店舗運営をどうするとか、新メニュー開発がどうのといった各論に気を取られがちです。しかし、彼がこだわっているのは、「スターバックスがなぜ存在しているのか」という、同社の存在意義の部分でした。スターバックスのコンセプトが「サード・プレイス」であることは有名な話です。要は、会社とも自宅とも違う第三の居場所を作りたいということですが、彼はその概念をものすごくわかりやすく従業員たちに説明していくわけです。単なる説得口調ではなく、本当にそこを目指しているんだという、本物の熱意を持って。そんなことを、彼との会話から感じました。
コストコ(アメリカでは「コスコ」と発音します)のCEO、クレイグ・ジェリネックの発言も印象的でした。会話ではありませんが、彼が登壇していたイベントを訪れた際、質疑応答で質問する機会がありました。
コストコは会員制の倉庫型店舗で、日本の場合、個人は年間5000円弱の会費を支払うことで利用できます。コストコは、会費を支払うメンバーに対し、安く仕入れて安く売ることを行っています。「物を、安く仕入れて、安く売る」、この部分だけを切り取れば、他の小売業のビジネスモデルとあまり変わりません。しかし、コストコが他の小売業と大きく違うのは、そのカルチャーです。それを端的に表しているのが、〝規則〟の存在。小売業の原則は、仕入れた物に利益を乗せて売ることですが、コストコでは15%を超える利幅のある商品の取り扱いは禁止しています。
現在も語り継がれている、象徴的なエピソードがあります。
コストコで人気ブランドのジーンズを25ドルで仕入れ、29ドルで販売したところ、あっという間に売り切れたそうです。
これを受けてコストコは、「今後も売れる可能性はかなり高い」と考え、大量仕入れを行いました。すると、仕入れ値が25ドルから19ドルに下がりました。
さて、29ドルで販売して飛ぶように売れたジーンズ。同じ29ドルで販売すれば、同じように売れるはずです。しかも、仕入れ値が下がっている分、前回よりも利益は増えます。通常の小売業であれば、間違いなく29ドルで販売するでしょう。
しかし、コストコは違いました。社内の規定によって、29ドルでも飛ぶように売れたジーンズを、翌週には24ドルで販売したのです。この話に代表されるように、コストコでは、「仕入れ値に対する小売り価格のマージン上限が15%」というルールが決まっているのです。
これは、MBAのケーススタディやアメリカのビジネス書にもよく取り上げられるエピソードです。成功事例があれば、多くの企業が導入してみるビジネスの世界。コストコは世界的な企業になるほど成功しているわけですが、他の小売り業者はコストコと同じことを実践していません。前置きが長くなりましたが、私はクレイグに「なぜ、他社はそれを真似できないんですか?」と聞いてみたのです。
すると、彼は喜んで答えてくれました。彼の回答をまとめると、こうなります。
「小売業の生命線は『いかに安く仕入れて高く売るか』、この部分にかかっている。他社も小売業という商売は〝そういうもの〟だと考えていて、企業の文化になっているんだ。だから、安く仕入れたものを安く売ることは、彼らには絶対にできない。なぜなら、彼らの本能に反してしまうからさ」
話の内容もさることながら、私が興味深かったのは、「なぜ」という問いに対して、彼がシンプルにわかりやすく答えてくれたことです。
スターバックス元会長のシュルツも先述のとおり、真摯で丁寧なイメージでした。ベゾスもまた、言葉を大切にしています。「競争相手のことばかり見ずに、顧客を見ろ」とは、ベゾスがしばしば繰り返す言葉です。よほど成熟した市場でもないかぎり、競争相手の後を追いかけてもイノベーションは起こりません。顧客が何を必要としているか、それをとことん追求してこそ、価値のあるビジネスが作れるわけですが、そんなメッセージをベゾス自ら従業員たちに伝えているのです。
また、ベゾスは毎年株主向けに送っている年次書簡を効果的に使っています。たとえば、2015年8月に「ニューヨーク・タイムズ」がアマゾンの批判記事を掲載しました。この記事へのアンサーなのでしょう、翌年の書簡の中でベゾスはアマゾンの企業文化に対する自身の考えを訴えていました。株主向けではありますが、従業員たちも読んでいますし、それを狙っていることは言うまでもありません。
このように、一企業を巨大なグローバルカンパニーへと成長させるほどの経営者たちは、自分の理念や思いを伝える能力もまた、突出しているのです。
他方、多くのベンチャー企業が失敗してしまう理由の一つに、コミュニケーション不足が挙げられます。要は、経営者のビジョンや理念が正確かつ長期的に共有されないのです。また、短期的な利益を求めるあまり、信念なき製品づくりやサービスづくりになってしまうことも「あるある」です。
本来、企業は、経営者のビジョンに共感するスタッフが集まり、創意工夫してビジネスを形作っていくもの。そんな意味では、企業経営にもコミュニケーションはきわめて重要ですし、自身のビジョンをわかりやすく伝えること、つまり、思想のアウトプットはリーダーに欠かせないのです。そんなことを、世界的なCEOたちから感じました。
◉プレゼンと講演の良し悪しは「おみやげ」の質で決まる(235ページ)
アウトプットの手段の一つに、プレゼンテーションがあります。職種や職場によっては、プレゼンを避けては通れない人は多いと思います。そんなプレゼンですが、日米で比べてみたときに、いかんともしがたい「悲しい事実」が存在します。
マイクロソフト時代、プレゼンの場によく出席していたのですが、アメリカ人のほとんどが、聞いている私たちの目を見ながら堂々とプレゼンする一方、日本人はというと……。ほとんどがスライド上にある文字を順番に読んでいくだけ。こんな姿を見るたび、悔しい思いをしていました。
これはプレゼンをする人が優秀かどうか、という話ではないようです。私の感覚では、全体のトップ20%に入るような優秀なビジネスパーソンやプログラマーを日米で比べたとき、アメリカ人のほぼ全員がプレゼンに長けています。しかし、日本人だとプレゼン下手な人の割合がぐんと高くなってしまいます。
だからといって、日本人の能力が劣っているという話ではありません。「そもそもプレゼンとは何なのか」ということを知っているか、知らないかの差というのが私の考えです。そう考えると、ほとんどの日本人が「スクリーンに映し出されたパワーポイントの資料を真面目に伝えること」がプレゼンだと勘違いしているのでしょう。
では、私が言う〝良いプレゼン〟とはいったい何か。
それは、「もっとも伝えたいメッセージをシンプルに、わかりやすく、情熱的に伝えること」にほかなりません。
私はこれまでに数多くのプレゼンを行ってきました。32歳のときにはビル・ゲイツの前で一世一代と言えるプレゼンを行い、自分の主張が認められたこともあります。それが「ウィンドウズ95」に大きな影響を与えたことは、前著でもお話ししました。
最近では講演に呼ばれたり、大勢の前で話す機会も格段に増えました。いついかなるときも心掛けているのは、「何を伝えたいのか」をはっきり決め、それを伝えるように最大限努力することです。
私はこれを、よく「おみやげ」と呼んでいます。せっかくプレゼンや講演を聞いてくれた人に、私が伝えたかったメッセージをおみやげとして持って帰ってもらうのです。
私は、書く場合には、できるだけ簡潔に、要点だけを伝えることに力を入れます。一方で、話す時には、相手の顔色を見ながら、「いかに私の話に集中してもらえるか」に気をつけながら、「少なくとも要点だけは理解して帰ってもらう」ことに全力を傾けます。
プレゼンや講演を聞いていても、多くのことは心に残りません。これは観客としてプレゼンや講演に参加したことがあるなら、誰もが経験しているはず。ほとんど忘れられてしまう中で、最低一つだけでもメッセージを家に持って帰ってもらえれば「御の字」なのです。逆に、「いや~、今日はいい話が聞けました」という抽象的な感想では、何も得られていないのと同じです。
ここで、これまでに参加したプレゼンや講演を思い出してみてください。その大半が「おみやげ自体がない」または「立派な箱だけ」だったのではないでしょうか。もちろん、登壇者は一生懸命話す内容を考え、一生懸命練習し、話したことでしょう。しかし、残念ながら聞いたあとに「何か」が残るプレゼンや講演は、最近あまり見かけません。
プレゼンや講演で使うスライドの枚数や言葉の数、練習量では、私より労力をかけている人はたくさんいると思いますが、まったく気にしていません。なぜなら、絶対におみやげを持って帰ってもらっているという自負があるからです。
「この章を読んだらプレゼンのテクニックが学べる」と思っていた方には申し訳ないのですが、テクニックうんぬんは二の次です。いくらイケているスライドや流暢なトークを駆使しても、伝えたいメッセージを用意し、おみやげとして持って帰ってもらえないのであれば、そのプレゼンや講演は「時間とお金と労力のムダ」なのです。
まずは、どういうプレゼンが正しいのかを知ること。そして、プレゼンの本質にしたがって、良いプレゼンをすべきだという認識を持ってください。それが良いプレゼンのためのスタート地点。練習やスライドの準備はその後に行うものです。
見方を変えれば、多くの人ができていないのだから、これを読んでプレゼンの本質をつかんだあなたは、今日からすぐに差別化が図れるというわけです。
とても重要なことなので、もう一度言います。
聞いている人に一番伝えたいメッセージは何なのか。まずは、それを定めましょう。
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