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「泳ぎ続けなければ生きていけないサメ」と「波間にただようマンボウ」、あなたはどっち?

Google シアトル近辺では、Microsoftは相変わらず人を採用しまくっているし、Googleからのヘッドハンティング攻勢も激しい。うちの会社でも、毎月のように優秀なエンジニアをGoogleが狙い撃ちしてくる。日本の会社の100%子会社という不利な状況なのにも関わらず、踏みとどまってくれている彼らにはひたすら感謝・感謝である。

 日本の会社が米国の企業を買収したときに失敗する時の一番の原因が、インセンティブ設計の失敗。終身雇用制にあぐらをかいてきた日本企業の経営陣には、そもそも「インセンティブ」の意味・意義すら分からない連中が多く、「買収後のロックアップ期間が終わったとたんに主要なメンバーが一斉に敵会社に転職」なんてことは日常茶飯事である。これを「アメリカ人は拝金主義だ」と批判するのも一つの考え方だが、そんな考え方では海外進出はできない。

 今日のウォール・ストリート・ジャーナルの注目記事は、そのGoogleですら、ベンチャー企業に人を奪われている、というもの。上場前の2003年に雇った人たちのストックオプションの現金化が可能になったため、Googleに残るインセンティブが薄れたエンジニアたちが、もう一花咲かそうと次々にベンチャー企業を興しているという。

 これだけ目まぐるしく進歩しているこの業界では、4年間の間も彼らをとどめておけただけで十分なのかも知れないが、注目すべきは、あれほど自由にものが作れると言われているGoogleですら、本当にベンチャー精神にあふれたエンジニアたちにとっては窮屈で、刺激が十分ではないということ。彼らにとっては、Googleの中で安定した給料を受け取ることよりも、「次のGoogleを作る」ことの方が遥かに楽しいのだ。

 こんな記事を読んでいると、「私も現状に甘んじてはいけない」とつくづく思う。サメと同じで、エンジニアは泳ぐのをやめてしまったら呼吸困難に陥る。波間にただようマンボウにだけはなりたくない。


会議での「先送り助け舟」が本当に迷惑な点について

 私は基本的に会議はきらいだが、特にアジェンダがはっきりと決まっていない会議だとか、何も決定を下さない会議が大嫌いである。そんな中でも、もっとも許せないのが「提案を文書にする」「次のミーティングを設定する」などの一見建設的だが、実は単に意思決定を先延ばしすることを許容するだけの「助けにならない助け舟」である。

営業部長「こうなると選ぶ道はAかBしかありませんね」
社長  「そうは言っても色々と難しい面もある」
技術部長「ここで、決めるしかありませんね」
社長  「そんな簡単な話ではないだろう」
営業部長「そんな悠長なことを言っている暇はありません」
社長補佐「まあまあ。じゃあ、まずは営業部長に彼の提案を文書にしてもらうというのは、どうでしょう」
技術部長「文書にするって、今さんざん話したばかりで、もう分かっているじゃないか」
社長補佐「そうあわてずに。文書にしてもらえば見えてくることもありますから。」
社長  「そうだな、それを見てからもう一度会議を開こう」
技術部長「しかし…」
社長補佐「じゃ、今日の会議はこれで終わりということで。皆さんありがとうございました」

 よくあるパターンである。お分かりだと思うが、この例では、社長はなんらかの理由でその場で決定を下すことをためらっている。営業部長と技術部長がなんとかその場で社長に決定を下させようと迫っているのだが、そこで社長に対して余計な助け舟を出すのが社長補佐である。

 このくらい分かりやすく書けば、この手の「助け舟」を出すことは単なる一時しのぎでしかなく、本当の助けにならないことぐらいは明らかだと思うが、実際の現場ではもう少し巧みに行なわれるため、会議に参加しているほとんど全員が「おお、これで一応今日の会議の成果はあげられたな」と心の底から勘違いしてしまうケースが多々ある。

 考えてみると、私が直接関わったソフトウェアのプロジェクトで成功したもの(Windows95、Inernet Explorer、Candy、Gameコンパイラ)はすべて少人数で立ち上げて一人か二人でほとんどのことを決めてしまったが、失敗したプロジェクト(Netdocs、Cairo)はすべて最初から大人数が関わって、会議・会議でものを決めようとした。

 一人や二人でもの作りをすると、決定を先送りした「しわ寄せ」はすべて自分たちに返ってくるので、どうしてもどんどんとものを決めておかざるをえない。大人数でものを作ると、大人数ゆえの非効率さに加えて、「全体としての方針が決まっていないから私はまだ前に進めない」という言い訳が通じてしまうので、どんどんと効率が落ちる。

 まあ、そうは言っても、どうしてもある程度の人数で仕事をしなければならないケースはあるので、せめてその時には、問題の先送りを助長するような「助け舟」だけは出さないようにしましょう、と言うのが今日のメッセージである。


油絵フィルターと「マウスごしごし」インターフェイス

 先日ここで公開した油絵フィルター。参考にさせていただいた「.fla」の絵画フィルターの作者である、fladdictさん御本人からコメントをいただき、がぜんやる気を出した私。朝5時に日の出とともに目を覚ましてしまったのを幸いに、早朝プログラミングで幾つかの改良を加えた(これぞ本当の朝飯前^^)。

 まずは、カレー屋の写真を処理したときに黄色い看板の直線部分が汚くなってしまう問題。ソースコードを読み直して見ると、近似色の判定の部分に一つタイポがあったため、茶色と黄色の区別がちゃんと出来ていなかったことが判明。そこを直すとすっきりと修正された。

Kanban1Kanban2

 次に挑戦したのが、犬の毛並みがうまく表現できていない点。楕円形のブラシを毛並みの方向に走らせてやれば良いのだが、画像から自動的にそれを抽出するのは容易ではないし、場所によってはブラシの方向がランダムな方が味が出るので、中途半端なアルゴリズムでは逆効果だ。

 そこで思いついたのが、「人力(じんりき)レタッチ」。自動的にフィルターをかけた後に、マウスで(ボタンを押したまま)ゴシゴシとこすると、こすった方向に楕円形の「塗り」を追加するようにした。「マウスでごしごし」というユーザーインターフェイスは見たことがないが、けっこう直感的なのではないだろうか(フィードバック歓迎)。

 犬の写真に「ごしごしレタッチ」を施す前と後ではこんなに違う。

Goma1

Goma2

 で、当のFlashアプリはこれ。


日本は世界経済にとってのガラパゴス諸島

Hatebu

 渡辺千賀さんの「日本は世界のブラックホールか桃源郷か」というエントリー。「そう、そう」とうなずきたくなるようなエントリーだが、私が数年前から使っている表現は「日本は世界経済にとってのガラパゴス諸島」。

 2000年ごろから始まった、日本特有の「ケイタイ文化」の進化は、主に言語と人種と非関税障壁の壁により隔離された日本だからこそ起こったと言え、文化人類学的に見ても、グローバル経済の面から見ても、とても面白い。だから、米国のワイアレス関係の人たちの中でも目利きの人たちは、あいかわらず日本を特殊な実験場のような目で注意深く見ている。

 隔離されているからこそ、独自の変化を遂げることが出来ているのも一つの特徴だが、それゆえに「外来種」にあっという間に駆逐されてしまったり、海外でまったく勝負できないなどの例も後を絶たない。最近ではスターバックスが良い例である。昔良く見かけた「マイアミ」とか「カトレア」は、ほとんど姿を消してしまった。保護されていたがゆえに、国際的な競争力をなくしてしまった日本の携帯電話メーカーも良い例である。

 しかし、逆にこの隔離された環境で、誰も気が付かないうちに急速な進化を遂げて一気に世界市場を席捲してしまうような例も少ないながらもあるので(アニメとかゲーム産業はその良い例)、あながちこれが悪いとは言えない。

 私のように日本人でありながら海外に暮らしていると、その立場を利用して、「日本という特殊なマーケットだからこそ可能な『何か』を作って、それをこの隔離された環境で急速に進化させてから世界に羽ばたかせて、一気に世界を制覇する」みたいなことはぜひともやってみたいと思うのだが…さてその「何か」とは一体なんだろうか。


Flashで「油絵フィルター」を作ってみた

 サンディエゴから帰ってくる飛行機の中で「.fla」を読んでいて猛烈に作りたくなってしまったのが、写真を人が描いた絵のように変換する「絵画フィルター」。それも思いっきりCPUをふんだんに使った「富豪プログラミング」で数秒から数分かかっても良いからPhotoShopのフィルターなんかよりも遥かに出来の良いものを作る、というのは楽しいかも知れない。

 手始めに作ったのは、油絵フィルター。楕円形の筆を使い、最初は方向を意識せずにランダムに絵の具を置いて行き、だんだんと隣接するピクセルとの色合いも意識しながら筆の方向を調節して行くというアルゴリズムだ(サムネイルをクリックすると、その写真を元に油絵風の絵を生成するように出来ている)。果物とか夕焼けは結構良く出来ていると思うが、コントラストの低い犬の写真や、直線部分の多いカレー屋の写真はイマイチだ。


ソフトウェアの手を借りて「手間をかけたように見せる」のは全くの逆効果だという話

 まだまだ数は少ないが、最近、この手のメールを受け取ることが少しづつ増えてきた。

中島 聡

向暑の候、いかがお過ごしでしょうか。

おかげさまで○○株式会社は(…中略…)

これもひとえに、中島様をはじめ多くの皆様からの多年にわたるご支援の
おかげであり、ここに改めて深く御礼申し上げます。(…後略…)

 何らかのソフトウェアを使い、データベースから私の名前を引っ張ってきて、テンプレートの中に埋め込んで自動送信しているのは明々白々である。それだけならまだ許せるのだが、送信元のメールアドレスがある特定の人(それも私が知っている人)になっているのが何とも違和感バリバリである。

 「顧客一人一人にパーソナライズされたメールを自動生成します」「受け取り手には、あたかもあなたが手動で一人一人にメールを送ったように見えます」などの売り文句のソフトウェアを使っているのだろうが、私から見れば全くの逆効果。顧客やパートナー企業に対して、「本当は手間をかけていないのに、(ソフトウェアの力で)手間をかけたように見せる」という行動は、それが相手に見えてしまったときに、逆に信用を失うというリスクを伴う。

 もしデータベース上の顧客全員にメールを送信したいなら、送り側のアドレスも堂々と自動送信が分かるように、noreply@やinfo@にしてくれた方がよほど気持ちが良い。ソフトウェアの手を借りて「手間を省く」のには大賛成だが、ソフトウェアの手を借りて「手間をかけたように見せる」のはちょっといただけない。

 「少なくとも送信元のメアドが知っている人だった場合には、その人が手動で送ったもの」というインターネット上のメールが始まって以来の暗黙の了解を破ってしまうと受け取り手がどう感じるかを相手の立場に立って考えてみれば、これが全くの逆効果だということは明白だと思うのだが…


「音楽聴き放題」サービスのビジネスモデル

Jukebox  音楽・映像・ゲーム(そして最終的にはさまざまなアプリケーションも)などのコンテンツは、有料であれ無料であれ、最終的には「聞き放題・見放題・遊び放題」のビジネス・モデルに収束していくと私は確信している。それゆえに、RhapsodyやNetflixなどのこのビジネスモデルでの先駆者には敬意も払っているし注目もしている。

 今朝のWall Street Journalに、「音楽聴き放題サービス」の卸値(おろしね)の話が書かれていたので、メモ代わりにここに書いておく(新聞の切り抜きをスクラップしておいてもどうせなくすが、ブログに書いておけばなくす心配はないし、後でググれる)。

・SoundExchangeというところが、音楽の卸売り業者である(後でリサーチ)。
・2002年にSoundExchangeが一曲あたりの卸売り値(1ユーザーが1曲聞くたびにSoundExchangeに払うべき料金)を、0.14セントに引き上げようとしたときに大騒ぎになり、米国下院の介入で、その半額(0.07セント)に抑えた上で、小規模なサービス業者に関しては、レベニューシェアでも良いという結論に達した。
・今年の三月に、SoundExchangeが、値上げを発表し、再び大騒ぎになっている。今回の値上げ案は、2006年に遡って0.08セントに引き上げた上、2010年までに0.19セントに引き上げるとのこと。

 Rhapsodyの場合、月額12.99ドルで音楽が聞き放題になるのだが、今の値段(一曲あたり0.07セント)で計算すると、約18000曲分。一曲3分として900時間、一日に直すと30時間となる。つまりユーザーが一日10時間聞いたとしても、粗利益率は66%となりビジネスとして十分に成り立つ。

 しかし、これが0.19セントに引き上げられてしまうと、その粗利益率がわずか10%となってしまい、このままの値段ではビジネスにならない、幾つかの「音楽聴き放題サービス」事業者が来週の火曜日にストライキをするというのが今回のニュースだ。

 「音楽聞き放題サービス」が成り立つかどうかのとても重要な話。注目に値する。


Hotel IVY、a boutique hotel in San Diego

 Qualcommが開催するBREW Conferenceに参加するためにSand Diegoに来ているのだが、カンファレンス会場のホテルが一杯だったので、少し離れたIVY Hotelという聞き覚えのないところを紹介されて、しかたがなくそこに滞在することに。

 しかし、実際にホテルに到着してみると何とも不思議な作り。ホテルというよりは、高級ナイトクラブの入り口のようなロビーに入ると、美形の受付嬢がお出迎え。デザイナーズブランドのユニフォームは、ちょっと目のやり場にこまるデザイン。チェックインを済ませると、その子が部屋までエスコートしてくれるというサービスぶり。妙に緊張してしまった。

 後でマネージャーらしき人に聞いたところ、アメリカではやりのBoutique Hotel(注:日本でブティックホテルというとラブホテルのことらしいが、それとは違う)の一つで、巨大なホテルに飽き飽きしているエグゼクティブが、きめの細かいサービスとプライバシーを求めて泊まりに来るのを狙っていると言う。Qualcommが手配してくれたおかげで半額ぐらいで泊まれているが、定価は一部屋一泊400ドル以上という強気の値段設定だ。

Ivy1 Ivy2