「汎用タブレット市場」はそもそも存在するのか?

今朝、私の目を引いたのは、「iPad Sales May Lead to Huge Missteps by Competitors」という記事。AppleのiPadが飛ぶ様に売れている事に目を付け、Samsung、Motorola、Research In Motionなどが続々とタブレット市場に進出しているが、ユーザーが欲しているのは単なるタブレットではなくてiPadであり、需要がないところに無理矢理商品を押し込んだところで在庫が増えるだけだ、という警告。

確かに考えてみると、私の回りにiPadを持っている人はたくさんいるが、iPad以外のタブレットを持っている人は見た事がない(唯一の例外はUIEジャパンが開発用に購入したGalaxy Tab)。

パソコンやテレビの場合、消費者はまず最初に「そろそろパソコン/テレビを買おう/買い替えよう」と思い、次に「パソコン/テレビならどのメーカーのものを買おうか」と考える。iPhoneが強いスマートフォン市場でも、やはり「スマートフォンが欲しいけど、どれが良いんだろう」と考える人は多いと思う。

しかし、タブレット市場に関して言えば、最初に「そろそろタブレットを買おう」と思う人は皆無に近く、いきなり「そろそろiPadを買おう」となってしまっているのだ。実際、先日も知り合いの弁護士が「私の仕事仲間はみんなiPadを持っていてね、私もそろそろ買おうかと思うんだ」と言っていたがこれが良い例だ。

そういう意味では、現時点では「汎用タブレット市場」というものは存在しないに等しく、単に「iPad市場」があるだけだ。以前、ここでも「Androidタブレットはヨドバシカメラの『Androidタブレットコーナー』に横並びにされた時点で負けだ」と書いたが、そもそも汎用デバイスとしての「タブレット」の需要がないのでは勝負にならない。

ちなみに、以前、日本の某メーカーにタブレット戦略の相談をされたことがあったのだが、その時には「ヨドバシカメラに並ぶようなものを作ってもアップルには勝てないし、まず利益は出ないと思います。どうしても出したいというのであれば、いっそのこと、東急ハンズで文具として売ってもらえるように文具メーカーと共同開発するとか、医者と看護婦が日常の医療現場で使う医療システムのアクセス端末として一括で導入するとか、特定の市場・用途に特化したものを作るのはいかがでしょう?」と答えておいたのだが、そのメーカーからはまだ何も市場には出ていないようだ。


Windows Mobileに「全力投球」を決めたMicrosoftの厳しい戦い

 ここの所モバイルの世界ではすっかりGoogleとAppleにおいしいところをもっていかれてしまっているMicrosoft。そろそろ「撤退」か「全力投球」のどちらを選ぶ時期だと思っていたのだが、ついに「全力投球」を決めたそうだ。

 今までは「Windows CEビジネスの延長上」程度にしか力を入れて来なかったWindows Mobileビジネスだが、Steve Ballmerが「開発者の心をAppleに奪われるなんて由々しき事態」と宣言し、主戦力をWindows部隊のトップクラスのエンジニアにごっそりと入れ替えての「体力勝負」に出る事にしたとのこと。

 意気込み・人材・資金力のいずれも驚異的ではあるが、いくつか大きな問題も抱えている。

1. OSが時代遅れなこと

 AppleがOSXベースの最新のiPhone OSを使っているのと比べて、Windows Mobileはメモリが数メガバイトしかなかったPDA向けに設計されたまだWindows CEベース。これでは戦えない。もちろん、そこはMicrosoftも理解しているのだが、何をするにも時間がかかるため、今年の端末に載るWindows Mobile 6.5だけでなく、来年度以降の端末向けのWindows Mobile 7.0もWindows CEベースのものになってしまうという。つまり、OSレベルで今のiPhoneに追いつくのは、(OSのコアをWindows NTベースのものに入れ替える)Windows Mobile 8.0になってから。これだけでiPhoneよりも4年以上遅れている計算になる。

2. ブラウザーが時代遅れ

 先日のブログにも書いたが、WebKitがスマートフォンのブラウザーのデファクト・スタンダードになることはほぼ決まり。それに加えて、HTML5の標準化に関してもAppleとGoogleにリーダーシップを取られてしまっている今、Microsoftがモバイル版のInternet Explorerを開発続けるの理由がどんどんと薄れているのも事実。一生懸命作ったところで、賢いOEMは(Microsoftが何と言おうと)WebKitベースのブラウザーを載せて来るだろうから、そこがまた戦いをいっそう苦しい物にする。

3. 何をするのにも時間がかかること

 これはMicrosoft内部にいる知り合いから良く聞く話だが、「最近は何を作るにも昔の2〜3倍はかかる」らしい。ソフトウェアの性質として関わる人間が増えれば増えるほど生産効率は急激に落ちて行くので、3000人を抱えるWindows Mobile部隊の開発効率がどのくらいかは想像が付く(Windowsグループが2000人に増えた時の生産効率はエンジニア一人あたり一日1.5行だったそうだ)。

4. ビジネスモデルが違いすぎること

 これは良く知られた話だが、iPhoneの粗利(売り上げから製造原価を引いたもの)は一台あたり300ドルを超えるという。それに対して、Windows Mobileが一台売れた時にMicrosoftが受け取るロイヤリティはわずか数ドル。この差は大きい。パソコンの世界の様に寡占状態を作ることができればこのビジネスモデルも悪くはないが、MicrosoftからOSを決してライセンスしないApple、RIM、Nokiaがスマートフォンのシェアの大半を握る今の状況で戦い続けるには、WindowsやOfficeから得た収益を何年間にもわたってつぎ込む必要があるのが現状。Microsoftがキャッシュに困ることはまずあり得ないが、あまり何年にも渡ってモバイル部門が赤字を出し続けると、株主から「そんな無駄遣いをするぐらいならもっと配当をよこせ」とプレッシャーがかかる。

5. Google Android

 聞くところによると、2010年度にはAndroidを搭載した携帯を発売する会社が50社はあり、その多くが中国・台湾からの新規参入企業だという。つまり、Androidのおかげで携帯の開発費が下がったのは良いが、そのおかげで新規参入組が殺到し、競争原理で一気にスマートフォンの低価格化が進むのだ。これにより、OEMによるWindows MobileからAndroidへの乗り換えが増える、Windows Mobileのロイヤリティへの価格圧力が高まる、Windows MobileをライセンスしているOEMのビジネスがなりたたなくなる、などの悪影響が出ることは避けられない。

 いずれにしろ、「iPhoneに追いつけ追い越せ」の号令とともにWindows Mobileを戦略兵器として育てる、というMicrosoftの戦いは始まったばかり。人々のネットへの接点がパソコンからスマートフォンへと大きく変わろうとしている今、この戦いは本当の意味で「社運を賭けた」戦いだ。

AT&Tがモトローラ製のAndroid携帯を「時代遅れ」と拒否

 今日、米国の携帯業界関係者の間で話題に上ったのが「AT&T rejects Motorola's Android smartphones」という記事。AT&Tから正式に発表された訳ではないが、たぶん真実に近いだろうことは容易に想像できる。

 AppleがハードからソフトまですべてコントロールするiPhoneと比べ、GoogleはOSを提供するだけで、最終的な製品の仕上がりはハードメーカーまかせのAndroid携帯は「ソウル(魂)のない」中途半端なデバイスになりがち。

 このあたりの事情はMicrosoftのOSを使ったWindows Mobile端末も同じで、「個別の機能を見る限りiPhoneに負けてはいないのになぜか魅力的でない」デバイスができてしまうのは、ソフトからハードまで一貫して責任を持って作り上げることが不可能だから。

 この業界の歴史を見ると、古くはMicrosoftが旗ふり役だったMSXや3DOまで、たくさんの失敗例がある。Windowsパソコンの成功が逆に「例外」に見えてくる(まあパソコンの場合も、最終的に勝ったのはハードメーカーではなくMicrosoftとIntelだけ、という見方もあるぐらいだから、例外ではないのかも知れないが)。

 Red Oceanになることが目に見えているAndroid携帯を作るのであれば、徹底的な低価格で攻める、超一流のデザイナーを雇ってデザインで勝負、ある特定の用途の最適化したデバイスに仕上げる、などのよほど特殊なことをしないかぎり成功するのは難しいように思える。

 別の言い方をすれば、「オープンソースのAndroidを使う事により組み込みソフトの開発費を節約する」という部分にはそれなりに納得できるんだが、「Androidを採用しさえすればiPhoneに匹敵するデバイスが作れる」というのは幻想にすぎない、という話。

 このままだと、日本のメーカーが勢いにまかせて(もしくはドコモに指示されて)Android端末を開発しても、Appleにも韓国・台湾勢にもまったく歯がたたずにすぐに撤退、ということになりかねないように思える。なんだかMSXの時代と同じようなにおいがする。

iPhone OS 3.0 に関してひと言

 米国のPR会社に勤める知り合いに「iPhoneの新しいOSに関してひと言」というテーマでインタビューを受けた。要約するとこんな感じ。


インタビュアー:3.0 に関してどう思うか

:Big Canvasのビジネスにとって一番プラスになるのは間違いなくPush Notification。昨年の9月にリリースされるはずだったので、その時から首を長くして待っていた。PhotoShareのようなコミュニケーション型のサービスにとって、Push型で情報を届けることは、携帯電話にふさわしいおもてなしを提供するという意味でも必須。3.0向けのSDKを入手し、開発をしているところだ。

インタビュアー:3.0でApp Storeはどうなると思うか

:私は常日頃から「AppleはGoogleやMicrosoftの18〜24ヶ月先を走っている」と言っているが、今回のアップデートで、Appleは業界のリーダーシップのポジションをまだしばらくは走り続けることを明確にした。Big Canvasのようなベンチャー企業にとって「適切なマーケットにタイミングよくものを出すこと」は何よりも大切。iPhoneと他のプラットフォームの差がこれだけ開いてしまうと、私のような開発者に「少なくともここ数ヶ月は他のプラットフォームのマーケットに目を向けなくても大丈夫」という安心感を与えてしまう。これがAndroidとかWindows Mobileのアプリ市場のスムーズな立ち上げをさまたげ、さらに差が開いてしまうという悪循環を起こしかねない状況だ。別の言い方をすれば、iPhoneは社運をかけてアプリを開発する魅力があるが、AndroidにもWindows Mobileにもそんな魅力はない、というのがベンチャー企業の経営者としての正直な感想だ。

 この手のインタビュアーは、はっきりとした意見を言ってあげると喜ぶので、多少誇張した面もあるが、それにしても最近のMicrosoftはどうしようもない。シアトル近辺にとびかう噂では、iPhoneの登場でWindows Mobileチームは完全に浮き足だってしまい、せっかく立ち上がりかかったエンタープライズ・ビジネスからコンシューマー向けに大きく舵取りをして、混乱の極みだそうだ。Windows Mobileにだけは手は出さない方がよさそうだ。

Appleが打つべき次の一手

 先日、宿題の形にしてあえて私の意見を書かなかった「Appleが打つべき次の一手」。さまざまな意見が集まって私自身にとってもとても良い勉強になったが、やはり戦略として重視すべきなのは

・iTunes storeという武器をいっそう強力なものにして誰も追いつけないところまで持って行く
・iPhone 向けのアプリの開発者が増えていることをアップルにとっての最大の武器にする
・$200〜$300という低価格のnetbooksがMacBookに与える値段圧力に対する戦略を立てる

の三点である。

 現在のAppleを見る限り「(Apple TVとかiCameraのような)新しい市場を開拓してビジネスを広げる」という戦略よりも、まずは「世界最大のデジタル・コンテンツ・ストアであるiTunes store」と「急激に増えつつあるiPhone向けのアプリの開発者」という二つの強みを徹底的に強化し活用して行くという戦略をまずは優先すべきように思える。

 しかし、そのためには稼ぎ頭であるMacのビジネスが他のパソコンメーカーの値段競争に巻き込まれないように細心の注意を払いつつ、パソコン業界のBMW(ルイビトンでも良い)の位置を確固たるものとして、キャッシュフローを生み出し続けるように保つことがとても大切である。

 上の三つの戦略に基づいて戦術レベルまで掘り下げるとこんな感じになる。

iTunes storeの強化
  • 映画の品揃えをNetFlixやAmazonに対抗できるレベルまで増やし、本気で「ビデオレンタルビジネス」の市場を奪いに出る
  • 米国のスタバでやっているような「無料WiFiを通して今流れている音楽をその場でiTunes storeから買える」というサービスを全世界の人の集まる場所で展開する (「iTunes store in the air」戦略)。
アプリの開発者の支援・活用
  • アプリの開発者の収益をさらに増やすような仕組みを次々に追加して行く(iPhone OS3.0がアプリ内課金や月額課金をサポートするのはこれが理由)
  • xCode/Cocoaに慣れたアプリの開発者がiPhone以外の端末でもビジネスが展開できるような仕組みを作る (↓下記参照) 
netbooks対抗
  •  MobileMe専用端末としてのnetbookを発売する
  • 「MobileMeを通じてMac本体とデータを共有する」 というシナリオに特化して設計する
  • CPUはIntelのATOM、OSはiPhone OSを元にしたものにする
  • キーボードはBluetoothでの外付け。 キーボードなしでも使える。 
  • 本体価格は$300程度に抑え、その代わりMobile Meの年会費$99を必須とする
  • この端末向けのアプリの販売をiTunes storeから行う
  • Amazonと提携し、Kindleの代わりにAmazonにこの端末を販売してもらう 
 ちなみに、これは「もし私がApple内部にいたらこう考える」というだけの話なので、決して「これが正解」と言っているわけでも、実際にAppleがこういう戦略を取るだろうと予想しているわけでもないので注意していただきたい。この業界で働く誰もが常にしておくべき「頭の体操」の一つだと思っていただければ良いと思う。

単なる「低コストの外注先」ではなくなりつつあるインドのIT産業

 今週はMBAの授業の一環でインドのいくつかの企業を訪ねてまわっているのだが、今日行ったのはInfoSys。

 InfoSysは、Fortuneマガジンが"Top Companies for Leaders 2007' list"の10位に選んだ、インドの「IT産業」の花形。

 単なる表向きの宣伝ではなく、会社としての経営理念だとか、人の採用のしかたまで踏み込んだとても有意義なディスカッションができた。

 日本のIT産業と大きく違う部分をハイライトしてみると、以下のようになる。

1. 日本のITゼネコンのように下請けを使うことは一切せず、すべて社内のエンジニアが顧客のためのプログラムを直接作る。エンジニアの数はちょうど10万人を超したところ。

2. InfoSysにとっての一番の財産はエンジニアたち。社員教育にとても力を入れている。新入社員は数週間の合宿で基礎知識を徹底的に叩き込まれ、その後も6ヶ月はトレーニング期間。

3. 新入社員の年収は日本円にして50〜60万円。それが2〜3年後に一人前の仕事ができるようになると250万円程度になる。シニアエンジニアだと1000万円クラスもいる。絶対値だけだと日本よりも低賃金だが、昼ご飯を60〜80円で食べることができるインドの物価(ちょうど日本の10分の1ぐらい)を考えると、悪くない数字だ。

4. 基本給与に加えて、顧客の要望する品質のものをスケジュール通りに開発するエンジニアには、基本給の最大50%までのボーナスが支給される。このシステムにより、顧客の満足度を高めることを会社の理念の核に置いていることを全社員に徹底的に知らしめている。

5. 日本のようなSE/PGのような分け方はせず、顧客のビジネスの領域(例えば金融業)に詳しい「ビジネス・コンサルタント」とJ2EEとか.Netという個別の技術力を持つ「テクニカル・エキスパート」がチームを組んでプロジェクトを担当する。どちらの職種が偉いなどということは決してなく、キャリアパスとして、特定のビジネスの領域の知識で勝負するのか、特定の技術力で勝負するのか、を選ぶだけのこと。

6. InfoSysの売り上げの90%以上が海外(60%が米国)。「官庁からの受注でおいしい思いをする」なんてことはできず、すべて実力で顧客を勝ち取らなければならない厳しい環境に常に置かれて鍛えられて来たのがインドのIT業界。

 なぜInfoSysがここまで急速に成長できたかが良く理解できる話だ。国全体としてはまだまだ発展途上のインドだが、ことIT産業の外貨獲得額という話で言えば、すでに日本を大きく抜いている。エンジニアの待遇も労働環境も決して悪くない。インドのことを「単に値段が安いだけの外注先」と見下していると痛い目にあう。

PhotoCanvas

 本日、Big Canvasとしては6本目となるアプリケーション、PhotoCanvasをリリースした。去年の7月にPhotoShareをリリースして以来、PhotoShareのアドオン的な存在のアプリを4本リリースしてきたわけだが、それを通じて学んださまざまなことの集大成が今回のPhotoCanvas。

 カテゴリーとしては、SmallCanvas、PhotoArtistなどと同じく「写真加工アプリ」だが、ポジショニングとしては、PhotoShareとならぶ会社の「看板アプリ」として本気で「iPhone向けのPhotoShop」の座を取りに行こうという試みだ。

 私が「iPhone向けのPhotoShop」の話をすると、ほとんどの人から「それはいくら何でも無理でしょう」という反応が返って来る。その思考プロセスには「iPhone上でパソコン上のPhotoShopと同じ機能を提供することは技術的に無理→今のPhotoShopよりよほど機能が充実していないかぎり使い慣れたPhotoShopを離れてiPhone上の代用品なんて使うはずがない」というものだ。確かに、あれだけ充実した機能を持つPhotoShopと真っ向から戦うなんてことは私も考えてはいない。

 そもそもPhotoCanvasが対象としているのは、プロのデザイナーではなく「デザイナーがPhotoShopでしているのに近いようなことを自分もしてみたいけれど、いちいちパソコンに写真を移して加工するのも面倒だし、値段も高すぎる。そもそもPhotoShopみたいな複雑なソフトの使い方を勉強している時間もない」というiPhoneユーザー。そんな人たちに向けて「手軽にPhotoShop的な楽しみ」を提供することにより、PhotoShareを通した画像でのコミュニケーションをより楽しいものにしたい、というのがPhotoCanvasを作った理由である。

 ちなみに、今や app store には1万五千以上のアプリがあり、レビューサイトなどで評価を書いてもらうことがとても大切。日本では、AppBankさんにとても丁寧なレビュー記事(参照)を書いていただき、大感謝。こちら(北米)では、Cult of Macにインタビュー記事(参照)を書いてもらえたのが収穫。

 参考までに、これまでPhotoShareに投稿されたPhotoCanvas作品をいくつか貼付けておく。これらを見ていただければ、PhotoCanvas+PhotoShareが、PhotoShop+Flickrとはそもそも違うマーケットを狙っていることを理解していただけると思う。

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Apple、iPhone3Gの販売数を発表

 iPhone向けのアプリを開発・販売するビジネスをしている私としては、iPhoneの販売数は「トータルのマーケットサイズ」を知る上でもとても重要。ちょうど今日になって、7〜9月期の決算が発表されたので、さっそくそれを読んだところ以下の数字を発見。

Unit sales of iPhone 3G have been significantly greater than sales of the first-generation iPhone. During the first quarter of iPhone 3G availability ended September 27, 2008, 6.9 million units were sold, exceeding the 6.1 million first-generation iPhone units sold in the prior five quarters combined.

 そもそもの目標が、2G/3G会わせて1000万台を今年の終わりまでに売る予定だったので、それを大きく上回る数字(トータルで1300万台)を3ヶ月前倒しで達成したことになる。

 日本では「ワンセグが見れない」「日本語が打ちにくい」などの批判も受けているiPhoneだが、iPhoneの一番の強みはそのトータルでの使いやすさと使う人に与える満足度の高さ。私はiPhone 2Gの時代から1年以上使い続けているが、もう普通の携帯には戻れない。この1300万台という数字は、顧客満足度90%という携帯電話としては前代未聞の数字をたたき出しているからこそ達成出来たと言える。

 この数字を見る限り、「iPhoneだけに特化してアプリを作る」という会社設立時(今年4月)の判断は間違っていなかったし、少なくともこの調子でAppleがiPhoneを売り続けてくれている限りはその方針を変える理由は見当たらない(Android携帯もようやく市場に出始めたが、本気でアプリを作る気になる条件はまだまだそろっていない)。

 ちなみに、今週末には、Big CanvasとしてPhotoShare、SmallCanvasに続く、3つ目のアプリケーションをAppleに審査のために提出する予定なので乞うご期待。


セコイア・キャピタルのプレゼンに込められたメッセージ

 シリコンバレーのVCの中で頂点に位置すると言っても良いセコイア・キャピタルが、投資先のベンチャー企業のCEOを集めて緊急のプレゼンをしたそうだ(資料は「Sequoia Capital on startups and the economic downturn」にある)。今の金融危機が今後の景気や企業経営にどんな影響をもたらすだろうかの理解を深める意味でも、ベンチャー企業経営に関わっていない人も、目を通しておいて損はない資料だ。

 この資料の中で、もっとも明確なメッセージが込められたのは49番目のスライド。

Seq_3

「このタフな環境で生き残りたかったら、これから会社に戻ってすぐに人を減らしてサバイバルに努めろ。それが出来ないベンチャー企業は生き残れないし、セコイアとしても支援できない」というのがセコイアからのメッセージ。

 ここで言うところのDeath Spiralとは、資金繰りがうまく行かなくなってから人を減らし始めると、その分収入も減ってしまい、もっと人を減らさなくなり、それがさらに収入の減少につながり...という悪循環を指す。そんな状況になるよりもずっと前に人員カットをして、資金繰りに余裕を持って厳しい時代に備えろ、という話だ。

 こういう厳しいことを包み隠さずにストレートに言ってくれる人こそが本当に役に立つ投資家。この手のメッセージを真剣に受け取ってちゃんと行動に移す勇気と決断力があってこその起業家。厳しい時代ほど切磋琢磨が進む。


マーケティングともの作りの話

 「マーケティング」という言葉を聞くと「商品に関する情報を顧客に向けて発信する」だけと考える人が多いが、マーケティング部門の役割として同時に重要なのは、顧客のニーズをきちんと探り出して「何を作るべきか」という部分に反映させること。

 ちょうど今読んでいるHarard Buisness Reviewにとても良い例が出ていたのでその紹介。

 米国のペンキ会社が、競争相手に安売り競争を仕掛けてられ、「利益を削ってでもマーケットシェアを維持すべきか」という厳しい選択に迫られていた。その時にその会社のマーケティング部門が調べ出したのが、主な顧客である塗装業者が何にお金を使っているかというデータ。

 そのデータによると、ペンキそのものは経費の15%にすぎず、大半は人件費だという。それも、ほとんどのケースで、一度塗ったペンキを十分に乾かすために、次の日にもう一度現場に足を運んで二度塗りをしているためによけいな人件費がかさんでいるという。

 そのデータに基づいて開発部門が開発したのが「早く乾くペンキ」。ペンキが早く乾けば、一日のうちに二度塗りを終えることができ、大幅な人件費の節約が出来る。その結果、マーケットシェアを失わずに40%の価格を上乗せすることができたという。

ふむふむ、と。