書籍「結局、人生はアウトプットで決まる」を発売しました

前作、「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか」以来、2年ぶりの書籍「結局、人生はアウトプットで決まる」を発売しました。

「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか」は10万部を超えるベストセラーになり、その後は数多くの出版社から執筆の依頼が来ましたが、どれも断って来ました。どの提案も単に二匹目のドジョウを狙っただけのもので、時間をかけて執筆する価値はないと感じたからです。

ところが、去年の終わり頃に、とある出版社の編集者から熱烈なラブコールをいただいたのです。最初は、頭から否定して一度は断ったのですが、「前作よりも必ず良い作品に仕上げる」と言う彼の熱意に説得され、数ヶ月をかけて執筆したのがこの本です。

なせ、この本を書くことになったのかに関しては、書籍の「まえがき」を読んでいただくのが一番良いと思うので、下に貼り付けておきます。

◇ ◇ ◇

はじめに

この本は、「読む」「聞く」「体験する」ことによるインプットと、「書く」「話す」「行動する」ことによるアウトプットを繰り返すことで、近い将来やってくる「AI(人工知能)が人間の仕事を奪う大量失業時代」に、AIに負けない自分の価値をつくる本です。

私は今まで、35年以上にわたりソフトウェアエンジニアとして活動する一方、15年ほど前からブログや講演による、ネットとリアル両方でのアウトプットを積極的に行ってきました。

そのおかげで、今では「ウィンドウズ95を作った日本人」として知られるようになり、本業(ソフトウェア事業)にも大いに役立っているし、講演や書籍の執筆を頼まれることも頻繁にあります。

通常、私のような技術者は、中島みゆきさんの「地上の星」で歌われる人々のように、どんなに良い仕事をしても、会社の外の人に知られるようになったり、メディアに登場することはありません。

実際、私がマイクロソフトでソフトウェア・アーキテクト(ソフトウェアの基本設計担当者)として活躍していたのは90年代ですが、当時、私の仕事について知っていた人は、一緒に仕事をしていた連中だけです。

私の仕事が多くの人に知られるようになったのは、数年後の2004年のこと。きっかけは、一つのブログ記事でした。

当時、ブログを書いている人はまだ少なかったのですが、たまたま知り合いにブログをすすめられた私は、日本に一時帰国していた家族に向けた「家族通信」くらいのつもりで、ブログを書いていました。

ある日、プログラミングのことが書きたくなり「日本語とオブジェクト指向」というタイトルの記事を書いたら、それがエンジニアたちの間で大評判になってしまったのです。

ソフトウェアの世界に「オブジェクト指向」という考え方があるのですが、それをわかりやすく説明したのが、エンジニアたちの目に止まったのでした(http://satoshi.blogs.com/life/2004/09/post.html)。

そして、その記事の中に、私がマイクロソフトでウィンドウズ95に開発者として関わっていたことを書いていたため、結果として、私の当時の仕事を世の中に知らしめることになったのです。

その頃、エンジニアたちの間では、はてなブックマークというSNSサービスが流行っており、そこで「人気エントリー」に入ると、大勢の人に読んでもらえるようになっていたのですが、私の「日本語とオブジェクト指向」というブログ記事が、そこに入ったのです。

その後、私はしばらくの間、はてなブックマークを意識してブログを書いて遊んでいました。「どんなタイトルをつければ読んでもらえるのか」「どんな内容の記事を書けば多くの人に喜んでもらえるのか」を学んだのはこの頃です。

マイクロソフト時代の自分の仕事を知ってもらおうと、あえてNHKの「プロジェクトX」を意識して書いたのが「Windows95と地上の星」というエントリーです(http://satoshi.blogs.com/life/2006/04/windows95.html)。

これも「日本語とオブジェクト指向」と同じく、エンジニアたちの間で評判になり、数多くの人に読んでもらうことができました。

重要なのは、その当時に書いた大量のブログ記事が、今では私の履歴書代わりになっているという点です。ソフトウェア業界の人であれば、ほとんどの人が私の名前を知っています。さらに、私のブログ記事を読んだことがあれば、初対面であっても、それが共通の話題になり、すぐに打ち解けることができるのです。

私にとってはまったく予想外の結果になりましたが、このブログの存在が、私がビジネスをする上での強力な武器になっています。実際、日本でビジネスを立ち上げる際には、リクルーティングの道具として、大いに活用させてもらいました。

また、ブログを書き続けるために、以前よりもはるかに多く、それも頻繁に勉強もするようになりました。単に自分が知っていることだけを書いても、すぐに飽きられてしまいます。常に新しい知識を吸収し、それを自分なりに消化し、独自の解釈を加えてこそ、読む人にとって価値のある記事を書けるのです。

つまり、ブログというアウトプットを持つことが、私にとっての最高のマーケティングツールでもあり、勉強術にもなっているのです。今はそれが本業に近いものになり、有料メルマガ「週刊Life is beautiful」を毎週発行しているし、こうやって本も書くことができています。

あの時、ブログを書いていなければ、名もない「地上の星」にすぎなかった私が、ブログというアウトプットの道具を持つことにより、メルマガで稼ぎ、ベストセラー作家になることすらできてしまったのです。

本書のタイトルは、大げさでも何でもありません。

「仕事消滅時代」と言われる現在、人はますます一人では生きていけなくなります。人と人を結びつけるもの、それは仕事でもお金でもなく、「さまざまなアウトプットを通して作られる信頼関係」なのです。

今、会社を離れた場所で自分を高める場としてさかんに言われているオンラインサロンなどの「コミュニティ」も、有志によるアウトプットの交換の積み重ねから生まれる信頼関係で成り立っているのです。

日々の仕事に追われているうちに、AIに職を奪われ、寂しく人生を終えるのか。

インプットをアウトプットにつなげて仲間を得て、人間らしい生き方を謳歌するのか。

文字通り、「あなたのこれからの人生は、アウトプットの有無で決まる」のです。

人生は、あなたが考えているよりずっと短い。

そして何より、人生は、たった一度きりなのですから。


真空調理(Sous Vide調理)のすすめ

最近、私が特に気に入っている調理器具が、日本では真空調理器・低温調理器とも呼ばれる Sous Vide (発音はスーヴィー)マシンです。

鍋(大きな鍋がなければバケツでも大丈夫です)に差し込んでおくだけで、鍋の中のお湯を指定した温度に保ってくれるため、肉料理の下準備に最適です。

今回は、たまたま豚のヒレ肉が冷蔵庫にあったので、塩胡椒をして真空パックをし、それを62℃(144℉)で1時間半ほど温めたのち、バーベキューグリルで強火で周りを炙るだけで完成です。Sous Vide で温めている時間は、一切手がかからないので、実働時間は、準備に5分、仕上げに5分の計10分ぐらいです。

Sous Vide 料理の素晴らしいところは、手間をかけずに美味しい料理が出来るだけでなく、切ってみたら生焼けだったとか、焼きすぎて焦がしてしまった/硬くなってしまった、などの失敗がないことです。

特に豚のように火を通さなければ安心して食べられない肉の場合、通常の料理方法だとどうしても火を通しすぎて中がパサパサになってしまいますが、Sous Vide であればその心配がありません。

Sous Vide を使った調理は、ある意味とても「科学的」で「合理的」なので、私のようなエンジニアにとっては、とても納得のいく調理方法なのです。

ちなみに、62℃だと下の写真のようにピンク色ではなくなりますが、まだまだジューシーで柔らかく、私には十分です。もっとレアが好みの人は60℃でも大丈夫だと思います(サルモネラ菌は60℃で15分加熱すれば死滅します)。57℃でも十分と言う人もいますが(参照:豚肉の真空調理、低温調理に必要な温度と時間)、そこまで下げる必要はないと思います。

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私が使っているのは、Anova Precision Cooker という真空調理器ですが、Anova 以外のメーカーからも数多くの真空調理器(低温調理器、スーヴィーマシン)が発売されているので、予算に応じて選ぶと良いと思います。

真空パックは必ずしも必要ではありませんが、ビニール袋の中の空気をしっかりと抜いておかないとちゃんと熱が伝わらないので、使った方が確実です。私は Foodesaver FM5480 を使っていますが、こちらも予算に応じて様々な選択肢があります。


Intel CPU の脆弱性とは

発見された、Intel製のCPUの脆弱性(Meltrown と Spectre)について、「八百屋の看板娘の年齢をどうやって探り出すか」という問題に置き換えて説明してみました。エンジニアでない人でも分かるようにしたつもりなので、是非ともご覧ください。

少し前に、Intel の CPU に脆弱性が見つかり、大騒ぎになりました。脆弱性と言うと、なんだか難しそうな言葉ですが、わかりやすく言えば、セキュリティ上の弱点、のことです。

Intel はバグではない、と言っていますが、脆弱性があったことは事実で、Microsoft や Apple が慌てて OS に修正を加えました。さらに、その修正のために、パソコンの速度が遅くなる、という問題も生じ、何が起こっているのか不思議に感じている人も多いと思います。

そこで、今回は、その脆弱性とはどんなものだったのかを簡単に説明しましょう。

ここにちょっと変わった八百屋さんがあったとします。店先には小さなカウンターしかなく、後ろに大きな冷蔵庫があり、野菜の在庫はすべて冷蔵庫に保管してありました。

表には看板娘のお嬢さんがいて、お客さんから注文を受けると、注文を裏にいる親父さんに伝えて、それを親父さんが店先にまで運んで来る、というスタイルで商売をしていました。

野菜の鮮度を保つ意味ではとても良いのですが、注文してから野菜の受け取りまでに時間がかかるのが、難点でした。

そこで、来店前に、eメールで親父さんに買いたい野菜を伝えておくと、前もって店先に持って来ておいてくれる、と言うサービスを開始したのです。素早く買い物が出来るようなり、お客さんも大喜びだし、売り上げも増えました。

ある時、このお店の常連のお客さんが、看板娘に年齢を尋ねたところ、教えてくれませんでした。

そこで、ハッカーの友達に相談すると、とても良い方法を伝授してくれました。

まずは、ハッカーの助言通りに、前もって、親父さんに向けて、こんなメールを送ったのです。

「今日は、お嬢さんの年齢の数だけリンゴをください」

そして、少ししてから来店し、まずは

「リンゴを18個ください」

と言うと、リンゴはすぐに出て来ました。

「もう一つください」

と追加しても、リンゴはすぐに出てきます。

しかし、一つづつリンゴを増やしていくと、24個目のリンゴを注文した時に、看板娘は、

「ちょっと待ってください」

と言って、親父さんに追加のリンゴを冷蔵庫から取り出すように頼みました。

これで、親父さんが前もって冷蔵庫から店先に持ってきておいてくれたリンゴの数が23個だったことがわかります。つまり、看板娘の年齢は23歳なのです。

とても手の込んだ手法ですが、これと同様の手法で、Intel の CPU を搭載したパソコンからデータを盗み出すことができることを、セキュリティの専門家が発見してしまったのです。


ベーシックインカムとは

メルマガ「週刊 Life is beautiful」のビデオ版としてスタートした「一口大の教育ビデオ」シリーズですが、第二弾は「ベーシックインカムとは」。

先の選挙で、希望の党が公約の一つとして掲げていたことを覚えている人は少ないかも知れませんが、今後、AIやロボットの進化により、機会が人から職を奪い、ますます貧富の差が開くことは目に見えています。

そんな時代に、複雑化しすぎてセーフティネットとしての十分な役割を果たせなくなった現在の社会保障システムを置き換える方法として注目されているのが、ベーシックインカムなのです。

わずか4分ほどのビデオなので、是非ともご覧ください。

 

 


ビットコインとは

幾つかの理由があり(小学5年生の男の子が一番憧れる職業だ、というのもその一つです)、今年の抱負は「Youtuber になる」ことに決め、早速、第一弾のビデオを配信しました。

とはいえ、ヒカキンのようなエンタメは私のキャラではないので、いつも仕事でやっている「テクノロジーとビジネスのトピックを一般の人にも分かりやすく説明する」ことを、シリーズ化して配信することにしました。

チャンネルのタイトルは、メルマガと同じく、「週刊 Life is beautiful」です。

第一弾のテーマはビットコインにしたのですが、理由は、まともな説明をネット上に見つけるのが非常に難しいからです。

私のようなエンジニアにとっては、ブロックチェーンの仕組みだとか、マイニングマシンの設計などが重要な話ですが、一般の人には理解するのも難しいし、そもそも縁がない話です。

かと言って、ビットコインへの投資(正確には投機)の話になると、すでにビットコインを持っている人たちが、より一層の高騰を願って「まだまだ上がる」などと煽っているだけです。逆に、ビットコインに懐疑的な人たちは、頭っから否定しています。結果として、ビットコイン関係の情報はまさに玉石混交で、単にググっただけではちゃんと頭に入ってきません。

そこで私が目指したのは、あまり技術的には細かなことに突っ込まず、一般の人に分かりやすく、ビットコインは一体全体なんであるか、そして、「ビットコインバブル」と呼ばれるこの高騰はなぜ起こっているかを中立的な立場から説明する、一口大のビデオを作ることです。

人前で喋るのは得意なのですが、マイクの前だとどうもいつもの調子が出ず、ちょっと喋りが硬いのですが、内容は丁寧に時間をかけて作ったので、自信があります。

「ビットコインとは一体なんなのか?」とこれまで疑問に思っていた人たちに、喜んでもらえたら幸いです。


第5回ブクログ大賞・ビジネス書部門大賞をいただきました

ブクログによる「第5回ブクログ大賞」で、私の書籍「なぜ、あなたの仕事は終わらないのか」がビジネス書部門大賞を頂いたそうです。この賞は、読者の方々の投票により決まるそうなので、とても感謝しています!

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ブクログは、「ウェブ上にあなたの本棚を作るサービス」と言われる通り、自分で読みたい本・読んだ本を登録し、感想なりメモを書いておく、というサービスです。

大勢の人に読まれた本には、たくさんの感想が付き、それを一括して読むことが出来ます。

例えば、私の本の場合、(現時点で)1107人の人が(本棚に)登録し、102人がレビューを書き、評価の平均は 3.76 ということが、このページを見ただけで、すぐに分かるようになっています。Amazon にも(現時点で)147個のレビューが書かれていますが、そちらと合わせると、250人近い人のレビューを読むことが出来るのです。

結果として、読者だけでなく、私のような執筆者にとっても、素晴らしいサービスになっており、今後も定期的にチェックして、レビューを読ませていただきます。

ちなみに、この本のエッセンスは、TedxSapporo で約14分のスピーチとしてまとめたので、まだ本を読んでいない方、読む時間のない方は、こちらのビデオを見ていただくのも悪くないと思います。


Tesla の Autopilot と Netflix でオレゴンまで皆既日食を観に行った話

昨日から今日にかけて(米国時間8月19日〜20日)、皆既日食を観るためにオレゴンまでドライブして来たので、時系列で書いて「週刊 Life is beautiful」の特別号として配信することにしました。

一ヶ月前

かなり前から、「せっかくの機会なので是非とも行かねば」とは思っていたのですが、具体的な計画を立て始めたのは、1ヶ月前ほどです。Tesla の自動運転をたっぷりと試すにも絶好の機会です。

シアトルからだと、車で4時間ほどのところなので、日帰りも可能かも知れませんが、かなりの渋滞が予想されるので、朝の10時までに現地に着くためには、夜中に出発しなければいけません。そこで、前日に一泊だけポートランドに泊まることにしました。

幸いなことにホテルの部屋はその時点では少しは空いており、予約は出来ましたが、料金は通常の倍の500ドル超です。AirBnB も一応調べましたが、予約率は97%で、泊まりたい様なところは空いていませんでした。

同時に、アマゾンで日食を観るためのメガネを購入しました。色々な商品が並んでいましたが、「ISO Certified」と書いてある商品ならば安心だろうと注文しました。紙で出来たメガネなので10個で $12.99 という安価な商品です。

Glasses

一週間前

ところが、一週間前になって、アマゾンからこんなメールが送られて来ました。

We're writing to provide you with important safety information about the eclipse products you purchased on Amazon (order #112-6468158-7825003 for Solar Eclipse Glasses CE & ISO Certified - Safe Solar Viewing - Eclipse Glasses 2017 (10pack)).

To protect your eyes when viewing the sun or an eclipse, NASA and the American Astronomical Society (AAS) advise you to use solar eclipse glasses or other solar filters from recommended manufacturers. Viewing the sun or an eclipse using any other glasses or filters could result in loss of vision or permanent blindness.

Amazon has not received confirmation from the supplier of your order that they sourced the item from a recommended manufacturer. We recommend that you DO NOT use this product to view the sun or the eclipse.

Amazon is applying a balance for the purchase price to Your Account (please allow 7-10 days for this to appear on Your Account). There is no need for you to return the product. You can view your available balance and activity here... 

その商品は、安全ではないので使わない様に、というのです(料金は払い戻し、返品の必要はなし)。アマゾンによると、安全のためにはメガネメーカーに NASA の認証を受ける様にリクエストしたのですが、この製造元は、それに返事をしなかったとのことです。

アマゾンとしては万が一のことを考えて、最大限のことをしたのでしょうが、大した売上のない中小の業者にとっては、認証を取ることはかなりの負担になると思います。

私が購入した(リコールされた)メガネも、それで(日食ではない)太陽を観ても問題なさそうです。小学校の頃は、下敷きで日食を観ていたことを考えれば、十分に安全に思えます。試しに、そのメガネで太陽を観てみると、ちょうど下敷きごしで観た様な感じで、危険とは思えません。ISO の認証番号もちゃんと書いてあります(ただし、この認証番号は特定の商品に着くものではなく、安全基準を表すものなので、勝手に名乗ることは違法ですが可能です)。

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その頃になると、地元のメディアも盛んに日食に関して報道をし始め、日食は肉眼で観ない様にと注意をしたり(当然、アマゾンによるリコールの話題もありました)、皆既日食を観るためには、オレゴン州までドライブする必要があることなどを指摘しています。

大勢の人が行くと道路が渋滞するので(基本的に I-5 という高速が一本あるだけです)、あまり報道しては欲しくなかったのですが、そこからは毎日の様に報道が繰り返されました。

その頃になって少し気がかりになって来たのは、Tesla の充電です。シアトルからポートランドまでは約200マイルなので、途中で充電なしでたどり着くことは可能ですが(私の Model X は満タンで 230マイル)、Portland 市内には(Tesla が提供する)スーパーチャージャーはないので、やはり途中の Centralia で充電することが必要です。さらに、Portland から皆既日食が観られる Salem への行程で再度充電することが可能ですが、100万人もの人が日食のために集まると言われている Salem のすぐ近くの Super Charger で簡単に充電できるとは考えない方が良さそうです。

一度は Tesla でない方の車で行くことも考えたのですが、この長距離ドライブは Tesla の Autopilot 機能のメリットを試すには最高の機会です、多少のリクスを負ってでも Tesla で行こうと思いました。

前々日(8月19日)

前日になり、妻が「私は行きたくない」と言いだしました。報道によると、普段2万人しかいない Salem に100万人近くの人が集まるらしく、渋滞だけでなく、駐車場、レストラン、公衆トイレなどが足りなくなるだろうと言い始めたからです。

なんとしてでも行きたい私は、水と食料だけは十分に詰め込み、最悪の場合に使う様にと(米国では手に入らない)「携帯トイレ」代わりにオシメを買い込んだのですが、それがトドメを刺した様です。

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少し残念でしたが、色々と問題があった時に私一人の方が対処しやすいこともあり、一人で行くことにしました。

充電に関しては、相変わらず気がかりでしたが、予約したホテルに電話してみると、ラッキーなことに Tesla 専用のチャージャーが一台だけあり、車の鍵を預けてくれれば充電はしておくと言ってくれました。「チャージャー一台で足りるのか?他のゲストが Tesla に乗って来たらどうするのか?」という疑問符が頭に浮かびましたが、とりあえずホテルでの充電がうまく行く前提で計画を立て直しました。

往路では、シアトルから90マイル強のところにある Centralia で充電し、そこからPortland では(同じく90マイル強)のホテルに移動します。夜中にホテルで充電してもらい、そこから Salem (50マイル強)までの間に、もう一つスーパーチャージャー(Woodburn というう場所)がありますが、そこには立ち寄らずに一気に下って日食を観ます。

しかしそうすると、帰りに Woodburn に立ち寄らなければ、Centralia まで行けないので、Salem で一般の充電施設で充電する必要があります。スーパーチャージャーではないので、時間はかかるし有料ですが、朝早く起きて行けば、なんとかなりそうです。

Blink という充電ネットワークの専用アプリをダウンロードしてみると、Salem の Walmart に充電器が二つあるので、そこに止めて充電しながら 日食を見ることにしました。

ちなみに、一人で長時間運転するとなれば、なんらかの退屈しのぎが必要です。そこで、あまり褒められた話ではありませんが、いくつか映像を用意して行くことにしました。ダウンロードを可能にした Amazon に対抗して、最近は Netflix アプリでも映像を前もってダウンロードしておくことが可能なので、それを活用することにし、映画を数本とアニメのシリーズを二つほどダウンロードしておきました。

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前日(8月20日)

Portland までは、通常であれば3時間ぐらいで行けますが、渋滞が予想されるので少し早めに出ることにしました。Autopilot を使うとは言え、途中で眠くなっては行けないので、早めのお昼を食べ、18分の昼寝をしてから出発しました。ちょうど午後の1時でした。

最初の目的地を、Centralia のスーパーチャージャーのステーションに設定して出発しました。到着予測時刻は午後の3時ちょうどでした。制限速度は時速70マイルの高速道路なので、それを少しオーバーするぐらいのスピードで運転できれば、2時半には着くはずですが、やはり渋滞が始まっているのでしょう。

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最初の20分ほどは、真面目に運転していましたが、I-5 に入ったところからは、単調な道が続くので、運転は Autopilot に任せて、映像を楽しむことにしました。

こんなことを書くと、「違法だ」「危険だ」「悪い見本だ」という批判が来るだろうことは十分承知ですが、Tesla の Autopilot に関しては、毎日の様にテストを繰り返しているので、どんな環境で任せられるのか/任せられなくなるのかは十分に把握しているつもりです(いわゆる「テレビを観ている良い子は真似しないでね!」です)。

ちなみに、ワシントン州では、運転中に映像を観ることは(明示的には)禁止されていませんが(厳密に言えば「注意義務」違反とも言えますが)、携帯電話を操作することは法律で禁止されています。

最初は、途中まで観ていた Netflix オリジナルの Okja の続きを観ようとダウンロードして置いたのですが、韓国映画なので、字幕を読む必要があり、これは無理なことに気がつきました。そこで、同じくダウンロードしておいた、「ソードアートオンラインII」を観ることにしました。

「ソードアート・オンライン」のことは、(Facebook が買収した VR ゴーグルを開発・販売している)Oculas のファウンダーの Palmer Luckey のインタビューで知り(大ファンだそうです)、シリーズ I とシリーズ II の前半のみ観ていたので、その残りをダウンロードしておいたのです。

ちなみに、iPhone は、クラスターメーターの上に置きました(下図)。この位置であれば、目線を道路からほどんど離す必要もないからです。

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唯一の問題は、熱がこもって iPhone が熱くなってしまうことでしたが(あまり熱くなると、動かなくなります)、時々クーラーの吹き出し口に挟んで冷やしてあげることにより解決しました。

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Centralia までの運転は、とても順調でした。ところどころ渋滞もありましたが、カーナビの予想通り3時ちょうどに着きました。Autopilot にしていると、時々遅い車の後ろに引っかかってしまうので、何度かは手動に切り替えて追い抜きをしましたが、基本は Autopilit に任せきりでソードアート・オンラインを楽しみました。

Centralia の充電ステーションに到着してみると、全てのチャージャーが使われています。幸い、待っている車は見当たりません。スーパーチャージャーを使うのは初めてなので、どんな流儀で待つべきかが分からなかったので、単に向かい側に駐車して待っていました。

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すると、すぐにもう一台の Tesla がやって来ました。家族連れの乗る Model X です。「お前は待っているのか?」と聞かれたので、「そうだ」と答え、これから「これから日食を観に行くんだ」「私もだ」「どこから来たんだ?」などと他愛のない話をして待ちます。そうこうする内に、さらに二台がやって来たため、「あなたは三番目」「あなたは四番目」などとリーダーシップを発揮せざるを得ませんでした。本来ならちゃんと並ぶべきだったのかも知れませんが、私が真ん中に陣取ってしまったため、後の祭りです。

10分ほど待つと、ようやく一台が空いたので、すかさずバックで入れて充電を始めます。専用のアプリで調べると満タンまで1時間20分と出ているので、近くのマクドナルドで時間を潰すことにしました(この特別号の前半は、そこで書きました)。

小一時間ほど経つと、スマフォに「充電が終わりました」という連絡が入ります。その時は知らなかったのですが、スーパーチャージャーの充電器は、二台ごとにペアになっており、最初に接続した方により多くの電流を流すように設計してあるそうです。そのため、(隣で先に充電していた車が入れ替わることにより)当初の予想よりも実際には短くなるケースが多いそうです。

空いている時により高速に充電するための工夫だそうですが、結果的に「良いおもてなし」をすることになっています。

充電が終わって、今度は Portland のホテルを行き先に指定してドライブの開始です。到着予定時刻は午後の6時でしたが、これもほぼ予定通りに着きました。Tesla は Google Map をカーナビに使用していますが、渋滞予測に関しては、Google のカーナビよりも優秀なように感じます。ひょっとすると、渋滞予測のみは、他の Tesla の走行状況から計算しているのかも知れません。

Portland のホテルに着くと、ベルボーイ(駐車場の担当者)に車と鍵を預け、充電しておくように頼みます。充電器が一つしかないことは知っていたので、ちゃんと充電してもらえるかどうかが心配で、部屋に行ってすぐにアプリで確認すると、すでに充電が始まっていました。

ただし、充電のスピードは、スーパーチャージャーとは大きく違い、満タンになるまで4時間15分かかります。これでは、4人の客が Tesla で乗り付けたら一晩でフル充電することは不可能になってしまいます。全部で300室ぐらいのホテルなので、Model 3 が普及するまでには充電施設を増やす必要があります。

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いずれにせよ、予定通りホテルで充電が出来たのは幸いでした。これであれば、Salem までは充電なしで問題なく行けるので、自由度が大きく増しました。

夕食は、ホテルの近所の日本食屋で軽く済ませ、明日に備えて早く寝ます。フロントに電話をして、朝食のルームサービスを6時に頼んでおきました。さらに、ベッドに入る前に、充電が順調に進んでいること確認して、安心して眠りに着きます。目覚ましは6時5分前にセットしておきました。

当日(8月21日)

先日、早く寝すぎたのか、興奮しているのか、朝の3時に目が覚めてしまいました。パソコンで時間を潰していたところ眠くなったので、再びベッドに入って眠りました。

すると、目覚ましが鳴る少し前に、電話の音で叩き起こされました。何だろうと思い、受話器を取ると、フロントからで、「キッチンでトラブルがあったので、朝食を持ってこれるのが6時半になる」と言います。

困ったなとは思いましが、朝食抜きでは出かけたくなかったので、シャワーを浴びたり、荷物をまとめたりして朝ごはんを待ちます。Google Map で調べると、すでに渋滞は始まっています。

実際には6時20分には朝食が来たので、手取り早く食べて、6時40分には部屋を出ます。それも5分前にはフロントに電話をして、車をフロントドアの前にまで前もってもって来てもらうという念の入れようです(普段は、チェックアウトしてから頼むので、5分ほどロスします)。

チェックアウト後、すぐに出発し、高速に乗ったのは良いのですが、Autopilot がオンになりません。どうしたものかと色々と操作していると、原因が分かりました。ホテルで車を預ける時に「Valet モード」にしておいたのです。「Valet モード」にすると、プライバシー上問題になる「自宅に戻る」や「電話帳」などの機能がオフになるのですが、Autopilot までもがオフになるとは知りませんでした。

運転しながら、何とか「Valet モード」をオフにしようと試みるのですが、うまく行きません。一度車を止める必要があるようです。

仕方がないので、一旦高速道路から降り、車を止めて「Valet モード」をオフにします。時間は若干ロスしますが、Autopilot 機能なしで長距離運転は出来ません。

すぐに高速に戻り、(Portland 市内の迂回路である I-405 から)I-5 に乗り換えると、再びAutopilot に運転を任せて「ソードアートオンラインII」の視聴をします。

ちなみに、ソードアートオンラインは、ライトノベルがベースですが、とても良く出来ています。オンラインゲームをしたことがない人には理解しにくいとは思いますが、オンラインゲームでの人間関係が、リアルの人間関係と同じぐらいに人の感情を動かす、ということが、とても丁寧に描かれている逸品です。

2時間ほど運転すると、Salem の手前の Woodburn という町のスーパーチャージャーがカーナビに表示されました。昨日立てた予定では、そこで充電する必要はなかったのですが、高速の出口のすぐ近くなので、試しによってみるのも悪くないと思いました。チャージャーが空いていなければ、すぐに高速に戻れば良いだけの話です。

高速から降りると、ちょうど別の Tesla が目の前を走っています。「この人もスーパーチャージャーに行くのだろうな。どうせ混雑しているだろうな」と思いつつ後をついて行くと、最後の最後で、その Tesla は別の駐車場に入ってしまいます。

「あれ、間違ったのかな?」と思いつつ、カーナビの指示通りにスーパーチャージャーに向かうと、何と一台だけステーションが空いています。「ラッキー」と思いつつ、バックで駐車していると、さっき別の駐車場に入った Tesla がそこにやって来ました。やはり、間違った駐車場に入ってしまったのです。

少し申し訳ない気持ちもありましたが、だからと言って譲る理由もないので、充電を始めます。

満タンまで50分、その時はまだ8時を少し回っただけだったので、十分に時間はあります。ここで満タンにすれば、Salem まで行って日食を観て、折り返しで一気に Centralia まで戻れます。

時間を潰そうと近所のレストランを観ると、すぐ近くにあるレストラン二つのうち、一つはしまっており、もう一つは超満員で人が溢れています。仕方がないので、しばらく歩いたところにあるスターバックスに行くと、そこも人が溢れています。さらにすごいことに、トイレにも十五人ほどが並んでいます。

「この人たちも全員 Salem に行くつもりなのか!」と驚いて周りを見渡すと、少し様子が違います。駐車場は満杯だし、駐車場の横にある建設予定地には、ピクニックシートの上に座った家族づれや、高級そうなカメラを設置している人なのがたくさんいます。

私が、折りたたみの椅子に座っている老夫婦に、ここでも皆既日食が観えるの?と尋ねると、「そうよ、ここでも1分半ぐらいは観れるのよ。Salem まで行けば2分だけど、人の数がすごいから、ここにしたの」と言います(ちなみに、その夫婦はカルフォルニアから飛行機で来たそうです)。

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それを聞いて「それであれば、ここで観るのも悪くない」と気がつきました。と言うのも、Salem まで行くと、帰りの渋滞がすごいことになりそうな予感がしていたからです。100万人もの人が集まっていれば、高速の入り口どころか駐車場の出口からすごい渋滞になることは目に見えているし、そこで時間を少しでもロスをすれば、I-5 の渋滞が悲惨になることは明らかだからです。

目的は「皆既日食を観ること」なので、それが2分から1分半になったことで、大した違いはありません。それよりも、渋滞のために家に戻る時間が1時間、2時間遅くなる方がずっと苦痛です。

そこで少し気が楽になったので、そこから近所の公園を散歩したりして時間を潰しました。9時に充電状況を確認すると、すでに97%を超えています。これだけあれば十分なので、車まで戻ると、4台も並んで待っています。Centralia とは違い、秩序正しく列になって待っているので、やはり私の待ち方が間違っていたのだと少し反省しました。

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充電ステーションから車を移動させて困ったのは、駐車するところが皆無だったことです。仕方がないので、先の散歩で見つけた、近所の住宅地に駐車させてもらうことにしました。米国の住宅地の道路は、ほとんどが地元の住人のために駐車可能になっているので、こんな時には便利です。

そこから先のスターバックスの隣の建設予定地まで戻りましたが、そこで悩んだのがトイレです。10時17分に始まる1分半の皆既日食が終わったら、すぐに出発し、休憩なしで Centralia まで3時間近く、走る必要があるので、日食の前にトイレに行っておく必要はありますが、なるたけギリギリの時間に行きたかったのです。

とはいえ、スタバのトイレの列は結構長いので、タイミングが大切です。そこであえてすぐには列に並ばず、ちょうど自分の番が10時少し前になるようなタイミングを狙って列に並ぶという手間をかけました。

首尾よく10時前にトイレを済ませ、建設予定地に戻り、用意しておいたタオルを敷いて準備をします。すでに日食は始まっており、(自称 ISO 認証済みの)日食サングラスを通して観た太陽は三日月型です。

それを iPhone で撮影しようとしても無理だったので、ホテルから持って来た紙に穴を開けた即席の「日食ビューアー」で撮影した日食が下の写真です。

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ちなみに、私がこれを撮影していると、「何をしているの」と近くにいた子供が尋ねて来たので、理屈を教えた上で、穴の空いた紙をあげるととても喜んでいたので、ついでにいくつか作って、他の子供達にも配ったりして時間を過ごしました。

「少し暗くなって来たかな」と感じたのは10時10分ぐらいです。しかし、その時点でも、まだ太陽を直視することは不可能です。

そこからは、今までに経験したことのない勢いで、空が暗くなって行きました。10時15分ぐらいに、近くに座っていた子供が「星だ!」と叫びました。見上げると、確かに星が一つ、輝いています。明るさからも位置からも、多分金星だと思います。

心持ち、風も冷たくなって来ます。暗さのため、駐車場の街灯が一斉につきます。

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それから、おもむろに皆既日食が始まりました。突如、それまで輝いていた太陽が、肉眼ではっきりと輪っかが見えるようになるので、すぐに分かります。周りからは、歓喜の声とため息が聞こえます。一気に暗くなるため、妙に心がざわつきます。夕暮れの寂しさが、一気に押し寄せて来たような感覚です。

その1分半は、私にはとても長く感じられました。皆既日食の感覚は実際に体験しないと分からないと言いますが、まさにその通りです。昔の人たちが、不吉な予感や神の力を感じたのも当然だと思います。

皆既日食の終わりには、輪っかの一点が輝くダイアモンドリングが一瞬見えます。しかし、それもすぐに眩しすぎる光に代わり、肉眼で観ることが不可能になります。

そこからすぐに撤退の開始です。一人身だし、荷物も少ないので、とても用意です。そこから隣の住宅地まで走り、すぐに車をスタートさせ、高速道路に向かいます。

他の車はまだ動き出していないので、渋滞は始まっていません。そこかしばらくは、Autopilot は使わず、制限速度を7〜8マイルほどオーバーさせながら帰路を急ぎます。途中、二度ほどスピード違反で捕まっている車を見かけてドキッとしますが、この程度ならば大丈夫なのが米国です。

そこから一気に Centralia まで走り、充電しなが昼食を食べ(充電ステーションは半分以上空いていました)、帰路を急ぎます。一度だけコーヒーを飲むために高速を降りましたが、結局、家についたのは午後3時。ほとんど渋滞もなく、とても快適な帰路でした。


「機械学習の父」とは?

 

最近、機械学習の勉強をするために、数多くの論文を読んでいます。それぞれの論文は10ページ前後ですが、必ずそのベースには過去の研究があり、それを理解せずには読みこなせない、という状況がしばしば生じます。そんな時には、その論文から引用されている過去の論文を読む必要がありますが、私のようにこの世界の新参者だと、そこでさらにそこで引用されている論文を読まなければいけなくなることもしばしばあります。

結構手間のかかる作業ですが、一昔前だったら図書館に行かなければ絶対に不可能だった作業が、ネットに接続したパソコンされあれば、どこからでも、かつ、効率良く出来てしまうのですから、文句を言う筋合いの話ではありません。

そうやって歴史を遡りながら勉強をしていると、一連の研究の流れ、のようなものが見えて来ます。

例えば、先週紹介した、「写真をゴッホの作品風にする手法」のベースになった論文「A Neural Algorithm of Artistic Style(2015年9月)」も、そのベースには、「似たようなテキスチャーを生成する手法」を提案した論文「Texture Synthesis Using Convolutional Neural Networks(2015年)」がベースにあり、さらにそれが活用しているのが、画像認識のために設計された VGG-19 というニューラルネトワークなのです(論文は「Very Deep Convolutional Networks for Large-Scale Image Recognition(2014年)」)。

そうやって、どんどん遡って行くと、今の機械学習のすべてのベースになる Perceptron という仕組みを1958年に発表した Frank Rosenblatt という学者にたどり着きます。

Perceptron とは、m 次元の入力ベクトル x に対して、重み付けベクトル w を掛け合わせ(dot production)、それにバイアス b を加えた値が、0以上か否かで成否を判定する、とてもシンプルな計算式です。

 f(x) = (dot(w, x) + b > 0)

 ベクトルを開いて書けば、

    f(x1, x2, x3, ...xm) = (w1 * x1 + w2 * x2 ... + wm * xm + b > 0)

となります。ちなみに、不等号は真(1)か偽(0)を返す計算式です。

Perceptron は、重み付けさえ変更すれば、m次空間を二つに分割するすべての線形方程式を表現できるため、正しい学習データ(入力と出力)を与えることにより重み付けを適切に変更する仕組み(学習機能)さえ作れば、常に正しい答えを出す方程式が作れてしまいます。

Rosenblatt は、Perception こそが人工知能への道だと考え、"perceptron may eventually be able to learn, make decisions, and translate languages (Perceptron はいつの日か、学習し、物事を決め、言葉を翻訳するだろう)"とまで予想しています。

ここ数年間で急速に実用化がされるようになった人工知能・機械学習の仕組みが、Perception をベースに作られていることを考えると、59年も前の Rosenblatt の予想は驚くほどまでに的を得ていると言えます。

その意味では、Rosenblatt こそが「機械学習の父」と呼ぶべき人物なのです。

しかし、斬新的なイノベーションがしばしばその時代に人たちに理解されないのと同じく、Perceptron も同じ目にあってしまいます。

Rosenblatt が Perceptron を発表した約10年後の1969年に、Marvin Minsky と Seymour Papert が、「Perceptrons」という書物の中で、「Perceptron は線形の問題しか扱えず、かといって(非線形の問題を扱うために)複数のレイヤーにすると、学習が不可能になる」と批判したことが、それまで盛んだった Perceptron 研究に大きなダメージを与えてしまったのです。

たった一冊の書物のために、Perceptron 関連の研究への予算が大きく削られることになり、機械学習の研究は、暗黒時代に突入してしまうのです。

Perceptron をベースにした機械学習の研究が再び盛んになったのは、Paul Werbos という学者が発明した backpropagation という仕組みを使えば、複数レイヤーの Perceptron に学習させることが可能だということが一般的に知られるようになった (13年後の)1982年のことです。

Perceptron、backpropagation に続く三つ目のイノベーションは、Convolution Neural Network (CNN)の機械学習への応用で、これは、1980年代の終わりから1990年代のはじめにかけて、Yann LeCun 博士を中心とした研究者たちが起こしました。

この件で面白いのは、その研究が「郵便番号の自動読取装置の開発」という非常に明確なビジネスニーズのために行われた、という点です。基礎研究と言うと、ニーズや実用化とは程遠いところで行われているイメージがありますが、このケースでは、明確なニーズと、政府の予算がイノベーションを加速したのです。

その後、機械学習はしばらく水面下で停滞しますが、これは1970年代の暗黒時代とは大きく異なり、当時のコンピュータの計算能力が「文字認識」以上のこと(例えば画像認識)をするには全く不十分だったからなのです。

これは、ムーアの法則により、90年代後半から2000年代に書けて CPU の能力が大幅に伸びてもまだ不十分で、GPU を使った並列演算が身近なものになった2010年代になって、ようやく花開いたのです。

この中でも、興味深いのは、人類が文字認識に取り組んでいた1980年代には、人手による特徴点の抽出アルゴリズムが作られながら、それが結局は CNN による機械学習に置き換えられたたのと同じく、人類が画像認識に取り組んでいた2000年代には人手による「画像認識アルゴリズム」が作られながら、それが結局は深層学習に置き換えられるという似たようなプロセスを経たところです。

私自身、色々なアルゴリズムを作って生計を立ててきたソフトウェア・エンジニアとして、この「人間が作ったアルゴリズムよりも、大量のデータを使って統計的な手法で作ったアルゴリズムの方が良い結果を出す」という話は、最初は直感的には理解しづらいものでした。

しかし、画像認識や音声・言語認識のような「曖昧さ」を含んだ処理の場合、人間が良いアルゴリズムを作る際にも、結局は「パラメータの調整」などの試行錯誤が必要なのは経験則として知っていました。それであれば、最初から「試行錯誤のみでアルゴリズムを作る」前提で設計し、「いかに試行錯誤の効率を良くするか」に人間の頭を使った方が良いと考えると、昨今の機械学習のアプローチはとても納得が出来るものになります。 

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上の文章は、私のメルマガ「週刊 Life is Beautiful」からの引用です。自動運転車、電気自動車、機械学習、深層学習などIT業界のことを中心に書いていますが、同時に、再生可能エネルギー、似非科学、ベンチャー、ベーシックインカム、M&A などもカバーしています。

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東芝を救うウルトラC

東芝が異例の「監査法人の裏書なしの決算発表」に踏み切りました。経営陣は、稼ぎ頭の半導体子会社を売却することにより、なんとしてでも債務超過を防ごうとしているようですが、それでは「成長戦略」も「ビジョン」も一切ない会社になってしまいます。

上場にこだわらなければ、二兆円超の企業価値を持つ半導体子会社を上手に活用して、(1)借金を減らす、(2)現金を手にいれる、さらに(3)バランスシートを改善する、の三つを同時に実現する方法があるように私には思えます。先週のメルマガに、そのアイデアを書いたので、下に貼り付けておくので、興味のある方は是非とも読んでいただきたいと思います。

ウェスタンデジタルが、半導体子会社の売却に難色を示していることもあるし、経営陣には、一度この案を真剣に考えていただきたいと思います。

ちなみに、日本ではなぜ政治家が、堂々と株の取引をすることが許されているのか私には全く分かりません(米国には、それを制限する厳しいルールがあります)。東電の救済の際にも思いましたが、政府の方針一つで、株価が大きな影響を受けるような株を、その方針を決めている政治家たちが平気な顔をして取引できること自体が、あまりにも異常で不公平であり、経済先進国とは到底言えないと私は思います。

「東芝を救うウルトラC」(「週刊 Life is Beautiful」4月4日号より抜粋)

東芝は30日、臨時株主総会で、半導体メモリー事業の分社化を決議しました。破綻状態にある東芝の財務基盤を完全するため、事業ごと売却する予定だそうです。

東芝は、去年、稼ぎ頭の一つだった東芝メディカルを6655億円でキャノンに売却しました。しかしそれでも足らず、今度は毎年1000億円以上の利益を生み出す半導体メモリーを売却するのです。

東芝の経営陣は、一体何を守ろうとしているのでしょうか?経営ビジョンはどこにあるのでしょうか?

東芝は、数年前に「原発と半導体で勝負する会社」に生まれ変わることを宣言しました。競争が激化してコモディティ化が進んだ家電やパソコン事業からは上手に撤退し、原発と半導体という巨大市場で、世界1、2位を争う企業になることを宣言したのです。

しかし、福島第一原発での事故のために、原発事業は破綻してしまいました。それにも関わらず、のれん代の償却を遅らせ、傷をさらに深くしてしまった経営陣の責任は重大だと思いますが、一体全体、彼らは何を守ろうとしたのでしょうか?

東芝は、本来は2015年に粉飾決済が見つかった時点で、上場廃止にすべきでした。一旦、上場廃止にした上で、(ウェスティングハウスの問題などの)悪い問題を全て明らかにし、どうやって再建するかを、債権者たちと話し合って決めるべきでした。無理に上場を維持しようとした結果、虎の子の収益ビジネスを売却して破綻状態から無理やり脱却しなければならなくなったのです。

そう考えると、現時点でも、一旦非上場にする、というのは悪くない選択肢だと思います。非上場にしてしまえば、来年度の決算時までに半導体メモリー事業を売却しなければならない、という縛りも消えるので、売却交渉も足元を見られずに行えます。

それどころか、売却の代わりに、半導体メモリー事業の上場というウルトラCも使えるようになります。半導体メモリー事業には、2兆円以上の価値があるので、上場時に一部売却してキャッシュを得ることも出来るし、債権者に対して借金を返す代わりに(半導体メモリー社の)非上場株を渡すことにより借金を帳消しにするよう交渉することも可能になります。

例えば、上場時に東芝が保有する(半導体メモリー社の)株のうち、25%を売り出し、25%を債権者に渡すとすれば、東芝本体には5000億円の現金が入る上に、5000億円分の借金を減らすことが出来ます。さらに、20%に相当する株を新規株式として発行すれば、新会社にも4000億円の(半導体事業を成長されるために必要な)運営資金が入ることになります。

上場後も、東芝は新会社の約42%(0.5 / 1.2)の株持ち続けることが出来るので、時価総額1兆円の資産として計上することが出来るし、新会社が生み出す利益の一部を配当として受け取ることもできます。 それと同時に、ウェスティングハウスの破綻処理を粛々と進め、親会社としてのリスク(債務保証)の上限を明確にし、財務基盤を立て直した上で、再上場を目指せば良いのです。


Tesla は自動車業界にとっての iPhone か

先日の朝、会社に行こうと Model X に乗り込んだら、こんなメッセージが表示されました。

待望の HW2 向けのソフトウェア・アップデートです。Tesla は10月から完全自動運転を可能にするハードウェア(HW2)をオプションとして提供し始めましたが、12月に入手した私も、当然のようにそのオプションを選びました。

しかし、ソフトウェアが追いついておらず、HW2 を搭載していないモデルで動いている、オートパイロット機能すら動かない状態で出荷されていました。 従来の車であれば、8000ドル(約90万円)も余計に支払って入手したオプションが機能しない状況で出荷されるなど許される話ではありませんが、Tesla が優秀なソフトウェアエンジニアを抱えていることを理解しており、かつ、(ディーラーに行かずに)Over-the-air でソフトウェアのアップデートが可能であることを知っていると、なぜか許せてしまうし、それどころか、逆にアップデートが来るのをワクワクして待つようになってしまいました。

この「ワクワク感」は、ちょうど10年前に初代の iPhone を入手した時の感覚と似ています。iPhone が単なる「高性能な携帯電話」ではなく、「携帯電話機能のあるコンピュータ」であったのと同じように、Tesla は単なる「自動運転機能の電気自動車」ではなく、「自動車機能つきのコンピュータ」なのだと思います。

iPhone を見て、日本の携帯電話メーカーのエンジニアたちは口を揃えたように、「うちだってあんなデバイスは簡単に作れる」「うちも前から同じようなデバイスを計画していた」と言いましたが、結局は Apple に大きく市場を奪われてしまいました。

そして、その一番の原因は、現場の技術力でも発想力でもなく、トップのビジョンにあった事実は未だにちゃんと理解されていないと思います。Tesla の Model S/X が自動車業にとっての iPhone であると私が感じる一番の理由は、高らかなビジョンを掲げてエンジニアたちを引っ張り、消費者たちを虜にする Elon Musk にあるのです。

iPhone の登場を「黒船」に例えた人がいましたが、まさに Tesla は、自動車業界にとっての「黒船」なのです。

*この文章は、メルマガ「週刊 Life is beautiful」からの引用です