たくさんの方たちからさまざまな回答をいただいた「ビルゲイツの面接試験-ジャンケン編」。気が付いた人も多いようだが、この問題の面白さは、単なる数学の問題ではない点にある。中途半端な「ゲーム理論」の知識が逆にじゃまになったり、「数式を使って解けるはず」だとか「正解は一つだけあるにちがいない」などといった思い込みが答えの幅を狭くする。
「ゲーム理論」に基づいて解いて「グーとパーを50%ずつの割合でランダムに出すのが良い」という答えにたどり付いた人が何人かいたが、この方法は最適解とは言いがたい。その戦略で得られる期待値、125000円よりも多くの賞金が期待できる戦略が他にもあるし(後述)、相手がこちらがその手法を取っていることに気が付いて全部パーを出して来たときにどうしようもなくなる。
注目すべきなのは、これがゼロサムゲームではなく、二人で結託してパーとグーを交互に出し合って250000円ずつを得ることができる「協力することによって利益を最大にできるゲーム」だという点である。こうなると、問題は、相談することも相手の表情を見ることのできない環境でどうやってコミュニケーションを取るか、にかかって来る。つまり、この問題を解くのに必用なのは、高度な「ゲーム理論」の知識ではなく、「コミュニケーション・スキル」なのである。
そこで私なら、まずは「グー、パー、グー、パー」としばらく出し続けることにより、相手に「協力して互いの賞金を最大化しよう」というメッセージを送る。ここで気が付いてもらえれば、250000円にちょっと欠けるぐらいの収入は得られる。寄せられた回答を見る限り、7~8割の人にはそれで通じるはずだ。
問題は、このメッセージが伝わらなかった場合(もしくは、伝わっても協力してもらえない場合)である。その場合には、相手がどんな手を出しているのかを良く観察した上で、それぞれに応じた手を打つ必用がある。
(1)パーとグーをランダムに出してくる場合
相手は「ゲーム理論」を知っている人だ。しかし、これに付き合っていては、125000円ぐらいの賞金しか得ることができないので、もうしばらく「グー、パー、グー、パー」と出して、相手が気が付いてくれるのを待つ。それでもどうしても気が付かないのであれば、パーを連続して出すことにより、「それじゃだめだよ、交互に出せよ」というメッセージを送る。相手がそれに気が付いて、グーとパーを交互に出し始めれば、それに会わせる。もし乗ってこない場合には、パーをひたすら出し続けて、こちらだけは250000円に出来るだけ近い賞金を得る。
(2)パーばかり出してくる場合
これは怠惰な人だ。この場合は、チョキを連続して出して懲らしめる。相手がそれに反応してパーばかりを出すのをやめたら、(相手が何を出しても)すぐに、「グー、パー、グー、パー」のシーケンスに戻して、こちらの意思を明確にする。
(3)こちらのグーにはパーを、パーにはチョキを出してくる場合
これが最悪の相手。こちらの意図を察していながら、自分だけ得をしようとする人だ。世の中はそんなに甘くないことを教えてあげるべきだ。まずはチョキを連続して出して懲らしめて様子を見る。しばらくしてから、再び「グー、パー、グー、パー」と出して、相手が乗ってくるかどうか見る。再び「パー、チョキ、パー、チョキ」と来たら、チョキの連続でまた懲らしめる、を続ける。
(4)チョキばかり出してくる場合
ジレンマに陥っている人だ。この場合は、しばらく「グー、パー、グー、パー」を出し続けて、相手が気が付いてくれることをひたすら祈る。それでも気が付かなければ、仕方がないので、グーを連続して出して懲らしめる。相手がパーを出したところで、すかさず「グー、パー、グー、パー」のシーケンスに戻して、説得を試みる。
(5)グー・チョキ・パーを適当にまぜて来る場合
普通にジャンケンをすれば良いと考えているのだろう。この場合も、しばらく「グー、パー、グー、パー」を出し続けて、相手が気が付いてくれることをひたすら祈る。それでも気が付かなければ、パーを連続して出す。相手がそれに気が付いてチョキばかりを出してきたら、今度はグーを連続して出し、相手がパーを出すのを待って、「グー、パー、グー、パー」のシーケンスに戻す。
結局のところ、この戦略の成否は、ジャンケンを通してこちらの意図を相手の伝えることができるかにかかっている。出来る限り早く意思の疎通ができれば、それだけ互いの利益を最大値に近づけることができる。
考えてみると、実社会でも「お互いに少しづつ譲歩し合えば互いの利益が最大化できる」にも関わらず、「お前が先にグーを出せよ」と言い争いながら双方がパーを出し続けてしまうのに相当することをしてしまうことは良くあることだ。そんなときは、この問題のことを思い出してみるのも良いかも知れない。